各Value Assessment Form概要:
CVAのValue Assessment Formには(1)Descriptive Form,(2) Affective Form,(3) Extrinsic Formです(各種フォームについてはSCA Value AssessmentのページからDLできます(リンク))。ただし、(1)と(2)についてはベータ版、(3)についてはアルファテスト版として紹介されています。今後、利用者の反応をみながら、内容を更新していくこととなります。なお、Descriptive FormとAffective Formについては内容及び評価工程が重複するところがあるため、統合されたフォームもベータ版では紹介されています。
既存のカッピングフォーム(参考)
1.Descriptive Form(詳述フォーム)
このフォームではコーヒー豆が持っている個性等を客観的に認知し、フォーム内のボックスにチェックするものとなっています(Check-All-That-Apply、CATA方式採用)。例えば、一番上のフレグランス/アロマには強弱の評価及び香りとして認識できるものを5つまで記入することが求められます。なお、フォーム内のボックスに該当しない場合は別途記してもよいとしています。
ただし、SCAはこれらのフォームについてデジタル版を用意することを計画しているため、その情報をどう反映するのかは不明です。
2.Affective Form(主観的評価フォーム)
これが、今までのカッピングフォームにあたるものです。付与する点数に小数点以下はありません。ただし、得点調整のシステムがあり、調整された点数が小数点となった場合、最も近い0.25単位の数値に収れんされます。
なお、既存のカッピングフォームについてかなずしも意図しない運用があったことを踏まえ、以下の点について変更が加えられています(CVA Protocol(Page29)の記載順に倣っています)。
(1)客観的である必要のないフォーム
既存のフォームでは1.Descriptive Formで記入したフレーバーやマウスフィールに関連した客観的な情報記入が求められていました。今回導入されるフォームでは、そのような情報ではなく、カッパーの主観的な好みや自身が知っているマーケットに評価されるかどうかを踏まえて記入することとなります。
(2)BalanceおよびClean Cupの削除
Balance項目はSCAが作成した段階ではより客観的な項目として運用することが想定され、Overallがカッパーとしての主観的な評価を反映するところだったのが、必ずしもそのように運用されていなかったため、今回の項目から削除。BalanceについてはOverallの一部として評価。CleanlinessについてはFlavorやその他の影響を受けるところで評価することが求められます(Cleanlinessが今回削除になった理由として、意図的なエイジングや発酵度合いについての考慮も勘案したため。購入者にとって受け入れられるかどうかがキーとなります)。
(3)Sweetnessの導入
新しくSweetnessを導入。既存のフォームではgive away(原則付与)ポイントとしてあったものを評価項目へ移動*。
*Understanding and Evolving the SCA Coffee Value Assessment Page 12参照
(4)得点スケールの変更
既存のカッピングフォームでは6点以上がベースとなっていました。今回のフォームではより幅のある1-9点を採用。このことによって点数がより分散することが期待されています。
(5)フォーム内での計算禁止
Reverse Cupping(逆算式の点数付け)という、カッピングフォームの最終スコアから各項目に点数をつけるという行為をさけるため、SCAではオンラインツール、もしくはアプリでの実施を推奨しています(オンラインツールはCVAのサイトで公開されています)。
そしてこれらの合計得点にユニフォーム(均一)およびディフェクト(欠点)について減点します。一方で、こののままだと合計点が72点になってしまうため、得点調整する必要があります。ただし、以前のフォームと違って得点が1-9点であることの影響を考慮することとしたため、計算式が以下となっています。
これらを計算すると以前同様に100点満点のスコアが計算されます(結果としてカッパーは減点を除けば、42点満点*の中で評価することになります)。
*計算式上はカッパーに47.25点の幅が与えられていますが、フォームの選択肢で各項目で最低点の1点が担保されているため、最終スコアは51.75ではなく、58スタートとなります。ただし、最低点の場合、減点項目も間違いなく該当するでしょうからファイナルスコアはさらに下がります。
3.Extrinsic Form(付帯情報フォーム検証中)
Extrinsic Formはまだ作成中ではあるものの、付帯情報である生産国、生産者、農園名、品種、ICO番号、精製に関する方法(詳細情報を含む)、場所、責任者、生豆のサイズ、グレーディング、認証の有無、その他等に関する情報を記入すべきフォームとなっています。
これらを網羅的にカバーすることによって、トレーサビリティ(追跡可能性)やトランスペレンシー(透明性)を向上します。
今後の新フォーム導入までのタイムライン
2023年中にアーリーアダプター(早期適用)(現在もSCAのサイトで募集中→(リンク))の間で導入を進めるとともに各種会議やイベントを通じて普及。今回導入されたSweetnessに関してThe Coffee Science Foundation (CSF)がオハイオ州立大学のFlavor Research and Education Center (FREC)と詳細研究を同時並行で実施。
2023~2024年にかけて、アーリーアダプターの反応を確認・反映するとともに、Extinsic Formについてもベータ版をリリースし、反応を確認。
2024年末、もしくは2025年に正式版をリリース予定。同時並行でデジタル版フォームを公開予定。
最終成果物ができるまで、このサイトでもきちんとフォローしていきたいと思います。
個人的な感想
SCAはこのCVAを用いて大きな改革を起こそうとしています。既存のカッピングフォームは欧米を中心としたスペシャルティコーヒーのトレンドを発展させるのに非常に大きな役割を果たしました。その結果、このカッピングフォームとの相性の良いものが重用されるようになりました。一方で、それはSCAやWCRが詠う多様性とは違うものになってしまっていました。このフォームが導入されば、様々な評価項目が顕在化されるため、コーヒーの多様性に一役買うことになると思います(もちろん、これらの情報がバイアーの手元に届いてないかというと必ずしもそうではないので、評価は分かれるところかもしれませんが・・・)。
一方で、これらを現場に適用しようとする場合、特にDescriptive FormとAffective Formの適用に相当な時間と努力が必要ではないかと思っています。カッパーのトレーニングはもちろん、生産者にもスコアリング方法が変更することについて理解を求める必要があります。
加えて、今回の改定でカッピングスコアの連続性が失われます。そのため、この点についても業界内外に丁寧に導入を行う必要があります(個人的には1-9配点だとしても、5点平均で79となっているので、個人としてのスコアは80点以上が出やすくなるのではと思っています。ただし、平均でならすとそうではありません。いずれにせよ、どのような点数がつけられた場合でも、過去の同点数のコーヒー豆と比較してどう異なっているかについて丁寧に説明する必要はあります)。消費者に対する丁寧な説明がなければ、逆にスコアに対する信頼性をなくします。
さらに、これらのカッピングスコアが主観的であるというなら、オークションのスコアはグローバルではあまり意味のないものとなってします。そして、そのスコアを構成する参加者を個別で確認し、そのスコアが果たして本当に信頼のおけるものなのか、確認する必要が生じてしまうのではないかと思ったりします。
その結果、今までマーケティングでカッピングスコアが果たしていた重要な役割が喪失してしまうのではないかという危惧もあったりします。いずれにせよ、今後も導入過程をつぶさにフォローしていきたいと思います。
最後にQグレーダーを育成するCQIは5/19付けステークホルダー(Qグレーダー)宛のメールで”コーヒーの品質評価は引き続き価値を持つと認識。CVAのポテンシャルは理解しつつも、既存のカッピングフォームを使用したQグレーダーによる認証は産業内で引き続き重要な役割を果たす。”といっており、現時点でQグレーダーのカッピングに際しては既存のSCAカッピングフォームを引き続き使っていくことを示しています。もちろん、もしかしたらQグレーダーも将来的にはこのフォームを活用することになるかもしれませんが、現時点ではその方向性は示されていません。
このブログをご覧になった方はこのフォームをどの段階で使おうと思っていますか。可能であればご意見を聞かせてください。
参考文献
SCA Coffee Value Assessment(ここに、解説・プロトコル等があります)
Towards a Definition of Specialty Coffee: Building an Understanding Based on Attributes (2021年9月26日発表)
Understanding and Evolving the SCA Coffee Value Assessment System:(2022年8月発表)
Evolving the SCA Cupping Protocol and Form: An Overview of the Pilot Testing Process(2022年11月発表)
https://coffeescience.foundation/sweetness-in-coffee
動画
Understanding Quality: The SCA’s new Coffee Calue Assessment System by Peter Giuliano
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