SCAJ2024セミナー出席報告「サステナビリティと品質の追求 ~高品質なコーヒーの調達危機への対応~(1)」

SCAJ2024で認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパンによる『サステナビリティと品質の追求 ~高品質なコーヒーの調達危機への対応~』に関するセミナーが開催されましたので内容をシェアします。

現地の雰囲気を伝えるため、なるべくスピーカーの口調にならって文章を書きますが、一部意訳している部分もありますのでご留意ください。

なお、今回はフェアトレード・ラベル・ジャパンから潮崎事務局長が、南米から3名のスピーカーがいらしてプレゼンをされました。そのため内容もボリューミーなため記事をスピーカー毎に4つに分けてアップしていきます。本記事はフェアトレード・ラベル・ジャパン潮崎事務局長によるフェアトレードに関する包括的な説明となります。

世界のコーヒー生産を取り巻く環境

コーヒーの生産現場は多くの課題を抱えています。国際労働機関(ILO)によれば世界に1億6千万人ほどの児童労働者がいて、そのうち7割が農業従事者との報告があります1。そしてコーヒー産業も多くの児童労働が行われていると指摘されています。

また10大コーヒー生産国のうち8か国のコーヒー生産者の平均年収が貧困ライン以下にとどまっています。これは児童労働の多さとも密接に関わっていて、低収入のため、少しでも収入を増やそうと子供まで労働に従事させるという悪循環が生じる原因にもなっています。

そしてコーヒー農家が支払う生産コストがしばしば取引価格を上回ってしまい、生活がさらに困窮してしまう状況も発生しています。特に昨今の肥料や農具等の高騰を受け、小規模農家の採算は厳しくなっています。

さらにこの状況に追い打ちをかけるように気候変動によってアラビカ種の栽培適地が2050年に50%減少するという推計もでています2。この結果、コーヒー栽培の生産性が低下し、多くの生産者がコーヒー栽培を辞めてしまうともいわれています。

国際フェアトレード認証とは

国際フェアトレード認証を受けた商品は世界140か国以上で流通していて、最も有名な認証プログラムの一つです。このプログラムには70か国200万人の生産者・労働者が参加しています。

このプログラムに参加しているコーヒー生産者には、市場のコーヒー取引価格が低迷した場合でも生産者の生産コストをまかない、かつ経済的・社会的・環境的に持続可能な生産と生活を支えられるように設定された金額でのコーヒー取引が保証されています。そのうえで、通常時は市場価格に連動してフェアトレードの取引価格も上がるようになっています。

Monitoring the scope and benefits of Fairtrade: Overview – Monitoring report, 11th Edition~15th Edition

これに加えて、フェアトレード商品の売上を通じてプレミアム(いわゆる、奨励金)が生産者組合に対して支払われます。この生産者組合に対して支払われるプレミアムの世界合計金額が2022年には307億円に達しました(上図はユーロで表示)。

プレミアムは主に生産者の教育環境の整備、農業指導、気候変動対策や医療インフラの向上に使われます。

フェアトレード認証の仕組みと参加することのメリット

フェアトレード商品が生産者の生活を支えることに役立っていることは理解頂けたと思います。ただ、これは単に生産者支援のための資金提供ではありません。

フェアトレード認証商品には、生産国の環境や人権にきちんと配慮されて適切に消費者に届けられているか、サプライチェーン全体に監査が入るシステムがあります。結果としてフェアトレードの理念は担保され、消費者が安心・安全に商品を購入することができる体制を構築しています。

社会問題解決への取り組みとその達成状況

フェアトレード商品はSDGsの全ての項目をカバーできる社会的なインパクトの大きいものですが、認知度についてはまだまだ伸びしろがあると考えています。そのため私どもは学生団体・市民・自治体の力を借りながら日々普及活動に取り組んでいます。

そして、これら関係者様の普及に関する後押しもあって国内のフェアトレード市場は2023年に初めて200億円を突破することができました。

生産者によるさらなる付加価値の提供へ

フェアトレード商品について以前はその品質に疑問符を投げかけるお声を頂いていました。特に日本の消費者の商品を見る目は厳しく、品質の高いものを求める傾向にあります。そして、納得すれば支払いをするというのも理解しています。私どももより多くの市場でフェアトレード商品を受け入れてもらうためにも品質の向上は必要と考えておりました。

そして、コーヒーの品質向上を目指すためにいくつかの制度を導入しました。その代表的なものとして、①還元する(フェアトレード・)プレミアムの25%を品質向上への投資とすることの義務付け、そして②フェアトレード団体によるコーヒー品質向上へのトレーニングを実施、することとしました。

また、さらなる品質の向上を目指してフェアトレード認証コーヒーで競われる③ゴールデンカップという品評会を開催するに至りました。その結果、コーヒーの品質向上はもちろん、生産者からの評判も良好です。

フェアトレードインターナショナルの支援体制

フェアトレード・インターナショナルはドイツに本部を置き、3つの生産者ネットワークを形成して、各地域における生産者の問題の解決に取り組んでいます3

このあとスピーカーを務めるパウロ・フェレイラ・ジュニアが所属するのがラテンアメリカ・カリブ海をカバーするLatin American and Caribbean Network of Fair Trade Small Producers and Workers (CLAC)。その他にアフリカをカバーするのがFair Trade Africa。アジア・太平洋地域をカバーするのがNetwork of Asia & Pacific Producers(NAPP)となっています。

具体的な取組事例についてはゲストスピーカーから話をしてもらうこととします(次記事へ続きます)。

参考:フェアトレードジャパン(HP Youtube Facebook Instagram

多くの生産現場に関する情報がフェアトレードアライアンスのHPとYoutubeで発信されています。興味を持った方はぜひチェックしてみてください。

所感

フェアトレード認証を付けたドリップコーヒー。スーパーの棚で見つけられるほど身近なものになりつつあります。本当はSCAJ2023のときにフェアトレード・ラベル・ジャパンと共同でプレゼンテーションしていた小川珈琲のものを買おうとしたのですが、お店になかったのでこちらを購入。

コーヒーを消費するとき、私自身は気分を切り替えたり、リラックスするために飲みます。ただ、目を背けてはいけない事実が、この産業にはついて回ります。このプレゼンでそういう事態が一向に改善されていないどころか、一部については悪化しているということがよくわかりました。

本日ご紹介したプレゼンでも指摘がありましたが、フェアトレードに支払う金額の一部は現地の教育や生活の向上に役に立つのはもちろん、コーヒーの品質向上にも役立つとのこと。であるならば、明日の一杯のために購買行動で示すのも重要ではないかなとも思いました。

もちろん、今までの購買行動をゼロイチで変えるのは難しいと思います。ただ、例えば週に1回程度、自分が選んでいる商品の一つをフェアトレード商品に変えていくというのことが重要なのかなと思ったりもしました。

ということで、上の写真につながります。個人的には大手メーカーの商品に限らず、より多くの中小ロースターからこういう商品が手に入るとうれしいと思ったりもします。

そして、そういう草の根レベルの運動が盛り上がれば、消費者の意識もより変わっていくのではと考えています。私自身もこういう情報を継続的に発信できればと思います。

  1. Child Labour: Global estimates 2020, trends and the road forward (ILO and unicef, 2021 ) ↩︎
  2. A Brewing Storm: The climate change risks to coffee ( The Climate Institute, 2016) ↩︎

最新情報をチェックしよう!