内容
本書は日本コーヒー文化学会創設30周年を記念して編纂された本です。文章の寄稿者は日本コーヒー文化学会に所属する人で以前当サイトで紹介した『珈琲と文化』でもたびたび登場する人たちによって多く構成されています。
ちなみに日本コーヒー文化学会とは1993(平成5)年に設立された団体で、世界のコーヒーやその文化について追及することを目的とした組織です。研究対象は、生産・流通、焙煎・抽出から歴史、文化、科学と多岐に及びます。そしてこの組織の会員(企業)でもあるいなほ書房が発行しているのが喫茶店経営者向け雑誌『珈琲と文化』です。
そんな崇高な目的を掲げた団体の30周年。つまらないはずがありません!寄稿された方も日本のコーヒー創世記を支えてきた人ばかり。
例えば、青山にあった大坊珈琲の大坊さん。彼が時たま開くセミナーは焙煎であろうと、抽出であろうとなんでもすぐ埋まってしまいます。
そして日本のコーヒーを焙煎機で支えてきた富士珈機の社長福島さん。日本の焙煎機といったらフジローヤルというのはほとんどの方の共通認識ではないでしょうか。
日本発の焙煎機も少しずつ増えてきた印象がありますが、やっぱり焙煎機といったらフジローヤルが最初に思いつきます。そんな有名な業界人たちがこの本のために文章を書き下ろしたんです!
他にも地方からコーヒー文化を盛り上げている方も多くあり、様々な空気に触れることができる一冊となっています。
もちろん、昨今の喫茶店経営はコーヒー豆をはじめとするすべてのコストに悩まされ、難しい局面にあろうかと思います。ここにはそれらを解決する直接的なヒントはないかもしれませんが、先人たちがどのような苦労の末に今の時代を築いたかが記されていて、それらは多くの示唆を与えてくれます。
経営者が読めば、まだまだやれる余地があるんじゃないかと勇気をもらえるかもしれません。利用者が読めば、普段何気なく使っている喫茶店がこんなにも努力をしているんだという新たな気づきがあるかもしれません。
そんな本だからこそ、喫茶店の窓際のスペース、もしくは作業があまりなされないカウンターで静かに物思いにふけながら読むのがおすすめの一冊です。

旭屋出版編集部 旭屋出版 2023-12-08
周年イベント本は基本的に買い!
リード文がひどいですね(笑)。ただ、これだけの寄稿文を集められるのも周年イベント、その中でも30周年を記念しているからだと考えています。
まずは下の表にまとめた本書へ文章を寄せた方々の名前とタイトルをご覧ください。寄稿者情報とタイトルを並べてみました。あと関係するHPやSNSへのハイパーリンクもつけています。お気に入りのカフェやコーヒーショップがあれば、それで買ってもいいと思いますし、3つくらい読んでみたいと思ったタイトルがあったら買うことをお勧めします(最近、よくありますが、ほしいと思った時に買わないとすぐ絶版になってしまうので・・・)。
ちなみに個人的に面白かった点についてはさらに下のほうにまとめました。
寄稿文情報一覧
タイトル | 寄稿者 | 肩書等 | 一言解説 |
ニッポンのコーヒーカップ | 井谷善恵 | 東京藝術大学特任教授(個人HP) | 日本にコーヒーが渡来してきて以来発展した様々な形式のコーヒーカップに関する歴史が豊富な資料写真とともに描かれています。多くの喫茶店が自慢のカップにコーヒーを淹れていますが、この文章を読むとそれらがより味わい深く感じるはず |
日本のアメリカンコーヒーの発祥地 | 鈴木誉志男 | ㈱サザコーヒー会長 | 米国でなぜシティローストが主流となったか、そして日本で普及したアメリカンの発祥地PX(Post Exchange)の果たした役割に迫る |
津軽藩兵を救った珈琲 | 成田専蔵 | 弘前コーヒースクール主宰 | 北海道に派兵された津軽藩兵を派遣したときに持たされたコーヒー豆の効果とは? |
焙煎機の歩みとその構造 | 福島達男 | ㈱富士珈機代表取締役 | 焙煎機メーカーの社長が語る焙煎機製造秘話、そしてこれからの焙煎機像について余すところなく語る |
コーヒージャーナリズムとリテラシー | 狹間寛 | 珈琲見聞録代表 | 上場してから取引停止がなかったコーヒー市場。ただ、それが止まった時があった。その出来事や昨今のコーヒー市場から紐解く現場の在り方 |
サンゴの森に眠るコーヒー | 中平尚己 | UCC上島珈琲㈱ 農事調査室室長 | KFCトライアスロンクラブ代表の大西さんがロタ島でコーヒーの群生地を見つけ、その話をUCCに持ち込んだことから始まった奇跡の物語 |
コーヒーの旅で出会った人と本のこと | 小山伸二 | 書肆梓代表・詩人 | 西脇順三郎の「旅人かへらず」の引用から、有名老舗喫茶店の秘話へ、そしてコーヒーと雑誌に関することが語られる珠玉のエッセイ |
日本喫茶店史と日本最初の喫茶店 | 星田宏司 | ㈱いなほ書房代表取締役 | 日本国内初めてのコーヒーハウスと日本人による初の喫茶店の違い。そしてそれらを丁寧に分類・特定していくエピソードを紹介 |
多様性を極める現在のコーヒーの流通形態 | 小野智昭 | 東京アライドコーヒーロースターズ㈱代表取締役 | 従来のものから生豆流通が多様化したこととその背景をコンパクトに説明 |
獅子文六の小説の中のコーヒー・喫茶店 | 飯田敏博 | 鹿児島国際大学名誉教授 | 獅子文六とコーヒーの関係性を詳細に解説。再版されたちくま文庫の『コーヒーと恋愛』にも触れながら、その特長と愛される理由を語る |
コーヒーの風味は複雑すぎて難しい | 堀口俊英 | 堀口珈琲研究所代表 | 堀口珈琲創業者が事業継承してから挑んだ大学院への挑戦。それを自身の学生としての視点から描く。悩んだもの、苦手だったもの等身大のエッセイ |
渋沢栄一の体験したフランス第二帝政のカフェとコーヒーを巡って | 山内秀文 | 元辻静雄料理教育研究所所長 | 渋沢栄一が訪れたフランスの当時のカフェ事情をパリの街を散策しているように語る。さらには当時の抽出方法や生豆の流通事情にも触れたもの |
コーヒーフェスティバルを読み解く | 後藤裕/ 廣瀬元 | 元文部科学省分析官 金城大学教授 | 全国のコーヒーフェスティバルを4つに聞るし、各々の特徴を説明。そのうえで、コーヒーフェスティバルが街や人にもたらしてくれるものを解説 |
世界の希少豆を求めて | 上吉原和典* | アタカ通商㈱取締役 | ナポレオンが没したセントヘレナ島からカナリア諸島のコーヒーまでコーヒー輸入商社ならではのマニアックなエピソード集 |
世界のコーヒー品種の流れーイエメンコーヒーのルーツからアラビカ種の新母体種の発見までー | 今井利夫 | 待夢珈琲店店主 | 東インド会社の拡大とともにプランテーションを活用したアラビカ種が世界へ伝播する一方、伝統的な製法が残ったイエメのンコーヒーと埋もれていた品種の発見の興奮を伝える |
愛知県の喫茶店のモーニングサービス考察 | 井上久尚 | ㈱旭屋出版 常務取締役編集部長 | 名古屋のモーニング文化の発祥から発展、そして現在地について背景と考察を織り交ぜながら丁寧にまとめている。編集の立場で長らく現場を見ていなければ書けない説得力ある文章 |
焙煎について知ったこと・失敗したこと | 菊地博樹 | ㈲菊地珈琲代表取締役 | 長年コーヒー豆の焙煎を行って、現在も月に3t程喫茶店等にコーヒー豆を卸している著者が綴ったリアルな焙煎の安全性と機械細部に関する説明をまとめたもの |
コーヒーと健康生活 | 高妻孝光 | 茨城大学大学院教授 | 体の基礎的な仕組みの説明から入って、コーヒーに含まれる化学成分を説明し、それらがどのように健康面へ影響しているかを論文を交えながら詳述してくれる |
私を育ててくれた珈琲の世界の先達たち | 繁田武之 | 日本ネルドリップ珈琲普及協会主宰 | 自身が輸入していたブラジルの”カルモシモサカ”というコーヒー豆が紡いだ縁をまとめたもの。コーヒーの昭和・平成史といえるほど、多くの著名人とのエピソード満載が満載 |
伊藤博文庫と器具展示の珈琲ギャラリー開設まで | 平湯正信 | 榛名山麗珈琲ギャラリー代表、大和屋珈琲会長 | 平湯さんの社会人生活から、大和屋として独立・開業したエピソード。その際に大事にした焙煎・石挽に関するこだわり。その後、開いた榛名山麗珈琲ギャラリーへの想いを詳述 |
スマトラ・マンデリンとは | 中根光敏 | 広島修道大学教授 | ユーカーズの名著『オールアバウトコーヒー』にもすぐれた品質の豆として書かれたスマトラ・マンデリンの現在行われている精製を歴史、現地の呼称や(流通)実態を交えて丁寧に説明 |
ブレンドコーヒー創造のために何が必要か | 細野修平 | ㈱昴珈琲店代表取締役 | 1959年創業の昴珈琲2代目店主が開陳するブレンドコーヒー創造のための「昴珈琲店流・思考の基本」を記している。ブレンド作りの際の注意点、基本となる豆や途中に発生するチャフに対する考え方等、理由も含めて踏み込んで解説 |
サステナブルコーヒーの取り組み実例-“HIRO CERT” Code of Conduct- | 山本光弘 | ㈱ヒロコーヒー代表取締役 | サステナブルコーヒーの有用性と問題点を指摘したうえで、自社がなぜ独自の認証制度を始めたかについて書かれている。第三者委託しないでなぜ自社でやるのか、そこには篤い想いがあった |
セラード珈琲の歴史とこれから | 山口彰男 | ㈱セラード珈琲代表取締役 | 日本で愛飲されているセラード産のコーヒー。その歴史と愛されるためになされた努力が書かれている。多くの関係者による取り組みと改善の歴史によってコーヒー産業が発展しく様がよくわかる |
スペシャルティコーヒーはピッカーが作る物 | 山岸秀彰 | ハワイコナ山岸農園農園主兼ピッカー | コーヒー農園主、そしてピッカーとしても活動している著者がいかに”クリーン”なコーヒーができるかを説明。自分に厳しいピッカーが幾重もの努力をしたからこそ、私たちは”クリーン”なコーヒーが飲めるという事実をを再確認させられる。衝撃的だったのは他の農園のパーチメントと並ぶ山岸農園の豆の白さ。 |
喫茶店逃避行 | 小坂章子 | 文筆業(insta) | 著者がどんなきっかけで昔ながらの喫茶店を訪れるか。また訪れた喫茶店で、空間の面白さ、店主のキャラクター、コーヒーの味わい、匂い全般、そして生気の有無を楽しんでいることが語られる。これを読むと昔ながらの喫茶店へのハードルが一段下がって、訪れやすくなりそう |
私のコーヒー | 大坊勝次 | 元大坊珈琲店店主 | 大坊さんが考える珈琲店、その店主や焙煎の責任、そして自身の珈琲が目指すもの、そしてそれが深煎りなわけが静かに語られている。大坊さんなりの接点が少なそうな読者に対して贈られた挨拶文のよう(文章の節々から人生哲学が感じられます!) |
コーヒーの無限の可能性 | 佐野俊郎 | 熊日倶楽部主宰 | 佐野さんが名バイプレーヤーと考えるコーヒーにスポットを当て、佐野さんなりの”おいしいコーヒー”、つまり「淹れて楽しい、見て楽しい、そして飲んでおいしい」コーヒーに関する解説しつつ、コーヒーの更なる可能性を探る自身の普及活動を紹介 |
金沢でコーヒーと共に半世紀 | 西岡憲蔵 | キャラバンサライ㈱代表 | 西岡さんの喫茶店修業時代から焙煎問屋に足繫く通って焙煎を学び、そして独立起業。豆の仕入れに奮闘しつつ、お店を軌道に乗せたときに参加した海外視察でスターバックスとの出会いと衝撃。いずれの話も当時の風景が浮かぶよう |
コーヒーといけばな・ひとりよがりのものさし | 小原博 | ㈲オハラ TOKUSHIMA COFFEE WORKS 代表 | いけばなの草月流に伝わる創始者勅使河原蒼風の『花伝書』の一説「花は美しいけど、いけばなが美しいとは限らない」から始まるエッセイでいけばなとコーヒーに通底する自身の価値観を示しつつ、直近のコロンビア訪問によって気づかされる生産国の変化について語る |
韓国とフィリピンに出店して思うこと | 佐藤光雄 | ㈱フレッシュロースター珈琲問屋代表取締役 | 珈琲問屋のフィリピンと韓国への進出の現状について丁寧に報告しているのだが、少し遊びのある文体とユーモアを含む内容につい笑ってしまう。ただ、海外展開時に起こったトラブルや数字を知ることができ、多くの学びがある |
寄稿者たちの独自哲学が飛び交う

日本コーヒー文化学会の30周年を記念した本ということで、寄稿者もキャリアを重ねた人が中心です。本書を通読してみると同じようなトピックで描かれていて、信念が似通っているものもあれば、主義主張が全然違うなと感じるものもありました。それはバチバチでも、なぁなぁな間柄でもなく、程よい緊張感があって、それを形成している空気は長年コーヒーを愛し続けてきたからこそにじみ出てくるプライドによるものなのかな、なんて思ったりしました。
ちなみに議論のテーマが一緒だったり、引用文献が一緒のこともあります。例えば、山内秀文さんと星田宏司さんが共に渋沢栄一が飲んだコーヒーの感想を引用したり、山岸英彰さんと小原博さんが一部のコロンビア産コーヒーに対して似たような意見を持ったり。さらには立場の違い、店主の立場として喫茶店とはこうあるべきと大坊勝次さんが語れば、利用者の立場から小坂章子さんが話を展開する。
もちろん、事前のやり取りはないでしょうからこれらは偶然の産物なのですが、それらを読む毎に納得したり、メモしたり、そして時に誰かと共有したくなりました。それほどに個性のある文章が多かったです。
新たな発見や会社の重要部分を共有してくれる懐の深さ
古くから知られているクリシェやトレビアと思われる内容でも少し論点をずらすと新発見があります。
例えば、星田宏司さんの『日本喫茶店史と日本最初の喫茶店』。このタイトルをみたとき、はいはい、上野黒門町の可否茶館のことね、なんて安易に思いました。
ただ、読み進めていくと日本のコーヒーハウスの歴史はそんな簡単ではありませんでした。1888年開業の可否茶館の約20年前1865年にはコーヒーハウスがプロイセン人によって根岸湾近くにできていたとのこと。その他にも外国人によるものはいくつか記録があって、さらには可否茶館の前にもコーヒーが飲める場所があったという記録があって、星田さんはそれがどういうものだったのかを調べ、その結果を開陳してくれます。この辺の展開はさすがでした。
また、コーヒー(の歴史)好きにはお馴染みの人物に思わぬ形で再開することも。
例えば、成田専蔵さんの寄稿文では、津軽藩兵が北海道開拓にあたって浮腫病(壊血病)対策としてコーヒーを持たされたという話から話が展開します。そして、この根拠が1652年にロンドンで初めてコーヒーハウスをオープンしたパスカ・ロゼの宣伝文句がベースとなっているとのこと。
この時代、遠く東洋の島国まであの(適当な)宣伝文が伝わっているのかと驚きました。文章がちらかるから、ここにスポットはあてられていませんでしたが、結構大きなトレビアな気がしました。。
一方でコーヒー経営に関する秘話について語ってくれている寄稿者もいます。
例えば、昴珈琲店の細野修平さん。彼は寄稿文の中でブレンド作りの心得について詳細に開陳しています。ブレンド分類を①異なる品種(アラビカ×カネフォラ)、②異なる精製(非水洗×水洗)、③異なる生産国(ブラジル×コロンビア)、④異なる栽培品種(ブルボン×カツーラ)・・・・等、12種類に分類したうえで、どういうことを目的、そしてどういうことを注意して作り上げていくべきかを丁寧に解説しています。正直この内容だけで有料セミナーができそうなほどです。
他にも自分の専門性を惜しげもなく開示している人が多くいらっしゃいました。それらを読んで熱い想いに触れられたという意味でも良い本でした。
個人的にこの本で特に推したい寄稿文
ここに紹介されたもの以外も含めて全部面白く読んだわけですが、その中でも個人的にタイムリーだったものを2つ紹介したいと思います。
『コーヒーフェスティバルを読み解く』(後藤裕/ 廣瀬元 共著)

近隣の公園を探せばどこかしらで開催されているコーヒーフェスティバル(イベント)。私自身も大好きで一時期は毎月どこかしらのフェスを訪れていました。その結果、たまっていくコーヒー豆をはじから冷凍するものだから、冷凍庫の3/4がコーヒーで占められることも。最近は落ち着いてそれらを消費する感じなのですが、ただこれらに関する体系的にまとめられているものは多くはありませんでした。
この寄稿文では全国で開催されているコーヒーフェスティバルを分析し、それらを①グローバル型(国内外のコーヒーショップを招聘)、②ローカル型(地元のコーヒーショップが中心)、③トポス型(地域のコーヒーの歴史や食文化を反映しているもの)、④コンステレーション型(コーヒーを介して人と様々なつながりを作ることが目的)に類型化して特徴を紹介。
加えてコーヒーフェスティバルを主催者・参加者が相互に作用しながら、ともに作り上げるものとして、これを”共創”と呼び、そこから期待される効果を短期・長期に分けて考察。
そして、多くの著書を読み解く中で、コーヒーフェスティバルには「人」「地域」「文化」をつなぐ役割が期待できるとしています。
詳しくは寄稿文を読んでほしいのですが、こういう解説文を読んだうえでコーヒーフェスティバルに意識して参加すれば現場で行われているものの解像度があがって見えるんじゃないかと思える内容でした。
『世界の希少豆を求めて』アタカ通商 上吉原和典

もう一つ、この寄稿文には単純に好奇心を刺激されました。
ナポレオンの没地セントヘレナ島。彼が晩年この地のコーヒーを飲んでいたのは色んな文献等で語られるところですが、現地に行ってその現状がどういうものなのか、また現地の歴史を包括的にまとめられているものは多くはありません。そして、ここにはそれらの情報が過不足なくありました。
セントヘレナ島で採れたコーヒー豆がハイドパークで行われた第1回ロンドン万博に送られ、そこでプレミア賞を受賞。その後、ロンドン市場でも高値を付けた事実。これらは案外知られていません。
また、「天国に一番近い島」といわれることもあるニューカレドニアで栽培されていた大統領にも提供されていたコーヒー豆と出会い、その後の断絶、再び一通のメールから再開されるコーヒー取引と、劇画的な展開にページをめくる手が止まりませんでした。
さらにカナリア諸島のコーヒー豆については全く聞いたことのない島名からはじまって、ユニークな指人形が添えられた生豆袋の写真や文章を読んでいると思わず飲んでみたくなったし、現地にもいつか行ってみたいなぁと思うほどでした。実際にはアクセスが本当に難しいので実現するのかは定かではありませんが(笑)。
いずれのエピソードも寄稿文にはこの10倍の濃度で書かれていて、ユニークなコーヒー豆を積極的に扱うアタカ通商ならではの体験談だなぁと感心させられるものでした。 このように個性的なエピソードにあふれた本でした。
何度も言いますが、これら以外にも面白い寄稿文が盛りだくさんなので機会があればぜひ手に取ってみてください!
本の概要
- タイトル:専門家が語る!コーヒー とっておきの話
- 編者:日本コーヒー文化学会/編集:星田宏司・狭間寛
- 制作:いなほ書房
- 発行:旭屋出版
- 印刷・製本:株式会社シナノ
- 装幀:小須田莉花/本文組版:キヅキブックス
- 第1刷 :2023年12月13日
- ISBN978‐4-7511-1511-4 C2077
- 備考:
関係サイト
日本コーヒー文化学会:https://jcs-coffee.org/
1993(平成5)年発足の日本コーヒー文化学会は、世界のコーヒーやその文化について知りたいと願う人々の集いを主宰する団体です。研究対象は、生産・流通、焙煎・抽出から歴史、文化、科学と多岐に及びます。会員は、五つの委員会(「社会・人文科学」「生産・流通」「焙煎・抽出」「地域文化研究」「コーヒーサイエンス」)へ自由に参加し、それぞれの分野でスキルを磨いています。また全国九支部(北海道、青森、岩手、群馬、茨城、金沢、福井、北九州、南九州)では「コーヒーを楽しむ会」を主催するなど支部活動も活発です。会員向けに会報を年三回発行、年末には論文集『コーヒー文化研究』を刊行。年会費は5000円で、入会手続きはHPから申し込むことができます。
次の一冊
発行元が一緒で、また寄稿者も共通する部分があるのが喫茶店向け雑誌『珈琲と文化』です。こちらは定期購読が基本になっていますが、バックナンバーはいなほ書房のHP経由一冊から購入可能です。今回の本が気に入った方で特定の人の文書を読みたいと思ったら、いなほ書房のサイトからバックナンバーをあさるというのもありだと思います。
雑な閑話休題(雑感)

今回ご紹介した本は日本コーヒー文化学会が設立されてから30周年たって出されたものでしたが、内容は時代の移り変わりを感じるものでした。
昭和・平成を生きたレジェンド達のお顔もすっかりしわが増えたような気がします。もちろん、みなさんお元気で一線で活躍されている方も多いわけですが、過去の資料と見比べながら、この記事を書いていたら、そんなふうに感じてしまいました(笑)。
2023年に本書の発行支援を目的としたクラウドファンディング(参考プレスリリース)では日本コーヒー文化学会の年会費をリターンにするものもありました。結果、新しい年代の会員の獲得も実現したやに聞いています。
そういう意味ではうまい具合で世代交代・・・というのは言い過ぎかもしれませんが、世代間交流が活性化したとも聞きます。
こういう場での交流が盛んになって、セカンドウェーブやサードウェーブとか垣根を越えて、前世代の知恵や経験をうまい具合に次代へ継承し、それらをファインチューニングできるといいなと寄稿者一覧を眺めながらしみじみと思った編集後記でした。
では、また次回の記事でお会いできるのを楽しみにしております。