6月17日、全米コーヒー協会(National Coffee Association(NCA))は米国のスペシャルティコーヒーの消費に関するレポートを公表しました。ここでは内容の一部と、そのレポートのダウンロード方法を紹介します。
NCAと実施調査の前提

本調査を行ったNCAは1911年に設立され、コーヒーの消費に関する調査を1950年から実施、1993年からはエスプレッソ関連飲料についても調査している歴史ある団体です。現在では年に2回調査を行い、タイムリーに内容を公開しています。今回発表された報告書は2025年1月6日~20日の間に回収されたデータに基づくものです。なお、本調査の実施にあたってアメリカのスペシャルティコーヒー協会(SCA)の協力も受けています。
そして、この調査は全米の18歳以上の人口動態と一致するように、サンプル対象の年齢、地域別の偏りが生まれないようにサンプルが調整されています(N=1845)。
本調査では大きく過去1日と過去1週間に分けてコーヒーを飲んだかについて質問をしていますが、コーヒーを飲んだことがアンケートの前提条件にはなっていません。
また、ここでいうスペシャルティコーヒーは、コーヒーを飲むにあたって高級な豆を粉砕/抽出したものとされていて、いわゆる一般的にSCAが定義する”スペシャルティコーヒー”の定義よりも緩く、かつ飲み方はドリップ、エスプレッソ(ラテ、モカ等の関連飲料も含む)、ノンエスプレッソ(フラペチーノ、コールドブリュー等も含む)、カン・ペットボトルを対象としています(そのため、わたしたちが認識するより多くのコーヒー飲料が含まれていると認識してください)。
さらにドリップコーヒーマシーン、エスプレッソマシーン、プアオーバー、モカポット、フレンチプレス等、特定の13種の器具を使って抽出したコーヒーを特に伝統的なコーヒーと分類しています。
では調査の概要をみていきましょう
調査結果の一部

本調査では46%のアメリカ人が過去24時間にスペシャルティコーヒーを飲んだと回答。これは2011年以降、最高値を記録するとともに、42%の伝統的なコーヒーを飲んだと回答したアメリカ人を超える結果となりました。全体では過去24時間に66%がコーヒー飲料を飲んだと回答しました*。
スペシャルティコーヒーの飲用量の増加は、2020年**以降コロナ禍で低迷していたコーヒー消費の向上に貢献しています(スペシャルティコーヒーの一部飲用者(外出先でコーヒーやフラペチーノ等を飲む人たち)はコロナ禍のとき、コマーシャルコーヒー(スーパー等で経済的に購入できるコーヒー)で代替せずに他の飲み物に変えたとされています。
また、過去1週間まで期間をとると、スペシャルティコーヒーを飲んだ人は55%、伝統的なコーヒーを飲んだ人は62%でした。全体では過去1週間に73%の回答者がコーヒー飲料を飲んだと回答しました。これは引き続きコーヒーがアメリカの中心的な飲料であることを示す結果となりました。
一方で、調査ではドリップコーヒーメーカーを使って飲まれていたコーヒーはより多様な方法で飲まれていることがわかりました。そして、ブラックコーヒーで飲む人は少数派となり、何らかの甘味料を添加している人が6割を超え、さらに、中にはビタミン、プロテイン、コラーゲン等を添加されたコーヒーを飲む人も増加傾向にあることが確認されました。
結果として調査からは、コーヒーの消費はコーヒーそのものを楽しむよりも、そこからミルク、豆乳、砂糖、アイスクリーム、香料、サプリメント等、多彩な添加物と組み合わせて楽しむことがかつてないほど多くなってきていることがわかりました。
*アメリカが2024/25期に26,050千60kg bagsのコーヒー生豆を輸入していて、一人当たりの一日の消費量にざっくり直すと約10gのコーヒーを消費していることになるので、納得感のある数字となっています。
**2021年にはスペシャルティコーヒーが37%、伝統的なコーヒーは38%に各々落ち込んでいました。
所感や気づき

NCAから公表された調査報告からは、景気の先行きが不透明とされている中でも、コロナ禍の時期よりはコーヒー消費が盛り返していることが確認できます。
その中でも特に落ち込みが大きかったスペシャルティコーヒー関連消費の貢献は大きいものがありました。
ただし、前提に書いた通り、本レポートにおけるスペシャルティコーヒーの定義は厳格なものではありません。また、一部定義には重複する部分もありますし、回答者の認識に依拠している部分もあります(正直、この辺はもう少し調査を設計の段階から精緻に行う必要があるとも思われます)。そのため、これをみてスペシャルティコーヒーの市場が広がっていると安易に考えるのは危ういところです。
レポートにも書かれていますが、スペシャルティコーヒーの消費のぶれが生じる中心はコーヒー+α市場です。今回の調査でも何らかの甘味料を使う人が60%となっていて、これは2年前に比べて10%以上増えていると報告されています。
日本にも健康をうたったコーヒーはあり、大手コーヒーメーカーから販売されています。
一方で、コーヒー飲用者の中、特にアメリカのスペシャルティコーヒーの飲用者には健康飲料として認識している人も多く、その場合、純粋にコーヒーそのものを楽しんでいるとはいえません。また、さらに健康意識の高い人たちの間ではサプリメントが添加されたコーヒーを飲むようにもなっています。
このように単純に品質の良いスペシャルティコーヒーが買われているわけではないことがわかります。
ただ、コーヒーの消費だけを見れば安定的ですし、”スペシャルティコーヒー”と消費者が解釈している飲料の消費が回復し、コーヒー全体の消費をけん引しているのは間違いありません。
また、25~39歳の層の64%が前週にスペシャルティコーヒーを飲んでいると回答していて、今後も継続的な消費が期待でき、コーヒーの安定的な需要がみこまれるということは非常に良い側面と思えます。
むしろ、業界的にはこの消費をどう満たしていけるかが課題になっているともいえます。特に最近よく言われるのが、2050年までにアラビカ種の栽培適地が大幅に減ってしまうということです。
今回はアメリカの調査報告ではありますが、日本においてもコーヒーを飲む機会が多い人は個々人で何かできることがないか模索してみるのも良いかもしれません。
なお、下でリンクを貼った無料版レポートではより詳細な情報が掲載されています。どのようなスペシャルティコーヒー飲料が飲まれているのか、温冷のどちらが飲まれる傾向にあるか、スペシャルティコーヒー以外に選択肢となりうるドリンクは何か(抹茶等の割合も掲載されています)等。非常に内容が濃くなっています。
(参考)レポートのDL方法とウェビナー

まずはNCAのサイト(リンク)へ飛んでください。ここで右側にある記入フォームに名前およびメールを記入してください。
記入した後にロボットチェックをして”Get My Report”を押せば、しばらくして登録メールアドレスへDLリンクが送付されてきます。このリンクを押せばスライドがダウンロードできます。これでより詳細な情報(スペシャルティコーヒーがどのような方法で飲まれているか、何がコーヒーのライバルとなっているのか等)が得られるはずです(もちろん、これは無料版なので詳細なデータ等を入手するためには有料版を入手する必要があります)。
ダウンロードしたスライドについては厳しく著作権管理がなされていますのでご留意ください。
6/25(水)13時(日本では6/26(木)3時)には調査をリードしたCheryl Hung氏(Vice President of Insights, Dig Insights)による解説ウェビナーが実施されます。深夜で英語にはなりますが、無料で聞くことができますので興味ある方はこちらも忘れずに登録してみてください。