【本紹介・感想】もしもの時へのバックアップとしての『里山資本主義』という考え方

グローバル経済から脱却する人々とやりがい、そして未来へ

藻谷さんの中間総括を経て、後半の3章と4章では地方へと移住するケースを紹介しています。

周防大島観光協会HPにある写真。豊かなみかんがなる畑からみられる港の光景(リンク

取り上げられたのは山口県南東部、瀬戸内海にある周防大島です。ほかの瀬戸内科の島同様にこの島でも柑橘類の栽培が盛ん。ただ、他の島しょ部同様に、高度経済成長を境に長らく人口流出に苦しんでいました。それが2000年前後を境に人口流出が止まり、都市によっては流入が増えているという。

もともとこの地で生まれて実家の稼業を継ぐために戻ってきたという人もいるそうですが、中には完全に新規で来る人もいるそう。そんな一人に松嶋さんというジャム製造に携わる人が紹介されています(Uターン者紹介HP)。電力会社で働いていた松嶋さんは海外で食べたジャムの魅力が忘れられず、奥様を説得、そして縁あって周防大島へと移り住みます。そこでそこには市場に出回らず、安価な値段でジュースへと形を変えていた多くの柑橘類がありました。これを松嶋さんができうる限りの価格で買い取り、お手製のジャムにして市場へとだすようになりました(お店HP)形を変えて市場に出しているという。今まで効率経済の名のもとに必ずしも評価されていなかった里山資源がここでも着目されるようになっているんです。ほかにも多くの経験を経て移り住んだ若者たちによって地元のはちみつ、イワシ等々、今まで必ずしも目が向けられいなかったものを掘り起こされているそう。そして、その人たちが島内の雇用を増やし、さらに島外からも人を呼び込んでいるという。

5章では違う角度から里山の資源がもつ可能性について掘り下げていきます。地方には多くの小規模農家がいていくつもの野菜が市場に出回らず、また無駄になっていくケースも散見されるという。また、デイケアサービスを受ける人たちの中にも家へ帰れば元気に自宅の畑を耕している人がいるという。そんな方々の中にはせっかく作った農作物をかつてのように出荷していなかったりして、やはり無駄にさせる人がいたそう。広島県庄原市の社会福祉法人を経営していた熊原さんはそれらに改めて目を付けたという。かつては経費を抑えようと域外から野菜を買っていたが、そういう野菜の存在をきき、自身の施設に通う方に聞いてみたという。そうしたところ、喜んで野菜を卸してもらえるようになったという。施設としても域外から買うより安く買えるようになり、また納品しているご老人も以前より生活にはりができたという。

こういうふうに以前は効率面ではじかれていた資源はそこら中にあるんでしょう。ここでは一部しか紹介されていませんが、この本から時間が立ち、多くの循環からはじかれた資源に注目が集まっているような気がします。そして、それらに着目しているのは多くは若いベンチャー企業だったりします。それは頼もしくもあり、この本で願われていた日本の未来なんではないかなと思ったりもしました。

本ではそれらの取り組みが今まで見向きもされなかった里山資源を新たな資源として活用できるといった主張のほか、孤立した高齢者を再び社会に復帰させ、より社会に厚みを増すものと主張しています。確かに一人一人の関係が希薄になったといわれる社会にあって里山にある資源をきっかけとした絆づくりというのは面白い取り組みかなとも思えました。

数年来語られてきた言葉

この本ではコロナ禍で再び使われるようになった二つの言葉について触れられていました。

まずは三菱総研の阿部淳一さんが唱えていた「ニューノーマル消費」について触れられています。この言葉はリーマンショックを機に、従来あった右肩上がりの経済成長がアメリカでも期待できなくなったということについて「ニューノーマル」といっていたものをベースに、日本の若者の消費傾向を合わせて作った造語です。日本ではリーマンショックによる不況、その後の東北大震災でこの傾向は顕著になったと本書は指摘しています。先を見通せない不況や天変地異の発生によって自分のための消費から、社会や人とのつながりを求めるつながり消費へ、そして新しいものを追い求める所有価値から、あるものに着目する使用価値へと。この傾向は近年顕著になっているのかもしれません。ただ、昨今のコロナを経て再度再定義がなされるのかなとも思えます。私たちのニューノーマルがどこに行くのか興味深いところです。

もう一つは同志社大学の浜矩子教授とのインタビューの中で触れられたシェアという概念。少しだけ本書から引用させてください。

「かつてシェアという言葉は市場占有率と受け止められていました。市場のシェアナンバーワンになりたいという言い方ですね。今はどうですか?今は分かち合うという感覚を持って人々に受け止められるようになっている。180度違う意味で使い始められているのです。グローバル時代、成熟経済に対する理解が広まっているのではないでしょうか。」

藻谷浩介・NHK取材班著『里山資本主義』(株式会社KADOKAWA) P184 浜矩子教授インタビュー

このシェアサービスという発想はこの本の前後から発生していましたが、その後急速に大きくなったような気がします。そういう意味ではこの本で触れていたことは非常に先見の明があり、当時読むことには大変意義があったでしょうし、今、再び読み直していろんな可能性について模索していくことは決して悪いことではないのではないかと思われます。

最後に、この本で模索された未来の姿の中にスマートグリッドとスマートシティの構想がありました。残念ながらスマートシティについては個人情報とデータ管理の観点からまだまだ整備するものが多いのかもしれませんが、着々と進んでいることは間違いありません。

住友林業2018年2月8日付ニュースリリース『街を森にかえる環境木化都市の実現へ
木造超高層建築の開発構想W350計画始動』画像:住友林業・日建設計(リンク

また、住友林業のプレスリリースによれば2041年までに木造の高層ビルつを作る計画もあるといいます。それはこの本の着眼点が間違っていなかったという証左だと思います。もちろん、これから多くのことについてバックアンドフォースを繰り返しながら進んでいくことになるのでしょう。それでも里山の可能性を忘れることなく、様々な資源を活用しながらよりよい未来を構築していきたいなとと思わせる本でした。

本の概要

関係サイト

銘建工業、日本CLT協会、内閣官房のページにも有用な情報があります。また、感想に書いた国内外の自治体と調べたい事柄を書くと様々な情報がありますので興味があったらぜひ調べてみてください。この分野は非常に手厚く研究が進んでいるような印象を受けます。

次の一冊

『里山資本主義』が放送されてだいぶ時がたちます。この本もその後取材を重ねたとはいえ、最新のものとは言えなくなっています。そういう意味でこの続編ともいえる『進化する里山資本主義』は面白く読めると思います。里山資本主義と同じ着眼点の街が日本全国に広がりつつあることがこの本からはわかります。コロナ禍を経てニューノーマルがよく話されていますが、この本にもそのヒントとなるモデルがたくさん収められていると思います。

進化する里山資本主義

進化する里山資本主義Japan Times Satoyama推進コンソーシアムジャパンタイムズ出版2020-05-25

当サイト【Book and Cafe】では次の一冊に関する短い紹介文を募集しています。気になったかたはSNSや下のコメントもしくはお問い合わせ にご連絡頂けますと幸いです。

雑な閑話休題(雑感)

少しだけ思い出話を。

私が藻谷さんの存在を知ったのは就職活動ででした。就職活動時に、受けた企業が彼のワーキングペーパーをまとめてくれたのです。何かの参考になると思うから読んでみたらいいよ、と。

そして、帰宅途中の電車で読み始めて、その日のうちにすべてに目を通した気がします。それまで華々しい会社ばかりに目を奪われていましたが、こんな生き方もあるんだなと思いました。

それは大きな転機だったかもしれません。私が歩んできた道の中にも何らかの形でそういうローカルとグローバルの間で何となく仕事ができればいいなとずーっと思い、何となくやってきた感があります。

今回、久しぶりに藻谷さんのまとまった文章を読むことができて気持ちが洗われました、と同時に初心を思い出しました。そして、できることをもう少し精いっぱい取り組んでみようと決意しました。

本との出会いってこういう気持ちにさせてくれるから、いいなと改めて思う今日この頃。次は何を読んでこのブログで紹介しようかしら。あっ、そういえばあの人は元気かしら、何て思ったりも。

今日も最後までお付き合いいただきましてありがとうございました。

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