
2024年9月Brian Niccol氏(前職はメキシコ料理最大手チェーンチポトレCEO)がスターバックスの新CEOに就任してから最初の100日が経過しました。Niccol CEOは就任以来、”Back to Starbucks”を掲げ、最初の100日は店頭を回り、仕入れ業者と協議をしていくと発表していました。これと同時に対処可能な施策(代替ミルク(ソイ、オーツ、アーモンド、ココナッツ)の追加料金撤廃 等)については早期に展開してきました。
2025年1月28日、スターバックスは2025年 1Qの業績発表(会計年度は10/1開始)をしました。この際、Niccol CEOは自社のウェブサイトといくつかのメディアに出演し、業績と取り組んでいる改革の現状について説明しましたのでここで整理していきます。
IR資料で発表されている”Back to Starbucks” Planの骨子
取組事項 | 問題点 |
スターバックスブランドの再構築 | 多くのメニューや多数のブランドイメージに似合わない店舗ができたため、現在ブランドイメージが低下 |
パートナー(従業員)への充実した支援の確立 | パートナーと同じ目線に立ててない。また、メニューの多品種化と複雑化によって未だかつてないほど顧客は注文で待つことになっていて、パートナーはストレスを受けている |
コーヒーハウスの空気感醸成 | 誰もが利用できるオープンなコーヒーショップを目指していたが、結果としてコミュニティとの衝突が起こるケースが過去にしばしばあった |
モーニングで競合他社に勝利 | ファストフードチェーンのモーニング参入、特にコーヒー品質の向上もあり、モーニングは厳しい競争環境に晒されている |
これはCNBCのキャスターへ回答したスターバックスとして優先的に取り組んでいる4つのことです。IR資料(下の英語資料参照)でも、表現は少し異なっていますが、同様の取組について説明がなされています。Niccol CEOとしてはこの4つの大目標を達成すべく、これらを実現するための小項目が何なのかを洗い出していたのが、直近(就任して最初の100日間)の取組だといえるでしょう。

で、以下に現在までに発表済みの主な施策についてまとめました。当然、これら小項目を改善・実施することで最終的には上の4つの優先事項が達成されるとNiccol CEOは考えています。
発表されている施策の詳細
施策 | 具体的内容とその目的 | 課題・問題点 | 取組状況・期限 |
メッセージ記入強化 | ドリンク提供時に顧客へ前向きなニュアンスのメッセージを書いて、顧客体験を向上 | バリスタの作業負担増。顧客は毎回メッセージを見ることになるが、慣れてしまわないか、それは特別な体験なのか | 2025/1/27から取り組み開始。2月末までにマニュアルに組み込む |
モバイルオーダーの改善 | モバイルオーダーのオーダー内容に制限を設けて、顧客の待機時間を減らす | 一部店舗ではこれで解決できないほどオーダーが混みあっている。モバイルオーダーのうち10%は放棄・キャンセルされた。 | 新しい順序アルゴリズムを用いたパイロット版の取組を3店舗で実施中 |
コンディメントバー(砂糖、ミルク、フレーバー等を自身で調整する場所)の復活 | コロナ以降、廃止していたコンディメントバーを復活。最終仕上げを利用者に任せ、店員の作業時間・負担を減らす | コンディメントバーに人が集まる。これらへの対応に結局人が割かれる。コスト増の懸念。 | 2025/1/27から一部の店舗で実施(リンク) |
代替ミルクの追加チャージ廃止 | ソイ、オーツ、アーモンド、ココナッツミルクをオーダー時に徴収していた追加料金の廃止し、利用者に寄り添う | 一部の代替ミルクは実際に高いこともあり、このコストを利用者に転化できなくなった | 2024/11/7から実施済(リンク) |
セラミックマグ/グラスでの提供 | 店内で過ごす顧客に対して紙コップではなく、セラミックマグ/グラスでの提供を行い、滞在時間の品質を向上 | 顧客の同意が得られていない。また、場所・人によっては少し店内に滞在した後、持ち帰りたいニーズへ対応できない | 1/27から一部の店舗で実施(リンク) |
お代わりの提供 | 店内滞在でセラミックマグ/グラスを選択した場合、その滞在期間中、お代わり自由 | セラミックマグ/グラスとセットでの導入。なお、コールドブリューやフレーバーティー等の商品は対象外 | 2025/1/27から一部の店舗で実施(リンク) |
メニューを30%削減 | メニューを削減してバリスタの作業負担を減少 | 特定のメニューを目的に通っていたファンが離れる可能性/選ぶ楽しみがなくなる | 2025年9月末まで(2025年会計年度度末まで) |
デジタルメニューボードの導入 | 機動的なメニューを提供 | 朝/午後等、時間帯毎に適切なメニューを表示 | 米国内の直営店に対して(1月発表時から)18か月以内 |
オープンドアポリシー(2018年導入)からバイサムシングポリシーへ変更 | スターバックスに滞在するためには商品の購入を義務付け/購入顧客を適切に扱い、関係ない人の入店を減らし、治安の向上させる | 一部地域では治安が悪く、店員が退店を促すのは現実的ではないとの指摘もある | Code of Conduct(行動規範)制定済/先の質問に対してCEOは必要に応じて警備員を配置するとの回答 |
この他にもドリンクの割引セールの頻度を少なくしてブランド価値の毀損しないようにした、従業員の待遇改善実施、労働組合と協議を継続実施等についてIR資料やメディアとのコミュニケーション時に発表しています(Niccol CEOは2025年度内にある程度大きなリストラ(ジョブカット)があることについても発表しています)。
ちなみに多くのメディアで注目されているのがモバイルアプリのことでした。現在、店舗で注文する際の商品提供目標時間は4分で、モバイルオーダーの場合は遅くとも12-15分に対応することとなっています。
しかし、忙しい時間帯においてこの目標が達成できていない店舗も多く、利用者の不満につながっていました。これは従来のモバイルオーダーはきたオーダー順(First in First out)に対処することになっていたにもかかわらず、利用者は必ずしもこの順番で来ず、また店頭注文と混合し、受取カウンターはひどい状況になっていたとのこと。
Niccol CEOの説明ではこの状況を新しいアルゴリズムを用いることで、オーダーに優先順位をつけ時間を短縮、また店頭注文との混合を避けることを考えていると説明していました。そして、この取組は現在3店舗でトライアル中で、うまくいっているとのことでした。今後、このトライアルは規模を拡大していくとも言ってますので、それらの運用がどうなっているのか知ることのできる日は案外近いのかもしれません。
各施策に対する反応

2025年1月28日第に発表した第1四半期の業績報告が予想を上回ったことから、株価は上昇しました(ちなみに2024年8月にNiccol CEOの就任が発表されてからスターバックスの株価は上昇傾向にあります。)。また、上に挙げた矢継ぎ早の改革へについても好意的に報じている大手メディアが多くみられます。ただ、個人ブログやSNSレベルだと賛否は分かれているようです。いずれにせよ、これらの取組が数字として現れるのは今後なので市場やメディアも引き続き注視しているというのが実情だと思われます。
なお、今までまとめたものはあくまでUSでの取り組みについてまとめたものです。
2025年、日本では立地別(空港などの特別地域、都市部、地方部)に異なる値段を導入すること(リンク)が話題になっていますが、これらの施策が日本で取り入れられるかは不明です。
個人的には日本でもいくつか取り入れてほしいなと思うものもあります。ただ、セラミックマグでお代わり自由だと、店を訪れた際に座る場所が今以上になさそうで、それはそれで困るな、というかんじでしょうか。
これらの施策は他のファストフードチェーンやコーヒーチェーンも追っているはずなので、日本でも追随、もしくは先んじて導入するところも現れるしれません。利用者としてはこれらを意識しながら訪れてみると新しい発見があるでしょうし、自分の業務にも取り入れられるかもしれませんので、注視してみてください。
当サイトでは引き続き大手チェーンの動向についてフォローしていきたいと思います。
参考: Starbucks cutting 30% of menu items to speed up service, Starbucks’ new policy: Buy something or get out by FOX5 New York, Starbucks’ new CEO reveals plans to overhaul strategy, slash menu items, and double stores in the U.S., Starbucks’ new boss is banking on ‘mug hugs’ to get customers to hang around longer by Fortune Starbucks CEO Brian Niccol still must overcome this ultimate challenge by Yahoo finance Brian Niccol wants to double Starbucks’ US footprint by Restaurant Dive, Starbucks CEO zeroes in on ‘bringing order to mobile ordering’ by CX Dive
- スターバックスの年度は10/1開始のため ↩︎