【本紹介・感想】コーヒーの断片的なトレンドが知識として統合される『スペシャルティコーヒー物語』

スペシャルティコーヒー物語 装幀

日本ではスペシャルティコーヒーとサードウェイブはよく混合されて、もしくは、一緒のムーブメントとして紹介されている気がします。

ただ、セカンドウェイブの代表格とされるスターバックスでもスペシャルティコーヒーと名前の付いたコーヒー豆を購入することはできますし、また、それと同様に、他のセカンドウェイブ的な店舗でもそのような豆を買うことができます。

今日ご紹介する本は、そんな混合した理解をきれいに整理してくれるだけでなく、新しい知識を深掘りしてくれる本だと思います。

内容

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CC BY-SA 3.0, Linkブラジル・ミナスジェライス州のコーヒー農園

高品質、トレーサビリティ等をうたうスペシャリティコーヒー。歴史は意外と古く、セカンドウェーブが起こっていたころから、その運動が始まっている。それが故にこの言葉に関する関係者は多く、世代間や国によって少しずつ異なった独自解釈を含むようになっている。さらにこのスペシャルティコーヒーにかかわる人たちの利害は一致していないことがその製品の特長にさらに複雑さを加える。その結果、コーヒー業界の経営から現場、さらに焙煎の現場から生産地まで網羅的に語っている本や著者は必ずしも多くない。

この本は複雑化して、みえにくくなった業界について様々な角度から語った本となっている。

最初はスペシャルティコーヒーを育て上げてきたスペシャリストたちと中米やアフリカの生産現場を巡る旅に同行し、そこでの問題点を教わりつつ、冷静にまとめる。その後、アメリカ各地におけるコーヒーショップのトレンドを追いつつ、そこで働く人たちがどういう人かを取り上げている。

トップティアの業界関係者のインタビューはどれも貴重で、それでいて内容に富んでいる。彼らがどうしてああいう行動をとるのか、どうして好ましくない結果になってしまったのか。外野からではなく、その当事者が舞台の内側から語ることによって様々なことが詳らかにされる。そのため、本書はコーヒー好きのみならず、昨今話題のエシカル(倫理的)消費に興味がある人、またSDGsに興味がある人にもおすすめの一冊。

スペシャルティコーヒー物語

スペシャルティコーヒー物語 [単行本]マイケル・ワイスマン

楽工社, 2018-02-07

感想

Photo by THE COLLAB. from Pexels

本書では、日本でスペシャルティコーヒー及びサードウェイブの代表格とされるブルーボトルに対する言及がほとんどなく、またスターバックスを敵に仕立て上げて、さも悪者のように批判するような論調もないので(もちろん本書内でも厳しい論調は存在しますが、業界のリーディングカンパニーに求める崇高なありかただと思うので、それはあっていいものだと思います。)に対する単純な批判もないので、とても新鮮且つ刺激的に読み進めることができました。

そして、本書には日本未上陸のコーヒーショップや経営者の名前がどんどん出てきます。そして、それこそがセカンドウェイブに対するカウンターとしてのサードウェイブの本流なのだと。カウンターカルチャー のピーター・ジュリアーノ 、インテリジェンシア のジェフ・ワッツ 、スタンプタウン のデュエン・ソレンソン、エチオピア・コーヒーのスペシャリストメノ・シモンズ、そのほかにもコーヒー業界のみならず、様々な方面で名前が知られた人ばかりが登場する。そんな本がエキサイティングじゃないわけがない。そして、登場人物の誰もが一癖も二癖もある、でも、熱狂的なコーヒー・ラヴァーばかり。読み進めるごとにその熱狂が感染しそうなほどです。

彼らが数十年かけて切り開いてきた道が、著者の綿密な取材やインタビューによってまとめられ、私たちに語り掛けている内容、それはどこの業界にもあるいばらの道そのものの話でした。一つ一つの苦労話は実っていないものばかり、それでもその行動が明日のコーヒー産業を支えると思ってやっている彼らこそが今の大きなトレンドの端緒を切り開いたんだと、そう文章がいっているようでした。

さて、次のページからより具体的に本書の内容を振り返ってみたいと思います。未読の方は幾分かネタバレにもなりますのでご注意ください。読まれた方は、こんな感じでこいつは読んだんだなとお思いください。そして、色んなコメントを頂けると嬉しいと思います。

スペシャルティコーヒー物語 装幀
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