東京コーヒーフェスティバル 2019 春(Tokyo Coffee Festival 2019 Spring)内セミナー、『〔COA〕アジアのコーヒー生産のいま。』に参加してきましたのでその概要についてお伝えしようと思います。
スピーカー
Roaster/Coffee Shop/Coffee Beans Sellerの立場から
Light Up Coffee 川野優馬さん:東京と京都にあるコーヒーショップの代表。 インドネシア・ベトナムなど、アジアの農園でスペシャルティコーヒー生産も行っている。
海ノ向こうコーヒー 安田大志さん:京都の八百屋『旅ノ途中』海外事業担当。海ノ向こうコーヒー プロジェクトの起案者であり、担当者。
Coffee Producer(Farmer)/Trader の立場から
ベトナム/K’Ho Coffee Rolan代表とJoshuaさん: Rolanさんはベトナム出身でダラットのランビアン山(標高1500-1700m)の4代目農園主。少数民族「コホ族」の出身でもある。夫のJoshuaさんはアメリカ人でバイオエネルギーの仕事に従事していたキャリアを持つ。現在K’Ho Coffeeのコーヒーを化学的なアプローチで生産支援している。現在K’Ho Coffeeでは自前で焙煎した豆を国内のカフェショップへ卸すことや農園ツアーも行っている。
イエメン/ 株式会社Mocha Origins Al Mogahed Tareq 代表取締役:イエメン出身で大分にある立命館アジア太平洋大学に留学経験あり。コーヒー農園を保有する家族に生まれる。Tareqさんの他の兄弟は現地で生産活動をし、自身は日本への輸入を手がけている。
アジアの生産現場の現状
アジアのコーヒー農園との出会い
スピーカー:Light Up Coffee 川野さん
Light up Coffee 代表の川野さんがインドネシアのバリ北部のコーヒー農園を初めて訪れた4年前。スターバックス農園のような生産設備がなかったとしても、何となくある程度の水準での生産方法や設備を思い浮かべて現地を訪れたそう。しかし、そこにはあまりにも想像とかけ離れた現状があったという。
コーヒー豆の採集する場所はインフラがまったく整っていない山奥で、ピックされた豆の品質は必ずしも一定ではないばかりか、精製の際に使われる水は濁っていたりしていたという。もちろん、それらが行われる生産設備も整ってなかったという。また、一部の生産者の温度や品質管理に対する意識は必ずしも高くなかったという。
その現実をみて、川野さんは当時訪れた農園の若いオーナーに想いを伝えたところ、意気投合し、コーヒー豆の生産環境の改善に一緒に取り組んだという。その結果、翌年に仕上がったコーヒー豆の味は格段によくなったそうだ。そして、こんな風にコーヒー豆の味が改善できるのなら、この活動を本格化させようと考えたという。
アジアのコーヒー農園を支援する理由
では、なぜアジアなのか? コーヒー生産に携わるとしたら、自身がアウトサイダーだと認識しなくてはならないと思う。もちろん、Joshuaさんのように深く参加していく人はすごいと思うが、コミュニティにお邪魔させてもらう際に、中南米やアフリカに比してなじみやすい側面がある。日本というコーヒー消費国に住んでいて、アジアの一員であり、その国から一番近い生産地がアジアだ。さらにアフリカや中南米よりも近く、文化圏も似ているため、生活が想像しやすい。また、つながりも他の地域より強く、お互いにシンパシーが感じやすい。実際、日本から旅券を買って訪れるにしても格安航空券ならば5万円程度で購入でき、時間も他の生産国を訪れるの比して短くてすむ。そのため、よりスムーズに、かつコミットして生産活動をできるという。
アジアで美しいコーヒーを生産し、
その味とストーリーを伝え、
現地で持続な能な生産コミュニティを作る
現地での取り組みとLight Up Coffeeの参画
コーヒーの味に影響する大きな項目は以下の三つに大別できる。
- 環境
- 品種
- 精製
アジアという生産地環境は確定しているが、コーヒーの木の横にshade tree(日よけの木)を植えたりすることによって、その生育環境を改善することができる。また、品種についてはロブスタ種からアラビカ種に変えたり、それらのいいとこどりをして品種改良をしたものを植えることもできる。これら、二つの項目は長期的に取り組むべきことだが、どうしても時間が必要となる。ちなみに、コーヒーを成木にして十分に収穫するまでには長ければ5年かかるといわれている。
そこで着目したのが精製工程の改善。コーヒー豆を収穫するピッカーという農夫たちにトレーニングしたり、水洗いの場所を改善するなど、取り組めるところから随時改善を行っている。また、K’Ho Coffeeでは、Joshuaさんがバイオエネルギー会社の経験があったこともあり、コーヒー豆の発酵の研究に非常に力を入れている。
収穫→仕分け→パルピング→発酵(fermentation)→水洗い→乾燥→皮むき→仕分け→出荷
今年はサイダー酵母を使って発酵を行うとのこと。それによってより風味と味がよくなるという。また、Light Up Coffeeとしても昨年から大きなグリーンハウスを共同で作ったりすることで現地を積極的に支援しているという。そして今後もそれを続けるとのこと。
海ノ向こうコーヒーの取り組み-アグロフォレストリーの普及へ-
スピーカー:安田大志さん
海ノ向こうコーヒーの安田さんは、ラオスの世界遺産ルアンパバーンを訪れた際、近隣で焼畑が行われ、森林がなくなっていることに危機感を覚えたという。また、焼畑自体、その土地に大変な負荷を与えるため、持続可能ではないとも説明してくれた。そのため現地の森林が続き、そこに住む農業従事者にとって持続可能な生活ができるよう、『アグロフォレストリー』を提案したという。
アグロフォレストリーの現場(アフリカ ブルキナファソで行われている緑地再生計画。写真はアカシアの木等が育つ一方、大地には麦が根をはっている)
アグロフォレストリーは、Agriculture(農業)とForestry(林業)を組み合わせた言葉で、収穫期が異なる作物と樹木を混植することで、農業と森林の保護・再生を行いつつ、現地農業従事者の生計手段の多様化を図り、持続可能な生活作りに資することを目指したもの。
コーヒーの木の場合、木陰で育てることで、実がゆっくりと熟して美味しくなっていくといいます。この特質を生かしつつ、森林の維持とコーヒーの豆生産を両立させることで現地で暮らす山岳少数民族の収入に繋げたいとのこと。
この提案はラオスで受け入れられ、他の国でも提案するようになった。そして、現在、この考え方に賛同してくれる農業従事者が増えてきているとのこと。
ノウハウの他地域への展開
またこの活動を通して得たノウハウを違う地域で展開することにより、より一層その地域における農業の発展に貢献しようともしている。そして、現地農業従事者がその地で持続可能な生活ができるように努めているとのこと。
ミャンマーの場合
ミャンマーはコーヒーの生産地としては有名ではない。それでも、一部の優れた経営者がミャンマーでコーヒーが収穫できるなら、それを世界に発信しようというと、取り組んでいる。現在は、”ミャンマーをコーヒーベルトへ”という掛け声の下、彼の農園では年間100t以上のコーヒー豆を生産しているそう。
一方で生産体制が急成長すると人材の育成だったり、生産設備の点で問題点がでてくる。そういうときに他の国でコーヒー農園サポートに携わった点が生きるという。このときはコーヒーピッキングの均質化をサポートできたそう(ちなみにその他地域に関するストーリーは海ノ向こうコーヒー ウェブサイトで確認できます(リンク))。
生産者の声(QAに答えるような形で英語でスピーチし、川野さんと安田さんが通訳しながら一部補足してくれていました)
スピーカー :RolanさんとJoshuaさん
今回、Light Up Coffeeのブースにコーヒー豆を出しているRolanさんとJoshuaさん。
Rolanさんはコーヒー革命を起こしたいとして、日々身の回りの改善に努めながら、生産活動を続けている。彼女の強みはオーナーと農業従事者とにわかれておらず、ファミリービジネスとしてコーヒー農業に携わっていること。そのため、彼女が導入しようとしているものだったり、投資しようとしているものはコホ民族全体の利益になると考え、一体となって取り組むことだ。
ただ、アジアのコーヒー消費地については難しさも同時に感じるという。欧米のような消費地に比べて、まだスペシャリティコーヒーについて知られておらず、インスタントコーヒーや大量生産されるコーヒー豆に慣れていると(非難を行っているわけではなく、自身の豆の差別化についての課題を考えての発言です)。
また、アジアの消費者の多くの人々に我々が行っていることがみえてないことも課題と考えているそう。地理的に近いにもかかわらず見えない生産現場、日々行っている仕事を理解してほしいし、コーヒー豆のバックグラウンドについても想像してほしいと考えているとのこと。
かつてアジアで大量に生産されたコーヒー豆の質は必ずしも高くなかった。しかし、現在、多くの生産者が高品質のコーヒー豆を作っていることについて知ってほしいとのこと。
Joshuaさんも、アジアにおけるコーヒーの生産活動は難しいという。中南米やアフリカのコーヒー農園と違い、アジアのコーヒー農園は山奥にあり、農業活動を行う際に整備されていない山道を通らないといけなかったり、採集したコーヒー豆も、かご等で自力で持ってこなければならないこともあるとのこと。
さらに、近年は地球温暖化の影響を受けて天候が不安定なことが多いという。本来は乾季にコーヒーピックができるはずなのに、そんな季節にも台風がやってくるという。その結果、道路はぬかるみ、採集も何倍もの時間を要するという。
Joshuaさんは自身がアメリカ人ということもあり、バイヤーとの交渉役を買って出たり、ウェブサイトを構築したり、海外からの農園訪問を受け入れたりと積極的に広報活動も行っている。そうすることによってベトナムコーヒーの存在感や多くのバイヤーやロースターとの接点を持ち、販路の多角化にも努めているとのこと。
イエメンコーヒーの再興を胸に
スピーカー:Tareqさん
Tareqさんは海ノ向こうコーヒーのパートナーとして豆を卸している。
イエメンコーヒーの普及に取り組むTareqsさんは、かつてのようなイエメンコーヒーの存在感をコーヒー産業の地図上に取り戻したいという。
かつて日本でイエメンモカといえば、誰もが聞いたことのあるブランドでコーヒー店でも必ず取り扱っているものだった。それがイエメン国内の政情不安と、国内でのカートという興奮、覚醒作用のある植物の摂取が流行すると(社会問題になっているものの、イエメンでは違法ではありません)、コーヒーからカートへの転作も増え、コーヒー生産量が減少、海外へのコーヒー豆の輸出も激減したという(2015年ごろの出来事)。
ただ存在感を取り戻すにあたってはきちんとしたブランディングの再構築にも取り組んでいるという。たとえば、Tareqさんが携わるコーヒー豆は兄弟・叔父各々でパーケージしてブレンドしていないとのこと。これによって、責任ある生産を実現し、各人にファンがつけば良いと思っているとのこと。
コーヒーとコーヒー関係者の発展に尽力したい
最後に川野さんは、今日来てくれた生産者により安定したコーヒー生産ができるようその味のよさやストーリーについて訴えていきたいと思うが、消費者のみなさんにはいますぐどうこうしてくれと言っているわけではないことを付言してくれた。
今日のセミナーを設けたのは次にコーヒーを飲むときに、彼らのような生産者がいることに少しだけ想いをはせて、飲んでほしいとのこと。そのことによってよりコーヒーという飲み物を楽しめるんではないかと思っていると、説明してセミナーを締めた。
また、安田さんも4/13(土)のセミナーにホンジュラスのコーヒー豆生産者が参加し、ホンジュラスのコーヒー農業従事者の現状についてシェアしてくれたことを教えてくれた。ホンジュラスの生産者曰く、昨今のコーヒー豆の取引価格の低迷により、ホンジュラスでは耕作放棄する人々がでてきているとのこと。
せっかく丹精を込めて、また労力と資金をかけて立派なコーヒー豆を生産したとしても、その価値が理解されず、安い価格で購入されてしまい、豆の生産コストが販売コストを割ってしまうという。
安田さん自身は、そういう悲しいことがおきないよう、アジアコーヒーの魅力をきちんと消費地へ伝え、適正な価格で仕入れ・販売できるよう努力していきたいと語ってくれた。
ちょびっとの感想
登壇者の熱い熱意が伝わってくるセミナーでした。
日本側の関係者はもちろん、日ごろ接することのない生産者の顔はどれもまぶしく、川野さんもいっていたように、次から飲む一杯がとても美味しく、かつ貴重に感じられるようになった気がします。
また、自身としては何かできることがないかな、と思った次第です。彼らのような人たちが報われるよう自身も何かできると良いなと思いつつ、とりあえずみなさんとシェアすべく、記事にしてみました*。
ちなみに彼らのコーヒー豆はLight Up Coffeeや海ノ向こうコーヒーで取り扱っていますのでご覧になってみてください。また、生産者にコンタクトをとりたい方々は彼ら自身の会社ホームページからコンタクトを取ればいいかと思います。
登壇者SNS一覧(会社ウェブサイトはスピーカー一覧参照ください)
Light Up Coffee代表 川野優馬さん: @yuma_lightup
海ノ向こうコーヒー:-
K’ Ho Coffee: @KhoCoffee
Mocha Origins:-
*可能な限り手元のメモを使いながら、昨日行われた『アジアのコーヒー』セミナーについて自分なりにまとめました。ただし、わかりやすいように文書を補っているところもあり、その点も含め、当日の内容と異なる、もしくはこの点についても注意すべきということに気づきの方がいらっしゃったら、コメントいただけますと幸いです。また、本記事を書き上げましたが、セミナー関係者の方から取り下げるよう連絡があった場合、確認取れ次第、当該記事を速やかに削除します。何らかの形で、コーヒー関係者の熱い思いを残しておきたいと思い、このような形でまとめさせていただきましたが、関係者に別の希望がある場合はその限りではないと考えています。その他、気づきの点がありましたら恐縮ながら連絡フォームもしくは下記コメントからお願いします。
ちなみに今回の写真はPixabayからお借りしましたが、写真提供者のうち一人はアグリツアー等も行っているので興味がある方はチェックしてみてください。