【本紹介・感想】戦争でも人物でもなく、飲み物から見た歴史『歴史を変えた6つの飲物 ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、茶、コーラが語る もうひとつの世界史』

全ての原点となる飲み物を欲する人間

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結局、いくら技術や文明が進歩しても、今のところ人類は水の呪縛からは逃れられていない。いまや、人はお金を出せばどこにいても希望の国のミネラルウォーターが手に入るようになった。しかし、それはお金がある前提。地球に住む総人口の約五分の一、12億人ほどのひとびとが安全な水にアクセスできない状態にいるという。また、地球上では水の確保のために紛争も起こっている。しかし、その一方で地域社会の協力を促すことにも役立っているメコン川や、アマゾン、イグアス流域では地域住民や国同士の協力が起こりつつある。

私たちは、かつての歴史を通じていかに飲み物が社会の発展に大事かを学んだはずだ。であるならば、今後も今まで学んできたプラスの作用に着目しながら、これをてこにしながら更なる発展を模索すべき時代にきているのかもしれない、この本ではそういうことに気づかされるし、その可能性について様々な思いを巡らせたくなる、そういう突き動かすものがあった。

ほんの少しだけ蛇足

上の文章は本書の一部をまとめてある程度つながるようにしたものです。そして端々に自身の感想を忍び込ませています。本書のすごさが少しでも伝われば幸いです。

こうして眺めてみると、どの飲み物も消滅していないんですよね。日本レベルで言えば流行りはあるものの、地球レベルでみれば、それぞれが隆盛を誇っていると思います。それをうまい具合に歴史の大きな流れに沿いながら、説明するアイディアは本当に面白い。

特にコーヒーと紅茶の使い分けは面白かったです。もちろん、イギリス人の著者ならではのロジックで流れをとらえているかもしれませんが、それでも納得しながら読み進めることができました。他の飲料についても知らないことも多く、著者の緻密な取材と文章力をうかがうことができた気がしました。

本について

本の概要

  • 著者:トム・スタンデージ(Tom Standage)
  • 訳者:新井崇嗣(あらいたかつぐ)
  • 装幀:水戸部功
  • DTP:株式会社ユニオンワークス
  • 編集協力:角田由紀子
  • 発行:株式会社楽工社
  • 印刷・製本:大日本印刷
  • 初版:2017年6月4日
  • 備考:A history of the world in 6 glasses , first published in 2005 by Doubleday Canada (? ).日本ではインターシフト社が2007年5月に初めて本書を翻訳・出版している。

関係サイト

次の一冊

世界史好きな方は、この本と異なったアプローチで再び世界史を振り返るのも良いと思いますし、各飲料ギークの方は興味のある各飲料に戻って掘り進んでも良いと思います。もしくは他の飲料に浮気するのも楽しいかも。

ちなみに本書の巻末には参考文献集とは別に、各章で採用した説に関する本が丁寧に記されています。自分が知っている説と違うものが記されている場合は、その本を読んでみるのも良いと思います。

その中で個人的にお勧めなのは何と言ってもジャレド・ダイアモンドの本です。上下巻でこちらも人類の歴史について独自の切り口で解説を試みています。


当サイト【Book and Cafe】では次の一冊に関する短い紹介文を募集しています。お返しは今のところ何もできませんが、ここにSNSアカウント等を記載した半署名記事をイメージしています。要は人の手によるアマゾンリコメンド機能みたいなものです。気になったかたはSNSや下のコメントもしくはお問い合わせ にご連絡頂けますと幸いです。

雑な閑話休題(雑感)

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この本の内容が実に細かく、直感的なものではなく様々な文献をベースに自分なりの歴史的分析を述べている点について、私が感動を覚えたことについてはすでに上で感想を述べました。しかし、この本、セールス・マーケティング的にもすごいんではないかなと思っています。

というのも、誰もが飲み物を飲むわけです。そして、多くの人がこの本で取り上げられた飲み物を趣味としても捉えています。私自身、コーヒーや紅茶についてはどこ産のもので、温度は何度で淹れてとか、注意を払いますし、それに伴ううんちくも好きです(まぁ、披露すると嫌われるので日常生活では全く話す場所がありませんが・・読書感想で少し知ったかするのは許してください)。

そんな人にとってこの本は宝の山のようなものです

ビールを麦芽から説きたい人、ワインの銘柄がなぜできたのか語りたい人、ウィスキーの起源、そしてその反骨精神をあたかも体験したかのように力説したい人、いずれの人にも本書は刺さります。そして、当然のことながら、多くいる歴史好きの方にも新しく訴えるものがあるんじゃないでしょうか。

小さいマーケットをバンドルして、また大きなマーケットを新たな切り口でとらえる本書、その手法にも感心してしまいました。

そう考えると、この本の日本バージョンとか楽しそうですよね。いかがですか?誰か書いてみませんか?ちなみに既出だったら、ごめんなさい(笑)。

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