SCAJ2025セミナー報告『世界で最も訪れやすいコーヒー生産国・台湾』

左が通訳を務めた台湾在住の近藤さん、右がスピーカー林哲豪さん

スピーカーはCoffee Quality Institute認定Qインストラクター(セミナー当時の肩書。現在は鑑定士資格の認定についてはSCAに移管され、林さんも認定Qインストラクターとなっています)で、台湾コーヒー研究所創業者の林哲豪さんです。去年もそうでしたが、参加者を楽しませようという気持ちは多くのスピーカノー中でも随一でした。

そんな林さんのセミナーは去年同様台湾のちょっとした紹介から始まります。以降は林さんのプレゼンテーションをご自身の発言形式でまとめていますのでそのつもりで読んでみてください。なお、当日は台湾在住で、”いつか珈琲屋 台湾焙煎所“の近藤さんが英‐日の通訳を務めていらっしゃいました。

台湾と日本の関係

台湾は日本の与那国島から110kmしか離れていない距離にあって、台湾と日本の自治体で就航されていない地方路線を探すのが難しいほど、多くの交流がなされています。羽田からは50路線、新千歳からも30路線があって、桃園への31路線とそん色なく、ほぼ国内へ行くような感覚だといえます。

日本と私の関係も歴史があります。祖父は日本が統治していた時代に日本の教育を受けていました。同化政策の結果、梅村要二(本名呉耀村)という和名を持っていました。祖父が通った当時の台湾大学は”台湾帝国大学”と呼ばれ、日本の国立大学の中でも最大規模の施設を持っていました。ともすれば、台湾大学出身の私自身もある意味”旧帝大”卒なのかもしれません。

当時の日本の新聞社が決めた、台湾八景なるものもありました。新高山(今玉山)は台湾で最も高い山です。亜里山はお茶で有名ですが、コーヒーの産地でもあります。日月譚は今日の通訳を務められている近藤さんが住んでいるところでもあります。タロコも良いコーヒーの産地となっています。

日本の影響はもともとあった台湾の茶文化にも影響を与えました。ポスターには当時の日本の流行が取り入れられました。また、当時は三井物産が単なる農園の所有だけでなく、積極的に投資し、新しい機械等の技術を導入していました。そもそも台湾には昔から茶文化があり、厳格な品質管理もなされていました。

私たち、台湾人がカッピングをして、コーヒーの味を判断できるのは脈々と受け継がれた茶の文化があったからかもしれません。

鹿児島台湾は非常に九州と似ているといわれます。台湾は2300万人、九州には1600万人が住んでいます。またサイズも似ていて、大きな都市、台北・福岡があり、南やはり鹿児島・高雄があります。西側を中心に発展していて、この地域に新幹線が通っているのも同じです。

台湾のコーヒー文化

台湾のカフェ文化は非常に発達しています。コーヒーショップ等の飲料店は28千店あって、これに加えて13.7千店のコンビニがあって飲料サービスで競い合っています。自家焙煎店も多く、その数は5000を超えます。密度的には世界一だといえるでしょう。また、コーヒー豆の国際鑑定士核であるQアラビカグレーダーの数も非常に多く、670人を超えています。ドリンクの価格は日本と同じかそれ以上で販売されていますが、コーヒー豆は日本の販売価格より低く取引されています。

台湾はコーヒー生産のサードウェイブ真っただ中にいるといえます。日本統治時代は日本向けに輸出されました。しかし、戦後、日本のマーケットは喪失したため、一時期はUSAID等の援助もあって生産量は増えましたが、台湾経済の急激な成長の中で、生産効率や価格的な問題があり、その後コーヒー生産は減少していきました。そして現在スペシャルティコーヒームーブメントの中でかつて盛んだったコーヒー生産に再注目されるようになり、新しい世代の農家がコーヒー生産が始まりました。また、以前発生した大きな地震(921大地震)を契機に政府農務省も農家を積極的にバックアップするようになりました。

台湾コーヒーの中で4つのエリアを中心に私自身は関与しています。南投(ナントウ)県は南北にポテンシャルがあるエリアです。阿里山を有する嘉義(ジャーイー)県と、その南北にある台南県と雲林県にある農園を中心にサポートしています。

かつては伝統的な水洗式が主流の精製方法でしたが、いまは多岐にわたっています。実験的な製法やアナエロビック製法を取り入れたものも好まれています。ナチュラルやハニープロセスも手間も発酵が上手くいかない等のリスクはありますが、台湾の消費者には好まれています。一方でフレーバーコーヒーはスペシャルティコーヒーとは認識されず、人気はありません。

そして、現在大きなムーブメントは4つの地域から起こっています。一つ目は大阿里山地区。高品質なコーヒーを生産しています。中でも鄒築園(ゾウジョウエン)のオーナーである方政倫さんはコーヒー農家として初めて「十大神農」の称号を獲得した方です(会場にもいらっしゃいました)。品種改良にも熱心で、またデジタルツールの導入も積極的に行って常に品質を改善しようとしています。

近年この周辺で開墾を進めようとしたら、ララウヤ農業講習所と記された石碑がでてきました。この地はもともとゾゾ族が居住していた地域でこの地域で農業実験棟を行っていたとのこと。90年後に発見してコーヒー生産を再開するというのは感慨深いものがあります。

卓武山(ジャオウーシャン)農園は接ぎ木に関する卓越した技術を持ち、安定的なコーヒー生産を行っています(SCAJ2025にはブース出展もしていました)。

青葉(チンイェ)農園は嘉義県のコーヒー協会理事長でもあり、製茶機械を用いてコーヒーを加工するなど、革新的な取り組みを行っています。

花東及び海岸山脈区等は交通アクセスが必ずしも良くありませんが、同様にユニークなフレーバーが確認できます。

泥妲農園は廃校となった小学校を活用しながら、コーヒー教育や品質管理をしたりしています。また、花蓮県品評会でも複数回優勝しています。

日月潭及び中央山脈区は日本の統治時代から生産されていた地域で、それこそ北海道の試験林情があった地域でもあります。昼夜の寒暖差があり、それがコーヒーの甘味を生み、ユニークなプロファイルへと繋がっています。

これらのまっぷについては林さんがgoogle mapにまとめていますので気になった方はチェックしてみてください(リンク

このように多くのコーヒー農園が台湾にはあります。昨年と今年、ORIOWLとHISは共同でコーヒーシーンに焦点を当ててツアーを実施してきました。2024年は日帰りで企画しましたが、さすがに駆け足になってしまったので2025年(今年)から1泊2日の企画にして実施し、盛況でした。来年も実施予定なので、興味のある方はぜひ参加してみてください(楽天トラベル経由HIS経由)。

CVAを活用した評価方法

SCAはコーヒー豆の評価方法を最近更新しました。かつては生豆の欠点等の情報と官能評価だけでしたが、それ以外の情報も取り入れるようになりました。RPGのステータス画面でいえば、それらすべてを含める形で評価するというものです。

今日、お持ちしたコーヒーについては以下のような情報が付随します。一瞥すればわかりますが、多くの情報があります。それだけストーリーがあるということです。今日は時間の関係で説明しきれませんが、興味を持った方はSCAのサイト等をご覧になってください。

所感

文化的な多様性を備えた台湾コーヒーを個人的には好きだし、応援していきたいと思っています。その前提として、彼らが作るコーヒーが年々良くなっていることがあります。2025年のCOEでは複数の90点越えのコーヒー豆がでてきました。実際、飲んでみると数年前のものとは全く異なるフレーバーを感じることができます。

今回、試飲できたカップ、3つのうち2つはゲイシャ系。もう一つはゲイシャと現地で品種改良されたソッンナ。この品種は非常に興味深かったです。個人的にはゲイシャの複雑なジャスミンのようなフレーバーに、ブルボンに感じられるようなボディが加わった感覚でした。それがこの農園特有のものなのか、品種特性なのかはつかめなかったので、次回どっかで出会ったら試してみたいと思いました。

そういう新たなムーブメントも含めて台湾コーヒーに対する興味が個人的にはつきません。

だからこそ、今後もフォローしてみたいと思います。機会があったら、今回紹介されていたツアーにも参加したいとひそかに思っていたりします。。。日程合うかな・・・。

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