【本紹介・感想】ストレートがデフォルトって誰が決めたの?少なくとも僕はそうじゃない『サイモンvs人類平等化計画』

サイモンVS人類平等化計画 表紙

あらすじ

Pexels の Andy Kuzma による写真

サイモンはジョージア州アトランタ郊外の高校に通う16歳。大学生の姉と中学生の妹の間に生まれ育った。誰から見ても幸せそうな家庭に育ったどこにでもいる恵まれた白人の男の子。高校では演劇部に所属しながら、クラスにも溶け込んでいる。本人いわく、小説とかに出てくる「主人公の親友」くらいにはうまくやっている。そんなサイモンにはひとつの大きな秘密があった。それは彼がゲイであること。もちろん、彼の友人や家族は知らない。

ある日、サイモンが秘密を唯一打ち明けたブルーとのメールの内容をクラスメイト・マーティンに知られてしまう。マーティンはそれをネタに好きなことの仲介するよう頼んできた。

果たして、うまくいっていたサイモンの高校生活はどうなってしまうのか。サイモンはカミングアウトするべきなのか、それとも今のままであるべきなのか。色んなことにぶち当たりながら、成長していくサイモンを追った物語。

サイモンvs人類平等化計画 (STAMP BOOKS)

サイモンvs人類平等化計画 (STAMP BOOKS) [単行本(ソフトカバー)]ベッキー・アルバータリ岩波書店2017-07-20

感想(ネタバレ注意)

ジェットコースターのような展開

本書はサイモンがブルーとの親密なメールのやり取りをマーティンに覗かれてしまう、という大きな危機から始まります。その出来事をきっかけにサイモンの生活と感情はまるでジェットコースターのよう。でも、サイモンにとってはタンブラーを通じてブルーと知り合えたときにジェットコースターのような生活が始まっていたのかもしれません。

とにかく、そんな危機的状況から始まるので、読者は一気に作品の中に引き込まれてしまうんです。えっ、マーティンに強制的にカミングアウトされるの?って。

しかも、そのあとに紹介されるサイモンの高校生活が尊く描かれるから、なおさら読者はサイモンに肩入れして、応援してくなっちゃうんです。友人とも家族ともいい関係でいられますようにって。

でも、サイモンの時計の針は止まりません。そんな大事件の翌日にも通学、友人と普段通り接して、クリスマス劇の準備をしなければいけない。家に帰れば、高校生の息子の一挙手一投足を見守る両親もいる。その上、マーティンのことを秘密にしつつ、ブルーとのメールのやり取りも続けるんです。

もう本を読みながら、どきどきがとまりませんでした。

時には主人公に、何でそんなことをいうの?とか。あぁ、マーティン、だから君はマーティンなんだよとか。アビー、どうして空気を読めないの?とか。リア、うーん、本当にいじらしいね、とかね。

小説ではサイモンも読者をひきつけますが、上にツッコミを入れたように、周囲の友人たちも魅力的に描かれています。

サッカー部のニックは誰からも好かれて、ギターを持つと何気なくピンク・フロイドをさくっと弾きだす。サブカルにも詳しい個性派リアは一本筋の通ったこ。アビーは複数の部活をかけもってチアもやる、まるでドラマの主人公が恋するような女の子。それぞれが際立っているけど、みんな仲良しで友達を大事にしているんです。もちろん、このエピソードはでき過ぎッて思うかもしれないけど、会話の端々に多くのかつては高校生だった大人が読めば、共感せざるを得ないエピソードにでくわすと思います。

そんな個性際立つ登場人物の会話は本当に面白かったです。

様々な文化と触れ合える高校生活

本書を読んでいるといろんなカルチャーに触れられるのも魅力の一つだと思います。最近の高校の英米文学の授業ではいったい何を読まされているのか、アトランタのハロウィーンの仮装で何がきられているのか(フルーツバスケットに登場する本田透のコスプレをしているという同級生が登場したことにはびっくりしました・・・)。

さらに自分の車で流す曲とかipodに入っている曲とか(最近はspotifyだったりするから、少し前の高校生活が舞台だったりするのかなとかおもったりも。ちなみにSNSはタンブラーとフェイスブックが中心で、SMSやgmailを使うという設定もそうなのかもとおもったり)。何となくそういうかんじなのか、と様子がうかがえます。

この辺はビバリーヒルズ青春白書等の地上波で流れてくる連ドラや映画とは違い、Netflix等のストリーミング放送で流れてくる高校生活に近いものがありました。雰囲気もそんな感じ。

それが好きかどうかは別として、多様性に富んだ同級生が登場し、かつ文化が垣間見られます。たとえば、メールのやり取りをしているブルーはユダヤ人で、年末に行われたユダヤ人の慣習等についても自然と会話にでてきます。サイモンが思っている人種に対するイメージ、これは少なくない白人のイメージとも合致するでしょうけど、そういう吐露する場面もあります。それらは新鮮で楽しめるシーンでもありました。

色々あるけど、温かい気持ちになれるエンディング

誰がブルーかということについては、たぶん途中でわかります。唐突に登場する人物は、まぁ、そういうもんですよね。いや、わかったつもりでいると途中に違うんじゃないかと思うこともあるのですが、まぁ、でも、割と安心して読み進められる展開でした。

とにもかくにもサイモンが自身のことについて自主的に、もしくは強制的にカミングアウトすることになってからのそれぞれの対応は、ほとんど、あぁ、こうありたいと思うものでした。当事者だったら逃げずに、友人や年上の人だったら今までと変わらず、そして家族だったら過度に反応せず、聞く耳を持つという。

その一つ一つのやりとりをページをめくりながら読み進めていくと、目頭が少し熱くなりました。そして、最終的にすべての人を許して、かつ成長して次のステージへと進む主人公。それは読む人に勇気をくれるようなものだったんじゃないかなと思います。

本書はゲイの青年を主人公にしたものではありますが、そういう枠組みで読まずに、青年が様々な困難にあいながら、育っていくという王道青春小説として安心して読んで良いものだと思います。お勧めです。

メモ:ヘンリー・D・ソロー『ウォールデン』、カサノヴァ回顧録、オスカー・ワイルド

本について

本の概要

  • タイトル:サイモンvs人類平等化計画
  • 原題:Simon vs. the Homo Sapiens Agenda
  • 著者:ベッキー・アルバータリ(Becky Albertalli)
  • 訳者:三辺律子(さんべ りつこ)
  • 発行:岩波書店
  • 印刷・製本:法令印刷
  • カバーデザイン:Alison Klapthor
  • 第1刷 :2017年7月19日
  • ISBN978-4-00-116417-6 C8397
  • 備考: First published 2015 by Balzer+Bray, an imprint of Harper Collins Publishers, New York. The Japanese edition published by Iwatani Shoten, Tokyo by arrangement with Becky Albertalli c/o THE BENT AGENCY, New York, through UNI Agency, inc, Tokyo

関係サイト

著者オフィシャルHP: https://beckyalbertalli.com/

訳者三辺さんのtwitter:@RitsukoSH

オフィシャルHPには著者のSNSリンクがありますので気になる方はそちらもチェックしてみるといいかもしれません。

原作のポップな雰囲気を余すことなく翻訳版を成立させた本作の訳者三辺さんのアカウント。こちらでは三辺さんの広範囲な活動(雑誌への寄稿や翻訳作品等も)をうかがい知ることができます。同業者さんたちの翻訳本も紹介されていたりするので新しい本との出会いがあるかもしれません。

次の一冊

この本の感想を書く際、関連情報を調べようとしてネットを調べていたら本書が映像化されることに気づきました。。。そっかー、と思いつつ、予告編等をチェック。ということで本作の映像化作品なんていかがでしょうか。

本作ではアメリカのティーンエイジャーにまつわる空気感や描写が多く描かれていて日本ではその機微が感じくい部分が少なからずあると思います。そのため、映像化された作品ではそれらの多くの部分が補われるような感じがします。少なくともストーリー中に描かれた音楽をリアルタイムで聴けるのはいいかも。

もちろん、サイモンやリア、アビーに対する強いイメージを持っていたとしても、少しだけ想像をひろげるためにもyoutubeにあがっている関連動画をみるところからはじめるのもいいのかな、なんて思ったりします。ただ、映像化作品だけあって原作小説からいくつかの改変があります。その辺はおおらかな気持ちで見ていただけるといいのかなと思います。ちなみにタイトル、Love Simonは彼のメールでの署名から来ているのは言わずもがな・・・。

Love, サイモン 17歳の告白 [Blu-ray]

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そして、これを検索するとお勧め欄に似たようなティーンズムービー(たとえば、Everything, EverythingとかPaper TownsとかThe Edge of Seventeen・・・)が出てきますが、どれもロマンチックでいい感じでした(笑)。

雑な閑話休題(雑感)

Readin ‘ Writin’ BOOKSTORE の建物はご自身と仲間たちで作り上げたものなんです。天井が高く、過ごしやすい本屋さんです。

この本を購入したのは田原町にあるReadin’ Writin’ BOOKSTOREです。このお店は上野や浅草のほうに行くとほぼ寄るお店です。銀座線の田原町駅から近いこともあるのですが、なんとなく置いてある本のラインナップや店主さんとお店の雰囲気が好きなんですよね。

このお店にはマイノリティの目線に寄った多くの本がおいてあります(それがこの本屋さんの一本の軸になっていると思います)。今回紹介された性的マイノリティに限らず、人種、性差、年齢差、いろんな人たちの視点に気づかされます。それでも、それらに対して大上段に何かを語らず、手にとってもらって気づいてもらえればいいなと思っているような雰囲気が店主さんにはあります。

そして、店内ではaallto coffeeから仕入れたコーヒーを飲むことができます。2階でのんびり過ごすときなど、本当に贅沢な瞬間です。もしそんな空間を楽しみたいなと思ったら、ぜひ訪れてみてください。

すこしお店がすいているときに訪れたら、店主さんにお勧めの本や近所のカフェスペースを紹介してもらうのもありだと思いますよ。やさしそうな感じでお答えされている場面に立ち会ったことがあります。

サイモンVS人類平等化計画 表紙
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