SCAJ2025セミナー『Cup of Excellence 過去から現在へ/日本の購買行動の変遷をたどる』

SCAJ2025期間中にあったCup of Excellence Seminarについてまとめました。当日の雰囲気も感じてもらうために本文はスピーカーであるACE/COE Executive DirectorであるErwin Mierisch氏が発言する形式にしました。なお、当日はRoast Design Coffee三神さんが通訳を務められていました。

Cup of Excellenceとは?

CUP OF EXCELLENCE の設立に関するスライド

Cup of Excellence(COE)は国際的な経験のある審査員を生産国に招いて現地で生産されたコーヒー豆の品評会を行い、生産国の知名度とコーヒー豆の価値を高め、そのコーヒー豆をインターネットオークションで世界中のバイヤーに販売・収入を生産者に還元しています。

1999年にCOEが設立されてから、2025年までに17か国で品評会を行い、(コーヒー豆の入札総額で)9040万ドル(132億8千百万円)の資金を集め、その8割以上を生産者に還元してきました。

COEの歴史

COEの歴史と日本からの参加者たち

COEは1999年にコーヒーのあるべき姿を変えるべく、一次産品共通基金(Common Fund for Commodities (CFC))国際コーヒー機関(International Coffee Organization (ICO) )の資金を活用し設立されました。

設立当初から多くのコーヒー関係者、例えば著名なブラジル人カッパーで、後にブラジルスペシャルティコーヒー協会(BSCA)会長にもなったSilvio Leite氏、同様に日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)会長もされた林秀豪氏、米国のスペシャルティコーヒーの発展をリードしてきたGeorge Howell氏や米国スペシャルティコーヒー協会(SCAA)の会長だったDon Holly氏、マーケットコンサルタントでAlliance for Coffee Excellence(ACE)の役員を長年務めたSusie Spindler氏等が中心メンバーとなってリードしてきました。

またCOEはいくつかの新しい発想をコーヒー業界にもたらしました。当時多くのコーヒー豆がブレンドされていた中、シングルオリジンという発想を業界にもたらしました。

さらにロースターと生産者が直接取引を行う、いわゆるダイレクトトレードの普及も後押ししました。

これらの輸出の際にバキュームパック(真空包装)を用いたり、水分活性値の管理を行ったりして、品質の向上に努めました。

これらがスペシャルティコーヒー業界に与えた影響は大きいものと自負しています。

COEの選抜プロセス

COEでは世界で活躍する審査員(カッパー)が集い、カッピング(テイスティング)するわけですが、その際には1人当たり300カップを検証することもあり、一度の品評会に12~14人のカッパーが参加した場合、3600カップを検証しているということになります。

この過程は次のようになります。

生産国で大会に出品したい生産者がまずはCOEにコーヒー豆を提出。事前審査として86点以上の150品のコーヒーを選抜します。

そして、現地の審査員(Natonal Jury)によって同様に86点以上の90品を選抜します。この際に150品に対して1800カッピングが行われています。さらにこれを40品へ選抜することになります。その際、90品に対してさらに厳格な1080のカッピングが行われます。

その後、これらは国際審査員(International Jury)によってカッピングされますが、大会の開催まで不正が行われないように主催者が指定する倉庫で厳格に保管されます。

国際審査員は87点以上のスコアが付与されている40品についてカッピングを行い(第一ラウンド)、上位30品についてもう一度カッピングすることとなります(第二ラウンド)。そして、最終的に残ったこの上位30品がCOE winnerの資格を得ます。結果として、一例ではありますが、最高のコーヒーが選ばれるまでに8720程度のカッピングが行われたこととなります。

COEのメンバーになるためには?

このコーヒーはCOE(ACE)メンバーになれば、誰でも入札する機会が得られます。会員登録はオープンで、一度登録すればオークションのサンプルロットを購入することができますので、興味がある方はぜひ登録ください。今後、制度の拡充予定もあるので興味がある方はHPでより詳しい情報を確認ください(登録ページリンク)。

一方で、国際審査員には誰もがなれるわけではありません。友人であろうと、人として優しかろうと、そこには厳格な審査があります。過去のキャリア、ジャッジとしての能力、COEの手続きを理解しているか、COEの理念を理解しているか、過去のコーヒー豆購入実績等、を加味して選ばれるので少しずつ実績を積み上げてほしいと思います。

入札に際してもいくつか手続きが必要となります。まずオークションルールへの合意を行ってもらい、その後当該オークションを主催する現地の機関(International Coffee Partners(ICPs))の審査を経る必要があります。

ちなみにCOEはこれらコーヒー豆に関する所有権はもっていません。あくまでCOEブランドを活用して各国へ関係者が集う機会を提供しているのです。そのため、このように現地機関が責任を以て審査することとなります。

実際の入札は世界同時に行われるため、日本では深夜に行われることも往々にしてあります。準備等は退屈かもしれませんが、いざオークションが始まるとあっという間に進むこととなります。

オークション開始後は商品に3分以内に入札があれば、価格が更新されるように設定されています。その時間内になければ価格が確定し、商品への入札はできなくなります。3時間後に入札時間が2分へと変更され、さらに2時間後に入札時間が1分へと変更されます。以前はこのような制限はなく永遠に続くこともありましたが、現在の制度変更によってより効率的な大会となったと考えています。

COEと日本人の関係

日本とCOEの関係は設立当初まで遡ります。1999年開催されたブラジル大会では先述した林氏が参加しました。そして2000年に4つのロットを購入しています。林氏がCOEで果たした役割は非常に大きいと考えており、彼が先陣を切り開いた結果、多くの参加者が続き、彼に学んだと考えています。ちなみにここにスライドの落札価格はUSD1.75/1bとなっているが、市場ではUSD0.40~48/1bで取引されていて、この発表の後多くの生産者が参加の申し込みをしてきたことを覚えています。今となっては信じられない価格でしょう。

丸山珈琲の丸山氏、生豆専門商社ワタル株式会社の関根氏、Times clubの糸井氏も数多く参加した審査員で、COEの発展に貢献して頂きました。

日本には3社(Bontain Coffee, Toa Coffee, Wataru )の生涯会員が存在し、設立当初からサポートしてくれています。そして2019年には75百万60kg-bagsの消費を行うまでに至りました。

2025年上半期を振り返ると、日本から合計24人が国際審査員として前期に開催された8大会に参加し、73lotsが購入されました。また、日本人として初のヘッドジャッジに松本啓太氏(Wataru)が選ばれました。

日本のCOEコーヒー豆の購入実績と中身の変遷

少し歴史を振り返ると、日本は2000年代のオークションでは75%の購入を誇ることもありました。しかし、その購入額は2010年代になると50%程度となり、2020年代になると35%にとどまっています。

また、日本の購入量は2018年からコロナ禍というイレギュラーな期間をはさみながらも長期的には減少傾向がみられます。ただ円安という要因もありますが、成熟したカフェカルチャーやクラフトマンシップに基づくサードウェイブ/グルメコーヒーの流行に基づく消費者への情報交換を踏まえ、バイヤーが的確に消費者の嗜好を踏まえた小ロットながらもきちんと品質を伴うものを購入しているとも考えています。

つまり、かつて日本は多くのロットを比較的安価に調達する傾向だったのが、現在は少量の高価格ロットを調達する傾向が確認でき、COEの運営者としてわかるのは日本が量的なマーケットから質的・そしてプレミアムなマーケットへ移行したというのがわかります。

事実、日本が調達するコーヒーは概ね他のものに比べて平均点が高い傾向にあることがわかります。

また、品種についても傾向があります。2018、19年はブルボン・ウォッシュドが多く、20、21年はパカマラ・ウォッシュドが好まれました。そして、近年はゲシャ・ウォッシュドとなっています。

ブルボンは赤い果実のさわやかな柑橘系果実の酸があり、クリーンでココアやアーモンドのようなクリーンなアフターが当時は日本で好まれました。

その後、パカマラへと好みが変わり、ジューシーでマンゴーやピーチのような果実感があって、かつクリーミーなマウスフィールが感じられるものが好まれるようになり、近年ではより鮮明にさわやかな柑橘酸と高級感のあるフローラル感が感じられるゲシャが好まれる傾向にあります。

日本の特徴は調達先にも表れています。特にブラジル、ホンジュラス、エチオピアに集中する傾向があるのです。これらの地域で日本がCOEから調達しているコーヒー豆の50%程度を占めています。COEの運営者としては他の国への分散も期待するところですし、そうしたほうがロースターの調達のリスク分散になると考えています。

一方、年度によって調達量・額が異なります。これはその年の落札額の高低に影響を受けやすいものとも考えています。一方で、エチオピア等の特定国については落札額の高低に関わらず、落札しているのも興味深いところです。

日本のポジションの変化と今後への期待

先ほども指摘した通り、COEの運営者としては日本はかつてのように価格や量のリーダーから、自身のマーケットが嗜好する品質を中心とした落札者へとシフトしたと考えています。実際、量と価格については新興である中国、台湾、韓国がそのポジションを担うようになっていて、日本がトップラインを飾ることは少なくなりました。ただし、日本が重視する品質の向上はCOEとしても引き続き重きをおいているところであり、今後も日本がこの分野でCOEをリードし続けてくれることを期待もしています。

所感

ACE/COEの歴史、そしてその中で変遷していく日本の役割についてよくわかるプレゼンでした。もちろん、日本の役割も変わっていっていますが、ACE/COEも難しいかじ取りが求められています。多様化する精製工程に対応するために一部の国ではExperimental部門を新設したり、また新興の生産国や消費国へのマーケティングプロモーション、さらにSCAのカッピング方法が変わる中での対応等、多くの解決すべき課題があると思います。

そういう意味ではこのタイミングでACE/COEの会員になってインサイダーとして意見を出していったり、課題を解決していくというのは面白いのかもしれません。また、その中で最前線をはって、挑戦的なコーヒー豆を購入することには引き続き意味があると思います。多くのコーヒー豆がダイレクトトレードで入手できるようになった今だからこそ、ACE/COEの入賞豆はより輝けるのかもしれません。

今後、ACE/COEがどのような組織としての発展をしていくのか、またその中で日本がどのような役割を果たしていくのか、注視しながら、何かあったらここで情報を共有したいと思います。

なお、このサイトではSCAJ2025の他のセミナーについても今後アップしていく予定です。

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