内容
本書では、著者がインタビュアーとなって古今東西の有名な文学作品の登場人物たちに自宅やよく知っている家について聞いています。
とある章ではロンドンの都会に住むワトソン博士にインタビューをし、とある章では選ばれた騎士たちが集う城で城主のアーサー王から話を聞いています。中にはツリーハウスといえば聞こえはいいけど、小屋のような家を建てたロビンソン家の家長ウィリアムにまで話を聞きに行ったり。その家の種類は本当に様々。
そして、奇想天外にも登場人物は時を経て今の知識を得ている設定。だからピンタレストやコンマリのことだって知っています。エレン・ディーンはAirbnbへの登録を考えていますし、マクベス夫人は夫と夫人が眠れないことの解決策として、テンピュール・ぺディック製のベッドがいいのではと、思案しています。
また、本書の登場人物は物語の終わり方や自身の運命についてもより多くを知っています。でも、知らないこともたくさん。アーサー王はランスロットとグネヴィアの関係を知らないし、ミス・ハヴィシャムは燭台への注意が相変わらず不足しています。
そして、著者はかつては名作とうたわれていたとしても、配慮のない文章が入っているものには容赦がありません。そこには現代の多様な価値観の欧米が向き合っているものも垣間見えるかも。
そんなユーモラスで弁舌鋭い著者が訪ね歩く文学砂浜のお宅訪問にあなたも参加してみてはいかがでしょうか。
作品を知っていればより、知らなかったとしても、登場人物が語る内容を微笑を浮かべながら、楽しめる作品だと思います。
文学の中の家―『自分だけの部屋』を装飾する方法― [単行本(ソフトカバー)]
スーザン・ハーラン
エクスナレッジ2019-05-15
(アマゾンの販売サイトでは、数ページ公開されていますので覗いてみてください。きれいで可愛らしい部屋がいくつか公開されています)
感想
この本はタイトルに惹かれて本棚からとりあげ、本文を数行読んで購入を決めました。
正直に言うと、目次に目を通した時点で読んだことがない作品も多数あったのですが、それでも本文を数行読み進めてみると著者とのインタビューを介して行われる愉快なお宅紹介が面白く、どんどん読めちゃいました。
読み進められたのは、この本に紹介されている文学作品そのものを知らなくても構わらない寛容さがあったからでしょう。本を読んでなくとも、この本の文章からは『サウンド・オブ・ミュージック』のマリア・フォン・トラップの底抜けの明るさは伝わってくるし、『フランケンシュタイン』のヴィクターの会話からは、何かに追われるように発明行為を続けた病的な性格を垣間見られることができました。
もちろん読んだ本については注釈もない、単に匂わすような登場人物の会話からも様々な想像を巡らすことができてより楽しめるのは間違いありません(注釈は時に蛇足でもあすもんね。。。でも読んだことのない人には非常に助かる内容です。まぁ、疑問に思ったらwikiであらすじや登場人物を調べると意外と判明するエピソードもありました(笑))。ある意味、読んでいればその発言はフラグであり、伏線にもなっていることがわかるんですよね。
また、性格や与えられた役割が似通った登場人物の対談も各章に一つずつあってこちらも思わず笑みがこぼれる様な内容ばかり。それは時に登場人物を介した世間や慣習に対する著者のグチになっている部分もありますが(笑、まぁ、それは本文も同じか。)、それでも特徴をつかんで、その登場人物ならではの世間の切り方や捉え方をしていました。
個人的に本書に取り上げられながらも、まだまだ読んでない本も沢山あったのでこの本を本棚において、少しずつ本を読む毎に再読して著者がその登場人物を通してどんな風にその家をとらえていたのかを再認識したいと思います。
みなさんも、まずは書店で本書をとりあげ、知っている本に関するエピソードだけでも拾ってみてはいかがでしょうか。そして、何か気になる部分などありましたら私にもシェアしてください。それを踏まえてもう一度読んでみたいと思います。
あ~ぁ、もっと本を読む時間がほしいな、なんて。
本について
本の概要
- タイトル:文学の中の家―『自分だけの部屋』を装飾する方法―(原題: Decorating a Room of One’s own Text )
- 著者:スーザン・ハーラン( Susan Harlan )
- イラスト:ベッカ・スタッドランダー( Becca Stadtlander )
- 訳者:富原まさ江
- 解説:村上リコ
- ブックデザイン:松永 路
- 発行:株式会社エクスナレッジ
- 印刷・製本:シナノ印刷
- 初版第1刷:2019年5月13日
- ISBN978-4-7678-2627-1 C0098
- 備考:Decorating a Room of One’s own Text copyright ©2018 Susan Harlan illustrations by Becca Stadtlander Cover © 2018 Abrams Japanese translation rights arranged with harry N. Abrams, Inc. through Japan UNI Agency, Inc. Tokyo.
関係サイト
- Offical site: https://blog.inkyfool.com/
- twitter page: @nostalgicbroad
- Becca’s site: http://www.beccastadtlander.com/
この本って原著も書くのに多大な調べ物や労力が必要ですが、訳書も途方もないですよね。だって、原作はもちろん、翻訳版にまで手を広げてその訳書の特徴を踏まえた翻訳が求められるから。愚痴っぽい言い回しが多い人がいたり、表面だけ伝統を取り繕っている人がいたりと、、、文学作品の登場人物は一癖も二癖もあるんだな、と改めて思わされた本でした。
次の一冊
文学の中に登場する所縁の地との接し方は建物探訪だけではありませんよね。本や映画で取り上げられた土地をめぐるというのは昔から行われてきた楽しみ方です。それが近所だとしても、そういう作品を読んだ後はとても新鮮な気分で、また見知らぬ街を訪れるようになるから不思議なものです。ということで、そんな本はいかがでしょうか。この本は都内が舞台となった古い小説からライトノベルまで幅広く取り上げているのできっと知っているタイトルや場所が登場すると思います。そういう意味では今回上で紹介したものより親しみやすいかも。
東京物語散歩100 ― あの本の主人公と歩く (なるにはBOOKS 別巻) [単行本(ソフトカバー)]堀越 正光ぺりかん社2018-09-10
当サイト【Book and Cafe】では次の一冊に関する短い紹介文を募集しています。お返しは今のところ何もできませんが、ここにSNSアカウント等を記載した半署名記事をイメージしています。要は人の手によるアマゾンリコメンド機能みたいなものです。気になったかたはSNSや下のコメントもしくはお問い合わせ にご連絡頂けますと幸いです。
雑な閑話休題(雑感)
この本のように文学や映像化作品の舞台となった場所を訪れることをしばしばっ聖地巡礼といいますよね。最近ではこの幅は広がり、チェーン店の本店や旗艦店舗等に対しても、ファンの間では呼ばれています。
ただ本来の聖地という言葉は、宗教的な都市や土地(施設)にしか用いられなかったはずです。それがいつの間にか日本では特定の分野で重要な場所という風に柔軟な解釈がされていったのでしょうか。
最近は宗教的な配慮がなされ、あまり聞かなくなりましたが、流行や話題の場所(発祥地)をイスラム教の聖地に倣って「メッカ」と呼んだのは印象的です(メッカを引用して、他のベツレヘムやイスラエル等を用いなかったのはなんでなんでしょうね。)。
ちなみにこの文化が海外にあるのかなと思って、英語サイトをいくつか検索してみましたが、聖地巡礼をそのままローマ字読みで使っていたり、本来の意味と区別してアニメや漫画用のものとして”holy place (sacred place/site)”と使われているものが多く観られました。
この大らかなな語彙解釈って日本独特のものなんでしょうか。本書の紹介とはだいぶ違うところへ話題が飛んで行ってしまいましたが、そんなことを”お宅訪問”の本を通して感じてしまいました。