あらすじ
高校3年生になったリア。趣味のドラムは周囲からも一目置かれる実力。そして絵の才能もなかなか。フルーツバスケットの透やセーラームーンの絵もお手のもの。まぁ、描いている内容に偏りはあるかもしれないけど。
そんなリアが衝撃を受けたのがサイモンの告白だった。幼馴染で片思い相手だったサイモンが実はゲイだとカミングアウトした。そしてさっさと恋人まで作ってしまった。
それでもリアにとってサイモンはベストフレンドフォーエーバーなキュートな親友。ただ、高校生活は有限。リアたちに大学進学の時期が迫る。
さらにそんなリアにも気になる友人がいた。そんな友人との仲が大学進学を控えて急速に動き出す。卒業間近になるとイベントも沢山。高校生活一番のイベントといわれるプロムだってそうだ。リアは誰とプロムに行くことになるのだろうか。
そして、果たしてリアは平穏なまま残りの高校生活を送れるのだろうか。『サイモンvs人類平等化計画(Love, サイモン 17歳の告白:映画)』の登場人物リアのオフビートな物語が幕を開ける。
Leah on the Offbeat (English Edition) [Kindle版]Becky AlbertalliBalzer + Bray2018-04-24
感想(ネタバレ注意)
良いなぁと思ったところと感想を徒然なるままにまとめてみました。
サイモンと再会できる本
本書は『 サイモンvs人類平等化計画 』のその後のストーリーを描いたものです。そのため、Creekwood高校に通うお馴染みのメンツと再会できます。サイモンはもちろん、一緒のグループのニックやアビーにも会えます。
そんな本作の主役はリア。
そう、サイモンとは幼馴染で互いに大事な親友だと認めつつも、サイモンが最初にゲイだというカミングアウトを打ち明けず、少しぎくしゃくした相手です。
もちろん、そんなぎくしゃくした時期はとうに過ぎ、再び良好な関係になっています。前作の雰囲気を存分に踏襲しながらも、新しい主人公にスポットを当てた本作は良いとこどりを目指した一冊です。
そのうえで、リアの目を通したサイモンは新鮮でした。
前作では、表面では賑やかでも、内面で様々な葛藤をするサイモンに少し大人びた印象を持っていましたが、今作では想像以上におしゃべりでにぎやかな子の印象を受けました。もちろん、自身のカミングアウトを済ませて、恋人のブラムとの仲も良好だからかもしれません。それでもにぎやか、というか、もう、うるさいかんじです(笑)、 それでも嫌いになれないのがサイモンなんですけどね 。まぁ、それはかつてサイモンに好意を抱いていたリアからの視点だったからもしれないですね。
そんなリアの周りに集うメンバーも魅力的。リアの周りを固めるメンバーの一部はサイモンのそれとは少し違います。前回から引き続き出てくるギターもスポーツも何でもうまくこなすニックと誰とでもうまく付き合ってハイファッションなアビーは相変わらず主軸を固めますが、リアが所属するガールズバンド”Emoji”のメンバーも登場してきます。ちなみにこのバンドにはサイモンの妹も所属しています。このバンドにも一波乱起きるのですが、それは読んでからのお楽しみということで。
とにかく新たな布陣を加えたCreekwood高校の生徒たちの物語は魅力的に決まっていますよね。では、主役を張るリアはどんな人物でしょう?
リアの一途で自意識過剰な性格?
主人公リアの性格は一癖あります。まず自己評価が低いです。楽器をやっていて集中したときは”入っていく”感覚になり、それなりにできる自負はありつつも、それを誇ることはしません。絵も似たような感じ。親友のアビーはとても評価していますが、リアは友人に見せびらかすようなことはしません。Tumblerに絵をアップしますが、それを実際の友人にシェアすることはありません。誰かの暇つぶし程度に観られたらいいなと思っているくらい。
また、少しふっくらした体系(絵の冊子や下のYoutube動画を参考にしてみてください。Love, Simonの映画を観た人はそれより幾分かふっくらさせたほうがいいかも)を気にしているようです。服を買うシーンや友達と一緒にいるときの自身の見え方についてとても気にしている様子が書かれています。
ただ、じゃあ、内気で気弱な子かと思うとそうではありません。正しいと思ったことはきちんというし、一度決めたことは翻さない芯を持った子でもあります。そのきらいは少し潔癖すぎるくらい。厳しい言葉で言うと、少し独りよがりで自己陶酔的な部分もあるかも。ここの部分は読者としても好き嫌いが分かれる部分だと思います。
なぜなら、それが故に様々なトラブルが発生することになるから。母との衝突、友達とのけんか、ガールズバンド解散の危機等々。多くがリアの妥協を許さない極端な性格が故に起こっています。だから、この性格に思わずうんざりする読者も少なからずいるかもしれません。でも、もう少し辛抱強くリアに寄り添ってあげてください。
リアも内面では色んなことを考えています。言い過ぎたと思ったり、もっと違う表現をすべきだったかもと思ったり、もしくは友達をいいように使っているだけなのでは、とか、ちゃんと考えています。その辺は色んなこがいるなと思いながら、少しずつ読み進めていただければいいかなと思います。
私自身も彼女の性格が苦手だったけど、彼女の不器用ながらも最後まで自分を通そうとする性格も一つの個性と感じられるようになり、それが魅力的であると感じるようになりましたから。
そんなリアも、前作のサイモン同様、様々な人とコミュニケーションを重ね、勇気をもって色んなことを打ち明け、そして打ちのめされ、それでも前に進むことで成長していきます。その記録を読んでいるとまるで親戚の子の日記を読んでいるようでその事実だけで楽しめると思います。
そんな彼女を脇から支える何人かの登場人物についても少し話していきたいと思います。あっ、サイモンは言わずもがななので書きません。
リアを支えるわき役たち
母親ジェシカ
リアは母子家庭に育ちました。そんなリアを育てたのが母ジェシカです。ジェシカは誰ともすぐに打ち解けられる人とリアは評しています。また、プロムに対して昔ながらの価値観を抱く人です。一方で、リアのあるがままを受け入れ、彼女の幸せな人生を一途に願っています。そのために多く働き、またリアとも積極的にコミュニケーションをとっています。
そんな意気地な母に対してリアは素直になれない複雑な感情を抱いています。もっと母のようになれたらと思ったり、母のような高校生活を送った人に自分のことなんてわからない、とも思っています。
それでもジェシカは自分の経験を披露しつつも、それを押し付けることなく、リアのことを尊重します。ただ、一点リアには何事も後悔してほしくないという想いを強く思っています。だから、リアが途中であきらめたり、物事をかき乱すことに対しては非常に厳しく接します。それはリアにとってもったいないことだとわかっているから。
そういうコミュニケーション一つ一つが示唆に富むものでした。ちなみにそんなジェシカの審美眼にかなう恋人ウェルズもなかなかな人ですよね、なんて思ったりしました(ネタバレと葛藤中・・・)。
サイモンの恋人ブラム
前作ではほんの少し。。。いやメール上ではたくさん登場しましたが、あって会話をするのはほとんどなかったブラム。本作では主な登場人物の一人です。会話からも少し余裕があって本当に同級生?と思うような感じ。でも、だからこそリアも安心してみていられるんでしょうね。
ブラムは様々な場面で効果的なコメントや仲裁を買って出ます。サイモンは自然と板挟みになる役になっちゃうけど、ブラムは多面的な物事の見方を披露して、けんかが納得いくような形でおさまるといいなという感じ。しかも強制するわけではないんですよね。サイモン、本当にいい人を相手に選んだなって思えると思います。そして、そんなブラムを見ているときっと幸せな気分になれると思います。
我が道を行くアビー
前作に続き本作でもリアと共に中心的な役割を果たすアビー。相変わらずどこにいても目立ち、キュートな立ち位置にいます。本作では大学進学も無事に決まり、一見順風満帆です。
ただ、読み進めていくと彼女が見えないところで努力している数々のことがわかってきます。また、自由きままに生きているようでも、実は継続的な努力をしていた李、将来に対する不安と闘っている、人間味あふれる人物だということが徐々にわかっていきます。
遠くからみえるものと、実際にしゃべって内面まで通じて知れることには多くのギャップがあることを彼女を通じて学べるのかもしれないな、なんて思ったりもします。
ということで、色んな登場人物が本作の脇を固めています。リアがもつ悩みを考えつつも、色んな人に目を向けるとそれはそれで面白いかも(色んなバックグラウンドを想像するのは楽しいですよ)。
物語はこういう人物を中心に高校生活最後の時までを描いています。そしてラストのシーンは前作同様ドラマチックでした。この後、みんなばらばらになってしまいますが、リアたち全員に明るい未来が思い描けるようなエンディングはさすがだなと、今回も思いました。
この本についてはそのうち日本でも翻訳されるんじゃないかと思いますが、サイモンとの再会をそれまで待てないという方は取り寄せてみてはいかがでしょうか。今なら古本としてもあるでしょうし、意外と安価な値段で手に入るかもしれませんよ。
こんな感じで今回も感想を〆たいと思います。今回も読んでいただき、ありがとうございました。
本について
本の概要
- タイトル(原題): Leah on the offbeat
- 著者:ベッキー・アルバータリ(Becky Albertalli)
- 発行:HarperCollins/Balzer + Bray
- 印刷・製本:-
- カバーデザイン:Alison Klapthor
- 第1刷 :2017年7月19日
- ISBN0062643800 (ISBN13: 978-0-06-264381-0)
- 備考(受賞): Goodreads Choice Award for Young Adult Fiction (2018)
関係サイト
著者オフィシャルHP: https://beckyalbertalli.com/
誰が本作を翻訳してくれるか楽しみです。そして、そのときにもう一度Creekwoodの登場人物と再会できるのが今から待ち遠しいです。
次の一冊
本作はDisney+でのTVドラマ化が決定されているようです(リンク)。日本では2020年1月時点でサービス開始していないDisney+ですが、こういう面白そうなコンテンツが増えてきたら契約するのもありかも。
さて、アルバターリさんの作品はほかにも多くあってサイモンと同世界のものがもう一つあります。それが『The Upside of Unrequited』です。
The Upside of Unrequited [ペーパーバック]Becky AlbertalliBalzer + Bray2018-01-30
この作品にサイモンたちは直接登場しないようですが、小説内で言及するシーンがあるよう(私自身は読んでいないので、すみません。。でも読みたいという想いが本作でわきましたよ!だから、いつかこのサイトでも紹介するかも。ただ、積読も多いのでそれを消化してからかな。。。)
ちなみに大学見学の際にアパートの一室を貸してくれたケイトリンはこの小説にも登場するそうです。
さらにYoutube上では本の中で使われた曲がリスト化されていたり、有志がトレーラーを作っていたりします。そのほかにも多くの人が英語のレビューを上げていますので気になった方がいたらチェックしてみてください。きっと本作の余韻を楽しめると思います。
あっ、そうそう英語Ver.ではありますが、3作品の関係と登場人物に関する動画を一つ。そして、著者本人が少しこれらについて解説した動画を一つ紹介しておきます。
二つともYA向け本を中心としたプラットフォームサイトEpic ReadsのYoutubeチャンネルのものですが、他にも有名な本の著者が多く出演していますので時間があるときに眺めてみるのも面白いかと思います。
雑学
ちょっと気になって調べて書くところがなかったのでここに追記しておきます。
リアが住んでいるジョージア州アトランタでは15歳以上であれば、一定の条件の下免許取得が可能です。16歳以上かつ免許取得から1年たてば時間制限はあれどほぼ自由に運転できるようになります。前作と本作でもサイモンやアビーの車に乗せてもらうシーンがあったのはそういった理由からです。気になる方はジョージア州の該当部局へGO→リンク)。
雑な閑話休題(雑感)
みなさん、洋書はどのように購入しているでしょうか。日本にいるとどうしても購入場所が限られてしまう気がします。
私自身は新宿にある Books Kinokuniya Tokyo や丸の内にある丸善を中心にお世話になっています。
あといいなとおもっているのが古書店。ただ、軟派なわたしは洋書専門店というよりは一箱古本店等を中心に物色したり。興味ある方は検索してみてください。本のラインナップに洋書を揃えている箱主も多かったりします。
また、意外な掘り出し物があるのがブックオフ。販売スペースは限定的な店舗が多いですが、市価よりも大幅なディスカウントされた本が埋もれていたりします。まぁ、洋書の回転率は相当悪そうなのでわかるっちゃわかるのですが、少しかわいそうですが、まぁ、そういうもんです。
もちろん、そのうえでアマゾンを通した海外からの取り寄せも行います。以前に比べてシッピングチャージも安くなりましたし、どうしても実店舗にはないけど面白そうな作品と出会うことがありますもんね。利用者にとっては本当に便利な時代になったと思います。
kindleやその他の電子書籍もいいなぁと思いつつも、届いたペーパーバックのインクやら古書のにおいをかぐとやめられないんですよね。。うーん、なんて時代遅れな発想なんでしょう。
みなさんのお勧めの洋書発掘方法がありましたら、ぜひ教えてくださいませ。