【本紹介・感想】知られざるコーヒーの生産現場や流通システムがわかる『常識が変わる スペシャルティコーヒー入門』

スペシャルティコーヒー入門 装幀

内容

コーヒーチェリーを水槽に浮かべる理由や目的もよくわかります

この本は、「はじめに」の章(P11)に書かれている通り、「品質の高いコーヒーを求める人やそういう人たちに商品を提供する人たちを読者として想定し、その人たちがコーヒーのリテラシーを高めること一助になること」を目的としています。

だからといってタイトルに「入門」と書かれているし、手に取りやすい新書の形式で出されているだけあって、私のような素人読者も置いていかないよう、随所にコーヒーに関するお得な知識だったり、トレビアがちりばめられていて気楽に読める内容にもなっています。

まず、本書ではコーヒーの木がどういう環境で生育され、その際どのようなツールや方法を使って生豆の状態になっているのかを丁寧に説明していきます。

国際機関でも使われる共通用語で整理し、コーヒー豆の理解を促します。その際、なじみのない言葉が飛び交いますが、その都度平易な言葉に置き換えてくれます。また用語と現物が乖離しないように新書にもかかわらず、カラー写真も本書には収められています。

また、内容が机上の空論とならないように、具体的に異なる国のコーヒー農園の事例を二つほど取り上げ、実際のコーヒーの生育・出荷スケジュールも取り上げています。これは自らが堀口珈琲でコーヒー生産地を訪れ、仕入れ交渉等を行ってきた著者ならではの知見があってこその内容です。

そのため、本書は例えば海外旅行とコーヒーが好きで、現地のコーヒーツーリズムに参加しようと思った人が読むとそのツアーの価値が何倍にも増すようなものとも思えるし、コーヒー豆の仕入れに何らかの形で携わることになった人が最初に読む本としても適しているとも思える、そういった本だと思います。

常識が変わる スペシャルティコーヒー入門 (青春新書プレイブックス)

常識が変わる スペシャルティコーヒー入門 (青春新書プレイブックス) [新書]

 伊藤 亮太 青春出版社 2016-12-01

感想(ネタバレ注意)

もちろんこの水路にコーヒー豆を流すのも合理的な意味があるんです。

骨太なコーヒーに関する解説

改めて、本書は巷にあふれるコーヒーの歴史や社会学的な側面を語ったものではありません。一部、世間で語られているコーヒーに関する用語や流行について触れてはいますが、本書の大半はコーヒーの生産メソッドや流通等の説明に割かれています。そして、それらはとても実務的な内容となっています。元来、そういった内容の多くは専門的で、正直素人の私には理解が難しかったものでしたが、本書ではそれらを平易な言葉で根気よく丁寧に解説してくれていました。

コーヒー豆にパーチメントとミューシレージの区分がされているのも本書を読んでいるとよくわかります(図は堀口珈琲横浜ロースタリーのプレゼン資料より)

基礎的なアラビカ種やカネフォーラ種といったコーヒー豆の種類から始まり、コーヒーの実(コーヒーチェリー)の断面図を用いた各部位の説明、その実がどのように採取されるのか。人力や機械による採取方法。そして、採取されたコーヒーの実がどこで保管され、どの部位を加工・発酵させて生豆になるのか、いくつかの代表的な方法(ウェットやドライ等)を多くのページを使って解説してくれます。

こうしてみると、この本は仕入れ担当者の教材のように見えますが、これらについて私たちのような一般消費者も好みのコーヒーの特徴を捉えるうえである程度しっておいて損はない情報のような気がします。

実際、製造プロセスによってコーヒー豆の特徴もちがう風に感じられるのは事実ですし、そういったことを知ったうえでコーヒーの会話をするとよりコーヒーを楽しめるような気がします。

正しい理解を深めてほしいという著者の想い

コーヒーベルトでのコーヒーの耕作面積割合は低い?Photo by ds9hselee (pixabay.com)

ただし、この本は冒頭にも書いた通り、小難しい本ではありませんでした。コーヒーに関して私たちがかじった知識について今一度整理してくれます。

例えば、サードウェイブ(1つめがインスタント、2つめがスタバ等、3つ目がブルーボトル等といったトレンドを説明したもの)という概念は一見わかりやすくもあるけど、他の多くのムーブメントを取りこぼしている、とか。

また、コーヒーの生産領域を表しているというコーヒーベルトについてアメリカにおけるコーンベルトのような生産密度を持っていないとか。

さらに一歩踏み込んで、最近乱立している各認証機関のトレードマークについても著者の思うことを素朴に書き記していました。多くの機関が自身の信じる”持続可能な成長”に基づいて取引していますが、それが私たち消費者一人一人のイメージしているものと本当に合致しているのか、その内容を知らずにイメージだけで商品を手にしていないか等。いくつかの指摘に耳が痛くなることもあるかもしれませんが、考えるきっかけになることは間違いありませんでした。

最後に著者は、コーヒーの持続可能性について話をしています。コーヒーの持続可能性について大きな影響を与えているのは気象変動や人手だとしていますが、それらに認証商品はどれだけ寄与しているのか。また、本当にコーヒー豆を通じたサポートだけで十分なのか。コーヒー業界にとどまらず、よりマクロに物事をみてほしいと主張しています。 コーヒーに拘泥しないで、もっと大きな視野にたつのも重要なのでは?と(なかなかコーヒー業界に身を置く人からは出にくい意見ですよね。だからこそ、興味深い本でした)。

この本はこういった鋭い意見を随所に盛り込みつつ、コーヒーの生産や流通等といった小難しい題材にきちんと向き合った本でした。

堀口珈琲横浜ロースタリーの見学の記事は後日まとめたいと思います。

  ちなみに堀口珈琲では横浜ロースタリーの工場見学会を定期的に開催していて、本書の著者でもある伊藤さんが説明をしてくれます。本書のより深い理解にもつながりますので興味がある方は参加してみてはいかがでしょうか。

堀口珈琲横浜ロースタリー工場見学予約ページ

本について

本の概要

  • タイトル:常識が変わるスペシャルティコーヒー入門
  • 著者:伊藤 亮太
  • 責任編集:プライム涌光
  • 発行:青春出版社
  • カバー製版・印刷:大日本印刷
  • 製本:フォーネット社
  • 初版第1刷 :2016年12月10日
  • ISBN978-4-413-21071-3 C0277
  • 備考: –

関係サイト

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また、堀口珈琲のHPにあるパパ日記では堀口珈琲の創業者である堀口さんの活動、セミナー情報等もあります。

次の一冊

この本でも紹介されているコーヒーに纏わる情報を科学的に整理している本です。『「こつ」の化学』は一問一答形式になっていて自分の知りたいことがすぐわかるようになっています。また、『コーヒーの科学』は科学的な手法での解説を行っているものの、新書なのでとっつきやすくあります。

コーヒー「こつ」の科学―コーヒーを正しく知るために

コーヒー「こつ」の科学―コーヒーを正しく知るために [単行本(ソフトカバー)]石脇 智広柴田書店2008-09-01

コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか (ブルーバックス)

コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか (ブルーバックス) [新書]旦部 幸博講談社2016-02-19

雑な閑話休題(雑感)

コーヒー生産プロセスについてインターネットを調べると多くの解説ページがあります。さらにYoutubeで”コーヒープロセス”や”coffee process”で調べると多くの映像が見られます。

今回紹介した本には伊藤さんが提供している多くの貴重な写真をみることができますが、youtubeの映像や音声と一緒に観てみるとよりリアルにその生産工程を知ることができる気がします。

このほかにもキーワード検索すると思わぬ光景がみられるかも。

スペシャルティコーヒー入門 装幀
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