【本紹介・感想】初心者から上級者まで『珈琲の教科書』

珈琲の教科書

内容

本書はタイトル通り、コーヒーに関する教科書です。具体的には初心者の方にとっては雑誌の特集号から一歩踏み込んで読む本、そして、上級者の方にとっては、各工程の専門書へ移行する一歩手前の本という感じだと思います。

この本の著者は世田谷や千歳船橋等に店舗を構える堀口珈琲の創業者である堀口俊英さん。スペシャルティコーヒー黎明期から質の高いコーヒー豆の日本への輸入等に関わってきた人です。

内容は基本的なコーヒーノキの栽培品種等の植物学的な話からコーヒーの抽出や具体的な話までをカバーしています。さらに、スペシャルティコーヒーや認証コーヒーなど今では一般的に商品流通しているものに関する説明もなされています。また、堀口さんがかつて日本スペシャルティコーヒー協会の理事を務めていただけあって、テイスティングやその習熟に役立つ練習方法なども紹介されています。

一方で、コーヒー以外について、例えばマリアージュのケーキや、お店のつくりや雰囲気づくり、自身の好み等については触れていません。もしかしたらある意味コーヒーに特化した硬派な本かもしれません。

ということでこの本でコーヒーに関する理解を今一歩深めてみませんか。この本でさらなるコーヒーの奥深さを知れば、コーヒー沼にはまっちゃうにちがいありません。

珈琲の教科書

珈琲の教科書俊英, 堀口新星出版社2010-04-01

感想

植物としてのコーヒーに対する理解

コーヒーが植物として何か、そして世界のどこに分布しているか語られるところから本書は始まります。つまりコーヒー自体はアカネ科の植物の種子であること、そして一般的にコーヒーベルトと呼ばれる赤道から南北23.5度の熱帯地域と重なるということ。

読者の想像を膨らませる文章とともに、具体的なコーヒーの実の断面図、世界地図とコーヒーベルトを重ねた図など、きちんとした知識を理解を促すべく、多くの資料が掲載されています。その雰囲気はタイトル通り、まぎれもなくコーヒーの教科書のよう。

さらに話は一般的なコーヒーの分類にとどまらず、様々な方法で交配された種についても紹介されていきます。そしてそれらの種がどのようなルートを経て現在のような多種多様な地域へ伝播しているかが書かれています。これを知れば、自分の好みのコーヒー豆についてもう少し詳しく知ることができるかもしれません。

そして、読者が抱くであろう疑問にもきちんと答えてくれています。例えば、コーヒーベルト以外の場所でもコーヒー栽培がなされていること。つまりコーヒーノキの栽培条件と栽培方法についてです。この条件や方法を守れば、日本でもコーヒーノキの栽培は理論的には可能というものです。もちろん、経済合理性はなかなかに伴わないわけですが。。

ちなみにこの栽培方法はけっこうきちんと書かれています。それこそ、いったい誰が知りたがるんだろうというほどに(笑)。ただ、他の植物と違ってなかなかその生育過程を目の当たりにすることのない消費者にとっては興味深い情報かも。

栽培方法を学んだら、次はコーヒー豆の精製方法について。ウォッシュドとナチュラルからはじまり、セミウォッシュド、パルプドナチュラル、スマトラ式、各地域でどのような精製方法が採用されているかについて写真を交えながら説明しています。

コーヒーを飲むまでのストーリー

第一章は生産国におけるコーヒーノキからコーヒー豆(生豆)になるまでの工程が紹介されていました。第2章以降はコーヒー豆の流通についてです。生ものであるコーヒー豆をどのように日本へ持ち込むか、そしてその際にあげられる課題等が書かれています。

流通時に生豆の劣化を防ぐ方法、生豆の選別、生豆の品質やサスティナビリティを認証しているいくつかの機関。それらはコーヒー豆を購入する最終消費者にも有用な情報だと思います。

また、スペシャルティコーヒーの認証機関であるSCAAなどがどのような方法でティスティング(カッピング)しているかについて明らかにしつつ、それらの際に用いられる評価項目や表現方法も紹介していました。

実際にコーヒーを楽しむ

コーヒー焙煎機

第3章ではいよいよ私たちがみかけるコーヒー豆になるまでの工程についてです。焙煎機とは一体何か、どのような焙煎機が理想なのか。また、実際に焙煎工程を家でやってみては?という挑戦的な内容まで書かれています。

そして、この本の特徴でもあるブレンドについて。

堀口 ブレンド分布表

堀口珈琲は並々ならぬブレンドに対するこだわりがあります。昨今はシングルオリジンが人気ですが、各コーヒー豆の特徴を引き出し、シングルオリジンでは引き出せない味の幅や深みをだすとともに、目指す味を安定的に供給することができるのがやっぱりブレンドの強み何だろうなとおもいます。

本書でもどのようなものがブレンドとしての基礎科について紹介されています。ブレンド行為自体は家でもできるものなので、普段と異なる味を楽しんでみたいと思ったらこの本を基本としつつ、自分のオリジナルブレンドを作ってみてはいかがでしょう。

世界のコーヒー豆事情

コーヒー 精製工程

最後の章では代表的なコーヒー産地とそこで生産される豆について紹介がされています。世界中のコーヒー豆に関してこれだけ多くの写真を使いながら、紹介できるのは堀口さんの著書ならではないでしょうか。

実はこの手の写真はとても貴重なものだといわれています。というのも、生産者は世界中の多くのバイヤーを相手にしています。そのため、バイヤーに対していちいち写真を提供しているひまがないのです(もちろん、どの農園もそういうわけではないし、近年はだいぶ改善されたともいわれていますが。。)。

その結果、バイヤーは自身で農園に行く等して独自に手に入れなければいけません。もちろん、卸や商社等を介して写真を得ることはできるかもしれませんが、その場合、オリジナリティあふれるは写真は得ることができなかったりしますよね。

この本では著者の堀口さんが生産者と一緒に写っている写真が数多く掲載されています。それはご自身がその生産国を訪れているという証拠であり、その都度現地で知識を更新してきたということでもあります。

そういうのを楽しみながら、世界のコーヒーとのかかわり方を学んでみてはいかがでしょうか。

全体を通して

これだけ多くの濃密な情報が1500円で買えるのはお買い得だと思います。何冊かのムック本を買い集めるよりはこの一冊を買って、本棚もしくはコーヒー棚に常備しておくのが個人的にはおすすめです(まぁ、そうはいっても面白そうな情報が掲載されているとついつい買っちゃいますよね)。

しかも驚きなことに、この本がリリースされたのが2010年なんです。ちなみにサードウェイブやスペシャルティコーヒーを標榜して日本上陸したブルーボトルコーヒーが清澄白河に店舗をオープンさせたのは2015年です。それより5年の前の段階でこれだけの情報量と完成度を誇っている本がだされていたのは驚きです。もちろん、そんな本だから10年たった今もまだまだ現役です。ご自身が主催するセミナーで、10年先を見通して書いたと仰っていましたが、それも大いに納得の一冊なんです。

本の概要

  • タイトル:珈琲の教科書
  • 著者:堀口俊英
  • 発行:新星出版社
  • 印刷:慶昌堂印刷株式会社
  • 第1刷 :2010年4月1日(本書2015年6月25日)
  • ISBN978-4-405-09193-1 C2077
  • 備考:

関係サイト

堀口珈琲は横浜に焙煎工場を有していて見学会を定期的に開催しています。現状は開催困難だと思いますが、落ち着いたらまた開いてくれるとおもいます。楽しみに待ちましょう。

あと、著者の堀口英俊さんもそれとは別にコーヒーセミナーを開催しています。こちらも濃ゆいテーマを扱っていますのでチェックしてみてください(雑感にそのセミナーについて少しだけ触れています)。

次の一冊

正直次の一冊といえるのかどうかわかりませんが、個人的には対になる一冊だと思います。それは丸山珈琲のオーナー丸山健太郎さんが監修されている珈琲完全バイブルです。

珈琲完全バイブル

珈琲完全バイブルナツメ社2014-10-15

こちらもコーヒーの植物的なところから、抽出まで一冊ですべてがわかる本です。特にスィーツとのマリアージュについても書かれていてその辺は明確にこのホントは異なるところかもしれません。両社ともコーヒー豆をオンラインでも入手できるし、サイトをみれば特徴も確認できるのでそれらを踏まえて、いずれかのガイドブックを買うのもいいかもしれません。正直、最初から2冊を買いそろえる必要はないと思います。

当サイト【Book and Cafe】では次の一冊に関する短い紹介文を募集しています。お返しは今のところ何もできませんが、ここにSNSアカウント等を記載した半署名記事をイメージしています。要は人の手によるアマゾンリコメンド機能みたいなものです。気になったかたはSNSや下のコメントもしくはお問い合わせ にご連絡頂けますと幸いです。

雑な閑話休題(雑感)

コーヒー豆のティスティング風景

堀口珈琲の創業者である堀口さんは会社の経営や豆の買い付けにはもう関与していないそうです。現在は大学院で得た知識をさらに発展させるべく①セミナーを活用しながらのコーヒー豆の品質調査や新評価方法に関するスタディ、②新しい本の執筆活動、③その他共同製品等の模索といった感じだと思います。

何度かセミナーにも伺ったことがあるのですが、どのセミナーも楽しく、そして受講者の感覚的なコメントにとどまらないように、科学的な手法を何とかして取り入れようとしています。

もちろん受講生の多くはコーヒーが好きな人で職業としていない人がメインだと思いますのでそれは押し付けにならないようにというかんじです。

それでもやっぱり得るものが多いんです。ただ、昨今の状況に陥る前のセミナーは満席になるのも早く、なかなか空きもできないような状況でした。ということで、興味のある方はセミナー参加の席取りゲームから参加してみてはいかがでしょうか。もちろん、目的はそのあとにあるセミナーなわけですが。

では、今日も最後までお付き合いいただきましてありがとうございました。

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