SCAJセミナー出席報告『CVA(Coffee Value Assessment:コーヒー価値評価)について(最新情報も含む)』

SCAJ2024でスペシャルティコーヒー協会(Specialty Coffee Association:SCA)によるコーヒー価値評価(Coffee Value Assessment:CVA)に関するセミナーが会長のYannis Apostolopoulos氏よりありましたので概要をシェアします。

なお、内容については一部最新情報はあったものの、SCAJ2023 時に発表したものがベースとなっていました(むしろ、一部の情報(CVAを構成する4つの評価方法等)については説明が簡略された印象を受けました。そのため、2023年の記事についても後日再編集してアップします)。

SCAの目指すもの

SCAの目的について話すApostolopoulos会長

最初にSCAの目的ついてお話します。SCAはグローバルにコーヒーコミュニティを支援することによってコーヒーバリューチェーン全体が持続可能で繁栄できるような産業になることを目的としています。本日ご紹介するCVAはこの目的を実現するためのものです。

さて、CVAはコーヒーの評価ツールです。そのため、コーヒーの価値を正しく評価するためにはコーヒーが何によって構成されているか、詳細に理解する必要があります。そこでSCAは多くの文献を調べ、議論をしてきました。そして、その議論にたびたび登場する言葉が品質(Quality)でした。

コーヒーを品質のみを評価していいのか?

そもそも対象物を測定するにはいくつかの方法があります。その代表的なものは、①一つの基準を設定して、それに従って測定(single standard)、②多数の基準を設定して、多数による測定。後者は複数の属性によって構成される属性群だと認めたうえでの試みとなります。

従来スペシャルティコーヒーで用いられてきた測定方法はカッピングスコアや欠点豆の混入率等を軸として品質を測定した①に近しいものです。ただ、品質というのがスペシャルティコーヒーを表すわけではありません。品質はスペシャルティコーヒーを構成する一つの属性にしか過ぎません。②のほうがより多くの属性をとらえられ、正確な評価ができるという結論に至りました。

①ではフレーバーや味については評価できていたとしても、生産国(地域)、農園、精製方法、認証の有無、焙煎度合い等々、多くの属性があるはずです。②であれば、①で拾えなかった情報を拾い上げることができます。

Towards a Definition of Specialty Coffee(SCA White Paperより)

そしてこれらの属性(情報)が多いものがスペシャルティコーヒー、逆に属性(情報)が少ないものはコモディティに分類されます。

一方、この考え方を踏まえるとスペシャルティコーヒーとコモディティコーヒーという二分するような発想は好ましくないことがわかります。それらは連続していると捉えることができるはずです。このとらえ方はより現在の複雑化した世界の実情を反映しています。

CVAでは4つの評価方法を使ってコーヒー豆を理解することになります。

つまり、80点以上と以下でスペシャルティコーヒーかどうかという二分割するような方法ではなく、属性毎の評価によってコーヒーを評価することのほうがより洗練されていると考えられるのです。

スペシャルティコーヒーの新しい定義

これらを念頭にスペシャルティコーヒーを定義すると以下のこととなります。

Specialty coffee is a coffee or coffee experience that is recognized for distinctive attributes, resulting in a higher value within the marketplace

(意訳)スペシャルティコーヒーとは(優れた)違いのある属性が認識でき、結果として市場でより高く評価される、コーヒーもしくはコーヒー体験のこと

Presentation slide used by SCA during SCAJ2024 Seminar about CVA

先ほど品質に対する考え方のところでも話しましたが、異なる属性を評価するのは異なる個人です。その個人が所属する地域によって本来味や風味に対する好みは異なるはずです。もし世界各国の好みのデータを生産者が知っていればより適切な地域へプロモーションすることができます。

例えば、自分たちが収穫したコーヒー豆の風味がとても強い果実感を持っていれば、それらを高く評価する国や地域へ販売し、よりナッツやチョコレートの風味を持つものが収穫出来たら、そういうコーヒーを好む場所へ販売すればよいのです。これができれば、生産者や生産国の輸出社は無駄な労力や値下げ圧力を受けなくてよいことになります。

また、属性でコーヒー豆を評価することには他のメリットもあります。1つ目はコーヒー体験に適用できること。これは消費者によって高評価が得られたコーヒーの分析を行うことによって市場の好みがわあかるというもの。2つ目に属性測定が可能なため、研究がしやすくなること、3つ目に取り扱う専門家がコーヒーの価値をより(解像度を上げて)理解できるということです。

CVAでできることを整理

CVAはコーヒーを掘り下げ、その総和がコーヒーの価値を表すこととなります。その結果、次のような新たな価値の発見ができ、また透明性を確保できることにもつながります。

  • 高評価をつけられたコーヒーの市場分析とコーヒー流通の最適化
  • 単一尺度による”スペシャルティ”の解釈から、複数尺度による解釈へ
  • 他の多くの産業で使われている現代的な認知科学を反映

上にあげたものはいずれもSCAの目的である産業全体の価値向上へつながる取り組みになっています。1番目と2番目についてはすでにお話しした通りで、3つ目については後程お話しします。

CVAの最新情報(2024.10時点)

  • CVAの導入状況

さて、このCVAについては2023年にベータバージョンを一般公開し、1年かけてユーザーと協議・修正を行い、2024年になってようやく正式版(サンプル準備とテイスティング手順、主観的評価、詳述評価)について理事会承認が得られました。一部2025年(定義と語彙、外部的評価、システム運用)に採択予定のものもありますが、着々と進めています。

現在、SCAの認証を受けたトレーナーが20名おり、このトレーナーの元認証を受けたカッパーが525人います(680人中で合格率は77%)そしてカッパーは25か国にいて、うち12か国は生産国の生徒です。なお、生産国のカッパーには費用の補助も行いながら、普及に努めています。

(SCAJサステナブル委員会から追加)

SCAJも人員(4名)を派遣し、国内で情報提供を目的としたセミナー(リンクは5月開催セミナー情報)を行っています。また、11月にも座学と実践編を行う予定がありますので適宜ご参加ください。

データ収集とその活用事例

すでにクロップスター、Tastify、Catador等のアプリからリリースされているアプリを通じてCVA評価をデジタルで行うことができます。そして、これらの評価情報は(ユーザーの許可があれば)SCAとも共有されるようなシステム、いわゆるCVA Results Bankというシステムを構築しています。

このシステムはどのアプリで入力しようとも、データがSCAに流れ、SCAの管理のもと、コーヒーコミュニティや研究者に提供されます。そして、コーヒー消費者の好みや属性等を理解し、より適切なマーケティング等ができることを目指しています。

このシステムを通じて、他の業界が使っているものと似たデータサンプル(セット)がそろうため、従来よりも研究者にとって研究しやすい環境が整います。すでにCVAを活用して好みに関する志向や甘味の感受性について調査が行われています(今後公開予定)。

SCAはこれらの研究に関する資金提供者を継続的に募集しています。中小企業は5000ドル、大企業は1万ドルで特典等もありますので今後も継続的な支援をお願いします。

CVAについては発展途上で、これから普及していく制度です。そしてこの方法が普及した暁には、コーヒー業界の未来はより力強いものになると私たちは信じています。

参考:CVA by SCA, Coffee Value Assessment Theory Presentations via Youtube by SCA

所感(ACE/COEの話を含む)

SCAが取り組むCVAに関するアップデートを会長から聞けたのは有意義でした。特に現状の導入状況やトレーナーや認証カッパーの数字については興味深かったです。これをみると少しずつですが、個人レベルでもCVAへの適応が進んでいることを再認識できました。

いずれにせよ、CVAは理事会採択されましたのでSCAとしてはさらなる普及へ取り組んでいくのは間違いありません。下に追加情報としてACE/COEの会長との話を少しだけ追加しますが、このほかに国際コーヒー機関(International Coffee Association: ICO)やスローフードコーヒー連合(Slow food coffee coalition: SFCC ) と精力的に業務協力協定(MOU)を締結しています。

SCAはその他にも業界団体と協業すべく動いているようですし、この辺は当ブログでも引き続きフォローしていきたいと思います。来年以降、少しずつだとは思いますが、アメリカを中心に活用例等もでてくると思いますので可能な限りピックアップしていきたいと思います。

追加情報:Alliance for Coffee Excellence/ Cup of Excellence(ACE/COE)のブースにてErwin Mierisch代表にヒアリング

(Q)SCAとCVAについてMOUを締結したが、最新の協議状況はどうか?

まだ初期段階の協議にとどまっている。ACE/COEは小さな団体で、カッパーの数も限られている。そのうえで、カッパーが日々のカッピングに加えて行わなければならず、ACE/COEの負荷が大きい。

一方で、協議は行っているが、COEのカッピングは非常に詳細に及んでいてそれらをCVAにすべて代替するのは現実的ではない。例えば、COEのカッピングではコーヒー豆をグラインドしてから手続き、風が当たらないようにする、温度、カッピングまでの最長時間等が定められていて、CVAにあわせて緩和することはできない。

最新科学を含めた関係者への教育という観点についてはCVAの知見を何らかの形で取り込むことが可能だと考えている。いずれにせよ、長期的なプロジェクトになるのは間違いない。

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