【本紹介・感想】プロの苦労やこぼれ話から硬派な歴史的背景までカバーした喫茶店向け雑誌『珈琲と文化』

【雑誌の紹介】

コーヒーは人によってとらえ方は千差万別です。植物と捉える人、これは日本という消費国ではイメージしにくいかもしれません。多くの人は飲み物と捉えるんではないでしょうか。中には詩的に”人生の彩り”、”なくてはならないもの”、”人生そのもの”、といったふうに考える人もいるかもしれません。事実、コーヒーは時に主役として、時にわき役として様々なシーンに登場します。

そして、コーヒーを追えば当然ながらそこには常に人がいます。果物としてコーヒーチェリーを食べる動物や虫はいるかもしれませんが、コーヒーを栽培して、収穫・精製、そして焙煎して飲むのは人間だけだからです。

古くはこのコーヒーを人間は宗教儀式の際の覚醒作用を目的に飲んでいたし、イギリスやフランスの政治や文化の議論を活発化させるための一助ともしていました。

日本でも明治維新をリードした偉人の多くが愛飲していました。

このように文化面を支えてきた飲み物、それがコーヒーです。その文化的な要素を切り口にコーヒー像に迫ったものが珈琲店経営情報誌 季刊誌いなほ書房発行『珈琲と文化』です。

コーヒーを飲んでいいた人にどんな文化人がいるのか。コーヒーはどういう場所でどのような文化的発展に貢献したか。コーヒーを飲む際に用いられる道具、例えばカップやケトルはどのようにできたのか。なぜ人はそれらに魅了されるのか。喫茶店の種類はなぜあのように多様になったのか。喫煙文化とのかかわりあいや生産現場で行われる慣習まで。

あれもこれも文化的な面を持っているわけです。それらについて専門家、もしくは在野の研究家が通説や自説を披露してくれているのがこの雑誌です。これらをじっくりと読んでみることで、コーヒーライフ、ひいてはコーヒーを通して見られる光景が豊かになります。

ただ、文化という切り口は人によって様々な解釈がなされます。そのため寄稿される文章のジャンルも多種多様で、それがこの雑誌に厚みももたらしてくれます。では、乱雑な雑誌になっているかというと決してそうではありません。この雑誌には”コーヒー文化”を醸成しようという想いが詰まっています。そして寄稿者もその想いを大事にしているから、どれもそれらの信念が通底していて読み応えのあるものとなっているんです。

コーヒーが持つ文化的な香りをもっと堪能したくなったら、本誌を携え、喫茶店を訪れてみてはいかがでしょう。きっと今まで気づかなかった新しい事柄が見つけられるんではないかと思います。

いなほ書房HPより

【最近の中身をざっくり紹介】

最新号No.136目次 いなほ書房HPより引用。

この雑誌を彩っているいくつかの特集/寄稿文について紹介したいと思います。

私が紹介している以外にもとーっても濃い沢山の文書が掲載されて掲載されていますので、まずいなほ書房のサイトで雑誌バックナンバーの目次ページをじっくりご覧になってみてください。そのうえで気になるものがあったらぜひオーダーしてみてください。きっと期待した以上に熱量ある文書がお手元に届けられると思います。

贅沢な特集ページ

Interior of a London Coffee-house, 17th century.JPG
By Anonymoushttp://homes.chass.utoronto.ca/~sajamato/description.html, Public Domain, Link

現在特集ページ(131号から連載が続いています)では日本コーヒー文化学会の会長でもいらっしゃる井谷善恵さんが1956年エイトン・エリス著の『ペニーユニバーシティーズ』を全訳するという試みがなされています。また135号では井谷さんが訪れたマレーシアのコーヒーに関してでした。大学院で美術史を学んだ井谷さんの深みのある翻訳はもちろん、現地のコーヒー文化のレポートは読みごたえがあります。

「街では友達にみせられないような詩を詠むのか?それなら喫茶店にこう!」

珈琲と文化No.134 井谷善恵氏による『ペニーユニバーシティーズ』(第6章”賢者たち”のコーヒーハウス)翻訳文より

さて先ほども書いたとおり、直近の特集は冒頭で書かれている『ペニーユニバーシシティーズ』翻訳なわけですが、これがとにかく面白い。

多くの人たちが小林章夫さんが書かれた『コーヒー・ハウス』でイギリスのコーヒーショップの勃興期にこう呼ばれていたことは知っていると思います。また、そこで多くの議論がなされ、政治はセントジェームズ、証券取引はジョナサン、海自保険はロイズといったものは知識として知っている人は多いと思います。さらには様々な学問分野に関する議論がかわされた一方、2ペニーほどの入場料を払えば一日入り浸れ、知識人の話を聞くことができたことについても知っているでしょう。

ただ、そこで具体的にどんな会話が展開されていたのかを知る人は少ないんではないでしょうか。答えは今回の特集にあります。

例えば、上の引用はコーヒーハウスへの誘い文句なわけですが、こんな風に気楽に誘っていたんだと思うと、今も深も変わんないんだなと思えると思います。

こういう当時の会話や広告文などふんだんに盛り込まれた『ペニーユニバーシティーズ』を読めるのは今のところこの雑誌内だけです。

これ以外にも文章を読んでいると当時のコーヒーハウスの様子が克明に伝わってきます。そして、当時の雰囲気を肌で感じながら、飲むコーヒーは最高です!

現場感あふれる報告

セラード珈琲HPより

個人的に好きで毎号欠かさず読んでいるコーヒー豆を取り扱うセラード珈琲の現場からの報告とハワイコナでコーヒー生産を行っている山岸コーヒー農園の山岸さんの寄稿文です。

セラード珈琲の文章の多くはポルトガル語の挨拶ボンジーアからはじまる軽快なものです。担当は何人かで回しているようですが、直近の業務のこぼれ話、面白話で構成されています。ただ、毎回革新をつくような情報も盛り込まれています。ブラジルでの日本人のコーヒー鑑定士の育成状況だったり、農園の開拓状況。いずれも読んでおくと他のプロフェッショナルとの会話が充実したものになるのではないでしょうか。

また、ハワイコナにある山岸コーヒー農園の山岸さんはコーヒー界では珍しい日本人生産者です。最近では沖縄をはじめ、国内生産者もぼちぼち出てきています。また、SNSを覗けばアジア、中南米、アフリカといたるところで日本人がコーヒーの収穫状況をアップしていたりします。

ただ、山岸さんは現地に根差し、だいぶ長く農業生産に従事しています。また山岸さんはご夫婦でQアラビカグレーダー(コーヒー鑑定士)の資格を取ってらっしゃいます(ちなみに山岸さんのQ試験に関する情報は受験の際に非常にお世話になった記憶があります)。

山岸さんは生産現場、特に農園を経営している人ならではの生の声が聞けます。世界的に不足するピッカーと不法移民の問題、高騰する生産コスト、温暖化することによって今まで以上に困難に直面するコーヒーノキ等。冷静に、でも対処すべき喫緊の課題として文章を綴っています(ちなみにHPを確認したら最新の寄稿文まで掲載されていましたので、興味ある方はまずこちらをご覧になっていただくとよろしいかと思います。)。

珈琲と文化らしい珠玉の寄稿文

Shu Shunsui.jpg
草川重遠 Kusakawa Shigetoo – 日本肖像画図録 (京都大学文学部博物館図録) 思文閣出版 1991年, パブリック・ドメイン, リンクによる

やはり珈琲と文化といったら特集もそうですが、文化に着目したものを忘れてはいけません。例えば、茨城から展開するサザコーヒーの鈴木誉志男会長は偉人、水戸光圀だったり、儒学者・朱舜水がコーヒーを飲んでいたのか?というテーマで寄稿しています。他にも外国を訪れた際の体験と現地のコーヒー体験等。それらがカラーでみられるのも贅沢です。

また、喫茶店には必ずおかれていたマッチボックスに着目した村田商會の村田龍一さんの寄稿文も読みごたえがあります。最近では見られなくなったマッチボックスですが、当時の喫茶店では灰皿とのよこ、もしくは中に置かれてました。そのデザイン性、同梱されていたマッチ棒等に着目しながら、お店情報をシェア。掲載はここしかないと思える内容です(笑)。

その他にも多くの寄稿文が寄せられていますので、興味がある方はまずバックナンバーを一冊いなほ書房に頼んでみてはいかがでしょうか(紹介できていないですが、昴珈琲店の「ブレンドの魔術師」もおすすめ。まぁ、ブレンドの話はほとんどされていませんが、あっ、そういえばNo135号でhideさんの楽曲「HURRY GO ROUND」をイメージしたブレンドの話はぐっとくるものがありました。)。

ちなみにいなほ書房へ直接オーダーする場合電話・FAXのうえ、振込です。。。。まぁ、そうでなくとも珈琲問屋やサイトでで仲介しているお店もあるようなのでそちら経由で買うのもよろしいかと思います(購入意思持った方、最後まで頑張ってください。ファイトです!!)。

本の概要

ISBN登録なし。お問い合わせは発行責任者のいなほ書房までお願いします。

関係サイト

珈琲と文化(いなほ書房):http://inahoshobo.cafe.coocan.jp/

四季の珈琲(いなほ書房):https://shikinocoffee.jimdofree.com/

日本コーヒー文化学会:https://jcs-coffee.org/

次の一冊

いなほ書房は一般消費者向けよりも喫茶店経営者向けに雑誌を発行しています。もう一つ当サイトでも紹介したのが『四季の珈琲』です。こちらは小冊子形式で短い時間で充実したインプットができるものです。内容は『珈琲と文化』にも通じるものがあって硬派な感じも残しつつ、親しみの持てるものとなっています。金額も『珈琲と文化』に比べて少しお手軽になっています。

雑な閑話休題(雑感)

バリスタさんと話しながら飲むコーヒーを決められるお店。

喫茶店に置かれている雑誌はそのお店をめっちゃ表すと思います。新聞や週刊誌を置くローカル喫茶店、自分のお店が掲載されたページに付箋をつけたムック本や雑誌をおく老舗洋食店、じゃらんや地元特集が置かれている観光客をターゲットにしたカフェ等。

色々思想が面白いなと思います。そして、個人的に面白く感じているのが、この『珈琲と文化』を置いているところ。たぶん、巻末にある支援企業に複数部数配布しているんだと思います。

私が見つけたのは渋谷にある『ロストロ』でたまたま見つけました。その時は希望したお客さんに無料配布していました。お客さんの層があっているようであっていない感もある絶妙なラインだなと正直思いました(笑)。ただ、私も、訪れているのでこの本が刺さるそうもいるんだろうなって思った次第です。

いなほ書房HPに掲載されている『珈琲と文化』支援企業一覧を引用。いなほ書房HP上ではクリックすると各企業HPへのジャンプできる設定になっています。

ちなみに『珈琲と文化』内だったり、いなほ書房HPのトップページに支援している会社が掲載されています。もちろんその中に『ロストロ』もこの一覧にあります。

そういう意味ではこの本の趣旨に共鳴している会社なわけですから、


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