【本紹介・感想】辞書はかつてこんなにも個性的で親しみやすかった?『新解さんの謎』

  • 2019年5月27日
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新開さんの装幀

内容

仕事仲間で、三省堂の新明解国語辞典が好きすぎて辞書の一言一句を読み込んでしまったSMさん、もといSさん(本ではそう呼ばれているから、本当は君付けだけど、私にとっては恐れ多い)。

そんな彼女からの電話でこのエッセイは始まる。曰く、新明解にある「恋愛」の解説が個性的過ぎるのだという。赤瀬川さんはそれを一刀両断することなく、聞き始める。そんな電話をきっかけとして、赤瀬川さんとSさんとの会話はあれよあれよという間に展開(脱線)する。

この本には個性的な辞書の、深い深い鬱蒼とした言葉の森に迷い込んでしまった、二人の大人があれこれ語ったり、時に妄想にふけったりするお話が沢山収められている。

後半には、赤瀬川原平さんの紙に纏わるいくつかのエッセイが収められている。それはとりとめもなく、いずれもとるに足らないような内容なのに、時に話は思わぬ方向に転び、知識とはこういうことなのかなと思わせるよう。

そんな大いに性格の異なる前半と後半、二つのパートに分かれた一冊。

新解さんの謎 (文春文庫)
赤瀬川 原平
文藝春秋
1999-04-09


感想

新解さんの謎パート

タイトル通り、メインは前半部分。というか最初のページを開いて未読の人はこの本を棚に戻すことができるのでしょうか(笑)。

それくらいに個性的で、少し変わった始まり方をしていました。辞書編纂がいかに大変か、そして偏りのない客観的なものにするかは、色んな人が小説や新書を通して知ることができる時代となりました。

ただ、そんな人たち(私も含めて)には衝撃的な解説や用例がこの本では紹介されていました。というか、今同じような言葉が並んでいたら、SNSでどうなっているんだ?とか、差別的だとか、大いに話題になりそう。

それくらいにエキセントリックな記載ばかり。それをうまい具合にピックアップして紹介するSさんの選別眼もすごい。

さらには一つ一つの用例をくっつけて新解さんという人格を作ってこんな人生を歩んでいるんじゃないか、というふうに仕上げちゃう二人には、もう感服でした。

これって、最近だと幾分か簡単なやりとりが、SNSやまとめサイトで知識人によって展開されているような気がします。だからこそ、20年前の作品にも関わらず、あまり時を感じず、二人のやり取りを横で観ていられるような気がしました。

そして、もちろんSNSやまとめサイトでは単発で終わりがちな内容も本になると本当に濃く、そして展開も丁寧なものでした。新解さんの性格、経歴、そしてどこに行こうかとしているのかまで妄想になり、さらには辞書の単語の用例から、ストーリーまでくみ上げてしまう。

本当、贅沢なパートでした。

紙がみの消息

後半は赤瀬川さんが、1970年から2009年まで続いていた雑誌「諸君!」に書いていた連載の一部をまとめたもの。

雑誌の連載エッセイぽく、空き時間に読むとくすりとわらったり、表情を変えることなく、何となく読めちゃったりするものばかり。

紙自身にまつわる話、紙に書く文房具の話、紙に書かれる文章や余白について、そして紙資源の問題等々、本当多岐にわたります。まぁ、内容はとってもくだけていて内容があるようでないようなものも沢山ですが・・。

20年も前の作品にも関わらず、今も議論が続く内容だったり、正直その話は決着がついたというものもあります。ただ、文筆家はその当時こういう風に考えていたんだ、とか全体的には興味深い記事ばかりでした。

個人的には、この本がでた当時から声高にペーパーレス化やキャッシュレス化の話題が出てて、それが今も続いていることは面白いな、と思いながら読んでしまいました。

ただし、一部は赤瀬川さんの個性からくるものもあって、嬉々として楽しめる人もいれば、受け入れにくい個性が発揮している箇所もありそう。ただ、そういう時は読み飛ばせばいいと思います。赤瀬川さん自身も読み飛ばすことが往々にしてあると書いてありますし、怒らないでしょう。

この本を振り返ってみると、小旅行とかの休暇の際に持ち歩いて、現地にそのまま置いてくるのにぴったりな気軽に楽しめる一冊だったような気がします。

本の概要

  • 著者:赤瀬川原平
  • あとがき:岡野宏文×豊崎由美
  • レーベル:文春文庫
  • 発行:株式会社 文藝春秋
  • 印刷:凸版印刷
  • 製本:加藤製本
  • 初版:1999年4月10日
  • 備考:初出「新解さんの謎」「文藝春秋」平成4年7月島、平成5年3月号に掲載された「フシギなフシギな辞書の世界」をもとに「第三章」を書き下ろして再構成しました。「紙がみの消息」「諸君!」平成4年6月号から平成6年12月号まで連載。単行本 平成8年7月文藝春秋刊(P318)

次の一冊

この本をけん引しているのは、前半の新明解国語辞典の個性を見抜いたS君(さん)だと思います。もちろん、その変な世界を冷静なツッコミで親しみやすいものにしているのは赤瀬川さんなのは言うまでもありませんが。

ということで、もっとこの世界に浸りたい向け用の本がこれです。

新解さんの読み方 (角川文庫)
夏石 鈴子
角川書店
2003-11-01


まぁ、読んでみてください。

当サイト【Book and Cafe】では次の一冊に関する短い紹介文を募集しています。お返しは今のところ何もできませんが、ここにSNSアカウント等を記載した半署名記事をイメージしています。要は人の手によるアマゾンリコメンド機能みたいなものです。気になったかたはSNSや下のコメントもしくはお問い合わせ にご連絡頂けますと幸いです。

雑な閑話休題(雑感)

この本を購入した際の書棚です。この本は、広辞苑の音rなりにある、三浦しをんさんの『舟を編む』の、その隣にありました。新明解国語辞典からは少し遠いですね。今見返すと、二つ飛ばしたお隣には、辞書編纂でお馴染みの飯間さんの本がありました。どういうふうに書棚を作るかって、やっぱり面白いなぁと思う瞬間。

それにしても、今見ても、なんでこの本を手に取ることができたのか少し謎です。辞書に”さん”をつけて人格をもたせたことでしょうか、それとも背表紙でも目立つ、新解レッドが決め手でしょうか。本をとったときは本当に無意識にとっているので謎なんですよね~。そして、本をとったら、一瞬でおもしろっ!ってなったのはいうまでもありません。。。

まぁ、それはさておき、この棚はどこのお店のものかお分かりになる人はいらっしゃるでしょうか。あそこかなとか、想像をめぐらしていただけると嬉しかったりします(答えを知りたい方は…まぁ、その時はその時で)。

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