SCAJ2024で台湾珈琲研究室が主催したセミナーに出席しましたので概要をシェアします。現地の雰囲気を伝えるため、なるべくスピーカーの口調にならって文章を書きますが、一部意訳している部分もありますのでご留意ください。
スピーカー林哲豪氏の紹介
台湾珈琲研究室の代表である林哲豪氏はバリスタ兼ロースターとしてコーヒーキャリアをスタート。バリスタとして働く傍ら、台湾国内のコーヒー生産者の働く姿に感銘を受け、台湾珈琲研究室を創設。その後、台湾珈琲研究室はコーヒー品質協会(Coffee Quality Institute:CQI)からコーヒー鑑定士(Qグレーダー)の資格認証機関として認められ、国内外のQグレーダーの育成に努める。
林氏はバリスタ選手権に台湾代表として派遣される選手のトレーニングコーチも経験もあって、国際的な認知も高い。また、台湾コーヒー研究室の創設者であると同時に台湾唯一のコーヒー専門誌『C³offee咖啡誌』の発行。それらを土台としながら、2021年には国際的なコーヒー生豆の品評会でありオークションを行うAlliance for Coffee Excellence/Cup of Excellence(ACE/COE)と共同で台湾で初めてパイロットオークションを実施、日本からも多くのロースターの参加があった。2024年には正式なCOE を開催し、出品されたコーヒー豆は国内外から高い評価を得た。現在、林氏は台湾政府を巻き込みながら、台湾コーヒーの国内外への情報発信を行っている。
以降、スピーカーが発信している形で記します。
台湾のコーヒー産業に関係する数字
台湾は歴史や観光地のほかに、魅力ある飲み物が生まれる土地としても有名です。その代表的なものとしてタピオカやお茶は世界各国にファンを抱えています。そして、これらと比べると有名ではありませんが、コーヒーに関する消費もたくさんされています。日本と環境的には似ていて、コンビニエンスストアでは手軽にコーヒーを飲むこともできます。そして、一部ではスペシャルティコーヒーも販売しています。もちろん、小規模の自家焙煎店もたくさんあります。
ここで基礎的な数字について説明します。台湾は毎年5万tのコーヒーを各国から輸入していてそのうち85%がコーヒー生豆です。残りの焙煎豆はスターバックス等の国際的なチェーン店が輸入しているものと考えられます。
いわゆるスペシャルティコーヒーの消費量は日本や韓国には及ばないものの、文化的には非常に成熟していると考えています。
日本の人口の約1/5、台湾の人口は2300万人ほどですが、自家焙煎店は5000店舗、コーヒーの品質評価について国際的に認められているQアラビカグレーダーについては650人以上いるので、この密度はもしかしたら両国に勝っているかもしれません。何より、台湾からは5つの国際大会から6人の優勝者を出しています。
そして何より知っていただきたいのが、少なくない農家がコーヒー栽培に取り組んでいることです。
台湾のコーヒー栽培の歴史
台湾のコーヒー栽培は1880年中ごろから始まりました。当時は日本統治下だったため、「農業は台湾、工業は日本」という政策の下様々な農業が発展し、そのうちの一つとしてコーヒー栽培が行われました。その流れの中、1930年代にはキーコーヒーが台湾でのコーヒー栽培を行っていて、歴史的な繋がりを強く感じます1。
しかし、第二次大戦後、日本という輸出市場を失ったため、台湾におけるコーヒー栽培は低迷してしまいます。1960年代にはアメリカの支援を受け、ハワイからSL34やSL28、その他にもブルボン等も導入されました。しかし、自国の経済成長に伴って生産国とが増加すると再び低迷することになります。
そして近年スペシャルティコーヒーの文化が浸透し、国内のコーヒー熱が盛り上がると、一部の農家が商業的なコーヒー生産にとりむようになりました。
台湾コーヒーの特徴として生産者と消費者の距離が非常に近く、生産者が消費者のニーズを正確に把握できたことが挙げられます。この結果、台湾のコーヒー産業は急速に成長して、現在のような盛り上げりを迎えています。近年では国際的な品評会であるCOEが開催され、この大会に出品されたコーヒー豆はいずれも高い評価を受けています。
コーヒーの世界では浅煎りを得意とするロースターが多く誕生して業界が盛り上がった際に彼らのお店を総称してサードウェイブと呼びましたが、私たち台湾のコーヒー生産についてもまさにサードウェイブと呼べるにふさわしい時代が到来しています。
台湾コーヒーの生産現場における挑戦と様々な取り組み
台湾の精製方式は基本的にはウォッシュドでした。近年ではナチュラルやハニーなどの精製に取り組む生産者も出てきましたが、台湾の気候特性(高温多湿)では非常にリスキーです。しかしながら、生産者の不断の努力の甲斐もあって非常に質の良いものが生産され始めています。
ちなみにこれらの管理を行うにあたってアプリを使って管理している農園もあり、生産者とITの融合が進んでいることがわかります。
ただし、台湾のコーヒー生産は明るいことばかりではありません。度重なる台風や地震の被害はコーヒー生産の現場にも大きな影響を与えました。写真は台風の被害を受けた青葉咖啡荘園の風景です。今はきれいになっていますが、当時はひどい状況でした。その後、修繕作業等を行い、現在はきれいになっています。機会があったらコーヒー豆等を購入したり、農園を訪れたりしてください(参考:青葉山荘)。
ほかにもコーヒー豆とNTFの組み合わせで販売したり、環太平洋コーヒーサミットを開催したり、日本の焙煎大会で優勝した焙煎氏の方とのコラボレーションも行っています。
これらの活動は政府の積極的な支援の下に行われてきました。写真をみればわかる通り、蔡英文前総統は在任期間中に私たちのコーヒーのカッピング(テイスティング)も行いました。また、頼清徳現総統も副総統だったころにカッピングを行っています。
さらに直近のCOEには台湾総督府から大統領副秘書が来訪してトロフィーの授与がなされたり、継続的な支援を得ています。
私たち、台湾のコーヒー関係者は今後も様々な取り組みを積極的に行っていきますので、引き続き注目していただけると嬉しく思います。
カッピング(試飲)提供された品種と参加者の様子
カッピングには2024年に開催されたCOEに入賞したコーヒー豆が提供されました。会場に駆け付けた多くの人が特徴的な香りと味を堪能していました。
特に1位だったMingYang農園のものはGesha特有のジャスミンの香りにティーライクな味、そして何より最近の上位入賞ロットにあるコンプレックス差を感じられてとてもよい印象を受けました。というか、アジア、しかも日本に近い台湾でこんなにも華やかな豆が味わえるんだと、感動しました。
当日提供されたコーヒー豆情報
Sample-No | 1 | 2 | 3 | 4 |
Farm | Yuyupas Mafe Coffee Manor | Melastoma Coffee Estate | Zhuo Wu Mountain Coffee Farm | Donghong Coffee Farm |
Producer | Cheng, Yu-Ping | Lai, Chu-Ling | Hsu, Ting-Yeh | Chen, Shan-Tung |
Variety | Gesha | Gesha | Gesha | SL34 |
Process | Washed | Natural | Honey | Natural |
ALtitude | 1150 | 1200m | 1000-1200m | 800m |
Region | Chiayi County | Chiayi County | Chiayi County | Yunlin County |
Score(Rank) | 85.91(-*) | 88.75(10) | 88.88(9) | 89.38(7) |
Sample-No | 5 | 6 | 7 |
Farm | Songyue Coffee manor | Sunlit Taiwan Coffee Farm | MINGYANG |
Producer | Kuo, Liang-Chih | Lin, Yen-Chien | Wang, Cheng-Yuan |
Variety | Gesha | SL34 | Gesha |
Process | Natural | Honey | Washed |
Altitude | 1200m | 1300m | 1500m |
Region | Yunlin County | Nantou County | Chiayi County |
Score(Rank) | 89.69(6) | 91.31(2) | 92.25(1) |
参考:台湾珈琲研究室(HP Facebook Instagram プレスリリース) C³offee咖啡誌(台湾唯一のコーヒー専門誌) Best of Taiwan (2022 Taiwan PCA)
所感
台湾コーヒーについてはその文化的な背景から個人的に興味を持っていました。現在でも見ることができますが、Youtubeで「初めての珈琲」がアップされることが決まった時は今か今かと待ちわびた記憶があります。
今回のセミナーに参加できたことも非常にうれしく、またカッピング会での経験は非常に得難いものとなりました。上にも書きましたが、特にCOE No1のカップの出来には驚かされました。
その他のカップもきちんとキャラクターを備えていてポテンシャルを感じられ、今後の台湾のコーヒー生産に期待したいと思える内容でした。
今後も当サイトでは台湾コーヒーについて、その文化的側面も含めて引き続き取り上げていきたいと思っています。