新書ならではの読みやすさを持ったカフェを知るための導入書『カフェと日本人』

高井尚之『カフェと日本人』装丁

内容

 本書では、日本のカフェやコーヒーショップの歴史を振り返りつつ、今も人気の老舗店や流行しているお店がどういったものか、そしてそれらの特徴等について取り上げ、解説しています。

 本書では、日本初のコーヒーショップ『可否茶館』のオープン当時の様子、そして日本初のコーヒーチェーン店『パウリッサ』の成長とブラジルの日系移民とのつながり、そしてブラジル側の日本のコーヒー市場に対する展望、いずれも簡潔にまとめられています。

 その後、国内に普及していくカフェが、日本の既存文化と混じりあう様を紹介しつつ、特に喫茶店文化の進化が独特な名古屋の特性にスポットを当てています。そうかと思うと、全国区でとがっている名店を紹介し、今の喫茶店のトレンドの一端を披露。時には店の利用者、時には店の名物メニューや経営者、またどのように地域に欠かせないものとなっているか、特色を細やかに指摘しています。

 最後に経済環境の変化を踏まえたコーヒーの楽しみの変化、特に、家カフェの増加、コンビニコーヒーの成功と高付加価値コーヒーの登場等に触れ、直近でどのような傾向が見えつつあるのか、著者なりの考察を加えて締めくくっています。

 著者の経営コンサルタント・経済ジャーナリスト的な見方は、カフェ業界の過去から今へとつながる流れや今を俯瞰するのに、とても適しているものだと思います。

感想

 冒頭から統計資料を使いつつ、グラフや図で業界を解説する様はまさに実務者のそれでした。最後のページで、著者自身は少なからず自身の感想や想いを交えながら本書を書き上げたといっていますが、全体としてはバイアスがなく、淡々と解説している様は、読者を冷静にさせ、きちんと理解をさせてくれるものだとも思えます。

また、カフェの歴史について語る際、人によっては多くのページを割きそうなものですが、必要最低限の情報と知っておくとどこかで使えそうな知識だけを書いています。そのため本当に読みやすいものでした。

カフェの紹介シーンも一か所にまとめられ、また冒頭に場所・喫茶店名を書いてまとめられているのでこの本を参考に喫茶店巡りもできるようになっています。基本的にはいわゆる老舗喫茶店や中堅規模のチェーン店、もしくは卸も行っているようなお店が多く紹介されていますが、これは著者の嗜好が大きいかな、と思われます。

そして、特に各店の特色を紹介するにあたっては、具体的にどのメニューで、いくらで、どのような客に好まれているとか、細かく教えてくれます。もちろん新書なので経営指南書にはなっているわけではありませんが、ヒントらしきものは色んなところにちりばめられているような気がします。

さて、そんなディテールに富んだ本書ですが、個人的にはいくつかの点について少し異なる意見を持っています。

その中でも少し違和感を持ったのがサードウェイブに関する考え方です。著者は、サードウェイブは、”日本の「昭和の喫茶店」で人気だったスタイルそのもだ”と主張し、さらに”フルサービスの喫茶店の復権も同じだ。”といっています(P.212)。

サードウェイブの一部は確かにハンドメイド(サイフォンやハンドドリップ)によることも重視していますが、主にはその生産・流通/焙煎・抽出過程にきちんと目を配るfrom seed to cups(豆からカップまで)の精神に重きをおいているように思えます(この点については筆者は別の文脈で指摘していますので、少し重箱の隅をつついているかも)。そのため、筆者の言う”フルサービス”か否かはサードウェイブにおいては必ずしも求められていません。実際、サードウェイブの代名詞ともいえるブルーボトルはフルサービスの店ではありません。ちなみにwikiにも書かれていることなので、ここで紹介するのは憚れるのですが、ピューリッツァー賞受賞者で料理批評家でもあるジョナサン・ゴールドは以下の通り、サードウェイブについて表現しています。

We are now in the third wave of coffee connoisseurship, where beans are sourced from farms instead of countries, roasting is about bringing out rather than incinerating the unique characteristics of each bean, and the flavor is clean and hard and pure.

 Jonathan Gold (March 12, 2008). “La Mill: The Latest Buzz”LA Weekly.

要約すると、”コーヒーの品質が求められる時代になっており、豆は国単位ではなく、農園単位で仕入れ、焙煎はたんにコーヒー豆を炒るだけでなく、豆の特徴を出すためで、そしてそのフレイバーは確固として純粋であるべき。”、なんて述べています。この部分は抜粋で、かつ一部のことについてしか関連付けていないので、お店での振る舞いについては触れていませんが、とにかく重要なのは高品質なコーヒー豆の質を落とさずにその特徴を、きちんと(流通を把握しつつ)消費者に届けることがサードウェーブでは重要なんだと思います。

そして、筆者が上で主張しているのはサードプレイス的な存在のことではないかなと、思ったりもします。近年、サードプレイスとサードウェイブが少しずつ侵食しあって語られることが多いような気がします。そういう意味では、この辺の定義についても改めて考える必要があるのかな、なんて思いました。

とまぁ、そんな考え方の違いはありますが、新書として日本のカフェの歴史を短時間でここまで詳細に追え、かつ消化しやすいものはなかなかないような気がします。ということで、未読の方は一度読んでみてください。そして、考え方をお聞かせくださいませ。 

次の一冊

この本の著者である高木さんは同様のテーマで、かつさらに掘り下げている内容物がありますのでそちらも面白いと思います。このサイトでもタイミングをみて紹介したいと思います。

雑な閑話休題

http://coffee.ajca.or.jp/wp-content/uploads/2017/06/data04_2017-06b.pdf

この本が出たのは2014年でした。全日本コーヒー協会が出している飲用場所に関するアンケートでは、2014年くらいまでは家庭での飲用が少しずつ増え、カフェでの飲用は減る傾向にあったものの、直近では少しだけ回復しているんですね。これは興味深い結果でした。一人が飲むコーヒーの量には限界また、そのほかの飲み物とのシェアの奪い合いではありますが、週に平均して11杯飲むほどまでに普及し

高井尚之『カフェと日本人』装丁
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