【本紹介・感想】居場所を求めて焙煎士という職業に出会った一人の男性の話『誰もいない場所を探している』

誰もいない場所を探している

今の状況を思いながら、本書へ

 今、カフェはブームなのでしょうか。正直、よくわかりません。ただ、色んなお店が新規オープンしているのをよく見ます。一方で、閉店しているお店の数が多いのも事実です。もともとそういう業界といってしまえば、それまでです。

 少し振り返って、バブル崩壊後の90年代、企業のリストラが大量に発生し、第二の人生で喫茶店を選ぶ人が多くいたといわれています。その開業ブームに前後して、スターバックスの日本における本格展開があり、それに対抗するように他のチェーン店のリニューアルの波がありました。その頃は間違いなくカフェブームだったんでしょう。そして、数年後、多くの新旧喫茶店が姿を消していきました。

 そんな大きな波の中で生きにくい時代に、焙煎という分野に挑んで、今もなお各地に自身が炒ったコーヒー豆を各地に届けている庄野さんが書いた、『誰もいない場所を探している』について、今日は話していきたいと思います。

誰もいない場所を探している
庄野 雄治
mille books
2015-10-27


内容

大学を卒業してから地元の旅行代理店に就職したのに仕事が好きになれず、それでも仕事を回すことができ、何となく生きてしまったという、著者の庄野さんが、仕事と並行して出会ったコーヒーや焙煎について、淡々と過去を振り返っています。

特別美談にせず、殊更大げさにせず、ドキュメンタリーフィルムのよう。

コーヒーや焙煎の修行の話はもちろんですが、店名の理由、お客さんとの距離感や向かい合い方、お店で提供する商品の価格設定や包装デザイン、ウェブ通販等について。話は幅広くに及びます。そして、家族のこと、生き方のことにも。 格好いいことも悪いことも。

この本は成功している店の経営ノウハウ本ではありません。ただ、ここには庄野さんがお店を営んでいく上で大事にしている色んなことがぎっしり詰まっています。

日常に疲れた人にはこんな正直な生き方もあるんだ、と思えるかもしれないし、再び自分の仕事に向き合えるきっかけをくれる本かもしれない。

ありのままの等身大なエッセイだから、この本は色んな人にお勧めできる本です。

感想

Photo by Juan Pablo Arenas from Pexels

 会社を辞めて焙煎のために訪れた関係者の店ではお勧めできない業界といわれ、それでもなお、焙煎することを本業に選んだ庄野さん。

ただ、だからといって自身の進んだ道を勧めたり、好きなことをやれとは、本書では言いません。もし、お店を開きたいなら、経済的なバックグラウンドはある?とか、無理にとがった人生を歩む必要はないよ、と正直に諭してくれます。好きでなかったという社会人生活で得たものは沢山あるし、何より開業への土台を形成することができたそう。

コーヒーショップに関する耳障りの良いエッセイも多くありますが、この本に書かれていることは華やかではないし、テクニカルでもない、もしかしたら別室で冷や汗を流している上司のつぶやきににているのかもしれない、そう思ってしまうような本です。

また、最近流行りのサードウェイブ的なことは一切書かれていません。日常的に使っている豆のことは書かれているけど、まぁ、読んでみるとわかる通り、全くその豆の個性とかを語っているわけじゃないんです(笑)。でも、焙煎を通してお客さんと向き合う様子は真剣そのものだし、日々の変化にも敏感に対応していることは節々に感じられました。そこには流行に左右されない、本質があるように感じられました。

そういえば、サードウェイブとかってもてはやされた数百年前からコーヒーはヨーロッパに広まっていたし、その頃なんて一度抽出して樽保存なんてしていたんでうすよね。もちろん、そんな飲み方がいいわけじゃないけど、きちんと飲む人を想像しながら焙煎するって本当に素敵な光景だな、と思います。

新しいアイデアを考えるのは大変なことだけれど、場所を見つけるのはそんなに難しいことではない。私は常に自分の居場所を真剣に探している。今は何が流行っているんだろう。だけど、そこは私の場所ではない。

(本書Pg57より)

本書の様々なところから、垣間見られる著者の愚直に焙煎する姿や、自分自身の居場所を作ろうという想い、その様子を想像するとそのこと自体並大抵のことではないし、やっぱり彼にはそういう才能があったんだろうなと思ってしまいます。

ただ、そういう風に思われること自体、それは本望ではないんだろうなと同時に思ってしまう。たいていの人は自分の居場所づくりに一所懸命になっていないと思われるから。

私自身、自分の居場所は不確かなものでしかないですが、それを守りつつ、色んな人にもその場所を守ってもらえるといいな、なんて本書を読みながら思いました。

次の一冊

作者の庄野さんはほかにも多数の本を出されています。コーヒーに関するものもあれば、地域を紹介するもの、はては小説やエッセイのアンソロジーなど多様です。個人的にはやっぱり『コーヒーの絵本』がおすすめです。シンプルだけど、いつまでも心に残る文章です。実はこの本と出会って、庄野さんが書いたエッセイや関連本を読むようになりました。

コーヒーの絵本

コーヒーの絵本 [単行本]

庄野 雄治ミルブックス2014-10-01

当サイト【Book and Cafe】では次の一冊に関する短い紹介文を募集しています。お返しは今のところ何もできませんが、ここにSNSアカウント等を記載した半署名記事をイメージしています。要は人の手によるアマゾンリコメンド機能みたいなものです。気になったかたはSNSや下のコメントもしくはお問い合わせ にご連絡頂けますと幸いです。

雑な閑話休題

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(うーん、何の証明にもならない写真ですね(笑))

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(当日は徳島の14gで作っているというお菓子の販売もしていました)

 この本を購入して、庄野さんのtwitterも拝見するようになりました。そして先日、といってもだいぶ前になってしまいましたが、庄野さんの手によって淹れられたコーヒーを飲むことができました。

 コクのある中煎りのブレンド。少しビターなチョコレートに飲みやすさを加えたようなもの。当日、一緒にでていた食事ともあっていてとても楽しかったです。都内にもアアルトコーヒーさんの豆で淹れているところがいくつかあります。このブログでもたまに紹介してたり、してなかったり。興味ある方はネットで検索してみるとみつかるかも。もし、見つからなかったら、そっとコメントしてください、そっとコメントバックします。

■著者関連情報

著者 庄野雄二さん HP:http://aaltocoffee.com/
blog:https://blog.goo.ne.jp/aaltocoffee
twitter :@aaltocoffee/

色んなことをtweetされているtwitterから、ご自身の想いを綴っているブログまで、幅広く情報が確認できます。ホームページではコーヒー豆を購入することもできます。

■今回の本をだした出版社
ミルブックス:http://www.millebooks.net/

 少しわかりにくい、でも何となくスクロールしたり、次のページを押してしまうカタログをぜひチェックしてみてください。

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