SCAJ2025セミナー『ニカラグアの状況(Nicaragua is Coffee)』

最初のスピーカーのゴンサロ・カスティーヨ(Gonzalo Castillo)(左)氏は農園主で、40年間農園経営を行っています。彼のご子息は医者となり、同様に農園を持ち、美しいニカラグアコーヒーを世界に届けることに奮闘しています。

そして、後半のスピーカーのエドワルド・エスコバー(Jose Eduardo Escobar Garcia)(右)氏はニカラグア政府と民間を仲介するCONTRACDECを代表して来日しました。以下はそんな両氏がSCAJ2025期間中に行ったセミナーの内容を書き起こし、まとめたものです。ライブ感をもって読んでいただければ幸いです。とても情熱がこもったセミナーでした。

ニカラグアとは?

(ゴンサロ氏)

本日は火山の国ニカラグアからコーヒーを紹介する機会を頂き、関係者には感謝しています。ニカラグアには220年以上のコーヒー生産の歴史があります。一般的なニカラグアの農園では機械での採取は行われず、ハンドピックが行われ、多くの愛情が注がれています。

そのため、誰にでもコーヒー豆を販売したいわけではありません。日本には私の農園から調達するバイヤーもいますが、その方々とは家族ぐるみの付き合いをしています。彼らが農園を訪れると家族で迎えますし、彼らからは私のことを”おじさん”と呼んでもらっています。そういう間柄だからこそ愛情を注いだコーヒーを安心して届けることができるのです。

今日、ここに来られた人、来られなかった友人も、そういう気持ちで引き続き私たちと接してほしく思います。

(エドワルド氏に交代)

エクアドルとコーヒーについて

日本とニカラグアの交流は今年90年を迎えました。これを契機にニカラグアでは法律で2月20日を日本の日と制定、祝福しました。ニカラグアは中米に位置し、北にホンジュラス、南にコスタリカがあります。約700万人の人口を有し、農業が中心の国で27の火山があり、そのため豊かな土壌を有します。

私たちは「火」と「文化」と、そして先ほどゴンサロ氏が話したとおり、「家族」を大切にする国です。そしてコーヒーはニカラグアに対して古くから経済的に貢献してきた作物です。コーヒーは経済成長を支えるだけでなく、人間も支えています。そのため、コーヒー産業が成長するよう政府も多くの支援を行っています。トレーニングや貿易促進はもちろん、コーヒー農家も支えているのです。インフラや製品だけでなく、従事している人を何よりも大切にします。そして人々に世界的に有名な(エクアドル出身の)ボクサーであるローマン・ゴンザレス氏のようになってほしいと願っています。

世界的にはニカラグア世界の2%弱程度のコーヒー生産を支えています。その内訳はアラビカ98%、カネフォラ(ロブスタ)2%です。国内には51000のコーヒー農家(45万人がコーヒー産業に従事)がおり、16万8千haのコーヒー耕作地、そして年間16万t以上のコーヒーを生産し、56の国々へ輸出しています。

ニカラグアコーヒーセクターの取組

98%のコーヒーは森林で栽培され、環境に配慮されています。多くのコーヒーは海抜800m-1700mで栽培され(800m-1100mが60%、1100m-が20%を占める)、ゲイシャ種を含む40種以上の栽培品種で構成されています。

品質向上に際して、農家も通いやすいような場所にスクールを設置し、イノベーションについてCoffee Quality Institute(CQI)とともに研究をしています。また、コーヒーを鑑定できるQグレーダーの育成についても積極的に支援していて、かつて48人だった資格保持者を60人まで増やしています。重要なのは高品質なものをきちんと届けたいということ。

ニカラグアコーヒーの生産地には特筆すべき特徴があります。マタカルパ産のものは甘くてジャスミンのよう、ヒノテガ(フログテガ)のものはジャスミン、バラ、チョコレート、ワイン、クリーンです。そして、ヌエバ・セゴビアでは青りんご、もも、明るい酸、チョコレートを感じられます。

ニカラグア政府は何度も言うように非常にコーヒー農家を大事にした政策をうちだしています。トレーサビリティはもちろん、焙煎技術の指導もしています。そして、フェアトレード等の付加価値商品にも取り組んでいます。

また、オーガニック農法も取り組んでいます。多くの肥料を投入することもできますが、土壌へ負荷をかけることは将来世代にとって持続可能な農法と考えていないからです。

さらに持続可能性の観点では、遺伝子研究や品種改良を行うことで温暖化対策や病害虫対策を急いでいます。もちろん、病害虫耐性のある強い木が育てばそれだけ殺虫剤の散布を減らせますし、土壌への負荷も減ります。そして冒頭にも話しましたが、ニカラグアのコーヒー栽培はもともと森林で行われています。殺虫剤の散布は森の保全にも悪影響なり変えないので散布したくないものでもあるのです。

これらを踏まえた大会として”The Best of Maragos”というものがあります。これはMaragogype、Maracaturra、Pacamaraという耐性品種だけが出品できるもので、この中で味を競うものとなります。優勝したものは当然注目を集めることとなります。

こうしたプロモーションを行うことで販路を整えています。そして何より重要なのは販売価格です。一定の価格で売れなければ農家は持続可能ではないのです。

日本はニカラグアで開催されたCOEで一番の顧客となっています。これからもこの関係が長期的に続くことをニカラグアは望んでいます。

(会場の質問を踏まえ)欧州森林破壊防止規則(EUDR)については非常に難しい問題ととらえています。ニカラグア産コーヒーの3割程度がヨーロッパ向けです。そのため対策は進めています。GPSを使い、コーヒー生産によって森林伐採の影響がないことを追う耐性を構築しつつあります。しかしながら、このコストは誰が払うのか、私たちは不安を抱いています。生産国政府なのでしょうか、農家でしょうか。本来は政策を打ち出した国々であるはずなのに、価格への転嫁は非常に難しいのが現状だと考えています。いずれにせよ、私たちの状況をよく理解してほしいと思っています。

所感とニカラグアコーヒーについて

ゴンサロ氏が自信をもってすすめるコーヒー

会場ではゴンサロ氏の農園で育てられたコーヒーが振舞われていました。いずれも上で書かれていたような上品でフローラルな香りときれいなシトラス系酸を持ったコーヒーで、彼らがどれだけ愛情をもって育てたのかが伝わってきました。

ゴンサロ氏が冒頭信頼を置ける人とコーヒー豆を取引したいというのは切実でした。それは、最後にも話された物価高騰の中でさらなるコスト負担となるような規制が発生したとき、誰が苦しみをわけあってくれるのか、という問題につながると思います。

バイヤーやロースターが、それは政府の仕事だと割り切ることは簡単かもしれません。また、できることは限りなく少ないかもしれません。資金的な支援や技術的な支援ができればよいでしょうが、そんな余裕は持っていない人がほとんどです。

一方で、コーヒーの供給量が足りていない中、生豆バイヤーに転嫁すればいいではないか、とおもうかもしれません。ただ、他の生産者、もしくは生産国との競争があってなかなかうまくいかないのも実情だと思います。その中で声をかけ、理解しようとする、そして何か行動をしてくれる人を生産者は大切にすると思います。

ロースターの中にはパートナーシップ契約を締結して、長期的に相互成長できるように体制を整える人もいます。そういう中で信頼が生まれ、「おじさん」、「息子」と呼び合える仲になれたら素敵だなと思ったりします。そういうストーリーを私自身もいつか取材してみたいと思ったりもしています。少し長期的なことになるかもしれませんが、そういう発信を心掛けて、今後もレポートしたいと思います!

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