【時事】コーヒー価格の値動きについて

前回の記事ではコーヒーチェーンの値上げの状況について紹介しました。値上げの背景には原材料、エネルギー価格、人件費を始め、様々なものの高騰があると思います。今回はその中でもコーヒー価格にスポットを当ててみたいと思います。コーヒー価格は一体どのくらい値上がりしたのか、また、そもそも生豆はどのくらいの価格で取引されているか等、まとめていきたいと思います。

コーヒーの実際の値動きを示すICO Composite

一般的にコーヒー豆販売店がコーヒー豆を仕入れる形態はどういうものがあるのでしょうか。日本はコーヒー豆の99%以上を海外から輸入しています(これも今後記事にしたいと思いますが、国内でも沖縄や小笠原等でコーヒー生産がなされていて、極わずかですが国内で流通しています。)。そのため、生産者、現地の輸出業者、もしくは国内外の商社や卸会社を経由することとなります。

その際、当事者間でコーヒー豆の売買価格を固定にするか変動にするか契約で決めることになります。そして、変動価格で取り決めを行う際に参照されるベース価格の一つが先物市場の取引価格です。これに取引対象となる豆の品質を考慮したプレミアム価格をのせ、その他の条件(コストの分配や付保条件等)するという流れになります(つまり、先物市場の取引価格(ベース価格)+プレミアム(上乗せ部分))。

そのため、コーヒー関係者にとって先物価格は単なる市場価格の予想値以上の重要な指標になります。今回、選んだ指標は特定のマーケットではなく、また品種にも限定しない、全体の動きを追えるICO Composite Indicator Priceという数値です。

ICO Composite Indicator Priceは国際コーヒー機関(ICO)が各市場(ニューヨーク、ブレーメン/ハンブルグ、ル・アーブル/マルセイユ)から出荷時の価格を聞き取りして、そのうえで取引量に応じて加重平均したもので、単位は生豆1ポンド(453.59237g)当たたりUSセントで表示されます。ちなみほかのサイトではコーヒーの先物市場価格(Coffee C Futures)を取り上げることもありますが、2000年以降のICO CompositeとCoffee C Futuresの相関係数は約0.98となっていて、どちらを使っても結果はほぼ変わりません。

Justia Business Contract より引用(https://contracts.justia.com/companies/thanksgiving-coffee-co-inc-7893/contract/57872/)実際の契約書文言の例。ここでもベース価格の参照値としてICO Indicator Pricesが例示されています。

図にするとわかりやすい値動き

そのうえでシェアしたいのが下の2つのグラフです。図①は2020年以降のコーヒー豆の取引価格です。赤線はコーヒー豆1ポンドあたりのドル取引価格で、青線はその価格を円転したものです(左軸の単位は赤がUSセント、青が円)。

図②は参考までですが、青線がFRBの政策金利目標、オレンジ線がドル円相場です(左軸が円、右軸が%)。金利によってインフレ抑制しようとするFRBの動きと、それによって急激に円安へと触れるドル円相場がよくわかると思います。これらをコーヒー価格と並べることでより明確にコーヒー価格が影響を受けていることをお見せしたくて並べてみました(ちなみに政策金利はなだらかになるはずはありませんが、面倒だったのでこんな感じにしています。)。

図①

図②

この表に入るまでの価格の流れとして、その年の収穫の出来高等を踏まえつつ、1ポンド100USセントから200USセント付近を2019年まで行ったり来たりしていました。つまり、コーヒー価格は継続的な上昇を実現できていませんでした。

2020年になるとコロナの発生とともに一時的に価格は減退。その後、おうちカフェ需要や港湾を始めとする物流問題が発生して、底値が硬い動きを見せていました。2021年半ばになるとコロナ禍に世間がアジャストしていく中でインフレが進み、コーヒー価格も2022年2月に期間中のピークをつけるまで上がっていきます。ただ、これもインフレが進み、景気に対する不透明感が現れると、コーヒー価格は横ばいから若干の値下げの方へと移っていきました。

本来であれば、円貨でのコーヒー取引価格もこの流れに続くはずでした、しかし、このころにFRBがインフレ抑制のために金利引き上げを発表。日銀は引き続き、金融緩和を維持すことにしたため、為替が大きく振れます。

結果として、日本円でのコーヒー取引価格は下がるどころか、上昇を続けてしまいました。これが落ち着くのが2022年9月ごろ。FRBの利上げのスピードが想定以上に緩やかだったため、為替が落ち着き、これに連動してコーヒー価格もさがり始めたんです。ちなみにこのころ、コーヒーの在庫が積みあがっていることもあり、USドルベースではさらに下がっていたのですが、以前に比べてUSドル取引価格に比べると高めに落ち着いています。これは為替レートが引き続き円安で落ち着いているためです。

なお、FRBの金利引き上げの表明以前は0.9以上の高い相関関係を持っていた円とUSドルのコーヒー取引価格ですが、2022年に限れば、0.6まで下がっています。そのため、日本へ輸入する際にはより為替レートも含めて注視して取引しないといけなくなりました(といっても基本的にこの辺を注意するのは輸入会社や商社ということになりますが…)。

ブラジルの国内事情とも連動

ちなみに影響があるという点ではコーヒーの最大の生産国であるブラジルと最大の輸入国であるアメリカの為替、つまりUSドル/ブラジルレアル相場も重要です。

また、日本をはじめとする消費国が自国に仕入れる際は現地との交渉後に、為替を組むことになるので、このUSドル/ブラジルレアルを経由することになります。もちろん、現地輸出会社と商社の契約書はUSドルベースかもしれませんが、現地の輸出会社の農園への支払いはレアルでされるため、価格決定の重要なファクターになります。

そのため、ブラジルが好景気でレアルが高いときは必然的にコーヒー価格は高くなり、一方、ブラジルが政情不安でレアル安を迎えるとコーヒー価格も調子が上がりません。

これまた参考までにUSドル/ブラジルレアルの為替レートを含めたヒストリカルチャートをつけておきます。眺めながら、色んな事を考えていただければと思います。

雑感というか感想

ここ5年くらいはドル/円相場は比較的緩やかでしたが、今後はもしかしたらこのようなコーヒー豆の値動きを繰り返すことになるかもしれません。いずれにせよ、次の日銀総裁の方針はコーヒー関係者も含め、多くの人の関心事項だと思います。

大手であれば、これらの情報についても専門部署がフォローし、適宜ヘッジの適用についても検討するのでしょうが、中堅・中小のロースタリーには負担が大きいのかなと思います。ただ、そこは、商社やメインバンク、もしくは同業者等と対話を重ねながら、各社の取組も参考にしつつ、独自の策を練るしかないのかなと思っていたりします。

また、上で書いたようにブラジルをはじめ、現地の経済情勢もコーヒー価格に大きなインパクトを与えるわけですから、バイア―は現地に行ったら、農園以外にも、JETROや大使館等を訪問してヒアリングするというのも面白いのかなと思ったりします。外国語で突っ込んだレベルまで話せるのならいいのですが、そうでなければ母語で効率よく情報収集できる機関がそれらだと思います(もちろん、情報提供は双方向であるべきですが・・・)。いずれにせよ、今後のロースタリーの担当部署や担当者は今以上に細やかな対応が求められるのかもしれません。

いかがだったでしょう。個人的にはこういう時事情報もフォローしていって、みなさんと情報共有できればと思っています。また、こういう情報をほしいというものがありましたら、コメント欄、もしくは個人twitterへコメント頂ければ前向きに対応してみたいと思います。本日も最後までお付き合いいただきましてありがとうございました。また次回の記事でお会いできることを楽しみにしています。

参考サイトおよび資料:ICO Daily Price, Yahoo Finance!, みずほ銀行外為公示相場,

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