タイトルとしては少し安っぽく感じてしまうのですが、事実なのでEvolved Qグレーダーへの資格移行について少し整理したいと思います。
前回の記事で2025/9/30を以てコーヒー品質機構(Coffee Quality Institute(CQI))がQグレーダー資格の運営から撤退し、2025/10/1からスペシャルティコーヒー協会(Specialty Coffee Association( SCA))が引き継ぐことについて書きました。また、この引継ぎに合わせてSCAは旧Qグレーダー資格制度をEvolved* Qグレーダーとして内容を刷新することを発表しました。
この記事ではこのEvolved Qグレーダーになる方法を整理します。
*”Evolved”は新旧の対比で使っている便宜的な呼称です。最終的な呼称は既存のQグレーダーと同様になると思われます。ここでも新旧の対比という観点からSCAが運営するQグレーダー資格には”Evolved”を使うこととします。
誰が対象? 失効したQグレーダー資格の人も新たにQグレーダーになれる!?

SCAが運営するEvolved Qグレーダー資格への申請が可能なのは①過去にアラビカもしくはロブスタのQグレーダー資格を取得したことがある人となります。つまり今回の対象者には過去に取得した資格が更新試験(キャリブレーション)をせず、失効している人も含まれます(現在、Qグレーダー資格試験受験中の方は下のほうにその内容について触れています)。
または②SCAが従来より運営しているSCAディプロマという教育枠組みがあるのですが、このうちセンサリースキルコース、つまり官能評価能力について最上位のコースを修了した人が対象となります(センサリースキルコースについては↓参照)。なお、このコースを修了するのにかかる時間や費用はQグレーダープログラムを修了するのと同じ、もしくは少なくともセンサリーについての能力はそれ以上の実力と考えてください。

これらをSCAが資格要件にしているのは既存のコーヒー官能評価のスキルも真摯核において有用と考えているからです。いずれにせよ、この資格を持った人たちがこのタイミングで資格申請ルートへと乗ることができます。
『CVA for Cuppers』講座との合わせ技でEvolved Qグレーダーへ

そのうえで、上記①および②の資格保有者はSCAの認定インストラクターが開催する『CVA(Coffee Value Assessment コーヒー価値評価) for Cuppers』というコースを受講し、新しいコーヒー評価方法を学ぶ必要があります。
これは2日間のコースで、SCAが定めるスペシャルティコーヒーの要件を定めたCVAについて学ぶものです。
CVAはコーヒーの特定風味の有無と酸味や甘味の強度を把握する客観的パート、それと風味について自身の好みを点数化する主観的なパート、そして外部要因(品種、豆の大きさ、稀少性、焙煎具合、トレーサビリティ、サステイナビリティ等の情報)を把握し、総合勘案したうえでスペシャルティコーヒーか否かを判断するため、これらを網羅的に勉強することとなります。詳細についてはSCAがだしているCVAのホワイトペーパーやこのブログの過去記事を参照ください。もちろん、この講義の最後には試験があって、これにパスしなければなりません。
ちなみに受講料は講師によって異なります。例えば、海外からキャリアのある講師を招聘する場合、その講師の渡航費用等も含まれたりするのでどうしても幅ができます。では安いほうが良いのかというと、それは個々人の納得感の問題だと思います。こういうところで講師との繋がりを作ってご自身のキャリアに生かすことも一手だと思いますし、より日常的なつながりのある講師から学ぶことも一手だと思います。いずれにしぇお、受講の際はご自身で事前リサーチをきちんとして決めることをお勧めします。ちなみに値段の凡その目度としては8-15万円程度という感じです。
めでたく試験に受かった人はSCAのサイトでQグレーダー(もしくはSensory資格)の情報等を入力、すると後日SCA側から認定した旨の連絡がメール通知がきます。これで晴れてEvolved Qグレーダーとなります。
なお、上記①および②以外でEvolved Qグレーダーになるためには10月以降にローンチされるEvolved Q グレーダーコースの資格を受講する必要があります。また、上記①および②に該当する人たちが2025年12月末までに手続きを終えない場合は新たにEvolved Qグレーダーコースをゼロから受講する必要があります。
2025年5月時点でEvolved Qグレーダーコースの内容についてSCAから発表はないのでどうしたら自身のキャリアにとって良いかはよくよく考えてみてください。
特殊な条件が適用される期間

CQIが運営するQグレーダー資格、アラビカとロブスタに関するコースは2025/9/30で終了します。そのため、Qグレーダー資格を持っていない人、もしくはいくつかのコマでfailし、Retake中の場合、仮に①のコースにのってEvolved Qグレーダーになる場合はこの2025/9/30までにすべてのコマを合格して資格取得する必要があります。
この前提条件を満たしている人(繰り返しになりますが、アラビカ・ロブスタ、資格有効無効は問われません)は2015/12/31までにCVA for Cuppers に合格し、SCAのサイトでEvolved Qグレーダーへの申請手続きを完了させている必要があります(手続きについてもタイミングを見て記事としてまとめたいと思います。実際にはCVAの講座時に講師から案内があるはずです)。
本来であれば新しいQグレーダーになるための授業を一から受けて資格取得するのが筋です。またSCAとしてはここで得られる授業料は大きな収入になるため、このような特別措置は行いたくないはずです。
しかし、それにも関わらず、このような特別措置を行うといっているのですから、もしあなたが経済的に支払え、かつSCAの思想に強い抵抗を覚える等の事情がない限りはこのタイミングでいったん更新しておくほうがお得だと思います。繰り返しになりますが、①および②に該当する人もこのタイミングで資格移行を申請しておかないとQグレーダー資格は証明書に記載されている有効期限で失効、再度Qグレーダーになるためには新コースを一から受けることとなります。
SCAの目的

SCAがこのような既存Qグレーダーに対して特別な措置を行うことの背景にはCVAが現状狙い通りに普及していないのが背景ではないかと考えられます。そのためSCAとしてはCQIからQグレーダーの運営を引き継ぎついだこのタイミングで一気に普及させようとしているのでしょう。
特にコーヒーの鑑定士として認知されているQグレーダーがCVAを使うようになれば、ある程度業界スタンダードになりうると思われます。また、Qグレーダーの中で自家焙煎店を運営している人たちはお客さん向けにセミナーも開くでしょう。SCAとしてはそのようなことでCVA活用もしくは理解者のすそ野も広げたいとも思っているはずです。
ただ、SCAの目的通りことが進むのかは現状では不透明です。
Qグレーダーの中にはこの制度そのものに懐疑的な人もいます。また、資格取得したばかりの人にとっては新たに追加費用が発生するのも負担となっています。さらにQグレーダーの運営方法について、例えばキャリブレーション等の更新試験はあるのかも不明なので、既存のQグレーダーの中には10月のEvolved Qグレーダーのコース発表を待っている人もいます。このコース発表時により詳細なEvolved Qグレーダーに関する運営方法や更なる情報公開(例えば更新試験の有無等)があるかもしれません。そうでなくとも、新しいQグレーダーコースの運営方法や授業内容はSCAが目指す方向を示してくれると思うのでそういう人がいるのも不思議ではありません。
個人的にも新しい制度については思うところはありますが、CVAについても以前からSCAJが開催するSCA非公認のコース等を興味深く受講していたので、今回もタイミングをみて受講したいと思います。もちろん、費用負担はあるのですが、カッパーとしての経験を積めるという意味では前向きにとらえています。
皆さんはどう思われますか?もしご意見等ありましたら、下記のコメント欄、もしくはSNS等で教えて頂けると嬉しいです。
Qグレーダー関連の記事はもう少しばかり続きます。少しずつですが、色んな所からの反応が見られるようになり、また背景的なことについてもぽつぽつと話題になっているので、それらをまとめたいと思います。では次回の記事でお会いしましょう。