CQIがSCAにQグレーダー運営を譲渡した理由を考える

SCAのCVA普及に向けた取組等

2020/5コーヒー価格危機への対応について行動概要を発表(リンク
2021/9SCAがスペシャルティコーヒー の定義発表(リンク)
2021/10SCAが最新の官能科学に基づくCoffee Sensory and Cupping Handbookを発表(リンク
2023/4 「スペシャルティコーヒーカッパーの価値」というタイトルの白書を発表(リンク
SCAがCVAベータバージョンを発表(リンク
SCAが発表したCVAベータバージョンフォームへのコメント募集
2023/5CQIは今後も既存のカッピングフォームを使うことをQグレーダー宛に表明(リンク)
2023/9SCAは体系的なコーヒーに関する教育システムを発表(リンク
2023/12SCAがICO(国際コーヒー機関)とMOUを締結(リンク
2024/7SCAがACE/COEとMOUを締結(リンク
2024/9SCAJ2024の講演時、SCA CEOが参加者からの質問にCQIと継続的に協議していると回答
2024/11SCA理事会がCVAのプロトコル、各種フォームを採択したことを発表(リンク)
2024/12CQIから既存のカッピングフォームへのコミットメントを対外表明(リンク
2025/4SCAとCQIがQ Arabica/Robusta Grader資格の運営譲渡に関して合意した旨発表(リンク
SCAがFNC(コロンビアコーヒー生産者連合会)とMOUを締結(リンク
SCAがCQIの活動を財政的支援を実施することについて合意した旨発表(リンク
2025/5SCAがBSCA(ブラジルスペシャルティコーヒー協会)とMOUを発表(リンク

上の表はCVAやQグレーダー周りの出来事をまとめたものです。

SCAはコーヒー価格があまりにも乱高下し、生産者の生活が安定しないこと、もしくは、苦しいことについて危機感を持っていました。特に2018年くらいからはPrice Crisis(価格危機)ワーキングチームを作って調査を行い、それらの概要について2020年5月に発表しています(リンク)。この中でコーヒー業界の構造的な問題点を指摘しました。

また、同時期に最新官能科学に基づいた研究をすすめ、2021年10月に”Coffee Sensory and Cupping Handbook“として発表を行いました。

これらがベースとなり、SCAは長らく改訂していなかったカッピングフォームを抜本的に変えようとします。そして、それが形として現れたものがCVAです。CVAは既存のカッピングフォームが品質を中心に価値を与えるのと違い、多面的に評価軸を作ることによって、その価値を最大化しようという試みとなっています。

CQIはコーヒー生産者のほうを向いて活動を行っていますが、その視点はSCAのようなマクロ的な視点ではなく、ミクロ的な視点のように感じられます。生産者の作るコーヒーをボトムアップで品質改善することでより生活が良くなるという信念のもと活動しています。

両者はいずれも生産者の生活向上を目指しつつも、その施策はだいぶ異なります。そんな両者がQグレーダーの運営について譲渡を発表したのは2025/4/23でした。

Q資格譲渡にある背景

coffee is more than a score: The Q is evolving

以下ではCQI側の観点で事業を譲渡せざるを得なかった理由について考えていきたいと思います。

1つ目に、CQI自身のリソースの限界が叫ばれていました。先に書いたように年間予算規模が小さく、職員も少なく、また品質評価方法もキャリブレーションを通じて中央集権的に管理するところがあるため、会員数を増やすのが難しいのです。それでも増やした会員のキャリブレーションの均質化に苦労もしていました。そして、このような状況を踏まえ、Qグレーダーの存在に疑問を持つ人も一定数いて、この解決も必要とされていました。

2つ目に、1つ目の問題とも通じるのですが、Qグレーダーの質の向上や教育の問題がありました。SCAは多くの大学等と共同で研究を進めていましたが、CQIは先にも触れましたが、リソースと資金が限定的なため、少しずつしか研究開発ができていませんでした。その中でもFlavorActivと共同でフレーバーキットを開発したり、Q試験で使われるLe Nez du Cafe等の改訂を行ったり、少しずつ進めていましたが、動きとしては後手に回っていました。

3つ目、2004年SCAフォームの存在です。これは完全に噂ベースの話ですが、CQIはコーヒーの品質向上のためにSCAのカッピングフォームの普及に努めてきました。しかしながら、SCAがこのフォームをレガシーフォームとして過去のものとしてしまったのです。そうするとこのカッピングフォームを使い続ける正当性の一つが大きく揺らぎます。加えて、これらのカッピングフォームを今後も使い続けるにはその権利に対して費用が発生する話もでてきたと言われています(この件については記者会見で公式に否定されています(リンク))。

SCA側から見てもCVAの普及するにあたって複数のカッピングフォームの存在は望ましくありません。国際的な品評会であるCOEとは協業を進めることになり(ただし、カッピングフォームを使うかは不明)、あと残っているのは2004年SCAフォームを公然と使っているQグレーダーのみでした。

4つ目として、これが非常に大きかったともいわれますが、2025年1月に発表されたトランプ政権の国際開発庁(USAID)の廃止を契機とした援助プログラムの停止が挙げられます。これによって多くのコーヒー生産者支援するプロジェクトは停止したり、延期することとなりました。CQIが支援するプロジェクトにも影響がありました。一方で、CQIは予算的に潤沢な機関ではありません。この緊急事態にあって生産者に寄り添おうにも限界がありました。

そこで上にある問題を解決できるのがSCAとの提携となります。

つまり、CQIにとってSCAに一部機能を譲渡する代わりに資金面でサポートを得ることで、機関としての使命である生産者支援が最大化できると考えたのでしょう。Daily Coffee Newsによれば、CQIはSCAから今後10年にわたってライセンス料として年間25万ドル、また教育関連収入の5%を受け取ることが合意されたと報道しています(記事リンク)。

23年のTax ReportではMember Training 収入として10百万ドルが記されています。この場合、50万ドルとなります。これはSCA単体であり、これにQグレーダー関連収入が入るとさらに増えるかもしれません。CQIの以前の収益よりは下がりますが、組織としてそれに伴う費用や雑務等から解放され、本来の目的である生産者支援に集中できることを鑑みれば、決して悪い合意内容ではないのかもしれません。

これらのことについてSCAもCQIも認めているわけではないので、こういう考え方もあるんだ、程度に考えておいてください。ただ、こういう話がでてしまうほどに、多くの人が2者の合意について納得していなかったというわけです。

個人的に想うこと

バリスタとコーヒー

Qグレーダー資格取得の授業で、講師は口を酸っぱくして次のことを言っていました。

「このコースはカッパーとして自己満足で終わることなく、その先にある生産者の生活を改善できるよう、努力しなければいけない。そして、Qグレーダー資格はゴールではなく、単にスタートでしかない。」

つまり、カップに点数をつけるだけでなく、なぜその点数なのか説明でき、そして何をすればより良いコーヒーになるか、それらを指摘できるよう、常に自己研鑽や勉強し続ける必要があるものが、Qグレーダーなのです。

もちろん、現地で生産を行っている生産者が一番現場の知識をもっているでしょう。その知識に負けないよう、もしくは肉薄できるよう、書物を読み、時に農業実習で経験を積み、ベストプラクティスをストックしてその知識をいつでも還元できるよう、準備を怠らないようにしたいと思っています。

今回運営がCQIからSCAへと変わりますが、Qグレーダーは単なるきっかけでしかなく、コーヒーに対する探究心を忘れてはいけないし、時代が修正や適応を求めるなら、その先にいる生産者を思いつつ、謙虚な姿勢で対応していきたいと思います。

いずれにせよ、約20年間続いたスペシャルティコーヒーのSCAカッピングフォームの歴史はいったん幕を閉じます。今後スペシャルティコーヒーがどのように発展していくか不透明なところはありますが、きちんと見守っていきたいと思います。

このサイトではスペシャルティコーヒーの情報を引き続き力を入れて発信していきたいと思います。

参考サイトおよび資料:

Map it forward(Ep1386-1390), Specialty Coffee Association, Coffee Quality Institute, Daily Coffee News

  1. 参考 M&Aの労働者保護「不十分」 事前説明に課題、厚労省が強化策議論 – 日本経済新聞 ↩︎
SCA-CQI MOU
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