SCAJ2024セミナー出席報告『グアテマラコーヒーファイン・ロブスタ普及への挑戦』

SCAJ2024開催2日目(10/10(木) 15:00 東京ビッグサイト セミナーD ルーム)でグアテマラコーヒー協会(Asociación Nacional del Café:ANACAFE)主催で行われたセミナーに出席しましたので概要をシェアします。現地の雰囲気を伝えるため、なるべくスピーカーの口調にならって文章を書きますが、一部意訳・再構成している部分もありますのでご留意ください。

グアテマラコーヒー協会(ANACAFE)とスピーカーの紹介

Guatemala seminar speakers

今日、私たちはANACAFEを代表して訪れています。前半は海外プロモーションを担当しているアナ・カルデロンが、後半はマーケティングを担当しているセバスチャン・グティレスがお話しします。また、会場にはANACAFEのホセ・ゴンザレス総裁もいらしています。

ANACAFEの概要

ANACAFEはグアテマラ産のコーヒーを海外へプロモーションする機関であると同時に会員向けに必要なサービスを提供する先進的かつリーダー的な役割を担っています。加えて、継続的で、競争力のある高品質なコーヒー産業であるために効果的なサービスも提供しています。

グアテマラにおけるコーヒー生産状況について

  • グアテマラを代表する生産地域
  • グアテマラコーヒー生産割合

グアテマラのコーヒー産業には261自治体(全体では340)に所在する125,000人が従事していて、コーヒーの耕作地は376,019Haです。代表的な生産地はスライドの地域であり、各々ブランド化しています。生産者は96.81%が小規模農家ですが、生産量は44%です。一方、大規模生産者は0.28%ですが、生産量の25%を占めています

グアテマラの農産物輸出順位中のコーヒーの順位

グアテマラにとってコーヒーは農業産品の輸出の中で、油脂、バナナに続いて第3位6.7%(砂糖、カルダモンが続く)を占めていて、実に50万人の雇用を創出する重要な産業です。

  • グアテマラ輸出割合

世界のコーヒー輸出総量からみればグアテマラの割合はわずか2%(2.97百万-60kgバッグ)です。ただ、スペシャルティコーヒーの中では大きな存在感があると自負しています。

輸出先としてはアメリカが約半分を占め1位、次いで日本が2位(12%)となっています(スライド2枚目)。輸出量については順調に推移しています。ただし、2020-21クロップと2022-23クロップの収穫量は同程度だったにもかかわらず、為替のせいで収入減となっています(残念ながらこれは如何ともしがたいです)(スライド3枚目)。

グアテマラから輸出している多くの豆区分はStrictly Hard Beans(SHB:最も硬い豆)で、その他は90年代後半から低減しています。そして何より注目してほしいことは2022‐23年でロブスタの輸出量がPrime/Extra Primeの輸出量を抜いたことです。なお、ロブスタは品種別の生産割合の中では真ん中(2.8%)に位置し、割合としてブルボンより少なくティピカやパカマラよりは多い状況です。

グアテマラのコーヒー産地としての優位性について

グアテマラコーヒーのユニークさはいくつもの理由が挙げられます。主なのものとして、生産地の多くが高標高に位置し、それらが300もの微細気候を形成していること。さらに安定的な降雨パターンがあって、バリューチェーン全体で職人的な仕事がなされていることです。そして特に重要なことは98%のコーヒー耕作地がシェードツリーを活用した農法を行っていることです。

このシェードツリーを取り入れた農法は日光を品質と密度を管理してコーヒーノキの光合成と呼吸を理想的な状態に持っていくと同時に、降雨による根や葉へのダメージから守ってくれるだけでなく、日光による土壌の乾燥を防いでくれます。グアテマラではシェードツリーにInga(インガの木はマメ科の植物で大きな葉っぱが特徴的です)がよく用いられますが、この樹木は空気中の窒素を土壌へ還元する能力に優れて、結果として肥料の消費が抑えられています。

ロブスタ生産の概要

  • ロブスタ概要

コーヒーの品種の中でロブスタ種はアラビカ種に次いで第2位の生産量で、40%程度を占めます。ロブスタは高温多湿の環境にも対応でき、それが故にグアテマラの多くの地域で栽培可能です。

生産は海抜0-1000mまでで行われることがほとんどで、一部高標高のものもありますが、それは例外。病害虫に強く、農薬等の使用を抑えられるため、インフレ下でも非常に有用とされています。

見た目もロブスタと違います。葉はアラビカと比べて非常に大きくウェイビー、コーヒーチェリーがなるところもより密集して、多くなります。一方で、コーヒー豆の大きさは様々です。

ロブスタについて必ずしも身近と感じられていないかもしれませんが、知らず知らずのうちに消費しているかもしれません。多くの代表的なコーヒー生産国ではサビ耐性のあるカチモール系を取り入れていて生産量の約50-75%を占めるとされています。そのため20-35%はロブスタの遺伝子が含まれていることとなります。また、低価格のコーヒーやインスタントコーヒーには30-90%の割合でロブスタ種が含まれているといわれています。

このことによりロブスタはインスタントコーヒーや日常づかいのコーヒーの原料として大きなニーズがあると考えています。一方で、市場には良質なロブスタが限定的なため、そこに潜在的なニーズがあるとも考えられます(この市場が本当にあるのか、また農家の採算性が取れるのかについて追加で会場で質問があり、ANACAFE会長からは新しい生産方法で行えば非常に低コストに抑えられるため、十分採算が取れると回答していました)。

ロブスタはアラビカに比べてよりしっかりとしたボディがあり、特徴的なアロマがあります。例えば、松や杉の樹脂、クミンやクローブのようなスパイス、さらには乾燥したバナナの皮やラズベリー、オリーブのようなフルーツの香り、ミントのようなハーブの香り等々が期待できます。そして、これらは一部のアラビカとのブレンドにしっかりとしたボディをもたらします。

グアテマラのファイン・ロブスタの定義

『グアテマラで生産されたファイン・ロブスタはキャラメル、チョコレート、アーモンド、フルーティー、ハーブ、スパイスといった特別なフレーバーを有する。異なる微細気候のもと生産された全てのグアテマラコーヒーは各々で異なり、差別化でき、結果として個性的なカッププロファイルとなる。グアテマラのロブスタは収穫から保管まで高水準で生産され、結果として特別なカッププロファイルを形成し、市場からファイン・ロブスタとして認識される』(原文を可能な限り直訳しました)

さらに技術的にはプライマリ―ディフェクト(致命的な欠点豆)は含まれず、セカンダリ―ディフェクト(軽微な欠点豆)は合計5までし、さらにSCAの定めるロブスタカッピング基準で80点以上のスコアを有する必要があります。

つまり、上の厳しい条件を満たさないとグアテマラのファイン・ロブスタと認められません。(追加で確認したところ、現在ANACAFEはファイン・ロブスタの認証等は行っていないものの、国内でロブ用の大会を開催してその際にQロブスタグレーダーがスコアをつけているとのことでした)。

グアテマラにロブスタが持ち込まれた歴史

1930‐1935年の間にSuchitepéquezにあるChocolá Farmに持ち込まれました。その際の品種は長らく特定されていませんでしたが、2009年にChristopher Montagnon博士によってCongolesグループのConilon型だと特定しました。

ロブスタが持ち込まれて以来、農家にとって生産的で利益があがるアラビカの代替物だと考えられてきました。その後、1980年代にブラジルから異なる品種がもたらされました。さらに現在追加で20種程度追加して持ち込み、研究農園で適合実験を行っています。この中から次の需要を見込んで選抜していく予定。

グアテマラのロブスタ生産状況について

グアテマラのロブスタ栽培は北緯10度から南緯10度、海抜1000mまでで行われていることがほとんど。耕作地によって異なりますが、基本的には3×0.8m間隔で植えるため、1万本/haの密度になります。また、農園と道路の間は3m確保して、枝が伸びることのできる空間を作っています。

生産量は80,500-60kgバッグで、ロブスタの耕作面積は6,546haです。現状は伝統的な農法で166qq cherry(q=quintalはパーチメントでの収量を指し、1qqで100lb(45.36kg))の収量が確保できています。これを近代的な農法に代えることができれば500qq cherryまで増加することができると考えています。

輸出先はベルギー、イタリア、ドイツ、イギリスの順。これらの国ではドリップではなく、エスプレッソの用途がメインです。また、ベルギー向けが多いのはグアテマラからEUへのゲートウェイ的な役割を果たしているとともに、コーヒー商社の倉庫等があることが原因です。日本にも極少量輸出されていますが、まだまだ拡大余地があると考えています(後日、スピーカーに確認済)。

グアテマラ産ファイン・ロブスタの試飲

農園名La Arabia, S. A.La Fama
場所La Reforma, San Marcos Colomba, Quezaltenango
海抜(農園全域)
(今日のコーヒー豆)
1050m-1450m
1200m(3937ft)
975mまで
762m(2500ft)
平均気温16‐25℃21.8℃
精製方法ハニーウォッシュド
カップスコア*85.2587.00
ノート(Frag)フルーティー、キャラメル、チョコレート、スパイシー(Flavor)アニス、ココア、キャラメル、唐辛子、チョコレート、ダークチョコ、複雑、スパイス 等(Frag)キャラメル、強い(Flavor)キャラメル、シダー、チョコレート、スパイス、フローラル、モルト、メープル
*カップスコアはSCAの定めるロブスタ評価基準に基づく。

本日のコーヒーはいずれのカップもSCA基準で80点以上を取得しています。そして、グアテマラのファイン・ロブスタの条件でもある欠点豆についてはプライマリーは当然ですが、セカンダリーも全くありませんでした。そのため、いずれのコーヒーもとげとげしくなく、まろやかで後味がスムースだと思います。そのうえで、ハニーはフルーティーで、ウォッシュドはマイルドな味わいに仕上がっていて、いずれも甘味を感じられると思います。

後日確認したところ、ANACAFEとしてグアテマラ産ロブスタについてはウォッシュド・ハニー・ナチュラルのみの精製しか確認しておらず、今のところ実験的な精製方法は確認できていないとのことでした。ただ、ロブスタを生産している農園の多くがアラビカも生産していて、その際に様々な精製方法を用いていることから、アナエロビックといった実験的な精製方法も近々でてくるのではないかと考えているとのことでした。

加えて、ANACAFEはアラビカについてシングルオリジンのプロモーションを行ってきたが、ロブスタについてはアラビカとのブレンドも面白い案だと考えているとのこと。アラビカにブレンドすることによる経済性はもちろん、風味の面でも個性的で、かつしっかりとしたボディを与えられるのではないかと考えているとのことでした。

José Tulio González ANACAFE総裁が質問に答える形でロブスタコーヒー生産の重要性を説明

最後、ゴンザレス総裁から日本市場への謝辞とともロブスタの重要性について次の通りコメントがありました。

かつてコーヒーは単なるコーヒーで、どこで収穫されようと同じ価格で取引がなされました。その後、スペシャルティコーヒーの概念が広まり、国内の生産者も要望に応えるべく努力をした結果、グアテマラのコーヒーが評価されるようになりました。しかし、しばらくするとコーヒー危機が発生し、コーヒー相場が崩壊するとあっという間に生産者の資金は流出し、厳しい環境に追いやられました。

近代的な生産方式を適用したロブスタならコストが著しく抑えられるため、コーヒーの価格の低迷にもより柔軟に対応できると考えています。また、場合によっては現在国内市場では輸入したインスタントコーヒーを消費していますが、これを国内産で代替することもあり得るのではないかと考えてもいます。

いずれにせよ、生産者に価格変動への抵抗力の手段を持ってもらうことは良いことだと考えています。

参考:ANACAFE(HP X Facebook)、Guatemalan Coffee(HP X Facebook)ANACAFEによるロブスタ育成マニュアル(西)History of Robusta(World Coffee Research)

所感

グアテマラがロブスタに力を入れ始めたということは聞いていたのですが、ここまでスピーディーに活動しているとは思ってもみませんでした。

この日試飲した2つのカップ、いずれも個性的な風味があり、従来のロブスタのイメージをある程度払しょくするものだったので、改めて興味深い取り組みだなと思えました。

ちなみにカッピング時、個人的にはカカオやダークチョコ、そしてナッツやあんこのようなテイストが感じられました。そのため、安直ですが、あんパンとかと一緒に飲むとおいしいのではないか、なんて思ったりしました。

とはいえ、こんな感想をもつ私も含めてアラビカを飲み慣れている人にとってはこの味に対する慣れだったり、さらなる理解が必要かもしれません。そもそもアラビカと違う評価基準を持たないといけないわけですから。

ただ、長い目で見ればコーヒーの味に対する幅が広がって面白いのではないかとも思います。また、従来のアラビカとはだいぶ異なったブレンド、さらにはフードペアリングにも挑戦できるかもしれないと考えるとわくわくが止まりません。

ということで、グアテマラのロブスタ、機会があったら試してみてください。そして感想を教えていただけると嬉しいです。

最後までお読みいただきありがとうございました。また、次の記事でお会いしましょう。

グアテマラロブスタコーヒーの取り組みに関する説明
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