SCAJ2024セミナー出席報告「サステナビリティと品質の追求 ~高品質なコーヒーの調達危機への対応~(4)」

前回に続きフェアトレード・ジャパン主催の講演から。今回はニカラグア のPRODECOOP協同組合(Promotora de Desarollo Cooperativo de las Segovias)からメルリン・プレザ・ラモスゼネラルマネージャーが来日、『PRODECOOP共同組合の各種課題への取組』に関して講演しましたので内容をシェアします。

いつも通り、以下内容はスピーカーの発言をもとに構成しています。一部、意図を踏まえて再構成している部分もありますが、ご了承ください。

PRODECOOP協同組合の概要

私はPRODECOOPという38の組合からなる協同組合に所属しているコーヒー生産者です。この組合には320人の職員がいます。そして、3412の家族、1万6千人の生産者で構成されています。このうち女性の割合は30%となっています。

私たちの協同組合は小規模な農家を中心としているため、生産量に依拠した活動はできません。そこで量ではなく、品質に着目しました。そして、この品質は単に品物のみをさすのではなく、サービス、環境、生活等の幅広いものにわたった、統合的な質を意味します。

PRODECOOP協同組合の主な業務内容

スペイン語のプレゼンですが、具体的な内容については本文で説明されています。

(上のスライド)左側は現状のコーヒーバリューチェーンに関する投資です。これには従来の生産からオーガニック生産への転換(フェアトレード商品も含みます)、プロセッシング施設の改修、マーケティング、輸出サポート、市場のリスク管理、生産者の資金繰り支援等が含まれます。

一方で、(上のスライド右側)基礎的な開発への投資も行っています。例えば、サステイナブルは一つのキーワードとなっていますが、持続可能な生産性と品質向上が私たちの課題でもあります。例えば、生産品目の多様化や品種改良物の選定等が対象となります。

また、食の安全保障、これは家族レベルでの安定的な食糧調達のことをさします。栽培しやすい食物の栽培等もそうですが、今まではコーヒー生産のみを行っていたところに、養蜂などを導入するなど収入を多様化して、より安定的な収入の確立も支援しています。

その他、ソーシャルプロジェクトの模索や認証プログラムへの申請支援等も行うことによって、生産者の生活の向上へ繋がるよう支援しています。

協同組合による具体的な投資

今までに精製工程を中心に品質向上を図るため、5つの収集施設を整備、またドライミル設備と果肉処理施設を導入し、生産能力が向上するとともに、効率的な生産が実現しています。

また、我々が持つ施設には2人のQグレーダーがいて、コーヒー豆の品質を継続的に確認しています。これに加えて若年層へのトレーニングも行っています。これら、施設への投資は単に生産性向上だけでなく、商品のトレーサビリティ向上に役立っています。

この施設での年間生産量は70,000-69kgバッグで、内8割がフェアトレード向けで、一部マイクロロットとしての生産も行っています。

こういう努力の積み重ねもあり、近年のニカラグア産コーヒーの海外輸出は安定的に推移しています。

参考:ニカラグアコーヒー生産量

USDA Nicaragua Coffee Annual(Data Link)のデータを加工

生産者が直面する気候変動の影響

ただし、このようなインフラ投資をしても、気候変動によるダメージは大きくもあります。

コーヒーの生産性は低下し、さび病や炭素病といった病害虫のほかに、新種による被害も拡大しています。コーヒーの収穫量と質の低下も大きな問題となっています。この結果、多くのインフラ投資や生活支援が行われているにもかかわらず、生産者はより多くの時間やコストを支払う必要が生じています。

これらの課題に対して、環境負荷を可能な限り抑えつつ、生産性を向上したり、精製工程を改善していけばよいかについては難しい課題でもあります。また、これらに対する投資財源の調達・管理という課題もあります。

ここで活用されているのがフェアトレード・プレミアムをはじめとする支援金であり、CLACをはじめとする支援団体のノウハウなのです。

各項目を数値化して目標管理しているスライド。前時代的な管理手法ではもはやありません。各項目は左上から農園の改修数、トレーニング支援回数、トレーサビリティシステムの導入、農業収入状況、アグロエコロジー導入実績、早期警戒プログラム導入実績、地理アプリ導入実績、食料安全保障項目(養蜂場設置等)

協同組合では改善が必要となる項目を洗い出し、それらの目標と工程を数値管理しています。例えば、コーヒーノキを老木から新木に植え替えることによる生産効率の向上だったり、トレーサビリティシステムの導入実績等です。これらを数値管理して透明性や説明責任を担保しつつ、資金を上手に使って生産者支援を行っています。

加えて喫緊の課題となっているEUDR(欧州森林破壊防止規則)についてですが、これについてもジオリファレンスのシステムを61名の作業員を使いながらポリゴン計測等の支援を行っています。

その他にもアグロエコロジーなどに対応した実証実験を50か所で行い、将来的にはより環境にやさしいコーヒーを消費者に届ける試みを行っています。

そして、これら問題を継続的に取り組める内部の人材育成も重要と考えています。

上にあげた問題のすべてに対応できる人材を育成するのは現在の協同組合や生産者の枠組みでは対応できません。現在、様々なパートナーと組みながら、専門性を持ち寄って解決していくべく活動しています。そしてこれらをけん引するためにもこれからの生産者には起業家精神(アントレプレナーシップ)が重要と考えています。

私たちの協同組合ではそういう意識醸成についても生産者とともに日々取り組んでいます。

フェアトレードプレミアムの規模と資金使途

これら活動の原資の一部となっているのがフェアトレードプレミアムだということを強調しておきます。年間85万ドルの予算をフェアトレードから受けて、パートナーを探したり、マーケティングを行ったりすることによってこれらの対応が可能になっています。

より現地の生産者を支援するプログラムも並行して実施されています。例えば、教育や道路の補修、また水道設備の設置、医療支援、奨学金制度等も行われています。いずれも生産者のためになっています。フェアトレードからの資金は我々にとって非常に重要なのです。

また、これらの活動がきっかけとなって少なくない企業からサポートしたいという声掛けをもらえるようになりました。ただ、私たちのリソースも限られているので具体的なノウハウをもってサポートしてくれると非常に嬉しく思います。もちろん、日本企業の皆様への期待もありますので、引き続き協力をお願いしたいと思います。

所感

今回登壇したスピーカー(左からパウロ・フェレイラ・ジュニア氏(CLAC)、シルビア・エレーラ氏(San Fernando協同組合)、メルリン・プレザ・ラモス氏(PRODECOOP協同組合))いずれのスピーカーも熱意と誠意をもって現状の取り組みについてお話しされていました。

フェアトレード・ジャパンのセミナーに参加して、生産者や関係者の熱い想いに触れるという貴重な経験をすることができました。

もちろん、HPやSNSからフェアトレード商品が各地の生産者支援に役立っているということは知っていたのですが、実際の資金使途だったり、どういう人が使っているのかを肌感を持って知ることはなかなかなできないのが実情です。

ただ、今回のようなセミナーに参加した後だとだいぶ様子は変わってきます。今日話を聞いた人たちの使う設備、または教育やインフラ等、様々なことへ使われる、そういうことが具体的にイメージできるになり、非常に前向きな気持ちで商品を手に取ることができるようになりました。

この記事もそのリアリティを少しでもお伝えできればと思いながら、書き始めたのが動機だったりします。当サイトではSCAやCOEの動向をフォローすることが多くありますが、それらの動きは決してメインストリームではありません。こういうコーヒー生産者のほうがマジョリティだということを意識しつつ、今後も記事作成もしていきたいと思います。

フェアトレード・ジャパンのHPには多くの取り組み事例紹介がありますのでチェックしてみてください(HPリンク

現在、フェアトレード・ジャパンではHPで継続的な寄付をしてくれるサポーターを募集しています。少しでも興味を持った方はご覧になってみてください。

コーヒーを取り巻く環境が厳しい昨今だからこそ、自分なりにより貢献できる方法を模索してみるというのも、重要なのかなと思います。

私もこのサイトを通じて折に触れてフェアトレードや現地の声を集めてご紹介していければと思います。

最新情報をチェックしよう!