【本紹介・感想】もしもの時へのバックアップとしての『里山資本主義』という考え方

内容

私たちが思い描いていた未来は、グローバル化が進み、最大効率が発揮する社会だった。安価なエネルギーを遠くの地から調達して効率的な発電網を全国津々浦々に敷いて生産物に最大限の付加価値をして輸出すれば、富は蓄積されていく。そういう明るい未来だった。

それがギリシャ危機やリーマンショックで打ちのめされてしまった。それどころか肥大化した資本主義社会がシュリンクするときの恐ろしささえしることとなった。信用不安は中小企業を襲い、日本の製造業は円高に苦しみ、また成長著しい途上国の企業との価格競争にも巻き込まれるようになった。これは個人もそう。優秀な人材が海外から押し寄せ、今や将来が見通せる人材は数少ないといえよう。

そんな不安の中に、追い打ちをかけるように3.11の悲劇が起こった。このとき、私たちが築いてきたはずの効率的な電力網は機能しなかった。それどころか、様々なインフラが必ずしも盤石ではない上に成り立っていたことを知る。

今、私たちの果たしてそれを正常な国の形、そして人の生き方といえるのだろうか。

この本ではそんなグローバル経済から少し距離を置いてもう一度考えてみようという試みがなされている。

岡山県真庭市で取り組みが進む地域ぐるみのバイオマス事業。それは域外から調達していたエネルギーを見直し、地産地消に転換するといった試みだった。さらに取材は広がりを見せ、バイオマスエネルギーの地産地消で先を行くオーストリアの状況を探る。そこでは地域のエネルギー調達の多様化のみならず、若者の生き方に新たな選択肢を与えるまでになっていた。

その後、日本の地方で新しい生き方を模索する若い世代に着目した取材が繰り広げられる。そこには都心にはない新しい可能性が示されている。NHK広島取材班と藻谷浩介さんが垣間見た日本の新たなる未来とは一体どんなものだったのだろうか。

本書は2011年11月にNHKが中国地方向けに放送した『里山資本主義』をベースとして、NHK広島取材班がより広く、そしてより深く取材を実施してまとめたものに、日本総研の研究員で地域振興に関するコンサルテーションを専門とする藻谷浩介さんが中間・最終総括およびおわり・あとがきを寄せたもの。

NHKならではの広くカバレッジされた取材に、地域の実情を知り尽くす藻谷さんならではの冷静かつ鋭いサポーティブなコメントが光る一冊。

里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く (角川oneテーマ21)

里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く (角川oneテーマ21)NHK広島取材班KADOKAWA2013-09-25

【感想】

少し長い私の本書との向き合い方と全体の感想①

この前置きがあるということはいつも通り本書の主張と私自身に少し距離があるということです。内容を振り返りながらの感想をご覧になりたい方は次ページへ(内容については中立的にまとめるつもりです)。

さて、世間には本書の続編ともいえるものが出ている状況で、かつ新たなニューノーマルを迎えようとしている状況なので、何とも機を逸した感がありますよね(ただ、これは誤解でだったと読み進むごとに気づかされました。むしろ今読んでも面白いのかもと。その理由は後程)。

そんな本書は”はじめに”にも書いてありますが、NHK広島取材班が主体となってコーディネートしたものです。だからか、本書はどこか番組チックもしくはドキュメンタリーテイストを帯びています。ストーリーラインは一貫していてぶれを許さない、そのためストーリーラインにのれるかどうかが本書を好きになれるのかの肝かなとおもいました。

で、私はというとニュートラルでした。

正直言うと、個人的にはNHK取材班の主張には偏りがあるんじゃないかとまで少し思ってしまいました。確かにリーマンやギリシャ危機の時は金融機関が大きな引き金となりました。ただ、それはこの本で書かれているように数学者や金融システムのすべて悪いわけではありません。数学者は厳格なリスク管理をすることによって引当金を少なくし、より効率的な経済システムを目指し、その金融システムによって多くのアントレプレナーを輩出できたと思います。

問題だったのは2019年に日本でも起こった不動産投資や住宅ローンの不正審査、それを踏まえた歪なポートフォリオの上で組まれた証券化商品。一方で、一部の年金運用者が商品のリスクを理解せずに運用した結果、過大な損失を負ってしまい、その隙に乗じて空売り等を仕掛けられただけではないでしょうか。そういうアマチュアの投資行動は数学者の意図とは異なるところにあったと思います。もちろん、それらを仕掛けたのも数学者だったりするのでなんとも言えないわけですが。

なぜ、このことを言っているかというと、冒頭数ページ目に、投資ファンドに所属する数学者が論文に掲載されている数式(多分、何らかのモデルだと思うのですが、)について語るVTRを著者が見てその内容に驚くというシーンがあるのですが、だいぶ偏った見方をするだけでなく、その数式の本質的なところについてはあまり理解しようとしていないように映ってしまったのです。それどころか「不可思議なからくり」と表現してしまいました。この辺の言葉選びはもう少し丁寧に行ってほしかったなと思うばかりです。

で、そこから微妙に物語に入れない状況になってしまいました。もちろん、この本は「マネー資本主義」で取り上げられたキャピタリズムをテーマとしておらず、それを補完するかもしれない「里山資本主義」を題材にしているのだから、しょうがないのですが、なんだか置いていかれたような寂しさを覚える始まりでした。。

ただ、そんな温度差のあるところから始まった私の読書ですが、本書を読み進めていくとだいぶ印象は変わりました。もちろん、各章では突っ込みどころがありそうな地方の明るい未来や可能性ばかりが描かれるのですが、これが藻谷さんの総括と合わさると不思議な輝きを帯びてくるんです。

各章で多面的な説明がなされていないと思われる箇所を藻谷さんが論点整理しつつ、違う角度から補足説明をしてロジックを補強してくれるんです。そして各章で書かれていなかった課題等も指摘します。

ここまで読み進めるとNHK取材班た担当した少し突っ走った感のある文章は、藻谷さんの総括を信頼しての勢いだったのかなと気づかされます。それは担当者の起案書を上長が後押しするような感じかも。であれば、各章が突っ走っているのもわかるというものです。

ということで、次のページから本書の個人的に気になったところをまとめながら、感想の述べていきたいと思います。

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