ホンジュラス/オスマンサス農園 コーヒー(アナエロビック、ナチュラル)

アナエロビックファーメンテーションについて

コーヒーが発酵食品に分類されるかは議論が分かれるところではあると思いますが、事実としてコーヒーの精製工程の中に発酵が作用する工程があります。そして、この発酵がコーヒーの香りや味に影響を及ぼしているということが近年明らかになっています。ただし、ワインや日本酒などの発酵飲料やチーズ等の食品がその工程を経ないとその製品ができないのに比べて、コーヒーはこの工程がなくてもできます。そのためコーヒーの発酵工程に関する研究はほかの分野のものに比して遅れているといわれ、人によって使われる用語に差異が生じているのが実情のようです*

以下では現時点で日本市場でコンセンサスがとれているであろう内容をベースにまとめていきたいと思います*。

では、改めてコーヒーの精製過程をざっくりいうと、コーヒーチェリーを積み、水洗式(ウォシュド)の場合は表面の皮を剥がしてから粘液質(ミューシレージ)を除去する際に水につける工程で、乾式(ナチュラル)の場合は天日干しをしている段階で発酵が進みます。この発酵によって香りや味わいが増すといわれています。いずれの場合も酸素がある状況下でもともとコーヒーチェリーにあった微生物によって(好気性)発酵が進むこととなります。

一方で、無酸素の環境下にコーヒー豆をさらすと異なる微生物(酵母やバクテリアも含む)等による発酵が促されます。それはちょうどワインやビール作りの工程と似ています。基本的にこれらの工程はタンクで行われます。コーヒーの場合、タンク内にコーヒーチェリー(果肉処理については各種手法で異なる)をタンクに入れ、無酸素状況を作り出します。そして、この環境下に一定時間を置くことによって、コーヒーチェリーに含まれる糖を分解して、エタノール等が生成されることとなります。

さて、この手法が大いに注目されたのは一般的に2014年に行われたコスタリカのCup of Excellence(以下、「COE」)というコーヒーの品評会で他のコーヒー豆とまざって出品され、高い評価を受けたのがきっかけといわれています。もちろん、同時多発的に開発は進んでいたので他の国の品評会でもアナエロビックファーメンテーションを用いたコーヒー豆が、ナチュラルにも勝るとも劣らない独特な香りと風味を持つということで入賞するようになり、次第に大きなムーブメントになっていったのです。

一方で、この手法についての評価が称賛ばかりではないのも事実です。バクテリアや酵母などの微生物を相手とするため、生産工程の精緻な管理が求められ、そのためには追加の設備投資やさらなる専門人材の起用が発生します。しかし、それらをもってしてもコーヒーの発酵はま解明されていないことが多く、安定した生産が難しいのが実情です。結果としてコーヒー農家の生計に大きな打撃を与えかねないこととなるのです。ちなみに過発酵になったコーヒーは強い発酵臭やエタノール臭がしてコーヒーとして飲むのには憚られるものとなります(ただ、これがエキゾチックな味としてカッピングを担当した審査員や市場から評価されることもあるのにも注意が必要かもしれません。。。)。

また、コーヒーの発酵を現地のコーヒーチェリーに従来から存在する微生物を使うのならまだしも、異なる地域の酵母やバクテリア、または化学物質を追加投入することが本当にいいのかどうか、などの議論は必要かもしれません。これらの投入はその地域や品種が持つ独自の風味を強調する場合もあれば、それらを消し去って発酵由来の風味といわざるを得ない方向に向かってしまうこともあるからです。ちなみに以前サントリーが意欲的にもシャンパン酵母を使ってコーヒーの発酵を試みたという事例があります*

個人的にはブラジル産コーヒーのように必ずしもキャラクターが昨今の流れに乗り切れていないものについて(ちょっと言葉足らずですみません、ブラジル産コーヒーが見直されている点は知っていますが、ここでいうのは丁寧に精製されているにもかかわらず、必ずしも高評価となっていないコーヒーのことを指しています)、この手法を使うと中米だったりアフリカのような華やかで際立ったコーヒーになることもあることを考えると、市場からの評価を得るためにこの手法を使っても面白のかなと思ったりします。一方で、すでに良質なナチュラルコーヒーができているものを追加投資して、アナエロビック、イースト、窒素やカルボニックマセレーション等で精製するのにどこまで意味があるんだろうとは思ってしまいます(まぁ、これらがCOE等で高評価を受けていることをよくみられるので、市場的にはやっぱりいいんでしょうね)。

もちろん、ブラジル以外でも新しい企業がブランディングやCOE等の大会用に小ロット準備するのはいいのかもしれませんいずれにせよ、これらの手法が定着するか、流行で終わるかは今後市場で定まっていくんだと思います。トップバリスタやロースター等が高く評価していけば、市場にあふれることもあるのかな、なんて思ったりも。

いずれにせよ、個人的には業界的には色んな挑戦を歓迎して大いに議論して、必要あれば軌道修正していけばいいのかなと思っています。幅が広い方が入ってくる人が確実に増えますもんね。

*この点についてはワインの勉強をしてコーヒーの発酵に関する分野の研究に転向したLuciaさんのpodcastが面白いと思いますhttps://www.luxia.coffee/

**コーヒーの美味しさを余すことなく製品に(https://www.suntory.co.jp/company/research/flavour/coffee.html)

オスマンサス農園(Finca Osmanthus)について

Finca Osmanthusインスタグラムペー

オスマンサス農園は、ホンジュラスの首都テグシガルバから車で2時間西へ行ったところにあるラパス県の北部パチェコエリアにあります。同農園はInstagramで活動報告していますが、ホームページ等はないようです。

タリーズのコーヒー豆パックに同梱された解説書

オスマンサス農園は地域の中核農園として、今回のアナエロビックファーメンテーションも施設を保有していて、各農園のものを集めてタンクで管理したとのこと。なお、この際に国のコーヒーに関する研究機関でも働いた経験のあるロニー・ガメスさんが中心的な役割を果たしたそうです。

今回のアナエロビックファーメンテーションのコーヒー豆についても地域の農園から集められ、作業が始まる翌日までいったんタンクに保管、その後ミューシレージを除去して再びタンクに挿入したうえで無酸素状態にして、48-55時間発酵させたとのこと。その後にアフリカンベッドで乾燥させたとのこと。いわゆるアナエロを工程に取り入れたパルプドナチュラルの精製方法となります(この手順についてはタリーズのコーヒー豆に封入されたペーパーにも書かれています。)。

タンク内の環境についてはPHで把握することとなります。

これらの工程を経るため、アナエロビックファーメンテッドコーヒーはこの工程をとらないコーヒーに比べて一般的に若干高くなる傾向になります。今回ロースターが異なり、また販売方法も異なるので単純な比較はできませんが、アナエロが2530円、ナチュラルが1600円での販売とでした(いずれも税込み)。

次ページでは実際に飲んでみたいと思います。

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