タリーズプレミアムビーンズコーヒーセミナー(ハワイ コナ)

コーヒースクール参加記録

タリーズコーヒーが主催するコーヒースクール参加記録第2弾です。今回はハワイコナコーヒーのセミナーに参加してきたので、その記録と感想をシェアできればと思います。なお、第1弾の記事「ホンジュラス・アナエロビックコーヒー」はこちらから飛べます(リンク)。

前回記事でタリーズのコーヒースクールの特色や雰囲気、そして何よりもお得な特典についてはお伝えしたので、今回はそれらの情報は少なめで、ハワイのコーヒー情報を中心にまとめたいと思います。

記事では(1)ハワイ産コーヒーの生産状況やトピックについて、(2)コーヒースクールでの様子とコナコーヒーを飲んでみて、にまとめています。

ハワイ産コーヒーの歴史
ハワイ島ではコナhttps://ontheworldmap.com/usa/state/hawaii/hawaii-highway-map.html より 

ハワイコーヒーの歴史は1817年まで遡ります。スペイン人でハワイ王家にも影響力を持っていたフランシスコ・デ・パウラ・マリン (Francisco de Paula Marín)が苗木を持ち込んだとされています。ただし、この苗木の育成には失敗します。その後、1825年にオアフ州のボキ総督がブラジルから苗木(ブルボン系統のカナカ・コピとされています)をオアフ島のマノア・バレーに持ち込み、ようやくコーヒー栽培に成功します。

1828年にはアメリカ人宣教師のサミュエル・ラッグルズ(Samuel Ruggles)が、マノア・バレーからハワイ島のコナへ挿し木を持ち込み、栽培を始めます。その後、土壌とコーヒー栽培の相性の良さもあり、コナ地域全体へと浸透しました*。

1892年には砂糖きび農園主であるヘルマン・ワイドマン(Hermann Widemann)が、グアテマラからティピカ種を持ち込み、栽培に成功します。このときの収穫量は上述したブルボン種より多く、他のコナ地域の農家もティピカ種の栽培を始めました。以降、この品種を中心に栽培するようになり、農家たちはこの品種をグアテマラン(Guatemalan)と呼ぶようになりました。その後、1990年代になると、グアテマラ産コーヒーが市場に多く流通し始めたため、混乱を避けるためにコナ・ティピカ(Kona Typica)と改めます。

ハワイは長らく砂糖きびが主な農作物でしたが、1980年代に砂糖の販売価格が大きく下落するとコーヒーに転作する農家が増え、以降、何度か生産や販売価格の落ち込みはありましたが、順調に拡大、現在ではハワイの主要農作物であるマカデミアナッツやトロピカルフルーツを抑えて、単一では最大の生産額を誇るほどになっています**。

*Hawaii Coffee History by Hawaii Coffee Association (https://hawaiicoffeeassoc.org/History)

**USDA NASS (https://www.nass.usda.gov/Statistics_by_State/Hawaii/index.php)

ハワイ(アメリカ)コーヒーの生産状況と各国比較
Bearing acreage(作付面積)は単位エーカーで、パーチメントおよび生豆の単位。生豆は1000ポンド単位。-2010はHawaii State Historical Dataを使用。*2011-15 Acreage harvested で、2015-16からはbearing acreageを使用。*Hawaii Coffee Marketing Final Season Estimates, August 19, 2015。**Pacific Region – Hawaii Coffee Final Season Estimates Released: June 18, 2019。***Released January 26, 2021 , by the National Agricultural Statistics Service (NASS), Agricultural Statistics Board, United States Department of Agriculture (USDA)のデータを編集。

このような歴史的な背景があるため、ハワイ州で栽培されているコーヒー豆はティピカ種が中心で生産高の約90%を占めます。ちなみにラッグルズがブラジルから持ち込まれたブルボン系統もわずかばかり残っており、これをオールドハワイアンと呼ぶことがあります。ほかにもカツーラ、カツアイ、ブルボン、モカ、マラゴジッペ、SL28等が少量ながら栽培されています***。

そして、これらハワイ州産コーヒーは2019-20年度の統計データによれば、世界で生産された全コーヒー生豆(ロブスタ含む)のわずか約0.04%****でしかありません(ちなみにハワイ州内の地域別データは現在非公開となっており、データが公開されていた2010年をベースに推計するとコナ産はハワイ産の半分から3/4程度を占めると考えられます。耕作地はエーカーベースで、コナ(3800-4000)、カウアイ(~3000)、カウ(830)、マウイ(600)、オアフ(160)、モロカイ(150)、ハワイプナ(125)となっています)。

これは日本でもスペシャルティコーヒーとしてよく聞かれるコロンビア産が世界の生豆生産比約8.5%、エチオピアが約4.5%、さらにパナマの約0.13%に比べても非常に少量です。一方、ハワイ州産コーヒーはこれらに比べても負けずとも劣らない知名度を誇るため、その需要は世界的に高いものとなっています。 そのため、ハワイ産コーヒーのうち、日本へ輸入されるコーヒーは本当に少量にとどまっています。

**Hawaii Coffee history https://hawaiicoffeeassoc.org/History

***GROWN WITH ALOHA A GUIDE TO HAWAI‘I’S COFFEE INDUSTRY: YESTERDAY, TODAY & TOMORROW printed in 2018 by Hawaii Coffee Association より

****IOCデータ2019-20のものにUSDAのレポートで報告されている生豆データから導き出したもの。

ハワイ産コーヒーはなぜ高額なのか?
USDA統計情報を編集したもの。パーチメントベースのものが過去より集計されていたのは多くの零細農家は必ずしも自分で精製を行っておらず、精製設備をもった少数の中規模以上の農園へパーチメントの状態で納品していたため、このようなデータとなっている。したがって、な豆データが整備されたのも2010年代以降となっている。

2020-21のハワイ州産のコーヒー生豆の平均取引価格は1ポンド当たり19.4ドルとなっています。これは各国で開催されるコーヒーの品評会『Cup of Excellence(COE)』でトップ10入賞するレベルの生豆の取引価格と同程度です(ただどこの国でもCOEのトップ5程度になるとこれ以上に値段が跳ね上がっていくことについては留意ください)。

もちろんこの取引価格を実現できている背景にはハワイ産コーヒーがコナを中心にブランディングに成功していて、そのうえで最近のスペシャルティコーヒーの波に乗っているからでしょう。ただ、この大きな流れにのっているのは各国でごく一部の農園に限られており、平均取引価格がここまで高い国はありません。

この理由について、当然少量生産が故というのもあるのですが、それ以外の点についてもいくつか挙げていきたいと思います。

厳格な品質管理
表はHawaiiCoffee Labelling Requirements(HAR Chapter 4-143-1)(ハワイコーヒー協会リンク)から編集したもの。 直近では法改正されて、ナチュラル製法のカテゴリーもできました。同レベルのウォッシュド、中にはピーベリーのものを上回る価格で取引されているものも流通しています。なお、ハワイ州の法律ではコーヒーの品種による縛りはありません。そのため、コナ地域で栽培されているティピカ以外の品種があったとしても、この基準でモニタリングされることとなります。

一つ目の理由として、ハワイ州とハワイのコーヒー農家がブランド価値向上に長らく努力してきたことがあります。

その一つの事例として、ハワイ州からコーヒー豆を輸出する際にはハワイ州が定める検査を基本的には受けることとなっており、コーヒー豆に上の表にある名称(エクストラファンシー等)が確認できる場合、ハワイ州政府からお墨付きを得ているといえます。現在、コナ地域からの輸出が有名ではありますが、他の地域からの輸出に際しても地域名と紐づく形でこのルールは適用されます。ちなみに、このルールに違反するとハワイ州政府は生産者に対して所定の手続きを取った後、最終的に販売差し止め等を行うことができます。

この規格にそうためハワイの農園主たちはコーヒー畑を整え、コーヒー豆の品質向上に早い段階からコストを支払って取り組んできました。その結果、ピーベリーが約3-5%、エキストラファンシーが約20%、そして残りの多くもファンシーに分類される*に十分なコーヒー豆を生産できるようになり、市場の中でも高い品質を確保するようになりました。このことは間違いなくハワイ産コーヒー豆が高い理由になっています。

*上の表に書かれているように各カテゴリで一定程度まで欠点豆の混入が認められているため、販売価格が最大化できるよう仕上げられる傾向にある(https://www.lineagecoffeeco.com/kona-coffee)。

世界有数の観光地から発信される高品質なコーヒー文化

二つめの理由として、ハワイ産コーヒーに対する世界的に旺盛な重要にあります。

ハワイは誰もが知る世界有数の観光地です。そしてハワイを訪れた観光客は地場産品を嗜好するわけですが、この中には当然ハワイのコーヒーも含まれます。そして、ある程度のレストランやコーヒー農園体験ツアーでは現地の良質で新鮮なコーヒーを飲むことができます。これらの島内需要は少なくない量です。

そして、中にはハワイのレストランやコーヒー農園で初めて新鮮なスペシャルティコーヒーと出会う方もいらっしゃいます。そういう方はこの時の感動を忘れられなくなります。そして、ハワイの感動を自宅でも再現したいと思うようになり、そればかりか、そのことを友人にも宣伝し、二次プロモーションをします。

結果として、ハワイ以外でのコーヒー需要も高まります。これらが好循環するため、ハワイのコーヒーに対する需要は高くなります。こういう施策は近年多くのコーヒー生産地でも行われるようになりましたが、その中でも抜群にアクセスが良いのがハワイであることは間違いありません。ちなみに今回のタリーズコーヒーのスクールでも、かつてハワイを観光で訪れた際に飲んだコーヒー体験が忘れられず、参加したという方がいらっしゃいました。

先進国かつ離島でコーヒーを生産するということ

The Economics of Coffee Production in Hawai‘i by A. John Woodill, Dilini Hemachandra, Stuart T. Nakamoto,
and PingSun Leung

三つ目の理由に、これは完全に供給側の理由ですが、生産コストが群を抜いて高いことがあげられます。

アメリカの物価は他のコーヒー生産国のそれよりも高く、さらに人件費については群を抜いています。表は2007年にハワイ大学がだしたハワイにおけるコーヒー農家のコスト構成に関する調査報告からの抜粋ですが、人件費と監督者の人件費が総コストの約4割を占めています。これは直接的な総コストの説明にはなりませんが、他の国の人件費は概ね10%以下に抑えられていることが多く、これがどれだけ高いかわかると思います*。

さらにハワイは離島であり、機械設備や肥料をアメリカ本土などから持ち込むこととなります。加えて、土地代もただではありません。仮に親から受け継いだものだとしても、税金等のランニングコストはかかります(ちなみに興味ある方はハワイ島における土地売買で検索してみてください。小さい土地でも結構な値段で売りに出されています)。これら、すべてが消費者へ転嫁されるのでハワイ産コーヒーは他のものに比べて高くなってしまいます。逆にこれらのコストを転嫁できなければ、土地は他のものに利用されることとなります。

このような複合的な理由もあり、ハワイ産コーヒーは構造的に安くするわけにはいかず、また、長年の努力の結果、高い価格を維持できていることとなります。

*https://perfectdailygrind.com/2018/07/this-is-how-much-it-costs-to-produce-coffee-across-latin-america/

参考:https://www.quora.com/Why-is-Kona-coffee-so-expensive-and-is-the-price-warranted

ハワイコーヒーのブランド維持と受難

最近のトピックを簡単に紹介したいと思います。

ブランド維持のためのたたかい

上述したようにすでにハワイ産コーヒーについてはコナコーヒーを中心にブランディングに成功しています。そうなると偽物がでてくるのが常です。ハワイ州ではこのブランドを守るために様々な取り組みを行っています。その一つは先ほどあげたエクストラファンシーとか、ファンシーとかいう品質区分です。

また、コナコーヒー生産者協会ではコナ産のコーヒー豆100%だということを証明するためのロゴも設けてブランドの保護に努めています(ただし、零細農家でコンテスト優勝経験等があると、これらの規格とは別に小売り会社や豆販売会社と直接の取引を行う場合があります。今回のタリーズのコーヒー豆もそうです)。

これらのブランド保護を掲げていても、巷にはコナの名前を付けたコーヒーが考えられないほどあふれています。そこでコナコーヒー農家たちは特に目に余るスーパーや販売店のブランドに絞って専門家に検証を依頼したところ、それらにはコナ産のものが全く入っていないことが判明。これをもとに裁判所に訴訟を起こしました*。結果、販売会社とコナ地域の生産者は和解をし、複数の販売会社が王敬で約1300万ドルをコナコーヒーの生産農家を得ると同時に、販売会社はこれらをきちんと管理することを約束させました*。

ただ、この記事にもあるとおり、一度失った消費者の信頼を取り戻すのは非常に難しいことです。また、多くのコーヒー生産国がその品質向上に取り組んだ結果、以前よりハワイ産コーヒーの市場での優位性は薄れつつあるように感じられます。今後、ハワイ産コーヒーにはさらなる品質やブランド価値の向上や模索が求められると考えられます。

*The Kona coffee you buy from Costco and Walmart? It might be fake https://www.latimes.com/world-nation/story/2019-09-14/kona-coffee-amazon-costco-fake

コーヒーノミキクイムシ(coffee borer beetle)の被害

もともとハワイ州は陸地から離れていることが幸いして、コーヒー栽培の主要な害虫や病気とは無縁の地でした。しかし、グローバル化が進む中でハワイでもその存在が近年確認されるようになりました。世界を飛び回るコーヒーバイヤーかそれとも観光客、はたまたコーヒー以外の農園からの侵入が原因か、不明です。ただ、グローバルに人の往来がある以上、どんなに注意したとせよ、遅かれ早かれ発生していたでしょう。

コーヒーノミキクイムシ(Coffee Borer Beetle)はコーヒー豆を食い荒らし、生産に大きな影響を与えます。この虫が2010年夏にコナ南部地域にある複数の農園から発見されました。その後、詳細に調査したところ、コナ地域全域から発見されたため、ハワイ島に入ってからしばらくたっていたのだろうという結論付けています。その後、ハワイ島以外の、オアフ、マウイ、カウアイ、ラナイからも発見されるに至りました。CBBへの対処はデリケートなうえ、根気のいる作業となっているため、今日に至るまで継続的にハワイ州政府や各地域のコーヒー協会が中心となって対処にあたっています。

*https://www.ctahr.hawaii.edu/site/cbb.aspx, https://www.ctahr.hawaii.edu/site/cbbmanage.aspx https://hdoa.hawaii.gov/pi/ppc/cbbinfo/ 

サビ病(coffee leaf rust)の登場

CBBとともにコーヒー栽培の敵とされているのがサビ病(Coffee Leaf Rust)です。カビの一種であるサビ病菌に感染して発生するものですが、この病気にかかると苗の生育阻害が発生してコーヒーの収穫がままならなくなります。さび病は空気及び水伝染性ですが、これも離島であるハワイでは確認されていませんでした。しかし、2020年10月にカイルア・コナ南部(ハワイ島)で発見されました。詳細調査を行ったところ、マウイ島からも発見されていますが、その他の島からは発見されていません(2020/10)。現在はハワイ州政府や生産者組合が一丸となって対応に当たっていて、感染が確認されている島から未確認の島へのコーヒー苗の移動を禁止したり、専門家による肥料管理等を強化などしています。

ちなみにCBBやCLRへの対応についてはハワイ州政府のウェブサイトやコーヒー生産者協会のyoutubeサイトで誰でも確認することができます。基本的に解説は英語でなされていますが、自動翻訳などを使えばたいていのことはわかると思います。興味のある方は一度ご覧になってみてください。

https://hdoa.hawaii.gov/blog/news-releases/serious-coffee-pest-detected-in-kona/ https://hdoa.hawaii.gov/blog/main/nr20-17-clrconfirmedonhawaiiisland/

このようにハワイ産コーヒーは様々な困難にぶつかりながらも、何とか前進しようともがいている状況です。先行きは決して明るいものばかりではありませんが、多くの農家が前向きに取り組んでいることは事実だと思います(実際、youtube等では色んな農家が一所懸命に取り組んでいる様子がみられます)。

ハワイコーヒーの今後に期待を込めつつ、私たちが彼らに対してできることは少なからずあると思います。それらはコーヒー豆の購入だったり、現地訪問だったり、youtube視聴だったり、寄付だったり、少しずつ自分の得意な分野で応援できるといいなと思ったりします。

次のページからは今回参加したコーヒースクールとコナコーヒーについて話していきたいとおもいます。

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