【本紹介・感想】母国と言語のずれの中で生きるとは・・・『「国語」から旅立って』

「国語」からたびたって装幀

内容

Photo by Frankie Guarini on Unsplash

台湾で生まれ、ご両親の仕事の都合で3歳から日本で過ごすことになった著者の温又柔さん。この本には彼女が日本に移り住んでから大人になるまでのことが綴られています。

温さんは台湾語と中国語が飛び交う家庭で育ち、来日して幼稚園に通うようになると、やがて日本語を習うようになります。そして、学校や友達と過ごす時間が増えるごとに日本語の存在が彼女の中で大きくなっていきます。そしてそれはいつしか元々使っていた台湾語を超える存在に。

理解ある先生や友達に囲まれながらも、時に感じる言語や国を通した違和感や孤独。周りも悪意をもって接しているわけでもないのに、自然と出てくる違いを認識せざるを得ない場面。温さんはそんな経験を、自分が毎日書く日記を通して考えていくことに。

多くの経験を経ながら時に「国籍」や「国」という概念に、そして「母語」、「母国語」と「国語」という言葉について、断続的に悩まされることになる温さん。

この本は、そんな彼女の半生を通じて私たちにとっての、言葉や国籍を考えるきっかけになり、また周りの人たちにもそんな思いをさせてはいけないと強く感じられるようになる、そんな一冊でした。

「国語」から旅立って (よりみちパン! セ)

「国語」から旅立って (よりみちパン! セ) [単行本(ソフトカバー)]

温又柔新曜社2019-05-15

感想(ネタバレ注意)

読者としての私の前提

少しだけこの感想文を書いている私についてお話させてください。

私は帰国子女でした(もう大人なので過去形でいいのでしょうか?)。中国語や台湾語圏ではありませんが、英語圏や仏語圏で幼少期の多くの時間を過ごしました。著者とは違い、一か所で継続して育つことはありませんでしたが、それでも筆者の体験に様々なところで我がことのように同意してしまうこともありました(国籍の観点は境遇が違うので想像の範疇になります)。

ちなみに小学校高学年の頃は日本にはおらず、ローマ字教育はすっ飛ばしています。だからこそかもしれませんが、帰国後に目にしたローマ字の看板には似たような違和感を感じました。また、これはたまたまですが、私も少しだけローマ字読みではない表記がパスポートに使われているので、それをテストで使ったら間違いだったのかな、なんて思ってもしまいました。

余談ですが、就職活動の時にシティバンクをはじめとする外銀が銀行法によって強制的に“銀行”という名称がつくのはまた違った意味で違和感を感じました(笑)。

脱線しましたね。

とにもかくにも、私自身、日本に戻った時には日本語の発音が少々?たどたどしく、かといってネイティブ並みに英語やフランス語ができるかというとそうでもなかったんですよね。だから、色んな意味で母国語に対するコンプレックスやら、劣等感を抱いた記憶があります。まぁ、今となってはそれがある程度自分のアイデンティティにもなっているのだから、不思議なものです。

そんな境遇の人がこれから感想を書いているんだ、なんて思っていただければいいかなと。だから、ピックアップする箇所や、同意もしくは否定の仕方が少し異質かもしれませんが、それはそういう背景からくるものなのなのだと、ご理解いただければ。

そんな帰国子女だった私が抱いた感想

率直な感想として、この本は(私を含む)日本人にとってとても馴染みやすい本だと思いました。

幼少期に台湾から日本に移住し、すべての人ではありませんが、多くの思いやりを持ち、想像力を働かせられる人々の中で育った温さん。その結果、少なからず日本語に対する肯定的な見方もしてくれています。それは幼少期に日本へ移り住んだ厳しい”外国語”教育の現場を見慣れていない私たちにとって、こういう状況もあるんだと事実を受け入れや鋳物だと思います(いきなり、一番厳しい現実を突きつけられてもなかなか人間って受け入れがたいものですよね。そういう意味ですごい絶妙なラインをついてきた内容だと率直に思いました。)。

そして温さんは台湾人でありながらも、日本人のフィルターから、もしかしたら想像しながらかもしれませんが、見た異文化である中国や台湾について私たちに語ってくれています。その対象は日本にも及びます。それは知ってはずなのに、知らない国の側面で様々な新しい発見がありました。

もちろん、温さんの特徴的なフィルターは台湾と中国という似ているようで、やっぱり違う部分を浮き彫りにしていくれます。特に言語的にも、国民のオリジナリティも異なるところをいち早く小学校から感じ取り、それらを大人になるまでいやとなるほど経験していく様は、読みながら、心が擦り切れるような気持ちになりました。

ちなみに、温さんの文章は努めて理知的で相手の立場にたったものです。現在では一方的に温さんの立場にたって感情的にこうぎをしてしまいそうだけど、彼女はそんなことを求めていないような気がします。そうでなく、自身の見方を通して、色んな人に自発的に感じ取ってほしいのかな、なんて節々で感じられました。

特にそんなことを強く感じさせる、半生を走馬灯のように描いた最終章は圧巻でした。この本を読み終わった後、本からは少し元気を分けてもらえるし、その元気を回りの人たちに対して使いたいなと思えました。

もちろん、日本語を持たない外国人、すべての人が、彼女のような環境に生きているわけではありません。それを忘れてはいけないとは思いますが、それでも、この本は私の知らない世界を見せてくれ、様々なものを気づかせてくれた自叙伝というか、エッセイでした。

次のページでは個人的に印象に残ったエピソードについて触れていきます。ここから盛大なネタバレにもなっちゃうので気を付けてください。できれば、読後にお読みいただければ幸いです。

「国語」からたびたって装幀
最新情報をチェックしよう!