SCAJ2024セミナー出席報告「サステナビリティと品質の追求 ~高品質なコーヒーの調達危機への対応~(3)」

前回に続きフェアトレード・ジャパン主催の講演から。今回はメキシコ サンフェルナンド協同組合(Unión de Ejidos y Comunidades San Fernando)からシルビア・エレーラ氏来日、『サン・フェルナンド共同組合の各種課題への取組』に関して講演しましたので内容をシェアします。

いつも通り、以下内容はスピーカーの発言をもとに構成しています。一部、意図を踏まえて再構成している部分もありますが、ご了承ください。

メキシコ・チアパスでのコーヒー生産

メキシコは世界で11番目のコーヒー生産国です。そしてシェードツリー(日陰樹)栽培の先駆者でもあります。50万人の生産がいて、グアテマラの国境沿いに位置するチアパス州で最もコーヒー(オーガニックも含む)が生産されています。そして、このチアパスでは約18万人のコーヒー生産者が属していて、このうち61%が先住民族です。

私はコーヒー生産者であると同時にこの地域にあるサン・フェルナンド協同組合に所属しています。CLACのパウロ氏は全体をコーディネートする役割を担っていますが、私はこの組合で他の生産者とCLACとの協業を行っています(いわゆるコーディネーター的な役割)。

この組合は1984年にサン・フェルナンドに設立されました。そして、現在では州内10の異なる自治体から41コミュニティが参加しています。多くの地域から構成されるため、共通の価値観や目標をいかに作り出すかに苦労している側面もあります。

組合はコーヒー生産者817人で構成され、内257人が女性、また165人が先住民です。これらのバックグラウンドは、私たちのコーヒーに複雑性をもたらすだけでなく、心にも多様性をもたらしてくれます。

社会面と生産面で進行中のプロジェクト

社会面のサポート

現在、プロジェクトが2軸を中心に行われています。まず社会面からお話しすると、食料自給率の問題があります。これは生産者に十分な収入がないために生活が困窮していて、健康で持続的な飲食ができていないという問題があります。これに対して、フェアトレードのプレミアムも活用しつつ、めんどりを配って自律的な食糧供給できるようにしたりする施策などを行っています。

また、生産者が住む地域が山間部だったりして、子供が十分な教育を受けにくい状況があります。これらに対してもフェアトレードの資金を活用しながら奨学金を提供しつつ、近くの学校に通える体制を構築しています。そのことによって長期的には生産性の向上や革新が得られると考えています。

さらに生産者の健康面についても補償金等を設けて、体調を崩した結果、すぐに収入不安へとつながることのないようにセーフティーネット的な制度も設けています。

生産面のサポート

コーヒーノキは老齢になると当然ですが、収穫できるコーヒー豆は少なくなり、結果として生産性が落ちます。そこで問題となった木々の植え替えを行うようにしています。また、植え替えに際して、一部は早く収穫できたり、完熟するような品種にするようにしています。さらに栽培地における土壌検査や品種適性の確認等も行います。

コーヒー豆の質を向上させるためには植樹して終わりではありません。生育過程のみならず、収穫から精製工程、全サイクルの質を向上させる必要があります。そのため、これらについても研修を行っています。また、ナチュラル精製の場合、ドライする場所やパティオが必要となります。これらの整備・維持費用は大きな負担となります。これらも必要に応じて生産者組合がサポートしています。

また、これは社会面にも通じるところではありますが、コーヒー生産に関連するインフラも整備しています。例えば、パーチメント等を運ぶ多くの道がいまだに悪路といっていいほど整備されていません。これを改善したり、水路を整備したり、多くのプロジェクトが行われています。

また、少し変わったものだと有機肥料工場についても取り組んでいることです。というのも、今まで肥料については海外からの輸入に頼ったりしていますが、これをコーヒー生産の過程でできるパーチメント等を活用しながら、地域内で完結出来たら、環境負荷も少なく、また雇用にもつながります。

これらは生産者や生産者組合だけで行えることではなく、フェアトレードや政府をはじめ、多くの団体からのサポートを得ながら行われているものです。

さらに生産者団体は各種認証制度へのサポートも行っています。フェアトレードはもちろん、そのほかにもJASやUSDAの規格にもあうような農作物生産を行っています。

それらの支援もあり、メキシコのコーヒー生産は安定的に推移しています。主な輸出国はアメリカ、スイス、日本等です。そして、私たちの組合に限って言えば、生豆の出荷量はコロナ後、30%ほど増加しました。

コーヒーの付加価値について

では、私たちはコーヒーをどのように品質管理しているでしょう。私たちは4人のカッパー(うち3人がQアラビカグレーダー)を有して生産者へ直接なフィードバックを行っています。

その結果、私たちの生産するコーヒーはSCA基準で82~84点以上の水準で、特に小規模生産者(マイクロロット)のものについては85点以上となっています。これらの品質向上への取り組みもあって、2014年以降、コンスタントに賞を頂けるようになりました。

ちなみに過去には国際的な品評会であるカップ・オブ・エクセレンスやフェアトレードが開催するゴールデンカップでも1位を受賞しています。これらの受賞は私たちの認知度を高め、コーヒー豆の取引価格を高め、結果として私たちの生活の質の向上へと繋がっています。

直面する課題

私たちの生産者団体は高齢化を迎えていて、次代への引継ぎが課題となっています。しかしながら、農業というものはどこでもそうだと思うのですが、あまりイメージが良くありません。これに対して、私たちは洗練されたスペシャルティコーヒー生産へ取り組むこと、また新しい技術等を導入することによって、男女問わない若年層のイメージ改善を促しています。

一方で、私たちを取り巻く環境も日々大きく変化しています。気候変動だけでなく、森林伐採、火事や地滑り等の自然災害も発生しています。また、これらを意識した法律、EUDR(欧州森林破壊防止規則)等が各国で整備されつつある中、それらへも対応していく必要があります。

例えば、気候変動対策として、化学肥料ではなく、より有機肥料等の活用を模索しています。写真は100のコーヒー農園が集まって知識共有したり、土壌の最適化に取り組んでいるところです。

また、地滑りについては自然の防波堤的な役割を果たす木々の植樹を行い、生産者や木々を守るだけでなく、より大きな規模で環境保護を行っています。そして、そのれらによって私たち生産者自身を守っています。

このような多くの課題を抱える中、生産者は単なる農家としてではなく、社会経済における起業家(アントレプレナー)であるというマインドを持ってもらう必要があります。それは先ほど申し上げた通り、課題がある一方で各種団体とのコラボレーションやプロモーションを通じて、大きく飛躍できるチャンスがたくさんあるからです。これらをもっと認知してもらい、生産者のマインドも変えていく必要があり、各施策はそれらの醸成に役立つものと考えています。

皆様にもこのような活動を知っていただき、よりチアパスのコーヒーを理解していただけると嬉しく思います。

参考:サンフェルナンド共同組合 (Facebook Instagram

所感

生産者団体というものの役割がいまだかつてないほど広がっていることがよくわかるプレゼンでした。かつては育苗や種子管理や自治体等からの窓口的な役割でしたが、生産者へのサポートが複雑かつ多岐にわたっていて、ハブ化していることがよくわかるものでした。また、内容についてもコーヒーの品質管理から土壌改善やインフラ整備の起点となる役割を担い、専門性が一気に高まったという印象を受けます。

そして、生産者のマインドの変化をも促しているというのは衝撃的でもありました。より自発的に、より先進的に自らを変えていくことによってコーヒー生産の現場を劇的に変えようという動きを誇らしげに語るシルビアさんの表情には心を動かされるものも感じられました。

これからもメキシココーヒーやフェアトレードに関連する情報をアップデートしていこうと思います。

SCAJフェアトレードジャパン主催セミナー メキシコパート
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