【本紹介・感想】喫茶店が無性に恋しくなるZINE『喫茶 ふしぎ探訪-Exploring Wonder Cafe-』

ZINE『喫茶』の装幀

「喫茶」は赤と青のページがいつまでも印象に残るZINEでした。このZINEのどこかに昭和レトロや大正ロマンを感じるのはきっと私だけではないはず。

内容

『喫茶』は街の喫茶店を赤と青の孔版印刷で伝えるZINE(リトルプレス)です。

紹介されるお店はタイトル通りすべて喫茶店。中にはカフェにジャンル分けされそうなお店もありますが、そういうところもどこかに喫茶店の雰囲気があるお店ばかり。超老舗といわれる名喫茶店から、どこの街にもありそうな、でもその街に行かないとない喫茶店まで、絶妙なセンスでセレクトされた店が並びます。

この本のユニークなところは全体デザインとZINEが醸し出す独特の世界観です。何せZINE全体が赤と青のみで表現されているんですからそりゃ目立ちますよね。文字もイラストも店の外観や商品の写真までも。青を基調とした文字情報で喫茶店の周辺を知り、お店の手前まで行った気分になります。そして店内へ。店内については文字情報もさることながら、様々な写真やイラストがさらに臨場感をだしています。掲載されている写真は微妙に伝わりづらい部分もあるんです。でも、その押しつぶされたような写真がいい具合にこちらの想像力を刺激します。訪れたことがある店の商品なら、完全な絵ができるでしょうし、まだ訪れたことのない店であれば、あそこはどうだろう、ここはどうだろうと、想像がとまらなくなるはずです。結局、お店全体が詳細に知らされていないのがいいんだと思います。だからこそ、読者としての想像が働く余地があるんだと思います。

そして、そんな想像が続くとやっぱりお店へ訪れたくなるもんですよね。そこには写真情報をもとに商品や店内を確認しに行くといった感じではなく、タイトルにある通り、お店の不思議を探訪しにいくような気分になるんです。

そういう冒険心をかきたててくれるのがこの「喫茶」というZINEです。週末からの喫茶店巡りのお供にしてもいいし、喫茶店での読み物としてもぴったしです。

ZINE(リトルプレス)の見本は喫茶公式HPにてご覧になれます。

感想

この本の好きなところを改めてあげてみました、一部は上のところとも重複するかも。本当はもっとあるのですが、それはぜひ本書をどっかの本屋さんでみつけて手に取ってご自身で感じてほしいと思います。

お店のチョイスとその仕方が好き。

雰囲気がいい店、居心地の良い店、スィーツがおいしくて映える店、媒体によって取り上げる切り口は様々です。この雑誌ではその多くを考慮に入れながらもストーリー、そしてこの媒体としての相性の良さを考慮したピックアップをしています(たぶん)。それが本当に絶妙なバランスなんです。

ピックアップされた場所は都内の老舗喫茶店が中心。例えば、名画が飾られ、優雅なクラシックが流れる国分寺の「でんえん」、フードメニューも充実している練馬駅前にある「アンデス」、そして青梅に散策する途中にいつも寄りたくなる「夏への扉」等々、どれも本当に個性的なエピソードを有するお店です。そして、創刊号のロングインタビューでは西荻窪にある「JUHA」が取り上げられています。店主さんのこれまでの歩みを紹介しながら、どういう思いでお店を営んでいるかがじっくりかかれています。このいずれも個人的に大好きなお店だったんです。そんな店を紹介しているZINEを嫌いになれるわけないですよね。

もちろん紹介される店はすでに雑誌やウェブで取り上げられているものもありますが、それらを踏まえても、このzineでみるとまた新しい側面をみることができるとおもいます。ぜひあなたの持っている情報と比べながら楽しんでみてください。

目の付け所が好き。

上でも書きましたが、このZINEではお店の情報を網羅するということはしていません。ブログとかでお店を紹介しようとするとあれもこれも伝えたくなる病をよく引き起こすと思うのですが(私がそうです!)、限られた紙面の中で、きちんと「喫茶」としての「ここが推しだよ」ってところをイラストなり、写真なり、文章だったりできちんと伝えているところがすごいなと。

各コラム、街歩き、ロングエッセイ、4コマ、卓上風景、いずれも取り上げ方が本当に上手。どれも毎回確実に掲載されているわけではありませんが、掲載されるとその号ではその誌面が必然と思わせるようなページの割り振りになっています。どれも手作り感があって、本誌製作時の楽しそうな修羅場(?)が想像できます。ZINE作るの、本当に楽しそうですよね~、なんて外野が言ってみる。

どこか寂しげで余韻の残る文章が好き。

訪れるお店だからか、ライターさんのお店の心証がそうさせるのか、それともライターさんのテクニックからなのかわかりませんが、文章の終わりはどれもすこし寂し気で後ろ髪を引かれるような余韻が残るんです。

自分があたかも好きなお店を訪れて、次回来られるのはいつだろうと思うとき。それは常連ではないけど、常連予備の予備軍ぐらいまでなった気分。お店のことを思い、少しは応援しているつもり。でも、常連さんとの関係にはなれない自分。それをすこしだけ連想させます。この本を読むと、読んだ店も自分が通っているお店へも再び通いたくなる、そういう気持ちがわいてきて、それがまたこそばゆくって個人的にはつぼでした。

本誌の4号はまだ出ていませんが、リリースされたら、上述の雰囲気を味わいたいがためにまた買っちゃうんだろうな~、とか3号の編集後記を読みながら思っているかぼすでした。

本の概要

  • タイトル:喫茶 ふしぎ探訪-Exploring Wonder Cafes-
  • 発行・編集:ふしたん編集部
  • 企画・テキスト:まついみなみ
  • イラスト:コグレチエコ
  • アートディレクション:しまわきさとし(創刊号)エイブルアンドベイカー(2号、3号)
  • 第1刷 :2016年3月、12月、2018年1月
  • 備考:-

関係サイト

喫茶公式HPにて本ZINE取り扱い書店の紹介とオンラインショップでの販売が行われています。また、書店では出会えないブックカバーや栞、トートバッグの販売もしています。

インスタグラムではZINEで伝えられないビジュアルな情報や直近の動向について紹介されていますのでチェックするといいかも。

次の一冊

ここは次の一冊を紹介するコーナーなわけですが、たまに違うことも紹介していたりします。家用のコーヒー器具ややってほしいことなど。まぁ、広い意味で次にこんなことをすると面白いんじゃないかなとおもっているので。

で、やっぱり私自身も次の行動として楽しみにしているのが本屋さんを訪れることなんです。新刊本屋も古本屋さんも昨今の影響を受けてやっぱりそれなりに厳しい状況にあるのには変わりないと思います。なので気を付けながら街の本屋を訪れてみてほしいなと思います。そして、自分に必要な一冊をご購入ください。それが自分のためでもあり、好きなお店が引き続き元気で営業することにつながるので。

当サイト【Book and Cafe】では次の一冊に関する短い紹介文を募集しています。気になったかたはSNSや下のコメントもしくはお問い合わせ にご連絡頂けますと幸いです。

雑な閑話休題(雑感)

喫茶があるなら喫珈(きっか)があっても?
これは喫茶店というよりバーかサロンですかね・・・。銀座のとある場所

喫茶店はカフェでもコーヒーショップでも、ましてやティーガーデンとも違います。でも、喫茶店を定義づけることは難しいです。個人的には、店主と利用者の阿吽の呼吸によって喫茶店の空気感ができ、そしていつの間にか喫茶店と呼ばれるようになるんだと思います(もちろん、形式的に喫茶店としか言いようのないお店もあるのですが、まぁ、そんな感覚を大事にしていると思ってください)。

ちなみに「喫茶」という言葉を辞書を調べてみると、文字通り、「茶を飲む」と記載されています。そういえば、ルノアールでは引っ切り無しに緑茶がでてくるなぁとかおもったりも。でも、ここでふと思うんです。あれ、メニューにコーヒーしかなくて、且つその場所では緑茶等のサービスもなかったらそこは「喫茶」店なんだろうかと。お茶とコーヒーは品種も違うし、飲む部位も違う。だからこそ、専用な言葉があってもいいんでは、と思うわけです(ここでわたし、めっちゃ得意げになっています)。でも、まぁ、「喫珈琲」だとしまらないから、「喫珈(きっか)」とかだったら音的にも、ぎり、いけるんじゃないかなと思うんです。

ちなみに「珈琲」はみなさんご存じの通り、元素や酸素、温度、物質など数々の言葉をつくった蘭学者の宇田川榕庵が自筆の蘭和対訳辞典で使用したのが最初ではないかと言われています。もともと「珈琲」は日本最初の喫茶店として知られる「可否茶館」で使われている「可否」や「可非」という漢字があてられていましたが、そちらはいまいち流行らなかったようです。で、「珈琲」になるわけですが、「珈」という文字にはかみかざり。玉をたれさげたかんざしの一種の意味があります。このイメージが宇田川榕庵もこれらから連想できるイメージが良いと思っていたそう。

さて、脱線しましたが、これでお店とかだしたら、結構いけるんじゅないと?と浅はかに思うわけです。で、一応素知らぬ感じでネットを検索したんですよ。

そうしたら、案の定あるんですよね。こういうことを考えるのは私だけではなかったみたいです。

しかも「きっか」自体は「菊花」や「橘花」とも音が一緒で、そんな言葉ばっかが検索に引っ掛かるし、さらに「kikka」であれば、関連キーワードはさらに多く、、、そんなお店を出すことは断念しました。

今日は「喫茶」からとりとめもない話へと話題が飛んでしまいました。ということでこの辺で〆たいとおもいます。

今日も最後までお付き合いいただきましてありがとうございました。

ZINE『喫茶』の装幀
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