SCAJ2024開催初日(10/9(水) 15:00 東京ビッグサイト セミナーD ルーム)でコロンビア生産者連合会(Federación Nacional de Cafeteros de Colombia:FNC)主催で行われたセミナーに出席しましたので概要をシェアします。現地の雰囲気を伝えるため、なるべくスピーカーの口調にならって文章を書きますが、一部意訳している部分もありますのでご留意ください。
冒頭、二つのコーヒーが配付されました。一つは通常のコロンビアコーヒー。もう一つは最近収穫されたカスティージョ2.0(ハニー精製)です。前者は酸味があって酸味があって飽きの来ないコーヒーです。ただ、もう一つのカスティージョはよりフルーティーでした。具体的にはパイン系のあまいフルーツ(パイン系)が感じられ、心地よい酸味としっかりしたボディがあって、いつまでも甘い余韻が残りました。
このコーヒーは後々紹介されますが、コロンビアコーヒーが直面する諸所の問題解決のためにFNCが開発した品種でした。
冒頭、プレゼンターについての紹介
プレゼンターはサンチャゴさん。FNCで14年のキャリアがあり、現在はアジア・オセアニアの生豆販売を担っているとのこと。また、FNCの品種や生産者支援に関する説明は当該分野の責任者でもあるフェルナンドさんからありました。
コロンビアの生産状況
まず、今年のコロンビアの生豆の生産状況について。昨今ブラジルの天候問題やベトナムの干ばつ等による収量の低迷によるコーヒー豆価格の高騰がニュースとなっています。コロンビアもラニーニャ等をきっかけに天候不順による収量の低迷が2-3年ありました。しかし、今年は回復しつつあることがグラフからわかります。年末にかけてFNCの推定では13百万 60kg bagsまで回復することを見込んでいます。これに伴い、輸出量も堅調に推移しています(なお、国内消費は横ばい)。
FNCのコロンビアコーヒー価値向上に関する取組
さて、FNCがコロンビアコーヒーの価値向上に向けて行っていることは1.生産性の向上、2.抵抗力(気候変動や病害虫への耐性)の向上、3.高カッピングスコア(コーヒー)の生産、があります。これらをFNCはコーヒー豆の品種改良を通して行っています。そして、コロンビアでは品種改良を行うにあたって、品種改良レベルでは主に3つのことに注意しなければなりません。
- コーヒー豆の適切なサイズ・・・コロンビアコーヒーのほとんどが手摘みであることから、手のひらに適切に捉えられるサイズであることが重要
- 広範に適用可能な生産性・・・コロンビアの国土で広く栽培可能なこと
- サビ病等に耐性を持っている・・・サビ病を含む様々なCoffee Berry Desease(CBD)が発生することがあるため、それらに対して耐性がなければならない
これらの条件を満たし、さらに味(カッピングスコア)としても問題ないものが本日お配りしたカスティージョ2.0です。
中小零細農家への直接支援の取組
この品種改良の取組に加えて、中小零細農家への直接支援も行っています。特に力を入れているのがウェットミル施設を各県に建設すること。この背景には中小零細農家が独自にプロセッシングを行っていて品質がまちまちだったのに加え、これらが負担だったこと。また、欧米のバイアーを中心に追加の設備投資の要望があるにもかかわらず、中小零細農家にそれが対応可能ではなく、ストレスになっていることが挙げられます。
これらの問題を踏まえ、以下の効果を期待してウェットミル施設を各県に設置を試みています(現状は4施設(アンティグア、ウィラ、リサラルダ、キンディオ)が出来上がっていて、最終的には各県に1つずつ、合計15の施設建設が目標とのこと)。
- 社会面:生産者が農業活動に集中できるようになり、今まで精製に使った時間を余暇として活用できるようになります。
- 環境面:コロンビアはほぼ全てがウォッシュドコーヒーで、この精製を各農家が別々に行うことから多くの水を使います。これらを共通のウェットミル施設を使うことによって最大90%の水の節約が見込めます。
- 経済面:プロセスの標準化と一貫性が担保できるとともに、工程の共通化が実現できます。これによって最大60%のコスト削減が見込めます。また、顧客への要望も連携して答えることが可能。
そして、このウェットミル施設は単なる精製加工センターではありません。今まではコーヒー豆を買いたたかれていた一部の中小零細農家に対しては、ここまで持ってくればどのようなプロセッシング、パッケージングがなされるか確認できるようになります。つまり、教育の現場でもあるのです。その意味で教育センターや体験センターといってもよいかもしれません。そしてこれは生産者の役割がバリューチェーンで大きくなることを意味します。
EUDR(欧州森林伐採防止規則)について
コロンビアはEUDRについて国として以下の2点に力点を置きながら準備をしています。
- コロンビア産のコーヒーがいずれの規制にも縛られずに各国に届けられること
- 各国の規制から発生する費用負担について、公的もしくは民間の情報提供を通じて生産者に負担させない
これらに関してコロンビアは非常に優位な位置にいます。なぜならコロンビア、つまりFNCには中央化したデータシステム、SICA(コーヒー情報システム)があるからです。SICAには農園がいつできたか、その農園の耕作面積等のデータが100%存在します。また、コーヒー生産者に関するデーターのうち73%について各機関とのデータ共有に関する同意を得ています(2024年末までに93%まで向上予定)。さらに4ha以上の農園についてはポリゴンで詳細表示をすることもできるまでに至っています。
そのため、EUDRについてもこれら既存のデータを用いて農園の森林伐採等に関するリスク評価を行い、その分類に応じて追加の作業が発生する場合はそのサポートも行っていく予定。FNCとしては既存の認証コーヒーの踏んだプロセスを、標準的で未認証のコーヒーに水平展開することによって、EUDRをはじめとする各種規制へ(時間は必要かもしれないが)対応可能と考えています。
(循環)再生型農業について
昨今注目を集めている再生型農業についてFNCは農家と共同で以下の取組を行ってCo2削減を行っています。
- リノベーション:病害虫へ強い品種への植え替え、適切な密度管理による生産の最大化 (10%削減)
- 土壌:土壌解析による肥料や殺虫剤等の最適化を実現 (21%削減)
- 水:必要量だけを使うことによって余分な水を使わない。フィルター等の活用( 26%削減)
今日のセミナーでは取り組みの一部を紹介していますが、このほかにも多くの取り組みを行っています。また、その取り組みの一部には日本企業も参画していて、非常に心強く思っています。さらにFNCはサプライチェーンの生産者サイドだけを見るのではなく、より川下も含めてフォローしていきたいと考えています。そのことによってバリューチェーンは健全になり、より価値が伸長すると考えているからです。
関連情報:コロンビア生産者連合会(X、facebook)
所感:
1時間強のセミナーだったのですが、コロンビアの現場での取り組みがよくわかるセミナーでした。特に品種改良については多くの機関が取り組んではいますが、現物を飲むことができる機会は非常に貴重だったのでありがたかったし、その成果物が(少なくとも私にとっては)好ましい方向に進んでいるのが確認できたのが何よりでした。
また、時事ではありますが、EUDRへの対応に苦慮している国がほとんどと思われる中、コロンビアが従来からデータ収集に力を入れており、粛々と対応していることについては少し驚きました。というか、非常に心強い取り組みでした。
カスティージョ2.0が市場へ出てくるのを楽しみにしたいと思います。
ということで最後までお読みいただきありがとうございました。また、次の記事でお会いしましょう。