2023年4月、ポートランドで開催されたSCA’s Specialty Coffee Expo内のRe:co シンポジウムステージでSCA(スペシャルティコーヒー協会)のCEO Yannis Apostolopoulos 氏はスペシャルティコーヒーを評価する際に用いるCoffee Value Assessment(CVA:コーヒー価値評価) を発表しました*。
発表されたCVAについて、同氏は世界の多様なコーヒーと各地域の嗜好をマッチするものであり、また世界的なデータベースの構築を可能にするものだと説明しています。また、このフォームは将来的にSCAが2004年に導入したカッピングフォームを代替することとなるため、注目すべきものと思っています。この記事ではそれらのバックグラウンド、そして既存のカッピングフォームとどのような違いがあって、どのようなタイムラインで導入を検討しているのかについて紹介したいと思います。
今後、このブログでは本フォームについてより詳細に考えていくとともに、関連文献の紹介をしていきたいと思います。可能であれば、読者の皆様からも何でもよいのでコメントを頂ければ幸いです。一緒にコーヒーのカッピングフォームの是非について考えていければうれしく思います。
バックグラウンド
SCAは2004年にスペシャルティコーヒーのグレーディングを目的としてカッピングフォームを発表しました。以後、20年にわたって、スペシャルティコーヒー業界の標準的なカッピングフォームとして多くの人に使用されてきました。
一方で、SCAは20年以上にわたってこのカッピングフォームについて大きな見直しをしてきませんでした。その間、スペシャルティコーヒーのバリューチェーンは進化し、カッピングフォームも多くの利用者に使われるようになりました。ただ、利用者の中には作成したSCAの意図とは異なる使い方をしている人もでてくるようになりました。特に使い慣れていない人の中には客観的な情報と主観的な情報が混ざってしまうことが生じました。
また、カッピングフォームの情報は伝わらずに、スコアが独り歩きしてしまうこともしばしばありました。バリューチェーンが伸びてしまった結果、本来は生産者にフィードバックされるはずのスコアやその背景情報も届かないことも発生します。
そして、カッピングスコアはどのようなコーヒーに高いスコアがつくかについて生産者に教えてくれはしましたが、結果としてバイヤーに力の比重が偏ってしまう状況も生じました。一方で、コーヒー生産者の努力、例えば、情報の詳細提供、有機農法の取り組み、認証制度の活用等々については必ずしも十分に評価されない状況を生んでしまいました。
このような状況を踏まえ、SCAではスペシャルティコーヒーに関する評価基準を刷新する必要があると認識するようになりました。そしてSCAはスペシャルティコーヒーをどのように評価すべきなのか、そしてその評価対象となるスペシャルティコーヒーは何なのかという問題に突き当たりました。というのも、実はSCAでは統合的なスペシャルティコーヒーの定義をしていなかったからです。SCAは質問者の意図に応じて、適切な回答をしてきました。
ちなみに上のカッピングフォームやグリーングレーディング(生豆の選定)が普及した結果、スペシャルティコーヒーとは、スコア80点以上だったり、生豆350gの中で欠点豆が特定の数以下のものを指す、というふうにいわれることもありますが、これはスペシャルティコーヒーをコマーシャルコーヒーから区別するグレーディングの際に使われるものであり、これがそのままスペシャルティコーヒーの定義ではありません。
そのため、SCAは改めてスペシャルティーコーヒーの評価をするためには定義を改めて必要となりました。プロジェクトメンバーはスペシャルティをスペシャルティ足らしめる品質に関する定義を辞書、ほかの食品業界の傾向や経済的な意味を参考にしつつ、2021年9月にTowards a Definition of Specialty Coffee: Building an Understanding Based on Attributes というタイトルの白書を発表。この中で、スペシャルティコーヒーには多くの特性があり、それらが多くの人に評価されていることを踏まえ、以下のように定義しました。
Specialty coffee is a coffee or coffee experience recognized for its distinctive attributes, and because of these attributes, has significant extra value in the marketplace.(スペシャルティコーヒーとは他とは異なる特性が認識できるもので、この特性があることで市場において著しい超過価値を持つ、コーヒーもしくはコーヒー体験をさす(定義なので、なるべく意訳せず、直訳しました)。)
Towards a Definition of Specialty Coffee: Building an Understanding Based on Attributes
つまり、コマーシャルコーヒーが生産工程が同一で、品質が一定の幅に収まり、大量生産のために代替可能性が高い、画一的なもの(特性を持たないもの)を目指しているのに比べて、スペシャルティコーヒーは優れた特性を多く持っているということなります。
次の章ではSCAがこの定義を踏まえつつ作成したCVAとはどのようなものかについて説明していきたいと思います。
Coffee Value Assessment(CVA) とは
上述の白書内ではスペシャルティコーヒーの多様な特性があることを前提に、それらを外的と内的特性に区分。その豆が持っている本来的情報である、見た目、サイズ、焙煎度、カッピングスコア等の情報と、付随情報である、生産国、生産者、ブランド、認証情報に分け、それらの情報を整理し、バリューチェーン内で共有すれば、最も高く評価したコーヒーバイヤーのところにそのコーヒーが行き届くことになるとしています。また、これらによって情報の追跡可能性や透明性が高まることも期待されるとのこと。
一方で、現在のカッピングフォームではこれらの情報の一部しか消費者へ届けられていないということとなります。そのため、CVAではこれらの特性を消費者に伝えるべく、3つのフォームに区分することによって内的・外的側面を反映することとしました。
1つ目のフォームにはコーヒー豆が持つ風味特性に関する客観的な情報を反映します。個人の好みではなく、客観的な情報を反映するためにここではボックスにチェックをつけるCATA(check-all-that-apply)テストを採用。
2つ目のフォームには主観的な情報を反映します。カッパーの好み(雇用主のブランディング)やコーヒー豆を販売しようとしている地域での需要を踏まえたスコアリングする個所となります。
そして、3つ目にコーヒー豆に付随する情報を反映します。これは生産地、農園名、生産者、スクリーンサイズ、活用認証制度等で、コーヒー豆の購買に際して有益と思われる情報が対象となります。
これらの3つの特性情報を表面化することによって、生産者はコーヒーの価値を主張でき、また仲買人はコーヒー豆の価値を最大評価するバイヤーに届けることができ、また、購入側もトレーサビリティが担保されたコーヒーを購入することが可能になるとしています。
次は具体的に各種フォームについての簡単な説明をしたいと思います。
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