SCAJ2025セミナー報告「インドコーヒーの最前線」

SCAJ2025期間中にあったインドのKaapi and Cultureが実施したセミナーについてまとめました。今回も当日の雰囲気も感じてもらうためにスピーカーであるViggnesh氏の発言形式になっています。なお、セミナーの後半ではタイムズクラブの創業者で、インドのコーヒー生産支援にも携わっている糸井優子さんから実体験に基づくお話もありました。

Kaapi and Culture/YettuのViggnesh氏
メインスピーカーであるViggnesh氏。インドで取り組んでいるロースターとの共同プロセッシング開発の紹介は多くのロースターの興味をひいていました。

Kaapi and CultureとYuttuの紹介

Kaapi and Cultureはインドのコーヒー豆を日本へ届ける業務を行っています。今までインドのコーヒー豆はヨーロッパへ輸出されることが多く、日本への輸出は少量でした。Kaapi and Cultureはインドに存在する多くのユニークなコーヒー豆、特にスペシャルティグレードのコーヒー豆を、アジアの中でも感度の高い日本へ届けるべく業務を行っています。Yettuのブランド名で、カッピング会を国内各地で行っていて、インスタ等で告知しているので、ぜひ参加ください。

本日はKaapi and Cultureが取り扱ってるコーヒー豆がどのような精製工程を経て出来上がっているか、またロースターとしてこの精製工程にどのような関与ができるか、についてお話したいと思っています。ちなみにSCAJ2025ではVillageに出展して、それらの豆は当地でもオンラインでも購入することができます。

そして本日のスピーカーについて。タイムズクラブの糸井さんは世界的に有名な品評会であるカップオブエクセレンスにも多数参加している方。インドの農園についても生産指導を行っていています(糸井さんのお名前は別日に行われたACE/COEの講演でも紹介されるほど、業界では有名な方です)。

セシュクマール氏は当社のオーナー創業者です。

加えて、アショク氏、南インドでコーヒー生産を行っている農家です。残念ながらアショク氏は本日来れなかったため、ビデオレターでの登壇となります。

インドコーヒーの取り組みと柔軟な共同開発へのお誘い

現在、インドのコーヒー農園では非常にイノベーティブな取り組みがされています。

まず私たちが取り組んだのは土壌の改良です。コーヒーノキを植えても適切な土壌で泣ければ生育不良となり、十分な結実へと繋がりません。そこで科学的に土壌を分析しました。対象となる土壌の構成成分を分析し、どのような微生物がいるのか調べ、それらがどのようなテロワールをもたらしているか文式。そして自然のたい肥等を活用しながら、適切な環境へと整えました。結果として、コーヒーチェリーはかつてに比べてより甘さを持つようになりました。

ちなみにこの完熟チェリーの選別についてはサタケのソーティングマシンを使っています。このマシンの正確性は非常に素晴らしいです。

多種多様な発酵プロセス

精製プロセスにおける発酵の役割は重要です。ここについては多くのことを他の分野から学ぶことができます。例えば、ウィスキー、ワイン、日本酒がそうです。適切な微生物を適切な量、適切なタイミングで活用することで仕上がりの味をコントロールできます。

Kaapi and Cultureが日本へ提供するコーヒー豆はこれらの事例を踏まえて科学的な発酵プロセスを取り入れています。写真は我々のラボのものですが、このような場所でモニターで微生物の数や活性状況等も管理しています

太陽の日差しで徐々に乾燥させるドライプロセスも良いのですが、これだと予期せぬイベント、例えば予期せぬ豪雨や長期の日照り等で管理できないことが発生します。そのため、そのようなことがないよう可能な限り管理できる手法を取り入れるようにしています。屋根のある工場で、機械を使った乾燥をつかいます。これは時間的な節約もありますが、品質の向上に寄与します(時間は設定次第なので、必ずしもこの時間短縮が一時的な目的にはなっていないとのこと)。

化学的な取り組みを行うことのいくつかあるメリットの一つとして再現性があります。他の多くの生産者も様々な微生物を用いた精製工程に取り組んでいますが、我々のようにラボを保有して数値管理をしているコーヒー生産者少ないといえます

これらの取り組みによって日々コーヒー豆の味は改善され続けており、近い将来、スペシャルティコーヒーで有名な国々と比肩するくらい品質の高いコーヒー豆が生産されると信じています。

湿度をはじめとした環境管理されたラボでは多くの取り組みがされています。ここでは顧客の要望に基づいたカルチャリング的なこともできますし、アナエロビック製法についても微生物の数・生育度を把握、コントロールができます(スライドは微生物の増殖について示したもの)。

糸井さんの訪印の様子

ここで少しTimes Clubの糸井さんの紹介をします。糸井さんはBSCAの会長も務めたシルビオレーテアメリカのスペシャルティーコーヒーをけん引したジョージハウエル等に師事し、自身も世界的な品評会であるカップオブエクセレンス(Cup of Excellence:COE)に多く参加し、現在は運営組織であるアライアンスフォーコーヒーエクセレンス(Alliance for Coffee Excellence:ACE)の理事でもあります。

また糸井さんは2024年にインドの農園を訪れ、伝統的なナチュラル製法の精製プロセスについてもアドバイスをしてくれています。それらのアドバイスは当地で活かされ、より精製工程を洗練したものへとしてくれました。

Times Club糸井さんから

TIMES CLUB糸井さん、登壇の様子
後進の指導にも熱心なTimes Club 糸井さん。当日は多くの質問に丁寧にお答えされていました。

インドのコーヒー豆としてかつて有名だったのはモンスーンコーヒー。これはコーヒー豆を乾燥・保管する際にモンスーン(季節風)にさらされ、結果としてコーヒー豆が黄金色になり、そのストーリーとともに愛飲する人がいます。ただし、クォリティ的にはカビが入ったり、劣化したりすることが多く、その味をモンスーンととらえることもあり、必ずしも良いものとは言えませんでした。

現在、インドはこれらについてだいぶ改善されるとともに、国内のスペシャルティコーヒーの流通もここ4~5年で飛躍的に発展しました。

農園も同様に発展しています。シェードツリーを用いたオーガニック農園も数多くあります。また、印象的だったのはインドへ訪れた際に非常にオレンジがかったブルボンと出会い、コーヒーとして飲むと桃のような甘さを持っていたことです。

これらはきちんと区画分けされるようになり、今ではトレーサビリティも担保されています。現時点でカップオブエクセレンスのような品評会にかけられるレベルかというと必ずしもそうでないかもしれませんが、その芽は確実にあると思えます。一方でコーヒーの品質は農園によってばらばらなため、取引する農園は注意する必要があるといえます。農園によってはファームツアーも行われますので、それらに参加するのも良いといえます。

インドのコーヒーは豆質的にも農園の運営面もまだまだ向上できる余地があると思います。昨今ではフェアトレードの基準も厳しくなってきていますが、インド国内においても、これらに対する意識も高まり、児童労働等も是正されています。

今回Kaapi and Cultureから紹介があった新しい取り組みについても一緒に行い、経験があります。彼らは柔軟に対応してくれますが、私たちも尺度を以てオーダーをする必要があります。彼らと共同でフレーバーづくりをする際には実際のフルーツ等を用いて会話すると良いと思います。インドにあるミカンと日本にあるミカンではそもそもフレーバーが違います。梅もそうでしょう。だから、共通見解を得るべく、丁寧にフレーバーづくりをしないといつまでたっても求めるフレーバーは作れません。そういうことに注意してお願いすると良いと思います。小ロット、基本的には30㎞程度からだと思います。もし体験談に興味があったら連絡をください。回答したいと思います(当日はアドレスの紹介がありましたが、ここでは省略させていただきます)。

また、その他のことでも生産地のことを聞きたい場合、ブース等でみかけたら気軽にお声がけ頂ければと思っています。

所感

店頭では多くの魅力的なコーヒー豆に出会えるようになりました。また品質もかつてに比べて一定レベルを超えているものも多くなった気がします(昔はあたりもありましたが、ハズレも多くありました)。その中で、店舗間の差別化は大きな課題だと思います。そういう意味では精製プロセスに関与できるKaapi and Cultureの提案は多くのロースターにとって魅力的だと思います。

もちろん、ベースとしてのコーヒー豆のポテンシャルや精製プロセスに対する主義というのはあるかもしれませんが、うまくはまれば多店舗との差別化ができ、お店のオリジナルストーリーを持った商品として消費者へ届けることができます。

もし身近にKaapi and Culture、もしくはYettuがカッピング会を開催していたら参加して、これらについてヒアリングしてみてはいかがでしょう?行き詰まりを打開する一手になるかもしれないし、そうでなくても興味深い話をきけるかもしれません。

ということで以下に参考サイトを掲載しておきます。

Kaapi and Culture (HPInstagram)

Yettu(HPInstagram

Times Club(HPInstagram

ちなみに糸井さんご自身も後進の育成にはサポーティブなコメントをされていて、もしイベントでお会いできるようだったら、直接聞いてみるのも良いかもしれません。第三者的な一歩引いたところからアドバイスをもらえるかもしれません。

当サイトではコーヒーロースターのお役に立ちそうな情報ついて今後も発信していきたいと考えています。引き続きよろしくお願いします。

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