【本紹介・感想】新しい形を模索し、もがく一太郎開発チームがここに『俺らの一太郎がスパダリのわけがない』

俺らの一太郎がスパダリのわけがない

【内容】

多彩な機能を備えた一太郎、書き手に沿ったニーズを日々探っている。

  ジャストシステムが作ったワープロソフト、初代「一太郎」 は2010年3月に、社団法人情報処理学会が制定する「情報処理技術遺産」に認定された。一時期はワープロ(ソフト)といえば、一太郎だった。ウィンドウズが導入され、いつの間にか「ワード」が普及した今日。

ジャストシステムは、今でもこのワープロソフトを作り続けている。事実、官公庁や数多の企業でこのソフトは使われているという。一般人にはなじみがやや薄くなったかもしれない、この日本発の日本語ワープロソフト「一太郎」について開発チームの「俺」が、自分たちはこのワープロソフトを使って何ができるんだろうと、日々ひたすら真摯に顧客と向かい合い、そして変化していく舞台裏を語った熱い熱いZINE。

【感想】

様々なバージョンがある一太郎のラインナップ2019年度版

おれらの一太郎は生きている。今まさに開発しているのだから……。

『俺らの一太郎がスパダリのわけがない』, Page1

この言葉に込められた思いを端々から感じられるZINEでした。徳島の一企業でありながら、一定年齢の人は必ず聞いたことのあるソフト「一太郎」。この名前を聞いたことなかったとしても、windowsやスマホでどこかしらに表記がある漢字変換ソフト「ATOK」については知っている人も多そう。

今回は「一太郎」の開発チームの日々の葛藤がここには書かれていました。どんなところで働いているか、どんな思いでユーザーのコメントを拾っているか、どんなマーケティングをしているか。

本書では、コンシューマーソフトを取り扱う難しさが語られ、エンジニアが自ら要件定義する企画会議の一端が垣間見られる。社員は人力のエゴサだってすれば、流れてくるレビューに一喜一憂する。

そこにはソフトウェアやゲームを開発するチームや運営として記号化して語られる人たちの、リアルがありました。特に面白かったにはやっぱりコンシューマー向けの開発現場。私自身は法人向けしかしたことがなかったので、すごい狭い世界(しかもほぼテーラーメイド的でしたから)の住民だったので目からうろこでした。仮説は否定され、それでも新しいニーズの仮説をたてる。永遠に終わることのない開発現場の様相は、それでも熱を持っていました。

キラー:「たった一つ、これさえあれば一太郎を買う」と思わせる機能。

『俺らの一太郎がスパダリのわけがない』内『俺らの一太郎開発用語辞典』より, Page15

さらに面白かったのは、冊子中盤にかけて出てくる個別具体的な改善事項。ニッチそうで、でも時代をとらえている、それは、思わず唸るような内容。そして最後に明かされる謎のタイトルの理由。そこには「俺たち」はまだまだ成長していくんだ、という気概のようなものが感じられました。

そして、読後にはなぜか謎の清涼感が得られました(笑)

あと、東京文学フリマ限定でついてきた小冊子“俺らの一太郎がスパダリのわけないじゃん”は、本誌の余韻を楽しむのにはぴったりな読み物でした。

こちらはコミケに参加したときの様子や中の人が文章の教室に通って新たなヒントを得る話等がおさめられています。ちなみにコミケ会場に降り立つシーンは勇者が魔王に挑むかのように、なぜか荘厳な文章で語られていました(笑)・・・。

【本書を購入した場所】

実はこの本を購入した場所は常時ZINEを取り扱う専門店や本屋さんではありません。ましてやカフェや雑貨屋さんでもありませんでした。

この本を購入できた場所は2019年5月に開催された『文学フリーマーケット』、通称“文学フリマ(文フリ)”でした。ということで、調べてみたのですが、今のところ、本誌に関しては常設販売はしていないようです(ただ、配布していたものの一部はジャストシステムさんのHPで、無料DLできるようになっていますので、下のほうのリンクから覗いてみると欲しい情報が手に入るかもしれません)。

https://twitter.com/ichitaro_js/status/1125238134206189568
普段は一太郎に関連する機能紹介を静かに行う企業アカウントですが、イベントに関連すると親しみやすい表現多発します。

正直、そんなに文学に詳しいわけでも、文学部卒業なわけでもない私がどうして参加できたかというと、twitterで少しずつ飛び交う文フリ情報を見て、フーンと思い、そして日に追うごとにお祭り状態になっていくTLに、これは行くしかないと思ったからです。

結果として、訪れて本当によかったと思うほど。まぁ、今でも読めていない本やZINEがたくさんあって、少しずつここにも記録して取り上げていきたいところですが、とにもかくにも、みんなの表現に対する熱い想いを感じることができました。

さて、少しだけジャストシステムさんのブースについて。遠くからみても少しだけ異質でした。それは一般的な社会人であり、特徴のあまりない服装のスタッフが大勢いて、文学フリマの風景から浮いているのです(笑)。ただ、そんな光景とは反比例して、面白そうなタイトルと派手なのぼりたちがブースをにぎやかにしていました。

不慣れな私は一度は素通りしたのですが、二、三度通って徐々に気になり、そして最後に思いっ切って購入しました(近くにコーヒーブースがあったのも大きな理由の一つです。)。

読んでみると、上に書いた通り非常に面白く、しかもお手軽。個人的には、大型でもインディペンデントな書店でも、書棚を飾ったら面白いんじゃないかなと思いました(初刷りは2018年6月なので、もうリリースの熱はさめているのかもですが・・・)。普段はサイレントな読書家も、書くのが好きな方は多いですし、そういう方がこういうZINEと出会ったら、書く意欲に火がつくかも、なんて想像が進んじゃいました。

もちろん、タイトルがラノベっぽく、その辺は内容にかかわらず、好き嫌いがわかれそうなところではありますが(笑)。

【本 ZINEに関する情報】

本そのもの

周辺情報

ジャストシステムさんのHPを徘徊していて、興味深い情報がいくつかあったので。

1.当日配布されていた冊子がいくつかDLできる!”本を書く、作る”を次回の本づくりのヒントにしてみてはいかがでしょうか。もしくは本のデザインの社会科見学的な位置づけとしても面白いかも。色んなトレビア的な発見があるかもしれません(リンク)。

2.一太郎マル秘テクmovieというのがHP上に公開されていてyoutubeサイトへ飛ぶことができるのですが、これがめっちゃくちゃシュールです。紹介されているテクニックは時短にもなるし、作業もスムーズにもなるとは思うのですが、BGMがなく、そしてPC画面が淡々と流れて、何となくすごい時間を過ごせます。一部のテクニックについてはほかのソフトでも応用というか、発見がある内容かもしれません(リンク)。

色んな機能紹介が行われているJust SystemsさんのYoutube ページ。

ちなみにyoutube行かれた方は、動画一覧(リンク)を見てみてください。一太郎や花子といったソフト以外にも、ジャストシステムさんが行っている事業を観ることができるのですが、その中になぜこれが?というものが散見されます。理由知っている人がいたら、教えてください。有証をほんとうにざっと見た限りではわかりませんでした(笑)。

あっ、あと英語だとSがつくのに、日本語だとそれは発音しないことを今回初めて知りました。。。まぁ、だから何だというのはなしです。

雑な閑話休題(雑感)

商品のPR戦略って面白いですよね。今回の「一太郎」を題材に同人誌を作るのも親しみやすさを訴えるうえでは面白い取り組みですよね。そういえば、メーカーの擬人化というのも近年、多く行われているような気がします。その流れを大きく手助けしてくれたのはSNSや(ゆる)キャラの発展なのかなとおもったり。

ちなみに、twitterで特徴的なつぶやきを行っているシャープさん。そして、シャープさんとの会話がしばしば取り上げられるTANITAさんやセガさんとかも。その辺って絡む人って一部戦略をたてたりするんでしょうか。今度、この分野の本を読むのも面白そう。そういえば、いつだったか、シャープさんのつぶやきについては論文を誰かが作っていましたね。あれ、公開しているのかしら。。

個人的にはジュンク堂さん界隈から始まる、コンビーフのノザキさんとの会話も好きです。その影響かどうか、それ以降、ノザキさんのコンビーフを以前より買うようになりました(これはコンビーフと言ったら、あの緑の牛というイメージがついてしまったからなんですけどね。。。)。そして、ジュンク堂(丸善はもちろん)に対してはほかの大手書店グループより、どうしても親しみをもってしまうんですよね。。何かふしぎ。この辺のバイアスは個人的にどうなんだろうと思ったりしますが、まぁ、それがSNSの影響なんでしょう。正直言えば、SNSでフォローするまではジュンク堂も丸善も利用していましたが、そこまで肩入れしてはなかったんですよね。。これがSNSの義理人情効果なんでしょう。

そして、話はさらに変わるのですが、企業に”さん”をつけてしまう極めて日本的な文化。違和感を感じながらもついついつけちゃうんですよね。うーん、過剰丁寧語の一種なんでしょうね。つけようがつけまいが、このサイトで紹介する以上、敬意はあるのですが、まぁ、難しいところなんですよね。本当は外したいのですが、なぜかついついつけちゃう、さん。。まぁ、それでも敬意が伝わればそれでいいのかな、なんて思います。

つくづく難儀な性格を帯びた言語です。

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