【本紹介・感想】知られていない知識の宝庫『お茶の科学 「色・香り・味」を生み出す茶葉のひみつ 』

『お茶の科学』大森正司著

お茶の特色~色・香り・味を科学的に考える~

色について

玉露の鮮やかな緑色を構成しているのはクロロフィル(葉緑素)です。前述したとおり、収穫の20日以上前にすのこなどで覆うことによってその含有量は増すのですが、この成分は不安定で酸素に触れると一部の分子が抜け落ち、色が鮮やかでなくなります。そのため、玉露の消費期限が短くなります。

抹茶の場合、粉状態になるため、酸素との接着面が玉露の茶葉よりも多くなるため、さらに色の劣化の速度が速まります。もちろん、香気成分についても徐々に抜けていくことはいうまでもありません。

紅茶の赤はカテキンが中心的な役割を担います。元来カテキンは無色なのですが、カテキンが酸化して転じるテアフラビンは明るいオレンジ色、テアルビジンは濃い赤色になるとのこと。これらに加えて、赤褐色のカテキンの酸化重合物があわさって紅茶の独特の赤を生み出します。

香りについて

緑茶が緑をイメージする香りを強く持つのに対して、紅茶はフローラルな香りが多いのが特徴です。その香りはスズラン系のリナロール、バラや重めの柑橘系のゲラニオール、柑橘系とフローラル系の甘さを併せ持つネロリドール。これら香りの元となるテルペン類は 萎凋 の段階で生成されているとのこと。

現在判明している香気成分は約300種とされていますが、どれが紅茶やウーロンと区分けされているわけではなく、このぶんやはまだまだ研究途中とのことでした。

旨みについて


お茶らしさを決める3つの物質が、カフェイン、カテキン、テアニンを代表とするアミノ酸とこの本では紹介されています。それぞれ少しだけまとめていきます。

(1)カテキン

お茶の渋みと苦味にもかかわってくるもの。カテキンはポリフェノールの一種。乾燥茶葉の10-20%含まれ、緑茶より紅茶、一番茶より、二、三番茶に多く含まれます。カテキン類は冷水に溶けにくく、熱水によく解けるため、低めの温度で入れた玉露は旨み成分が際だち、熱湯で入れる番茶や紅茶でさわやかなパンチのある渋みが強調されるとのこと。

(2)テアニン

茶特有のアミノ酸の一種。味はグルタミン酸より弱いものの、甘い旨みがあり、玉露などの高級緑茶に多く見られます。この成分を多くするのが玉露の収穫直前にすのこ等で葉っぱを覆い隠す手法。

(3)カフェイン

カフェインは眠気覚ましとしての覚醒効果として有名ですが、味にも影響を与えています。カフェインはカテキンの持つ渋み・苦味よりも軽さのある苦味を有しているとの事。カフェインは熱水に溶出しやすい特徴があります。そのためカフェイン含有率の多い玉露では苦味が押さえられた味となります。、

お茶のおいしさの表現として、上の三つの点について改めて、(1)水色、(2)香気、(3)滋味、という表現を紹介しています。(3)滋味は聴きなれない言葉ですが、爽快味、うま味、渋みの調和についての評価と解説しています。なので、気になったお茶があったら、この3項目を中心に考えるといいかもしれません。

お茶の淹れ方って?

基本的には上述の各成分の特徴を踏まえつつ、自分が実現したい味を目指して温度や抽出時間を変えていくことが重要とのこと。

ただし、原則論はあって、蒸らし時間が長すぎると渋み成分が出てくるし、抽出回数が増えるほどにうま味成分はなくなって単なる渋いお茶になるようです。このほかにもこの本では茶葉の量や温度の差による違いをグラフで紹介していますので気になる方はぜひチェックを。

ただし、好みの味もあるでしょうから、神経質に読み込まなくても言いのかなとも思います。楽しく気楽に。ここでは最後にひとつだけ代表的な煎茶の例を記しておきたいと思います。

煎茶(一人前)

茶葉2-3g、お湯70ml(70℃)、2分程度下の地に淹れるとうま味がでておいしいとのことでした。各茶についても詳しいシチュエーションが書かれているので詳しくは本書をごらんください。

健康とお茶とお茶の進化いう章が続くのですが、ここは割愛。健康面は多くの面で研究が進んでいて、ワイドショーで盛んに放送されていますよね。そのことをきちんと科学的に説明しているのですが、個人的にはそこまで期待していない分野なんです。

また、お茶の商品としての進化はテレ東やNHKで特集を見たような気もしますし、新書を読んだのかもしれません。いずれにせよ、この本では日常的に飲まれていたお茶を商品化するというマーケティング的な側面でなく、今まで学んだ酸化に弱い茶葉をいかに保存に耐えうる商品にしたかについてわかりやすく説明していました。

いずれもコンパクトに、かつ読みやすくまとまっていました。

いかがだったでしょうか。私の興味のある分野を中心にまとめてみました。この本は導入書としては本当にすばらしい本だと思います。歴史、文化、製法を幅広くカバーしてそれをきちんと科学的に伝えることができている本だと思います。

紅茶的な知識をもっと得たいと思ったら、煮たような本で厚みをつけるのもいいですし、うま味や香りについて知りたいと思ったら、やはりブルーバックスからでている各本に当たるといいのではないかなと思いました。

ということで、この本きっかけで関連本を探しに書店に遊びに行きたいと思います。

本について

本の概要

関係サイト

  • 著者のインタビューページ等は いくつか掲載されていましたが、SNS等の個人ページは、私が調べた限りではありませんでした。それだけに講演会や授業、そして今回のような本は貴重なのかもしれません。

次の一冊

どんな本を置くかによってお店の雰囲気は決まったりもしますよね。紅茶の百科事典を置く店があるかと思うと、ノウハウ本をおく店もます。そういうお店で本を眺めながらお茶を待っている時間がとても好きです。

紅茶の絵本

紅茶の絵本 [単行本]大西 進ミルブックス2016-11-23

中でも『紅茶の絵本』を見つけるとほんの少し温かい気持ちになります。本の装丁に和み、その中身の雰囲気に癒されます。紅茶のお供としてもいいと思うので、一度本屋さん等で探してみてください。

あと関係する文書をいくつか(私の興味本位です):

作業研究報告: https://www.jstage.jst.go.jp/browse/cha/-char/ja  

ほかの分野でもそうですが、学術研究サイト等でキーワード検索すれば興味深い記事がたくさん見つかります。もちろん、その内容については自分で追考察しないといけませんが。。。

雑な閑話休題(雑感)

お茶に関する本を読むきっかけ

 本格的な台湾茶を飲ませてくれるお店に伺う機会が何度かありました。また、相方はコーヒーよりも紅茶が好きなので昔から家でよく飲みます。飲む回数を重ねると本当に様々なお茶に巡り合えます。

この本にも書かれているように、最初は品種なのかブランド名なのかさえわからなかったのですが、専門店や茶葉を買うようになって断片的な知識が身についてきました。そして、多種多様な香りや味についても自分なりに感じられるようになったんです。

日本茶でもこのような傾向がありました。特徴ある煎茶や抹茶を飲ましてくれるお店が増え、以前にも増してさまざまな日本茶にめぐり合えるようになり、産地も意識するようになりました。ただ、日本茶を飲むとき、この香りはどう表現すればいいのだろうと思ったのです。草原を思わせるような瑞々しい香りを感じたとして、それはよい香りなんだろうか?とか。コーヒーとかだと草や大地を連想させるのはよくないものもあるので疑問に思ったんです。なら、少しそういう知識を得たいなとおもい、この本を手に取りました。

今、ほかの『○○の科学』シリーズを読んでいるのですが、隣接した分野の知識って一週回ってもとの分野に知識として増幅して帰ってきますよね。それがひとつの楽しみでもあるわけなんですが・・・。

ただ、そういうふうに展開していくと本当にいくら時間があってもたりません。共通点があると思いながら、どこまでもスライドしていっているな、と思うときがよくあります。・・しかもそういうのに限って感想を書くのが大変なんですよね。でも、まとめるのって知識を再確認するのに本当にいいのかも、なんて最近よく思います。

ではでは、今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。

『お茶の科学』大森正司著
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