【本紹介・感想】理想のコーヒーへ科学的アプローチ『The Study of Coffee(ザ スタディ オブ コーヒー)』

コーヒー豆を知ることから始める

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レッスン1は主にコーヒーの植物および豆に関する特長や特性についてです。よく知られるアラビカとカネフォーラ(ロブスタ)種の比較から始まり、アラビカ種の代表的な栽培品種の概要や特長についても説明がなされます。

コーヒー豆の栽培品種を認識すれば、各々の特性を知ることで自分が飲んでいるコーヒーは本来どんな特性を帯びているのかを知ることができます。その後も精製工程や焙煎度合いといった工程でどのようにコーヒーの味が変化するかについて記されています。

本書Page24およびUCCのHP等を参照

レッスン2では生豆と焙煎豆、各々においてどういう成分が確認できるかについて化学的な解析がなされています。下表は以前に海外で調べられたコーヒーの成分表です。あれだけカフェインのことについて指摘されるコーヒーですが、全体の構成比の中ではそこまで占めていません。それよりもたんぱく質や脂質が多くの割合を占めます。よくコーヒーについて、脂質の劣化ということを指摘する人がいますが、こういう成分表をみるとそれも納得できると思います。本書内でも著者が自身で行った実験結果やほかの専門家や既存資料によるデータを交えながら、より詳しく、その意味するところを紹介しています。また、コーヒーにおける酸を感じる、という意味やその元のなる成分についても説明しています。

P.33 A summary of compositional data (%db) for green and roasted arabica and robusta coffee beans and instant coffee powder Coffee: Volume 1-Chemistry(2013), R.J.Clarke

焙煎する理由

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レッスン3では、改めて「なぜコーヒー豆を焙煎するのか」について確認するところから始まります。

ここは正直目からうろこでした。私はコーヒーという飲料にするために当然のごとく焙煎する工程があると思ったのです。でも、考えてみればカスカラ(もしくはキャスカラ・・・コーヒーチェリーの外皮部分を乾燥させて紅茶のように飲むもの。果物特有の甘みを感じられ、果実水のよう)のような飲み方もあれば、そもそもコーヒーチェリージュースにしたり、コーヒー酒(近年では嫌気性発酵の観光ツアーで試飲させてくれるところもあるそう)にしてしまう方法もあるはずです。それでもコーヒー豆を焙煎するのはなぜか、面白い着眼点でした。こういう常識を改めて整理するところにも研究者の素養は求められるのかな、なんて思いました。

さて、先の答えですが、著者はこの理由について『豆のポテンシャルを最大限引き出す』ことを目的として焙煎するとのこと。たしかにコーヒーは焙煎することによって、ジュースとは異なり、風味もコクも味も備わった独特な飲み物になるのかもしれないと思えました。

この章は焙煎をする人のための項目が多くを占めますが、それ以外にも国や高度によってどういう焙煎度合いが可能かだったり、コーヒーの風味がどのように劣化していくかについて説明があります。ここで改めてコーヒーは生ものだったことを認識できると思います。

様々な抽出とレシピチャートを公開

さて、今までは準備編というべきものでした。レッスン4-8ではいよいよ抽出に関する事柄です。まずはドリッパー等を用いてコーヒー粉の間を通す透過法、そしてフレンチプレスなどを用いて一定時間コーヒー粉に浸す浸漬式に大別して、各々について粒度、粉の量、熱水温度、抽出時間等が味にどう影響しているかを説明しています。

ただ、これらの変数について、単に粉量と抽出量だけだと抽出者のくせがでてきかねません。そのためにもう少し対象のコーヒーがどんな抽出ができているか、詳しくみていく必要があります。

ここで用いられるものがBrix値*です。すでに内容紹介で述べたとおりですが、Brix値は飲料・食品の濃度を計測する際に使われることがあるもので、糖分が主な成分となっている清涼飲料やジャムなどでは糖度計測のため、様々な成分を含むコーヒー等についてはその濃度を簡易的に計測するために用いられています。

Brix値と対をなすように重宝される収率はコーヒー豆からどのくらいの成分を抽出できているかを把握するためのものですが、これはBrix値と用いたコーヒー粉と水量で簡易的に計算することができます(気になる方は検索してみてください。そのうちこのブログでも整理しますが、ここでは省略させていただきます)。そして、これらをデータベース化することによってこの本に書かれているチャートが埋まっていくこととなります。

*TDSとBrixに関する考察が著者のHPにありましたので紹介しておきます(https://www.kohikobo.co.jp/papa/diary/11043/

自分が理想とするコーヒーのためのチャート作りとその埋め方

World of Coffee 2019, Navigating the Coffee Brewing Control Chart資料より (リンク

レッスン9では自分の理想の抽出、そして味が実現できるかについてです。SCAのCoffee Control Brewing Chartがあることを踏まえながら、家庭用にカスタマイズしたものを紹介しています。この本ではBrixと収率を参考値としながら、コーヒー豆の量と抽出量を各軸にして、官能評価した時のスィートスポットを探っています。

ただし、これもあくまで一例なので、一度これらを自身で作ったら、SCAのようにBrixを基準にディテールに入っていってもいいでしょうし、抽出時間をどちらかの軸に加えてみてもいいかもしれません。いずれにせよ、自分が試行回数を重ねて自分なりの抽出を実現できるように促しています。

Coffee Flavor Wheelとティスティング基準

そして、10章以降は上述した通りの意欲的な部分です。

本に基づいたティスティングを家で楽しんでいます。

スペシャルティコーヒーの誕生はかつてないほどにコーヒーの味を豊かにしてきました。そして、それに伴い、コーヒーの味と香りに関する表現も多様化しました。そして、それらの表現を共通化しようと欧米ではフレイバーホイールが誕生しました。また、コーヒーのティスティングについても欧米のスペシャルティコーヒー協会を中心にコンセンサスができました。そして、それらは日本を含む業界内でコンセンサスがとられるようになり、スペシャルティコーヒーの普及に貢献してきました。

一方で、それらのコーヒーはスペシャルティコーヒー黎明期に整備されたものであり、欧米由来の慣習をベースにしていたり、深い焙煎を前提としないものだったりしています。著者はコーヒー豆の多様化を踏まえ、日本独自の修正・変更を加えたものを作っても良いのではないかと10章以降で提唱しています。

この本が提唱している内容はすでに書いた通りですが、個人的に特に同意したいのが、ウォッシュドとナチュラル製法の違いを踏まえた評価方法の導入です。もちろん、当時の評価基準を作った人たちもこれらがあることを踏まえても統一した方がよいと判断して現在のフォーマットがあるんでしょうが、近年の生産者の精製技術の向上と消費者の好みの多様化を考えると分けてもいいんじゃないかなと思えました。

そもそもウォッシュドとナチュラルに求める味は異なるでしょうし、それらを一緒に評価してしまうのは混乱を招いてしまうのではないかなと思っています。少なくとも私は別基準で話をしてくれた方が混乱しなくてすみます。

ラップアップと(自分にとっての)課題

コーヒーの味に対する評価は本当に人それぞれだと思います。そして、それに答えられるだけの多様なコーヒーが存在していると思います。国別はもちろん、品種、焙煎度合い、精製方法、抽出方法など、霧がありません。そんなたくさんの変数の中から自分なりのコーヒーを探していくのは本当に大変です。でも、この本はその出会いを演出してくれる本ではないかと思います。

もちろん、そのコーヒーと出会ったとしてもコーヒーの生豆は限りがありますし、劣化があります。それどころかロースターの方が味変を求めてしまうかもしれません。なので、自分なりの軸を作ってなるべく自身の理想となるコーヒーを応援しながらも、一期一会の出会いを楽しめばいいのかなと思えました。そして、そういうふうに再認識してくれたこの本に感謝しつつ、これからもコーヒーについて学んでいければと思いました。

そして、改めて思う、コーヒー沼の業は深いですね・・・。

本の概要

  • タイトル:THE STUDY OF COFFEE
  • 著者:堀口 俊英
  • 発行:新星出版
  • 印刷:公和印刷株式会社
  • 編集:バブーン制作会社
  • デザイン:GRiD
  • 写真:糸井康友, fort
  • 第1刷 (記載情報):2020年11月15日
  • ISBN978-4-405-09396-6 C2077
  • 備考:発売日は2020年10月30日

関係サイト

堀口さんが主宰するコーヒーセミナー(中級)では様々な試みがなされています。時には日本国内でまだ流通していないサンプルクロップを試したり、、流行の最先端であるアナエロビック製法の豆の比較もできます。もちろん、それ以外にもティピカやゲシャといった品種に着目する回も。興味がある方は参加してみてはいかがでしょうか。

次の一冊

著者の前作『珈琲の教科書』は今なお実践的な本だと思います。読めば、基礎的なことはわかりますし、本書よりも簡易な言葉で網羅的に解説がなされています。また、この本でも参照している箇所がありますので、この本とセットで持ってもいいかもしれません。

少し前にさかのぼりますが、2020年の秋号の『CafeRes』がコーヒーの抽出についてでした。こういう専門誌に限らず、コーヒーに関する特集は各雑誌で組まれることがあるので、そのタイミングで注目点の抽出方法をしっておくのもいいと思います。もちろん、一度実践してみてあわないと思ったらやめればいいだけです。でも、新たな抽出を知れば、新たな世界が開けるかもしれませんよ。

HPより。季刊誌となってパワーアップした『Cafe Res』、内容が充実していました。

あと、堀口さんの論文『スペシャルティーコーヒーの品質基準を構築するための理化学的評価と官能評価の相関性に関する研究』を読むのも面白いんじゃないでしょうか。学術機関データベースで公開されています。

最後に本書で書かれているCOVID-19下でのカッピングプロトコルについてSCAの特設サイトができていますのでこちらを一読するのもおすすめです。ちなみにプロトコルは日本語のものもあります(リンク)。

加えて、もし疑問に思ったことがあれば堀口珈琲研究所に突撃するのもありだと思います。もちろん、場の空気を壊すような質問は避けた方がいいと思いますが、本当に知りたいことを聞きたい場合、堀口さんはきっと耳を傾けてくれるはずです。場所的に厳しい人はお近くのコーヒーショップで開催されるセミナーで疑問をぶつけてみるのも良いかもしれません(これは若干無責任な提案かもしれませんので、まぁ、ほどほどに。)。特に巻末で紹介されているLCF(Leading Coffee Family)の店舗であれば間違いないと思います。もちろん、本にも書いてある通り、掲載されている以外にもLCFの豆を使っている店はありますのでそういうのを探す旅に出てもいいかもしれません。

雑な閑話休題(雑感)

堀口珈琲研究所でのティスティング風景(写真はだいぶ前のものです。現在は本にも書いてあるCOVID-19のもとでの新しいティスティングスタイルに移行しています)

昨今の状況になるまで、色んなところのコーヒーセミナーへ参加していました。特にセミナー主催者や参加者がコーヒーの味を話すシーンは毎回楽しく、自身にはない感覚や言葉で語られるので、勉強させてもらっていました。

そんなふうに、堀口珈琲のセミナーにも何回か参加することができたのですが、ここのセミナーも本当におもしろかったんです。

初級編では本書で書かれているような抽出方法やカッピング方法が学べます。すごいのは本を出している著者本人からその方法を学べることです。もちろん、本でも自分でできるようになるわけですが、それが少し面倒に思えたり、不安に思えてしまう人は参加して直接学べばいいわけです。

そして堀口さんのセミナーの中級では各月ごとにテーマを決めて約10種類以上のコーヒーをカッピングできることです。テーマは国別だったり、品種別だったり、または精製方法別だったりと、多様です。しかも多くの回において独自に調達したサンプルをティスティングでき、そのいずれも市場ではまだ出回っていなかったりします。そして、それらの味について参加者が品評するのですが、その味の表現で、自らが見過ごしていたものだったり、とらえきれなかったものがあると本当に勉強になるな、と思えるのです。もちろん、中にはそれが本当に妥当かわからない品評もありますが、それに至る背景や考え、習慣を推測するのも面白いのかなと思ったりします。

著者のセミナー以外にも、各地で面白いセミナーは開催されていますし、それこそ、巻末に収められている店舗でもセミナーが行われていると思います。ということで、機会があったらさらなるコーヒーの奥深さを知るためにもセミナーへ参加してみてはいかがでしょうか。

今日も最後までお付き合いいただきましてありがとうございました。

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