茶の宗匠の生き方
宗教では未来を意識する必要があるが、芸術は常に今とともにある。茶の宗匠によれば、そのために茶室の作法は洗練されていったと。彼らは芸術家以上、芸術そのものになろうと努めた。彼らは新しい建築様式で茶室を作り、作法を改めていった。その作業の真意は芸術の極めんとするがためなのだ。その研鑽はあらゆる分野に影響を及ぼすこととなります。建築様式は言わずもがな、庭園様式、絵画、陶器、漆器と。
さらに彼らは後の日本の生活様式にも影響を与えました。配膳、衣服、生花、いずれも彼らの影響なしに今の発展はないという。もちろん、上述してきた思想も日本人に根付いている。
世の道理がわからず適切に生きていくことのできない人は外観だけ整えて幸福を語るが幸福にはなれない。東西でいがみ合っているいまだからこそ、一服して茶の精神を大事にしようではないかと。
岡倉は千利休の最後に開いた弟子との茶会の様子と辞世の句を紹介して本書を終えています。千利休は最後まで茶の理想に生き、調和に務めたされるそう。それは新渡戸が紹介した武士道とは異なる日本人の生き方や死生観を西洋人に提示したかったのかもしれないと思いました。
すこしだけおもうこと
茶の文化が日本人の考え方の隅々まで浸透しているのかが非常に明快に示されていたと思います。そしてそれらの文化を育て上げた中国や大もとのインドに対する尊敬も忘れていなかった本だと思います。
日本ではその前から脱亜入欧の考え方が流行し、今もなおその雰囲気が漂っているようにみえます。ただ、この本を読んで思ったのはどの国、以前のような東西の二元論ではなく、すべての国の文化や考え方に学ぶべきことがたくさんあるのではないかと自然と考えるに至りました。卑下するのではなく、お互いの良いところのみを学び、より良い明日を迎えられるよう準備できる日が来るように自分ができることを一つ一つやっていきたいと思うばかりです。ただ自身にも律したいのは東西のどちらがいいとしているわけではなく、重要なのは物事を受け入れられる状態にしておくことだったり、過去を自分のものとして絶えず進化を恐れない心持ちだと思います。単純な二元論で終わって良い本ではないことを記しておきたいと思います。
少し壮大なことを書いた気もしますが、他者を取り入れられるよう自身の「虚」を開いていたいと思います。
本の概要
- タイトルThe book of tea
- 著者:Kakuzo OKAKURA(岡倉 覚三)
- 発行:Dover Publications, Inc.
- カバーデザイン:Peter Donahue
- ISBN-13:978-0-486-47914-9
- 備考:Originally printed in the USA by Fox, Duffield and Company, New York, 1906.
関係サイト
『100分de名著』に以前取り上げられていたのでご参考までに紹介しておきます。読んだことのある本も読んだことのない本についても楽しめるので、個人的にとても好きな番組です。
あと、参考までに岡倉天心の功績を今に伝える美術館のリンク。ここには岡倉天心記念室もあり、彼の功績と生涯について知ることができます。
次の一冊
日本が海外に進出していく中で日本を理解する本として、岡倉天心の『茶の本』とともに取り上げあられたのはやっぱり新渡戸稲造の『武士道』ではないでしょうか。この本より先に取り上げられ、当時の日本人の精神性を語る上では欠かせないものだったといいます。逆に言うと、岡倉はこれによって日本人が好戦的な民族として紹介されることを拒み、自身は日本人の文化面について西洋に対して説明していくこととなります。
岡倉がこの本をどう読んだか想像しながら読むなんてのもいいのではないでしょうか。この本も「茶の本」同様に日・英語ともに無料版がネット上に存在します。
Bushido: The Soul of Japan (English Edition)Nitobe, Inazo2020-03-24
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雑な閑話休題(雑感)
海外の人が求める日本像ってありますよね(日本在住だったり、日本についてよく知っている人は除きます)。いわゆる、日本文化をたしなみ、武士道的精神を体現するって感じだと思うのですが、、、。そんな人、本当に少ないですよね。義務教育でお茶の作法を習うわけではないし、特権階級だった武士の考え方なんて学ぶはずもない。でも、海外の日本びいきの知識人はこれらを知っていたりするんですよね。そして、それらを求めてやってきたのに、実際にどのくらいの人がそれらの思想に基づいておもてなしをできるのでしょうか。そう考えると少し寂しい感じもします(まぁ、そんなことを考えるようになったら年をとったしょうこなんでしょう(笑))。
おもてなし精神ががうずく人は仕切りなおされたオリンピックまでにかつての日本文化について学びなおすのもよいかもしれませんね。そんなことを『茶の本』を読んだ後に感じました。海外からの人をおもてなしする際に『茶の本』のことに話が及ぶことなんて万が一にもないかもしれませんが、もし話が及んで理解しあえたら最高ですよね。と、そんな日を妄想しながら今回は終わりたいと思います。
今日も最後までお付き合いいただきましてありがとうございました。