内容
この本は東京都台東区南千住にあるカフェ・バッハの創業者田口 護さんとカフェバッハ現店長で、かつ工場長である 山田 康一さんによって書かれたコーヒー抽出(主にペーパー(ハンド)ドリップ)に特化した本です。
ただ、この本はコーヒーがもつ独特なロマンについても言及することを忘れていません。コーヒーの産地から多くの人々を巻き込んで焙煎豆になっていくダイナミックな工程についても少しだけ触れています。まるで、そういう大きな流れの中でより楽しみながらコーヒーの抽出をしてほしいと言っているよう。
そんなコーヒー生産に関するエピソードが少し披露された後、すぐにコーヒーを淹れるにあたって何を準備すればいいか、どういうコーヒー豆があるかなど、具体的に一つ一つ確認したうえで実際のコーヒーの淹れ方へと移っていきます。
抽出には皆さんの手元にあるであろうドリッパー(ペーパードリップ)をメインに説明しています。各ドリップメーカーが推奨する抽出方法を、カフェバッハのそれと比較していき、出来上がったコーヒーに対してプロとしての簡単な官能評価を行っていきます。カフェバッハに行ったことがある人はこれをベースに自分の更なる好みを見つけられるでしょうし、まだ行ったことのない人はカフェバッハの味を事前に想像することができるかもしれません。
ちなみに本書の科学的な分析の一部については『コーヒーの科学-おいしさはどこで生まれるのか-』の著者としても知られる旦部幸博 先生が監修を行っています。そのため、各抽出方法に対するコメントや分析も独りよがりになっておらず、ある程度客観的なものになっているんではないでしょうか。
コーヒーを自分で淹れてみようと思った初心者の方から、色んな抽出方法がある中、果たして自分の抽出方法があっているのかと悩んでいる人やより自分に合った抽出方法があるんじゃないかと思っている上級者の方まで、幅広い層にお勧めな一冊だと思います。
コーヒー抽出の法則 [単行本(ソフトカバー)]田口 護NHK出版2019-02-21
内容を振り返りながら、時に感想
本に込められた想い
この本には喫茶店の店主として半世紀にわたってコーヒーを提供してきたカフェ・バッハの想いや矜持が込められているような気がしました。というのも、上にも書いていますが、「序章」でコーヒー豆についてざっと説明し、自分たちの思う「よい」コーヒーと、さらにプロに求められる技術について言及しているからです。
ご存知の方も多いと思いますが、カフェ・バッハの創業者である田口さんはスペシャルティコーヒーという言葉が使われるずっと前から、直接生産地に赴き、独自に「よい」コーヒー豆の調達に努め、そのうえでさらに徹底したふるい落としをしたうえで、お客さんにコーヒーを提供していたことで知られています。
そして、現在、私たち一般消費者が気軽に豆を購入して淹れられるようになりました。でも、その淹れ方は適当になっている人も多く、本来コーヒー豆が持っているポテンシャルを活かしきれてないことも多いかもしれません(私だって残念ながらそんな人の中の一人だと思います。。。)。
だからこそ、この本を世に出すことによって、みんなが更なる高みに連れていきたいと思っている、のかななんて勝手に想像を働かせてしまいました(ちなみに答えはあとがきに少し書かれています。ぜひご自身で読んでみてください。田口さんの想いの詰まった気高い文章に思わず心が揺さぶられます。。。なんて思うのはわたしだけでしょうか・・・)。
抽出をはじめるあたって求められるいくつかの条件
本書の「序章」でも言及されていますが、本書の抽出の前提として「よい」コーヒー豆を使うことを読者にも求めています。それが以下の通り。
- 欠点豆のない良質な豆
- 焙煎したてのコーヒー
- 適正に焙煎されたコーヒー
- 挽きたて、淹れたてのコーヒー
コーヒーの好みは人それぞれなので美味しいコーヒーだったり、好きなコーヒーの条件についてはいえないものの、それらを作り出す前提として求められるのが「よい」コーヒー。そしてそれが上に書かれたものです。これがあれば、その豆の特性を生かしつつ、各々の好きなコーヒーや美味しいコーヒーができるのです。
・・・といっても結構ハードルが高いかいですよね。コモディティコーヒーになると1.と2.がネックになりかねないですよね。ただ、これがあるとないとでは抽出する際に生じるコーヒー豆のふくらみは違うので、ここに書かれている抽出が全くできなかったりするんですよね。。。だからこそ求められる条件なわけですが。。
まぁ、それはさておき、本書で行われている検証実験については自分が普段飲んでいるコーヒー豆でも生じる違いだと思います。そのため、本書を読みながら、まずは抽出の試行錯誤を初めてみればいいのかなと思います。そのうえでその差を感じたら新鮮な豆を手に入れてみるといいかな、と思います!
本書で比較されている抽出条件と器具等
三洋産業 THREE FOR (スリーフォー) 深濾過層有田焼磁器ドリッパー 1~2杯用 オレンジ G-101OR [ホーム&キッチン]三洋産業
本書で各種条件を比較する際に使われるベースとなるものはカフェ・バッハで使われている三洋産業のスリーフォーです。スリーフォーは三洋産業がカフェ・バッハと共同開発したドリッパーなのでカフェ・バッハが理想とする抽出速度等が実現できるんでしょう。上には磁器のものを貼りましたが、実際にはプラスチックのものもあるので、とりあえずと思っている方はそちらでもいいかもしれません。
ベースとなる抽出条件はやや深めの中深煎りのバッハブレンドを使い、中挽き、24g(2人分)、湯温82-83℃、抽出量300mlを3分30秒程度が基本となります。本書では焙煎度による味の傾向は別建てで説明していて特に比較検証実験は行っていません。
行われている比較実験は(1)粉のメッシュ(ミル目盛り3.5、5.5、7.5)、(2)粉の分量(18g、22g、26g)、(3)湯温(78℃、83℃、90℃)、(4)抽出時間( 2分40秒、3分10秒、4分 )、(5)抽出量(200ml、300ml、400ml)によるものです。
本書には答えが載っているので、読んでいない方は事前に答えを想像してから読み始めると面白いかもしれません。
これらの異なる条件が、コーヒーの持つ①苦み、②後味、③甘さ、④酸味、⑤フレーバー、⑥ボディにどのように影響を与えているかを本書では様々な角度から解説してくれています。
そして、これらを理解して上の条件を組み合わせることで、より自分の理想の味を作り出すことができるのではないだろうか、と本書はいっています。確かに、ここまで色んな指針を示してくれると自分なりの工夫もしやすいような気がします。
また、器具の比較に際しては三洋産業のスリーフォーと比較する形でメリタ、カリタウェーブ、ハリオV60を用いています(下にはとりあえず簡単に変えるものをつけておきました。ただし、各々違う素材を使ったものもあるので自分に合ったものを見つけてみてください)。
メリタ Melitta コーヒー ドリッパー 1~2杯用 メジャースプーン付 コーヒーフィルターシリーズ SF-M 1×1 [ホーム&キッチン]Melitta (メリタ)
カリタ Kalita コーヒー ウェーブシリーズ ガラスドリッパー 155 【1~2人用】 ブラック #05045 [ホーム&キッチン]カリタ(Kalita)
HARIO (ハリオ) V60 01 透過 コーヒードリッパー クリア コーヒードリップ 1~2杯用 VD-01T [ホーム&キッチン]HARIO(ハリオ)
そのほかにフレンチプレス、ネル、金属フィルターについても検証しています。ここまでカバーすればご自身が今使われている方法が他と比較してどのような特徴を出すのに適しているかがわかってくるんじゃないでしょうか。何となくこういう味だろうと思っていたものがより明瞭になれば、次はさらに自分が理想とする味の抽出にも近づけるんじゃないかなと思います。
ということで、この本をヒントに今後も自分なりに試行錯誤を繰り返していきたいと思います(にしても、本当に奥の深い世界です)。
本について
本の概要
- タイトル:コーヒー抽出の法則
- 著者:田口 護/山田 康一
- 取材・文:太田 美由紀
- 科学監修:旦部幸博
- 発行:NHK出版
- 印刷・製本:廣済堂
- 発行日:2019年2月20日(第1刷)
- ISBN978-4-14-033300-6 C2077
- 備考:
関係サイト
- カフェ・バッハ: http://www.bach-kaffee.co.jp/
- facebook: https://www.facebook.com/Bach-Kaffee-co-
- 百珈苑BLOG: https://sites.google.com/site/coffeetambe/
カフェ・バッハのHPに店内でいただけるメニューはもちろん、オンラインショップ、ブログ、セミナーページや出版物へのリンクもあります。facebookではそのセミナーに関する情報や様子等もわかります。興味に応じて覗いてみると面白いと思います。
次の一冊
カフェバッハはコーヒーの名店としてとても有名ですが、実はスィーツもとても美味しいお店です。コーヒーが苦手な方もこれらのスィーツと共に飲むとまた違う印象を抱くんではないかなと思うほど(もちろん無理強いはよくありませんが。。)。
そして、お店で出されている商品の一部をまとめたレシピ本があります。
「カフェ・バッハ」のコーヒーとお菓子 基本テクニックと63レシピ、コーヒーとの相性を知る田口 文子世界文化社2014-12-01
この本はどういうコーヒーの各焙煎度合にあうと思われる各種スィーツの作り方をまとめた本です。コーヒー好きもお菓子好きも楽しめる一冊になっていると思います。
雑な閑話休題(雑感)
正直に言うとカフェバッハには数度しか行ったことがありません。現在住んでいる地域からはだいぶ離れているためなかなか伺うことができないんです。ただ、訪れた時の印象は鮮明に残っています。また、こういう本を読むと改めて訪れたくなりますね。
カフェバッハ自体には行けなくとも、カフェバッハから旅立った人たちのお店には何度も訪問したことがあります。どれもどことなくバッハをほうふつとさせつつ、店主さんの温かみを感じられるお店です。ちなみにインターネットを検索するといわゆる”バッハ系列”のお店を知ることができます。興味を持った方はぜひネットで調べてみてください。もしかしたらお近くのお店が実は・・・ということもあるかもしれません。そういう関係がわかると、また新しいカフェ開拓ができるかもしれませんね(ただ、深入りすると八方ふさがりになるのでほどほどが良いかもしれません~。楽しく訪れるのが何よりですから)。。。
では、今日も最後までお付き合い頂きありがとうございました。また次の記事でお会いできるのを楽しみにしております。