SCAJ2024セミナー出席報告『コスタリカの持続可能なコーヒー生産体制の紹介とカッピング』

SCAJ2024でExclusive Coffee S.Aが主催したセミナー(10/10(木)11 :00 東京ビッグサイト セミナーE ルーム)に出席しましたので概要をシェアします。現地の雰囲気を伝えるため、なるべくスピーカーの口調にならって文章を書きますが、一部意訳している部分もありますのでご留意ください。

登壇者及び来日生産者の紹介

スピーカーのフランシスコ・メナ氏はコスタリカのコーヒー生豆の輸出業者Exclusive Coffees S.A. の代表。また、国際的なコーヒー豆品評会であるカップ・オブ・エクセレンスで4度にわたって1位を獲得しているDon Cayito農園からFernandaさんとDiegoさん(参考:カップオブエクセレンス家族紹介 中央に二人ともいます。2人だけの写真は下のカッピング参照)が会場を訪れていました。

コスタリカのコーヒー生産とExclusive Coffees S.A.

Coffee Annual Costa Rica(USDA)

コスタリカは約200年にわたるコーヒー生産の歴史があります。小さな国土ですが、2つの大洋に囲まれた自然豊かな国です。コスタリカから輸出されるコーヒーは世界の0.04%だけですが、それでもスペシャルティコーヒーの生産国としては多くの人々に知られています。

そのコスタリカで、Exclusive Coffees S.A.は継続的な関係を生産者とのつながりを大事にしながら、16年間の歴史を刻んできました(設立:2008年)。コスタリカのコーヒーは量より質で勝負してきており、そのため、生産者はもちろん、日本の輸入者、そしてロースターとの関係を長期的な観点から大事にしています。

制度的に充実したコーヒー生産者支援

コスタリカの特徴として挙げられるのが、コーヒー関連の制度が充実していることです。コスタリカは各種法律を制定し、監督機関を置くことによってコーヒーチェリーの収穫から船積みまで(From Cherry (harvest) to Ship(ment))透明性と追跡可能性を最大限高めています。

1962年、コスタリカはコーヒーの労働者を守るために法令No.27621を制定、この法律に基づいて設置されたコスタリカコーヒー機関(Costa Rica Coffee Institute, ICAFE)がコーヒーバリューチェーン全体を監督しています。この法律は労働者が精製業者や輸出業者等によって搾取されないように守ることを目的としていて、コーヒーチェリーを精製業者に持ち込む際に各種情報を登録、それらをベースとして生産者の支払い分が自動的に決定するシステムを作り出しています。

また、コスタリカのピッカーは毎年隣国のニカラグアやパナマから訪れますが、雇用主はこれらの労働者に対して健康保険と労災保険に加入させる義務を負います。流れとしては雇用主はICAFEへピッカーの雇用情報を報告。ICAFEはこれを国の保険会社に登録することとなります。

これに加えてピッカーは家族と共に訪れることが多く、その場合家族がコーヒー事業に従事している間、施設で子供たちの面倒を見る制度もあります。これはICAFEとUNICEFが主導するHappy Homes Project(Casa de la Alegría)2というもので、施設では教育、栄養がきちんとカバーされるようになっています。そのほかにも女性の社会参画を支援するプログラム等、積極的に展開し、生産者の就労環境の向上に努めています。

気候変動や欧州森林伐採防止規則(EUDR)等の規制強化へへの取り組み

気候変動への対策についても積極的に行っています。CO2削減のため、NAMA Cafe Program3を導入して各農園やウェットミル施設のベストプラクティスを共有しながら、水資源の節約やごみの削減を実現しています。また、環境エネルギー省や文部省等の代表からなる機関によるEcological Blue Flag4認証という制度もできました。これはコミュニティが、水の節約、パーチメントの堆肥への転用、肥料の効率的な使用等の模範的な運営を行っていた場合、Blue Flag認証マークの使用を許可し、コミュニティのブランディングに活用してもらうというものです。ICAFEはこのような認証マーク取得の支援も行っています。

現在、ICAFEはCRCAFE(ウェブアプリに加えて、アンドロイド/IOSいずれにも対応)というアプリを通じてリアルタイムでどのような施策が必要となっているか、農園レベルで確認できるようになっています。加えて、このアプリには農園情報が網羅的(設立年、生産者、収穫量、生産区画等)に含まれていて、衛星からの耕作区域の情報も含まれます。あわせて、このアプリでは農園の過去5年間の森林伐採の有無まで確認できます。

そして、ICAFEはこれらのデータから約90%の農園について過去5年間に森林伐採を行っていないことをすでに確認しています。この充実したデータの背景にはコスタリカの国土の約30%が国立公園として指定され、保護の対象となっていることがあげられます。ちなみにこれらの情報についてリクエストがあれば日本の輸入者等にも提供することができます。

2024年3月には、UNDP、ICAFE、タラス農協が共同で取り組んで、初めて森林伐採フリーの認証を受けたコーヒー豆をExclusive Coffee S.A.がヨーロッパへと輸出しました5

また、再度の話になりますが、コーヒー生豆の売上の79.5%が生産者の手に渡るように設定されています。先ほども話した通り、これにはICAFEのシステムが活用されていて、情報をインプットすると自動的に見リングコストと利益が算出されます。

これらの清算内容はICAFEの理事会で承認される必要があり、裏で不正等ができないようになっています。なお、これらの過程はすべてデジタルで行われ、当事者が確認できるようになっています。

このような各種施策によってコスタリカのコーヒー生産者は持続可能性を保ち、またコーヒー産業として透明性や追跡可能性を担保しています。そして、このことによって、コスタリカのコーヒー産業は競争力を維持し、国際的なマーケットにおいて継続的なコーヒーの供給をコミットしていきます。

(QAで追加の情報を求められ、以下の情報をメナ氏が補足しています)

(Q)EUDRに関する取組ついてもう少し詳細な情報を教えてほしい

EUDRでは4ha以上と以下で対応が異なります。4ha以上の農園は監督機関が衛星でポリゴン確認できるようにする必要があり、過去5年間の伐採の有無についてもこの情報をもと監督機関で確認できる必要があります。このベース情報は実際に現地を訪れてポリゴン情報の登録をする必要がありますが、ICAFEは複数年前から多くの人員を割いてこれらに取り組んできました。

というのも、他の認証プログラムでも同様の情報が必要となるケースがあって、先ほども触れましたが、認証プログラムの登録支援もICAFEの業務の一つだからです。

そのため、例えば、レインフォレスト・アライアンスで求められている情報をEUDR用に加工し、足りない情報を追加するという作業がEUDRへの対応として行うイメージを持ってもらえばよいかと思います。追加作業となり、負担は少なくないですが、対応は可能ということです。

ちなみにコスタリカで木を伐採する場合には専門家が現地で確認のうえ政府からの許諾を得る必要があります(法令No.7575(森林法))。そのため、コーヒー農園が自耕作領域を拡張するということは原則としてあり得ません。仮に新規参入者がコーヒー農園をひらこうとする場合は牧場等を耕作地に転換する必要があります。

(Q)有機栽培や農薬の使用への対応を含めた環境保全に対する取組についてもう教えてほしい

1990年代環境への関心がコスタリカで非常に高まり、1992年に政府から精製所の水の使用制限、リサイクル、排水管理等を5年内に実施するアクションプランの策定・履行を求められました6。政府の支援もあってこれらが実現し、現在は河川の環境が大幅に改善しています。

コスタリカは熱帯地域にあって、非常に湿度が高い環境です。私が運営している農園でも大量の雨が降って、湿度が高い状況が続くと、コーヒーノキにカビが発生してしまうことがあります。その時にどうしてもそれらを除去する農薬等を使うことはあります。

個人的には肥料と農薬は対になっていると考えています。肥料はコーヒーチェリーの熟成を促進させます。また、葉の成長させ、多くの栄養素を空気中から吸収するのを助けます。一方で、農薬は病害虫からコーヒーノキを助けてくれます。これはコーヒーノキを健全な状態に保つために必要があります。

これらは良い土壌と適切な環境があれば最小限の使用に抑えられると考えています。そのため、私たちはコーヒーノキの栽培のみならず、周辺環境の管理にも力を入れています。

追加説明とカッピング(試飲)会

パナマゲイシャのルーツはコスタリカ

今回、3つの種類のコーヒー豆を持ってきました。ゲイシャ、SL28、そしてケニアです。

ゲイシャはパナマが有名ですが、ルーツは1960年代にアフリカからコスタリカの研究機関であるCATIEへ持ち込まれたのものです。当初、国内の農家は特段見向きもしませんでした。これを90年代にパナマのドンパチ農園がボケテ渓谷に持ち帰り、栽培。その後、その良さが現地で確認され、広がっていきました。2005~6年になってようやくコスタリカ国内でも栽培し始める農家が出てきて、今日に至っています。

SL28とケニアはコスタリカのスターバックスが中心となって栽培していました。現在ではいくつかの農園で栽培されるようになりました。

カッピングの様子

  • カッピング提供されたコーヒー

この日提供されたのはDon Cayito農園とその他農園のコーヒー豆が用意されました。いずれもExclusive Coffees S. A.が取り扱っているものでした。また、これらのコーヒー豆については各種規制で必要となる情報等も完備していて、必要に応じてExclusive Coffees S. A.で用意もできるとのことでした。

SampleM-3036M-3278M-3015M-3080M-3002
Date2024/6/122024/8/62024/6/122024/6/192024/6/11
Micro-millLos AngelesPuente TarrazuMontes de OroMonte CopeySol Naciente
FarmDon CayitoSan MartinEl YazalLa MesaSol Naciente
ProducerRicardo CaideronRodolfo RiversTuto GamboaNavarro PorrasFamilia Bonilla Martínez
VarietyGeishaGeisha #2GeishaLa MesaGeisha
ProcessYellow HoneyFully WashedWhite HoneyNaturalNatural
RegionTarrazuTarrazuTarrazuTarrazuTarrazu
Micro RegionDotaLeon CortesLeon CortesDotaDota
SampleM-3287M-3232M-1497M-3231C-0544
Date2024/8/82024/7/152024/2/222024/7/152024/6/25
Micro-millPuente TarrazuDon JoelCrestonesDon JoelLa Perla
FarmSan MartinDon JoelFila AltaDon JoelLa Casita
ProducerPuente TarrazuAllan OviedoAurea Torres C.Allan OviedoFrancisco Evchandi
VarietyGeisha #1KeniaSL-28KeniaKenia
ProcessNaturalYellow HoneyYellow HoneyWhite HoneyWhite Honey
RegionTarrazuWest ValleyChirripoWest ValleyWest Valley
Micro RegionLeon CortesSan LuisLa PiedraSan LuisLourdes

カッピングした簡単な内容は上のリスト通り。サンプル1はDon Cayito農園が推しているコーヒー豆だけあって頭一つ抜けていました。ゲイシャフレーバーはもちろん、そこに複雑さといつまでも甘い余韻がありました。

今回、Exclusive Coffeesが品種として推していたのはSL系やケニア系。いずれもオレンジ等の柑橘系の果実感があり、クリーンな味で、常備したい一品といえるものでした。また、ナチュラル系は柑橘系の味に加えて、グレープ系のフレーバーも感じられ、フルーティーさがきちんと加わっていました。個人的には多くの労力をかけてナチュラルにせずとも、ウォッシュドやハニーのほうに上品なクリーンさと複雑性を感じ、より好ましい印象を抱きました。

ただ、いずれもトップスペシャルティと言って差し支えないほどに個性とクリーンさを持っていたサンプルでした。

スピーカー:Exclusive Coffees S.A. (Facebook ) 、Don Cayito農園 (Facebook, Instagram) 本セミナーのプレゼンテーション資料の権利はすべてICAFE及びExclusive Coffees S.A.に帰属します。

参考:ICAFEUSDA Coffee Annual Costa RicaCup of Excellence

所感

環境や観光の先進国コスタリカというイメージは持っていましたが、その取組が1960年代に始まっていたのには驚きました。そして現在似たるまでに多くの施策を打ってきたのはさすがというしかありませんでした。

そして、何より印象的だったのは昨今話題となっているEUDRへの対応を自然と行っていることでした。ニュースやウェブではアフリカを中心とする多くの国で対応に苦慮していると報道されていましたが、コスタリカは着々と準備を進めていることがよくわかりました。特にExclusive Coffeesから、「既存データを活用しながら少しチューニングしながら、それでも足りなければ必要に応じて追加すればよい」という、心強い説明には大いに感心させられるとともに、ここ強くもありました。

そういう態度で臨めるのも従来から規制当局が効果的に機能していることが大きいのだと思います。EUDRへのスムーズな対応やその他の充実した農園支援によってコスタリカのコーヒー産業は益々存在感を増すかもしれない、そう思えたセミナーでした。

そんなコスタリカのコーヒー産業の情報をこれからも集めていきたいと思います。

  1. 法令No.2762(SCIJ) ↩︎
  2. Niñas y niños estarán protegidos en la nueva Casa de la Alegría en Tarrazú (UNICEF) ↩︎
  3. Nama Cafe Program概要(CCA Coalition) ↩︎
  4. Ecological Blue Flag Program (ICT) ↩︎
  5. Costa Rica exports first batch of deforestation-free coffee(UNDP) ↩︎
  6. Sustainable Coffee in the Mainstream: the case of the SUSCOF Consortium in Costa Rica (Myrtille Danse and Teun Wolters) ↩︎

最新情報をチェックしよう!