【内容】
この本はコーヒーを常飲していた著者のいさわゆうこさんがとある時期から動悸が収まらなくなる症状に悩ませられ、その原因だったカフェインが入ったコーヒーを絶たねばならないところから始まります。
いさわさんにとって仕事の合間に飲むコーヒーは日常生活に欠かせないものでした。それなのにコーヒーを控えなければならない状況になってしまいました。しかも、いさわさんが以前に飲んだことのあるデカフェコーヒーにはあまり良い思い出がないといいます。
それでもコーヒーの香りや味は恋しいもの。いさわさんは前向きに自分が満足するデカフェコーヒーがないか、スーパー、コーヒーチェーンなど、様々なところを探し始めます。
そして、とあるコーヒーショップで美味しいと思えるデカフェコーヒーと出会います。そこから様々な疑問がでてきます。
今まで飲んでいたデカフェコーヒーとこのデカフェコーヒーは何が違うのか?そもそもデカフェコーヒーはどうやって作られるのか、どこから持ち込まれるのか。
時にコーヒーショップの店頭で疑問をぶつけ、より詳細な情報を求めてデカフェコーヒー豆を取り扱う会社へ、さらにはデカフェ、つまりカフェインを取り除く工程が行われている工場へ取材に向かいます。
本書を読めすすめれば、デカフェコーヒーへの理解が深まるとともに、デカフェコーヒーを取り囲む人々の心境や想いも知ることができます。さらにデカフェコーヒーに関する簡単な市場状況や将来展望もわかります。
読み終えるころにはもしかしたらデカフェ信奉者になっちゃうかもしれませんし、そこまでいかなくとも、デカフェに対する偏見はなくなって生活に取り入れようと考えていたりするかもしれません。
そして何よりデカフェコーヒーに関わる人たちに寄り添えるようになる、そんな一冊でした。
デカフェにする?: コーヒー好きのためのカフェインとデカフェの本
いさわゆうこ 2024-06-29
【内容を振り返りながら感想】
全体を通しておもうこと
コーヒーショップやカフェにとってデカフェコーヒーは積極的でなくとも、とりあえず置くべきアイテム、そういうお店が多いような気がします。
ただ、コーヒーが好きな利用者からすれば、生産国、品種、精製方法の選択肢が豊富な通常のコーヒーから選ぶんじゃないでしょうか。いさわさんも本書で指摘しているように、デカフェコーヒーの場合、良くて生産国、もしくは焙煎度合いが違うものが1,2種、多くのところでは生産国も焙煎度もわからないものが唯一のデカフェコーヒーとして置かれていると思います。そんな状況ではコーヒー好きの方はデカフェコーヒーに手が出しにくいのが事実だと思います。
一方で肌感覚としてデカフェコーヒーの認知と消費は伸びているんじゃないかとなんとなく感じる人は多いと思います。以前見なかったお店でデカフェコーヒーを見るようになったり、デカフェコーヒーの産地や農園名が書かれるようになったり、色んな所でその片鱗を感じているのではないでしょうか(実際、上図のようにデカフェ市場は急速に伸びつつあります)。
では、デカフェコーヒーを利用する人たちはいったいどういった人たちなのでしょうか。
この本ではデカフェコーヒーを飲まざるを得なかった状況になった人として、著者いさわさんをはじめ複数の方々が登場します。中にはかつてバリスタの方もいてカフェインの中毒症状の経験談は悲痛なものでした。
一方で、積極的な選択肢、つまり生活習慣を整えるツールとしてデカフェコーヒーを選択する人たちがいらっしゃることも紹介しています。前者は想像しやすいですが、後者について改めて触れるているのは興味深かったです。
この時点で新たなマーケットチャンスではないのか?と考えた方もいらっしゃると思います。事実、そういう可能性にかけた人たちも本書では複数人紹介されます。そういう人たちを丁寧に取材してまとているのが本書でさまざまな気づきを与えてくれました。
個人的には以下の3つの点がお気に入りポイントでした。
当事者だからこそ書けるリアル
コーヒー好きにとって、カフェイン断ちを強いられることは本当につらいことだと思います。私がそうなったらと思うとぞっとします。ただ、これは日常的にカフェインを摂取する人なら、誰でもなりうること。その時が来るか来ないは誰にもわかりません。
筆者のいさわさんはそんな貴重な体験談を本書で共有してくれます。ある日起こった収まらない動悸。生死にはつながらないけど、息苦しくなって生活が困難になってしまう症状。生活習慣の改善をしてみても治らない。そしてたどり着くカフェインが原因かもしれないという可能性。
コーヒーが習慣になっている人にとってはつらい特定です。でも、この本を読んでおけば備えにもなるし、デカフェをメインにするのも悪くないかもって思えるかもしれません。少なくともコーヒーが好きなら選択肢として取り入れるのはありかもって思えます。
いさわさんの必ずしも幸福ではないきっかけから本書の本格的なデカフェコーヒージャーニーが始まります。そして、たぶんデカフェコーヒーを探す多くの人が辿るであろう道筋を教えてくれます。
まずはスーパーの棚で君臨する大手や老舗のデカフェコーヒー、そして有名コーヒーチェーン店のデカフェコーヒー、さらには色んなコーヒーショップへと。そして、わかることはデカフェコーヒーにもコーヒー愛飲家を満足させるものがあるということです。
この辺はコーヒー関係者にはマーケティングのヒントになるんではないかと思います。デカフェコーヒーの導線は必ずしも丁寧なものではありません。ともすれば、この流れの中でより(潜在的な)消費者に寄り添うこともできるのではないかと思ったりします。もちろん、レギュラーコーヒーほど大きな市場ではありませんが、お客さんと寄り添うお店だと示せるという意味でも良いのではないでしょうか。
ちなみにこの本ではいさわさんが信頼できると考えるお店の紹介もしているので、デカフェコーヒーを探してこの本を読む人はデカフェコーヒー探しのステップを省略することができます(お得な本ですねw)
さて、上のことにも少し重なりますが、いさわさんの視点は新鮮で貴重です。コーヒー関係者が当たり前と思い込んでいたこと、例えばデカフェコーヒーの値段が高くなりがちなこと、輸入経路、また値段を抑えるために品質が必ずしも良くないコーヒー豆を選びがちなこと、等々。消費者に必ずしも説明しきれていないことをどんどん列挙しています。
これはコーヒー関係者や愛飲家にとっては利用者(消費者)とのコミュニケーションを改めるきっかけになったり、知識の再確認へとつながるような気がします。
また、いさわさんはコーヒー関係者の話を聞いていく中で、積極的にデカフェコーヒーを取り入れる層がいることを知ります。朝はレギュラーコーヒーを摂取し、午後はデカフェコーヒーにする。1日のカフェイン量を意識し、そして摂取するタイミングを考え、生活リズムを整える。そういう前向きな付き合い方をしている人がいることを知れば、むしろ気持ちも前向きになれるんじゃないでしょうか。いさわさんの取材は従来より前向きなものでしたが、この頃にはデカフェコーヒーの旅をむしろ楽しんでいるようにも見えてきました。気持ちがのっている文体はこちらの気持ちも前向きにさせてくれました。ちなみに、このデカフェコーヒーの摂取スタイルは欧米を中心に広がっていますが、日本でも多くの方の生活スタイルに馴染みそうですね。
あくなき探求心
コーヒーショップでおいしいデカフェを手に入れたら、普通の人だったらそれで満足するはず。というか著者のいさわさんのコーヒーの知識は取材開始当初そこまで豊富ではありません。それにもかかわらず、コーヒーショップの方がスペシャルティコーヒーのことを話せば、それについて調べ、デカフェの製造方法がいくつかあるということを紹介されれば、それについて調べる。それどころか、取材できるところがあればそこを訪問しているのです。
これらを丁寧かつ地道にまとめたからこそ、本書は濃密なものとなっています。デカフェコーヒーに関する知識は人それぞれだと思いますが、それでもこの本からはデカフェコーヒーと真摯に向き合っている人たちの想いが感じ取られ、読者としても彼らの気持ちをより理解したいという気持ちが生まれました。
いずれにせよ、いさわさんの思いついたらすぐ取材する精神は読み進めていくうえで、読者を飽きさせません。それどころか、どこまで行ってしまうんだろうと心配になるくらい(笑)。それと同時にデカフェコーヒーに関わる人たちの懐の深さを感じさせて、本全体から心地よさも感じさせてくれました。
中立的なコメントと正確なデータの参照元
本書は自伝的な側面を持っています。そういう場合、主観的な感想や巷の言説があたかも真実のように書かれることがあります。その点、本書ではそれらにきちんとした注意が払われています。
例えば、デカフェに関する情報を著者はいろいろなソースから引っ張ってきます。海外で言われているコーヒーの一日当たり摂取許容量、具体的にはマグカップ2-3倍程度なわけですが、アメリカ、イギリス、カナダ等の官公庁が公開しているデータを紹介しながら話されています。
また、カフェインの作用や副作用についてきちんと事実/伝聞等を使い分けて、無理やりな論理展開していないところが好ましく、だからこそストレスなく読み進めることができました。
そのほかにもデカフェ市場の推移やカフェイン含有量など、きちんとしたデータを引用しているのも安心できます。
最後に著者は何が何でもデカフェがいいと言っているわけではありません。一つのコーヒーライフスタイルとしてすでに少なくない人の選択肢としてデカフェコーヒーはあるし、かつてデカフェコーヒーの選択肢がなかった時代とは違い、様々な方法で多様な味を楽しめるようになってきたということを紹介するにとどめています。もちろん、そこに携わる人たちへの肩入れ(熱量)はありますが、いさわさんはそこでも冷静に一つの選択肢という提示をしているにすぎません。そういう意味で、客観性を担保した本書だからこそ、最後のページまで安心して読み進めることができたんだと思います。
そういう意味で偏見を持たずに一度手に取ってみてはいかがでしょうか。お勧めです。
本の概要
- タイトル:コーヒー好きのためのカフェインとデカフェの本 デカフェにする?
- 著者:いさわゆうこ(X)
- 発行:一般社団法人みんなのフードポリシー
- 印刷・製本:アマゾン
- リリース:2024年7月2日
- ISBN 979832981 7539
- 備考:アマゾンによるオンデマンド製本
次の本へ
個人的にはコーヒーやお茶が好きなのでカフェインを断つということは非常に厳しいわけですが、カフェインとの付き合い方はより気を付けないといけないと思っています。また、重さは人それぞれかもしれませんが、本書を通じてカフェインの摂取が厳しい方の気持ちにも寄り添えたらと思えました。
アベナオミ、2023-03-14
アマゾンで”カフェイン断ち”等で調べると結構な本が引っ掛かります。
ということで、その中から、無料で読める2冊を紹介したいと思います。一冊はイラストレイターのアベナオミさんの『突然ですがカフェインと別れた話』。イラストとともに平易な文章で個人体験を語ってくれています。どのようにカフェイン依存したか、そして依存から脱却していったか。参考になるところも多いと思います。
もう一つ、小柳かおりさんの『カフェイン断ちで人生を取り戻した話』。こちらは漫画で全2話の構成となっています。これも個人体験談。漫画だからこその表現力でカフェインとの付き合い方の難しさを教えてくれる本となっています。
小柳かおり、2023-12-08
雑な閑話休題(雑感)
この本との出会いは不思議なものでした。著者のいさわさんから一通のメールがあり、こんな本があるんですが、どうでしょうというというものでした。
個人的にカフェインレスコーヒーの味の進化に興味があり、またどのような層が飲んでいるのか、知りたいと思っていたこともアマゾンでポチっとしました(ちなみにアマゾンで出版されている本を購入するのは初めてでした)。
コーヒーの教本ではデカフェのベーシックな製造工程やカフェインを敬遠する理由とそのニーズについてはわかりますが、それは捉えどころがない話でした。しかし、この本には実体験としてのデカフェのニーズが書かれていました。
詳しい感想は上に書きましたが、私の知りたいことが網羅的に書かれていて、非常に読んでよかったと思えるものでした。再度言いますが、本は自分で購入しましたし、掲載時期のお約束もしていないので(いさわさんのご紹介からめっちゃじかんたってしまいましたが、、、)上の感想は完全に自分のものです。
ただ、こういうきっかけができたことには感謝していますし、本サイトを運営していて良かったと思えました。今後、もし本を紹介いただければ自分なりの考えを踏まえて紹介したいと思いますのでお気軽にお問い合わせください(内容があまりにも著者の理解を超える場合は遠慮させていただくこともあります旨予めご了承ください)。
ということで最後までお読みいただきありがとうございました。また次の記事でお会いしましょう。