ガラパゴス諸島におけるコーヒー生産について
1879年、サンクリストバル島(地図の東側の島です)へ持ち込まれたのが最初のコーヒーノキと言われていて、その際に持ち込まれたものがブルボン種で、現在でも主要な品種として栽培されています。その後、島にはティピカ、カツーラ、サンサルバドル、ヴィラロボ、カティモール、カツアイ、サチモールが持ち込まれましたが、生物多様性の保全の観点から、政府を中心に規制を強化、それ以降、新たなコーヒーの栽培品種はこの島に持ち込まれていません(つまりガラパゴス諸島ではアラビカ種だけが生産されています)。
現在、ガラパゴス諸島には3万3千人(2020年調査データ)が住んでいて、2009年の推計値はでは約80人の農家がコーヒー生産に従事しているとのこと。ただし、収穫期である9‐12月期には季節雇用のピッカーを受け入れるため、瞬間的にはより多くの人がコーヒー生産に従事していることになります。
2010年のConservation Internationalの報告書によれば、サンクリストバル島で239ha、サンタクルス島で214ha、イザベラ島で35ha、合計で488haに及ぶ耕作地が存在します7。サンタクルス島の耕作地は海抜180m~450mにあり、各農園は平均6.5haの土地を有しています(今回タリーズが仕入れたラ・プリマヴェーラ農園もそんな農園の一つです)。
ガラパゴス諸島のコーヒー農園はこのような低標高にありながらも、(1)大陸からの貿易風が温度の低い海水をつたってもたらされる、(2)島全体が火山性の豊かな土壌で形成されている、これらのことからコーヒー栽培が可能な土地になっています。
ちなみにこのコーヒー栽培に適した理由はハワイコナのそれを想起させ、一部でそれに倣ったマーケティングもされています(イメージはハワイコナのティピカにガラパゴスのブルボン・・・みたいな。実際にはガラパゴス島の品種にはティピカやカツーラが入ったり、明確な区分けがなかったりするので難しいところもあります)。
ガラパゴス諸島での1ha当たりのコーヒーの生産量は約400kg(2021年の調査では960kg/haが平均とされています8)と少なく、2010年ごろの島全体での年間生産量は200トン程度でした(農業省は一般的な農法(肥料は使わない)を使った場合、3倍程度まで生産量は伸ばせるとしていたので、直近ではより生産量が増えていると思われます)。
この背景には世界遺産登録されているガラパゴス諸島ならではの理由があります。ガラパゴス諸島はそのユニークな立地や背景から生物多様性の保全が求められていて、島内での農作物の栽培が厳しく制限されています。ガラパゴス県による特別地区の保全と発展に関する法律(LOREG)では既存の農作物生産区画でしかコーヒー栽培を認めておらず、その生産量も毎年決定しています(近年は5000バッグを上限としています)。また、コーヒー農家は生産にあたって各種許認可を得る必要があり、その中には化学肥料等を使わないことが定められています。
このようにガラパゴス諸島でのコーヒー生産は非常に困難を伴いますが、収穫されるコーヒーは各島毎に完全に管理されているので、追跡可能性および透明性が高く、これを活かした認証制度も行うようになりました。
世界的に大きな認知を得るようになったきっかけはスターバックスがサンクリストバル島のコーヒー豆を仕入れてアメリカに紹介したとされています。それ以降、各農園が力をいれはじめ、販路は拡大、今回のタリーズもそうですが、ネスレや日本のサザコーヒーなども仕入れるに至っています。
ちなみに60kgバッグの生豆の農家の販売価格が150ドル程度だったのに比して、ガラパゴス諸島のものは150~450%高く販売されています(約10年前のレポートなので、もしかしたら今はもっと差が広がっているかもしれません)。
7 管理されていないサン・クリストバル島のExpigo Companyの土地を除いても825haの耕作地があると主張する調査もあります。
6Exploring Yield & Profitability For Coffee Farmers, by Perfect Daily Grind
参考文献:USDA FAS Ecuador Galapagos Coffee Production and Commercialization(Report No EC201302)
ラ・プリマヴェーラ農園のコーヒーについて
農園名:ラ・プリマヴェーラ農園
農園主:フィレモン・クエバ
精製方法:フリーウォッシュド
標高:200m付近
値段(容量):3500円(150g)
さて、スクールではエクアドルやエクアドル産のコーヒーの状況について説明を受けたのち、コーヒーの試飲が始まります。今回のコーヒー豆のおすすめの飲み方はペーパードリップでした。
具体的には少し粗目のコーヒー豆25gを84~85℃のお湯で300ccを抽出することをお勧めされました。ちなみにこの時使ったのはタリーズのオリジナルドリッパーです。これは商品カウンターに販売されていますので、興味がある方はそちらもチェックしてみてください。
講師の方が淹れてくれたコーヒーを飲んでみると、ハニーや黒糖のフレーバーが感じられて、とてもクリーンな印象を受けました。おみやとしてフィナンシェをいただいたのですが、このお菓子とも相性はぴったりでした。
個人的に確認してみたかったこと
実は栽培品種について質問をしたのですが、不明だったので、どうなんだろうと思い、簡単な飲み比べをしみました(主観的な飲み比べなのでスキップしても大丈夫ですが、お付き合いいただければ幸いです)。
目的は①どんな品種だろう?、②ガラパゴスならではの特徴は感じられるか?、③浸漬式(フレンチプレス)ではどんなかんじになるのだろう?をしることです。
カッピング | ガラパゴス | コロンビア・ブルボン | コスタリカ・ティピカ | ガラパゴス(ペーパー) |
PH | 4.78 | 4.81 | 4.6 | 4.8 |
Brix | 1.41 | 1.72 | 1.27 | 1.38 |
TDS | 1.12 | 1.37 | 1.07 | 1.09 |
Note | カカオ、Nutty、 (微)レモングラス | カカオ、オレンジ、 スパイシー | レモニー、スムース | メープル、黒糖、 (微)レモングラス |
PHは28℃で計測。n=3の平均値 数値は参考値。比較的深い焙煎でもいずれも酸を感じらました。
結論を言うと、①ブルボンのような印象、②黒糖やメープル、またほのかなシトラスが感じられるまとまりのあるフレーバー、③カッピング時に感じられたのは、少し苦みやナッツ感が強く感じられる、というかんじ。
①は比較したコーヒー豆の焙煎度が異なるので簡単には言えないのですが、マウスフィールがそのように感じました。
②は同時期のスターバックスが販売しているカッピングノートやその他の記事も参考にしましたが、そこまでユニークなフレーバーの記載はありませんでしたので、たぶん、みんなこんな印象なのかなと。ただ、丁寧な仕上がりであることは間違いないなという印象。
③推奨温度のこともありますが、フレンチプレスよりはペーパーのほうが個人的には好きでした。もちろん、これは好みもあると思いますし、コーヒー豆を味わい尽くすという意味では試すのがよいと思います。
あと個人的にはもう少し浅い焙煎も飲んでみたかったのですが、こればっかりはタリーズの狙っている焙煎とそれを楽しみにしている常連のお客さんがいるので、しょうがないですよね。
いずれにせよ、南米の世界遺産登録されている島で採れたコーヒー豆を日本で飲むなんて機会はそうそうないと思いますので、非常に贅沢な体験をさせてもらったなという印象です。
ただお値段は上述したとおり、結構しますので上に書かれたストーリーやガラパゴスという特殊性に何らかの縁を感じられたら購入してみるのがいいと思います。
また、タリーズでコーヒー豆を購入しようとしている場合は、可能な限りスクールへの参加がおすすめです。お話をきけて、コーヒーの試飲もでき、さらにお菓子までいただける。毎回言っていますが、とってもお得です。
個人的におすすめなシーンは、少し落ち着いて本を読みながらなどがいいかなと思います。その際、ガラパゴスの写真や海を想像できる本やもちろんダーウィン関連の本をよむと特別なひと時になるのではないかなと思います。いずれにせよなかなか手に入れることのできなビーンズなのでじっくり楽しんでいただけるといいな、なんて思います。
今回も色々調べたら長くなってしまいましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。また次回の記事でお会いできるのを楽しみにしています。
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