【本紹介・感想】コーヒー店の最前線から『Coffee Fanatic三神のスペシャルティコーヒー攻略本 “コーヒー・ファナティクス”(概論/焙煎/抽出)』

内容

本書は小田急線の新百合ヶ丘駅近くにあるRoast Design Coffeeの三神亮さんが書いたものです。Roast Design Coffeeはその名の通り、コーヒーをデザイン(設計)して、そのデザインに基づいた焙煎・抽出を行い、お店が理想とするコーヒーをお客さんに届けるというコンセプトのもと運営されています。2023年6月には同じく小田急線の登戸駅近くに2号店ができ、勢いづいています。

本の著者である三神さんは大手コーヒーチェーンやスペシャルティコーヒーの専門商社での勤務を経たうえで、このお店を立ち上げました。現在も新百合ヶ丘本店の店頭に立ちながら、カフェの立ち上げ支援やコーヒー豆の買い付け、世界的な競技会への出場選手サポートやバリスタの教育にあたっています。

この本ではそんな経験豊富な三神さんが身に着けてきたコーヒーに関する知識の一端を紹介してくれています。

最初のパートではスペシャルティーコーヒーを定義し、その歴史、流通や取引方法を紹介。フェアトレードやダイレクトトレードの本当の意味や他の本ではなかなか知ることのできない実務的な取引の流れも書かれています。

2つ目のパートではコーヒーの焙煎とはどういったものなのか、どういったことをすれば酸味を強く感じられたり、甘味を抑えられるか、様々な要因をまとめて、そのコントロール方法が紹介されています。

3つ目のパートでは、その焙煎したコーヒー豆を思い描いたイメージに沿って抽出する際に留意すべきポイントを、これも焙煎のパート同様、ポイントをしぼりつつ、わかりやすくまとめられています。

書かれている内容は少し難し目でも、プロがこれだけのことに留意しながらコーヒーを取り扱っているんだと驚かされますし、新たな発見がきっとあるはずです。また、自身のコーヒー焙煎や抽出するにあたってこのポイントをどうコントローすればいいのかについて、様々なヒントやきっかけをくれる本でもあります。

この本をコーヒー入門の一冊目にはお勧めできませんが、コーヒーを好きになったり、自分で淹れるようになって知りたいことがたまってきた際の二冊目の本や副読本としてお勧めしたい本です(ちなみにお値段は相当リーズナブルなので、初心者の方でも興味が持てたらとりあえず買って暫く積読しておくのもいいかもしれません。きっといつか読む日が来ると思います)。

Coffee Fanatic 三神のスペシャルティコーヒー攻略本 “コーヒー・ファナティクス”(概論/焙煎/抽出)

Coffee Fanatic 三神のスペシャルティコーヒー攻略本 “コーヒー・ファナティクス”(概論/焙煎/抽出)

三神 亮, 文芸社, 2022-03-28

内容を振り返りながらの感想

本書は上で紹介したように3つのパートに分かれています。以下、少しずつ内容に触れながら、感想を述べたいと思います。

スペシャルティコーヒーの章

冒頭、スペシャルティコーヒーの概念を提唱したErna Knutsen女史の当初の定義について紹介しながら、スペシャルティコーヒーに求められるマイクロクライメイトやテロワールについて説明がなされます(定義は移り変わっていきますが、当初のコンセプトを再認識するのは間違いなく重要なはず)。

その後、ご本人が経験したコーヒー豆オークションで使われる評価フォーム(SCAフォームとCOEフォーム)について軽く紹介してくれます。様々なオークションに参加している著者の尺度は間違いなく参考になるもので翠簾野で、このパートはその尺度と一緒かどうか、確認するきっかけをくれます。もし、自分の尺度と違ったら何そうなのか、自身の尺度を調整することもできるはずです(文章上ではありますが、ある種のキャリブレーションもできるはず)。

そして、本書の特徴的なところでもありますが、スペシャルティコーヒーの輸入の流れ(流通の仕組み)を紹介しています。その際、自身が長く携わっていた輸入商社の役割や各種コーヒー豆における契約形態の特徴について紹介。また、巷でよく言われるダイレクトトレードやフェアトレードに対する本当の理解を読者に促しながらも、コーヒー流通のわかりにくさ・難しさ・誤解について指摘していました。この部分はなかなかどの本もタッチしていないので興味ある人にとっては面白いかも(ただし万人受けするネタではないと思いますので、そう感じたら読み飛ばしてもいいと思います。)。

最後にカッピングの参考になるような、精製方法、各品種が本来持つフレーバー特性や国の産地名がまとめられています。写真や地図がなく、文字が多いので少し読みにくくはありますが、ポケット辞書のように多くの情報が簡潔に載せられていてとても有用でした。自身が認識している味と差異があるか、また、どのような表現が適切なのか、いろいろ学べました。

また、地域特有の比較的新しい話題、例えばエルサルで100年前にケニアから持ち込まれたSL28が再発見されて再注目されている(P58 )とか、コーヒー好きの方との会話のきっかけとなりそうなトピックの紹介もさらなる好奇心を刺激してくれるものでした。

焙煎 Roast Designの章

焙煎したばかりのコーヒー豆

著者の三神さんは、コーヒー豆を焙煎することの意義を、生豆を焙煎することによって生豆の状態では引き出しきれていないポテンシャルを引き出し、コーヒーたらしめるフレーバーの複雑さと味わいを引き出すこととしています。このコンセプトに基づき、どうすれば、そのポテンシャルを引き出すことができるか、その試行錯誤が垣間見られる章です。

まずコーヒーを構成する主な味を甘味、酸味、苦味、フレーバー、マウスフィール(ウェイト:重さ/粘性、テクスチャー:舌触り、フィニッシュ:後口/余韻)と定義します。この定義の仕方は本書独特なものであって、通常の五味とは異なりますが、何を重視しているか端的にわかる良い指標だと思います。本書ではこれら以外にも様々なオリジナル用語と専門用語が使われていています。もちろん、その都度説明等はありますが、自身でもほかの本やネットで調べてその違い等について認識しておくと理解がさらに進むかなと思います。

本書では、その後、これらの味のコントロールの仕方について、各焙煎工程を分解、例えば、焙煎機の特徴、コーヒー豆の投入時の温度コントロール、焙煎時間、圧力のかけ方、等々、注意すべきポイントを丁寧にかつ簡潔にまとめてくれています。

普段、焙煎される方はこれらを頭ではわかっていても、なかなか分解しきれなかったり、プロファイルをいじるのを躊躇してしまっていたりすると思います。ただこの本を読めば、ズバリ回答にたどり着くわけではありませんが、少しずつ自分なりの色を出した焙煎にチャレンジできるようになるんじゃないかなと思います。少なくともそのきっかけをくれる内容になっているはずです。

抽出 Brew Designの章

ハンドドリップで淹れるコーヒー

前章ローストデザインの章と構成は同じです。自身が目指すコーヒーの味(酸味・甘味・苦味・フレーバー、質感)をイメージし、それを実現するために抽出工程を分解していきます。そのコーヒー豆がどんな特性をもっているのか、そしてそれらの特性から引き出せるキャラクターを計算。そして、そこから逆算して、どのような器具を使い、豆の粒度を設定し、何分を目標に淹れきるのか等々。もしうまくいかなかった場合のレシピの変更方法まで示唆してくれています。

そのうえで、できること・できないことを整理しています。例えば、酸味・フレーバーと甘味・(口の中での)質感が必ずしも正比例の関係ではない等。本当に自分がイメージしている味が自分の抽出方法でできるのか、いろいろと考えさせられる章になっているはず。

全体を振り返って

色んなコーヒー入門書がある中で少し異彩を放つ本でした。大まかなコーヒーの歴史やカップ(器)の話、喫茶店等の文化的な話題等には触れず、スペシャルティーコーヒーをお店で扱う人に知っておいてほしい知識が網羅されているという感じでした。だからこそ、スペシャルティコーヒーを扱う人には読んでほしいと思える本でもありました。

そして、読み終えたころには抽出や焙煎に対する熱が再び強く感じられる、そういう本でもありました。

本の概要

  • タイトル:Coffee Fanatic 三神のスペシャルティコーヒー攻略本
  • 著者:三神 亮(tw
  • 発行:株式会社 文芸社
  • 印刷:株式会社暁印刷
  • 第1刷 :2022年3月15日(5刷 2023年3月10日)
  • ISBN978-4-286-23435-9 C0095
  • 備考:

関係サイト

新百合ヶ丘本店のほかに、小田急線の登戸に2号店 Roast Design Coffee B-sideがあります。このほかにinstagramtwitterfacebookでも情報発信しています。プロ・アマ向けの焙煎や抽出セミナー等も行われていますので興味のある方はチェックしてみてください。

また、著者のブログではこの本のベースとなったブログ記事もあって、本書の購入を迷っている方はまずはそちらで確認してみるとよいと思います。ただ、本書はとてもお値打ち価格での販売となっているので、少しでも迷ったらとりあえず購入するのが良いかなとも思います。

次の一冊

この本に似た構成をしているのがバッハコーヒーの創業者である田口護さんが書いた『田口護の珈琲大全』です。ただ、この本と似ている構成になっていたとしても相反するコンセプトとなってしまっているところもあるので、様々な意見があるんだと思いながら読むことをお勧めします。そのうえで、自分に合うところを取り入れていけばいいのかなと思います。ちなみにこの本は少し古く、これをスペシャルティコーヒー版に特化・アップデートした『田口護のスペシャルティコーヒー大全 知識編』や『田口護のスペシャルティコーヒー大全 技術・実践編』もありますのでチェックしてみるといいかもしれません。

田口護の珈琲大全

田口護の珈琲大全

田口 護, NHK出版, 2003-11-16

雑な閑話休題(雑感)

Roast Design Coffeeの外観

この本を買うにあたって、Roast Design Coffeeの新百合ヶ丘と登戸の両店舗を訪れてみました。新百合の本店には前々から行ってみたいと思っていたんですが、私の家から比較的行きやすい登戸にできたのはいいきっかけになりました。

登戸店は登戸駅と向ヶ丘遊園駅の新興住宅街の間にあって、街にも、お店にもすごい将来性を感じました。そのうち武蔵小杉のように発展していくんだろうなと思えました。

お店はできたばかりということもあり、とても清潔感にあふれていて、店員の方も適度な距離感で接してきてくれるのがとても居心地よく感じられました。。

その後、新百合へ移動。こちらは高校時代によく利用していた駅前のケンタとミスドがそのままの場所にあったりして、なんか感動しちゃいました。。。で、駅から続く並木道を進んで一本小道へそれる、ちょうどいい距離のところにお店があって、勝手にテンションがあがっていました。。

こちらも店頭で少し迷いながらコーヒーをチョイス。店内でゆったりした時間を過ごせました。コーヒーをサーブされる際に少し店員さんが選んだコーヒーの特徴を教えてくれるのですが、決して押しつけがましくなく、それでいてストーリーを感じられるような空気感がとても心地よかったです。

お土産にコーヒー豆も購入。少しずつ楽しんでみたいと思います。

今日も最後まで読んでいただきありがとうございました。また次回の記事でお会いできるのを楽しみにしています。

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