前回に続きフェアトレード・ジャパン主催の講演から。今回はThe Latin American and Caribbean Network of Fair Trade Small Producers and Workers (CLAC)のPaulo Afonso Ferreira Júnior Coffee Commercial Managerが『CLACの取組とゴールデンカップ』に関して講演しましたので内容をシェアします。
CLACの概要
CLACは中南米カリブ地域の20か国にわたる940の小規模生産者・労働者組織が加盟するフェアトレードの生産者ネットワーク団体です。
団体を構成する生産者はコーヒー、バナナ、ココア、砂糖、はちみつ、青果(乾燥物も含む)、花、ワイン用ブドウ等の生産に従事していて、合計すると50万人以上となります。
フェアトレード認証商品でコーヒーが85%、バナナが89%、CLACの構成員、つまり中南米の生産者によるものです。
ちなみに940の生産者組織のうち、442がコーヒーの生産者組織で、実に11か国24.8万人もの人たちによって構成されています。うち女性は6.4万人です。
CLACによるコーヒー生産と輸出先
CLACの生産者組織で生産されたコーヒーはコロンビア、ペルー、ホンジュラスの順番となっています。ちなみに、2024年のコロンビア、ペルー、ホンジュラスの生産量が減っているのはいわゆる『裏年*』と呼ばれる年に当たっているからです。これに加えてやはり気候変動の影響も一部あります。
2枚目のスライドが各国毎の売上高をまとめたものです。売上高ベースとなると生産量で2位と3位だったペルーとホンジュラスがコロンビアを上回ります。これは各地域で取引されるコーヒー豆の質や物価等を反映しているためです。
CLACの生産者組織からのコーヒー供給は安定的に行われています。しかしながら、これらを販売する市場開拓は難しい状況が続いています。3枚目のスライドは生産物がフェアトレード商品として販売された実績ですが、直近でも33%いとどまっています。それ以外はブレンドされたり、フェアトレード認証商品扱いではない形式(他のコーヒー豆とのブレンド等)で販売されています。
これにはいくつかの原因がありますが、その一つとして品質のイメージが良くないことがあげられます。
*コーヒーの実をつけるコーヒーノキは収穫がたくさん採れる『表年』とあまり実をつけない『裏年』を繰り返しながら成長します。このことを『隔年結果』といいます。
ゴールデンカップと品質向上
実際、生産者はどこへコーヒー豆を売るか決めることができるため、過去には品質の良くないコーヒー豆を最低引き取り価格が決まっているフェアトレードに卸そうという動きもありました。しかしながら、現在はそのような状況にはなっていません。
生産者支援の一環として『ゴールデンカップ』という品評会を創設。この品評会で優勝、もしくは上位入賞するとプロモーションされ、そのコーヒー豆は高値で買い付けられるため、多くの人が前向きにフェアトレードへ参加するようになりました。
また、プレミアムの25%は品質改善のためへ投資することを生産者と契約しています。これによって生産者は継続的に品質改善に取り組むようになりました。そして、品質が改善すれば、取引価格が高くなります。消費者のフェアトレード商品に対する印象の改善には時間がかかると思いますが、これらの認知に努めていきたいと思います。
CLACによる人材育成
CLACとしては継続的な地域での教育はキーになると考えています。そのため、CLACは2024年5か国で7回の実地教育を行い、92生産者組織に生産の品質管理やカッピングについて、102生産者組織と土壌専門家等へ収穫後工程についてトレーニングを実施してきました。さらに70の若年世代の生産者にはバリスタやカッピングトレーニングを別途行いました。
森林伐採対策
CLACは森林伐採に関しては各地においてリスクマッピング作成を行うとともに、影響軽減するアクションプラン等の策定を行っています。すでに7か国で14回実地でのトレーニングを実施して228の小規模生産者組合(SPO(Small-scale Producer Organizations))が参加しました。本年内に構成国すべてで行うことを予定しています。
このような活動を軸にフェアトレードは生産者組織と一緒に直面する課題を一つ一つ解決していきます。2025年にはグアテマラで初めて生産者組織が中心となるフォーラムも開催します。日本からの参加も期待しています。
所感
いわゆるエシカル商品を選ぶ際、購買行動がきちんと現場へ還元されているのかがいつも気になってしまいます。その時はパッケージ情報を読んで何となくいいかなと思っていましたが、もやもやした気持ちが残ってしまうのが正直な気持ちでした。
今回のセミナーはそんなもやもやを解消してくれるものでした。
フェアトレードコーヒーの生産状況はもちろん、必ずしもうまくいっていない販売状況。また、そのほかの日金の活用方法。様々なことがわかるものでした。そして、それらはどういう背景をもって予算配分されているか、いずれも非常に興味深かいものでした。
この日登壇したパウロさん自身、ブラジルのコーヒー農家に生まれ、長らくコーヒー産業に従事してきましたが、どうにかしてコーヒー産業全体の構造的な問題を解消できないかと考え、現在のポジションで仕事をしているとのこと。そのようなことを熱意をもって話すさまは非常に刺激的でした。
私たち、少なくとも私は今までコーヒー豆や生産者に注目をしがちでしたが、それ以上にコーヒーバリューチェーンには多くの人が関与していて、各々熱い想いをもってコーヒーを消費者へ届けていることがよくわかりました。
その様々なバリューチェーンがある中で、一貫したフェアトレードの理念が通底しているというのは非常に魅力的に移りました。もちろん、パウロさんも指摘したようにそれらを理解してもらうためのプロモーションやそもそもの品質向上等多くの課題があるかもしれませんが、それらの取り組みが長期的に叶うことを信じて少しずつ購入していくのも消費者として示せる行動なのかもしれません。
そして、それらの購買を行うことによって継続的に活動を注視しようという気持ちにもなるでしょうし、いつか自分が飲んでいるコーヒーが劇的においしくなった、なんて日があったら自分事のように喜べるんではないでしょうか。そう思いながら、今日はいつもとは違った観点からコーヒーを選んでみようと思いました。