SCAとACE・COEが合意した内容について考える

【SCAとACE/COEの発表要旨】

SCAとACE/COE、MOU調印式の様子
SCA Yannis Apostolopoulos CEOとACE/COE Mierisch事務局長によるMOU調印式の様子 Photo by SCA

2024年6月27日、スペシャルティコーヒー協会(Specialty Coffee Association (SCA))1、カップ・オブ・エクセレンス(Cup of Excellence (COE))2およびアライアンス・フォー・コーヒー・エクセレンス(Alliance for Coffee Excellence(ACE))3はスペシャルティーコーヒーの定義と評価に関するアプローチの統一に関する協力覚書(MOU)を締結したと発表しました。

両組織のHPおよび発表メールによれば、このMOUにはSCAが来年以降の導入を進めているコーヒー価値評価(Coffee Value Assessment(CVA))のうち、記述的評価フォーム(descriptive form)とスコアリング部分をCOE品評会の手続きへ取り込めるかについて、COEのヘッドジャッジおよびスタッフとSCAの技術チームが共同で検討していくとのこと。

また、COE品評会における現地の審査員の重要性を踏まえて、現地の審査員教育及びその認証についても力を入れていくとについて約したとのことです。

ACE/COEの事務局長であるErwin Mierisch氏はこの発表に際して「長らく異なる道を歩んできた両組織がこのような事業を共同で行うことで得られるポジティブなインパクトは多くの関係者に待ち望まれたことだった」と発表しています。

確かにコーヒー豆の評価方法が多岐にわたることは多くの関係者にとって少なくない混乱をもたらしている事実はありますので、このように統合されていくのは良いことかもしれません。

ここで現状のSCAのカッピングフォームとACE/COEのカッピングフォームについて少し触れます。

SCAとACE/COEのカッピング・フォームの違い?

Arabica Cupping Form made by SCA FlavorやAcidityといったキャラクターを捉えやすい項目が先に来る

SCAのアラビカカッピングフォームは1984年に導入され、以来マイナーチェンジを行いながら、現在のものとなっています。導入当時の大きな目的はキャラクターのあるコーヒーを評価しようというものでした。

COE Cupping Form made by Cup of Excellence  Clean CupやSweetnessを重要視しているCOEならではのフォーム

一方のCOEはもともとは国連による現地の生産者支援を企図したグルメコーヒープロジェクトの流れを汲むもので、高品質なコーヒー生産を行うことによってコーヒー農家にそれに見合った収入を確保しようという精神のもとに活動がなされていました。

この理念はSCA(当時はSCAAとして活動)とも共有され、当初はSCAが作ったカッピングフォームがCOEでも利用されていました。

しかしながら、COEはその後独自の価値観を踏まえたカッピングフォームを採用します。この背景にはそもそも品評会に出てくるコーヒーは良いものであることが多く、そうであれば採点もそれに合ったものにすべきという精神がありました(ちなみにスコア中央の点数である6点を積み上げると基礎点と合わせて84点となります)。また、評価項目もその価値観を反映して、Clean Cupが最初に来るところがSCAのものとは異なっています。

カッピングフォームが分かれたといっても、いずれも個人の好みを排除して、テロワールやプロセッシング等を丁寧に行った結果からくるキャラクター等を評価し、それらのプロセッシング等を失敗したときに発生するものを低く評価するという、共通の指針に基づいています。

一方で今回、SCAが作成し、COEにも導入しようとしているCVAのdescriptive formとスコアリング部分は少し異なります(詳細については別記事参照ください)。

Descriptive formはコーヒーに何のフレーバーが存在するか網羅的にチェックするものです。そしてこのフォームは点数をつけるものではありません。

そしてスコアリング部分はジャッジが個人もしくは自身がコーヒー豆を販売しようとしているマーケットの嗜好を踏まえて点数をつけるものになっています。

そのため、ジャッジの出身地や会社によってスコアが大きくぶれる可能性があります。もちろん、既存の評価方法でもジャッジによってスコアがばらつくという問題はありましたが、CVAのスコアリング部分はそもそもそのばらつきを許容していて、この部分が一番大きな違いです。

もしこのままこれを導入した場合、ジャッジの属性により点数はぶれるわけですから、それらの平均点はあまり意味はなく、点数をつけたジャッジがどういう属性を代表しているのかが重要になります。COE品評会のように点数が重要な要素を占める場合は、その精神をないがしろにしてはいけないように思えます。そのため、これらの導入には細心の注意を払う必要があります。

プレスリリースでは今後のステップについては触れられていませんが、然るべきタイミングで変更手続き等に関する追加の情報が公開されるでしょう。

次にSCAJやCQIへの影響について触れます。

【他のコーヒー団体(SCAJとCQI)への影響はどうなるのか】

Coffee quality institute top page
Q-グレーダーの育成機関であるCoffee Quality InstituteのHP

具体的な方法や時期は未定といえど、このMOUに基づいてSCAとACE/COEの手続きや評価方法の一定部分は統一する方向で調整されます(もちろん調整した結果、COEバージョンのカッピングフォームが新たにできる可能性もあるかもしれません)。

ここで気になるのが他の団体への影響です。日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)はCOEのフォームをベースとしつつ、カスタマイズしているものを独自のフォームとして採用しています。

そんなSCAJですが、以前よりCVAについて導入の予定はないと発言しています(2024年4月にCVAに関する説明があり、その時も同様のスタンスだったことを確認しています)。一方で、CVAについては情報収集してSCAJ会員向けに情報提供を行っていくとも説明していました。

もう一つ大きく関係する団体として挙げられるのがCoffee Quality Institution(CQI)です。CQIはSCAが定める手順とカッピングフォームに従ってコーヒーを評価する鑑定士(Qグレーダー)を育成している機関です。

CQIもすでに2023年5月18日付関係者向けメール4にて、SCAによるCVAに対する取組を高く評価しつつも、当時の時点で導入の予定はない旨、発表しています。

SCAとしてはその後も継続的な働きかけは行っているようなので5、今後もしかしたらCQIが受け入れる方向に傾くこともあり得ます。

ただ、スコアリングフォームは非常にセンシティブで各機関の精神が反映されたものです。各地域でスコアの最適化を図るのか、一つの価値観のもとスコアをつけて品質管理を図るのか、非常に難しく、唯一の正解はないものと思います。というのも、コーヒーの飲み方も100年前と今とでは全く違うからです。

いずれにせよ、今後これらのフォーマットが統合・分化するにせよ、統括団体と使用する専門家たちはきちんと透明性を確保して消費者が混乱しないようにしてほしいところです。

また、スペシャルティコーヒーを飲む消費者としてはそれらの文言に踊らされず、引き続き冷静に自身の価値観に沿って購入することが大事だと思います。

ということで、このサイトでは引き続きCVAの導入に関する情報収集に努めたいと思います。なお、CVAの情報もだいぶ集まってきたので、今後関連する基礎資料や最新情報を再び整理して情報共有する予定ですので引き続きフォローいただければ幸いです。

【補足・SCAはなぜACE/COEはなぜ協業するのか】

上でも少し触れましたが、SCAは米国と欧州のスペシャルティーコーヒーに関する普及を担う団体だったはずです。今回の取り組み、特にローカルカッパーの育成は微妙なスコープのような気がします。

そこで少し興味がわいたのでSCAの定款を調べました。

Bylaws of Association for Specialty Coffee A California Nonprofit Mutual Benefit Corporation

するとSCAのころは事業の主なものとして(a)国内外の調査、(b)地域への関与、(c)ボランティアや支部のサポート、(d)基準作り、調査、教育、(e)バリューチェーンの安定性、(f)スペシャルティーコーヒー産業の成長、(g)人間形成的レリベンシー(人材開発等が近い意味と考えています)と記されています。

もちろん頭に”以下のことに限定されない”と断りが書かれているので、これ以外のスコープもできるわけですが、それでもメインスコープであることには間違いありません。それがSCAEと統合するにあたって定款を以下の通り、改訂しています。

Amended and Restated Bylaws of the Specialty Coffee Association, A California Nonprofit Mutual Benefit Corporation

大まかなところは変わらないのですが、最後に国際的なコーヒーコミュニティを強固なものにし、バリューチェーンにとって持続可能で公平で有益な活動を支援する、旨書かれています。

これはSCAAとSCAEの統合によって世界のコーヒーマーケットのリーダーになるとともに、良いインパクトをもたらそうと考えている背景があるんだと思います。実際、現CEOになってから非常に多くの変化が起こっています。組織の統合を進めるとともに、今回のカッピングフォームの改訂、SCAディプロマの整理、等々大きな変革が行われています。

そういう流れの中で今回、積極的に他団体と交渉を行い、ACE/COEの同意が得られたのではないかと思われます。

一方で、ACE/COE側にたってみるとどうでしょう。ACE/COEは知名度はそれなりにありますが、規模としては非常に小さいものです。2022年のACEの納税書類を見るとSCAに比べて収入、資産いずれも1/10以下の規模です。設立当初はGeorge Howell氏らの尽力があって形作られたましたが、今後も研究開発をしようにも資金調達は容易ではありません。COEを法人化してコーヒー生産国からの調達できるようにしましたが、今後望まれるカッピングフォームの進化やその他の国へのプロモーション、ITシステムの増強等を考えるとスタンドアローンでは難しいという判断もあったのではないかと考えられます。

いずれにせよ、SCAの力を借りつつ、自身の領域を最大化していこうという意思があったとしてもおかしくありません。むしろ、そこに注力することによってCOEの認知が高まり、より多くのコーヒー豆に高値を付けることができるのかもしれないのですから。

いずれにせよ、今後両組織の協業がどうなっていくのかについては興味があるところです。

参考:Cup of Excellence and Alliance for Coffee Excellence Form Groundbreaking Partnership with Specialty Coffee Association, 各種Tax Filing(SCA, ACE)

  1. SCAはアメリカおよび欧州におけるスペシャルコーヒーの普及を目的とした非営利団体で、スペシャルティコーヒーの普及のほかに、バリスタやロースターの啓蒙、世界的なバリスタ競技大会や展示会等を行っています。 ↩︎
  2. COEはもともとACEのもとで行われていたコーヒー豆の品評会を指していましたが、2021年に非営利団体となり、自身で資金調達をできる団体となりました。現在はコーヒー豆生産国における品評会のほかに、コーヒー豆を現地で評価するカッパーの育成やコーヒー農家の支援等を行っています。 ↩︎
  3. ACEはCOEとACEのプログラムに則った特定のコーヒー豆に対して販路の開拓、COE参加者の管理、COEのオークションプログラム等の提供を行う団体。ACEとCOEは別組織ではあるが、経営陣やスタッフは一部共通していて、代表も同じErwin Mierisch氏が担っています。 ↩︎
Photo of ceremony of signing among SCA, ACE and COE at World of Coffee Copenhagen trade show
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